トシの読書日記

読書備忘録

人と人とのぎりぎりの信頼感

2008-03-25 14:53:17 | か行の作家
角田光代「八日目の蝉」読了

昨日、銀行へ行った帰りに立ち寄ったいつもの本屋で目にして、なにげなく買ってしまいました。角田光代、そんなファンではないんですがね。

でもでも、これはよかった。一種のサスペンス仕立てなんですが、それで終わることなく、というか、それは単なる味付けでテーマが非常に重く深いものがあります。

子供は親を選んで生まれてくることはできない・・・その当たり前のことがこの小説を読んでいると重くのしかかってきます。

ラストで、すごいシーンが用意されていて、今、思い出しても目頭が熱くなってしまいます(笑)

角田光代、ちょっと好きになりました。

唯一者のあがき

2008-03-25 14:38:27 | な行の作家
中上健次「十九歳の地図」読了

一ヶ月ほど前、「メロディアス・ライブラリー」で小川洋子が薦めていたので手に取ってみました。

19歳の予備校生の鬱屈とした思いをテーマに据えて物語は展開していくのだが、どうにもやりきれない思いにとらわれて、読んでて少々くたびれました。すごく暴力的だし。この小説は発表当時、(昭和50年代)一大センセーションを巻き起こしたらしいんですが、今となってはちょっと色あせてしまったかなと。

中上健次のもう少し後期の作品(たとえば「枯木灘」とか)を読めば、また違うのかも知れません。いつか機会があったら読んでみようと思います。

炸裂する妄想

2008-03-25 14:25:18 | な行の作家
野坂昭如「死刑長寿」読了

六つの小説が収められた短編集。

やはり、こういうちょっと前の方はいいですねぇ。軽妙洒脱な文章。体言止めの連続。小気味いいです。どの小説も面白かったが、とりわけ「なんでもない話」がよかった。人を殺す話です。「なんでもない話」じゃないんですがね(苦笑)

偽りと挫折の日々

2008-03-25 14:17:36 | あ行の作家
絲山秋子「エスケイプ/アブセント」読了

20年間闘争と潜伏に明け暮れた男が社会復帰する前にふと立ち寄った京都で長屋の教会に居候し、「あいつ」の不在を確かめる・・・・

「エスケイプ」が一人称で語られ、「アブセント」は非常にクールな感じで三人称で綴られる。あいかわらずいいです。絲山さん。安心して読めます。

路上に流された汗

2008-03-25 14:04:21 | ま行の作家
村上春樹「走ることについて語るときに僕の語ること」読了

本のタイトルの通り、村上春樹が「走る」ことについて「小説を書く」ことについてまた「生きる」ことについて書きおろしたエッセイ。

村上春樹が、ここまでトレーニングを積んで年に一回世界のどこかのフルマラソンに出ていたり、トライアスロンに挑戦していたとは寡聞にして知らなかった。

村上春樹の「生き方」とは、最後のところにある次の文章に要約されると思う。

「そんな人生がはたから見て――あるいはずっと高いところから見下ろして――たいした意味も持たない、はかなく無益なものとして、あるいはひどく効率の悪いものと映ったとしても、それはそれで仕方ないじゃないかと僕は考える。・・・・(中略)・・・・そして本当に価値のあるものごとは往々にして、効率の悪い営為を通してしか獲得できないものなのだ。たとえむなしい行為であったとしても、それは決して愚かしい行為ではないはずだ。僕はそう考える。」

自分は村上春樹に望むものは、小説を通していわゆる「春樹ワールド」を堪能させて欲しい、この一点であるので、そういう意味ではこのエッセイは読まないほうがよかったのかも知れない。しかし、村上春樹の小説に対する考え方、生きていく上での自身の処し方等を知った上で「春樹ワールド」に浸るのも悪くはないかなとも思った。

食べることとは

2008-03-25 13:25:33 | あ行の作家
井上荒野「ベーコン」読了

第138回直木賞候補作。食と性愛にまつわる九つの短編と帯にある。

先回読んだ「夜を着る」に比べると、かなり淡々とした短編集です。荒野らしさはもちろん失われてはいないんですが、ちょっと物足りなかったかなぁ。

その中で、一番最初の「ほうとう」。これがよかったです。あと、「父の水餃子」。

この本を読んでて気がついたんですが、この作家の書く小説はほとんどというか、全部不倫の話ばっかりなんですね。

たまには違った切り口の小説も読みたいです。

ほどけていく日常

2008-03-12 13:35:53 | あ行の作家
井上荒野「夜を着る」読了

「旅」をテーマにした8編の掌編からなる小説集。

井上荒野、うまいですねぇ。なかなかのもんです。でもしかし、「うまくまとめた」という印象が強くて、こう、なんというか、こっちに迫ってくるものにちょっと欠けるきらいはありました。

その中でよかったのは「ヒッチハイク」です。
母親の葬式を終えて夫と車での帰り道、一人のヒッチハイカーを拾うところから話は始まる。予定の場所で彼を降ろして家に帰り、その日は別に何事もなく終わるのだが、一月ほど経って彼女は何故か突然その男のことを思い出す。
夫との結婚生活は、特にうまくいってないとか、そういうことはないのだけれど、例えば夜中に目が覚めた時、横に寝ている夫の顔を見ながら「この人はなぜここにいるんだろう」とも考えることがある。
そんな時、そのヒッチハイカーから車に乗せてもらったことへのお礼の葉書が来て、彼が伊豆のペンションでアルバイトをしていることを彼女は知る。そして彼女は彼に会いに行くと夫に告げるのだが・・・・

まだまだ話は続くんですが、ちょっと面倒になりました(笑)

やはり井上荒野は「グラジオラスの耳」、「もう切るわ」この2編が秀逸です。直木賞候補作の「ベーコン」を買ってあるので、ちょっと期待を込めて読んでみようかな。

リアルなバカバカしさ

2008-03-12 13:13:51 | ま行の作家
町田康「屈辱ポンチ」読了

これは、以前読んだ気もしたんですが、読んでみてもさっぱり思い出さなかったんで、やはり初読なんでしょうね。

面白いです。相変わらずです。町田小説の主人公は、いつも恐ろしくくだらないことを真面目にやるんですねぇ。これがほんと、面白い。

併載されている「けものがれ、俺らの猿と」のほうがよかったです。

「私はもっと有意義な人生を送りたい」という捨て台詞を残して奥さんに逃げられた男が、降ってわいたような映画のシナリオを書くという仕事にありつきかけたのはいいのだけれど、そのためにあちこちロケハンするもその先々でとんでもない目にあう、というお話です。めっちゃおもろいです。

驚愕の反復

2008-03-12 12:57:35 | た行の作家
筒井康隆「ダンシング・ヴァニティ]読了

第4回絲山秋子賞受賞作(ってそんな賞もらってもねぇ・・)

久々の筒井文学を堪能しました。これはすごいです。面白かったぁ・・・ちょっと疲れましたが(笑)タイトルにあるように、あらゆる場面で同じ記述が執拗に繰り返されるんですね。読み継いでいると「あれ?ここ、もう読んだよな」ってことが何回もあって、それがちょっと疲れたということです。しかし、同じ記述といっても、その繰り返しは前のそれとは微妙に違っていて、ちょっとづつずれていく感じが、えもいわれぬ快感となっていくわけです。

ネタバレになってしまいますが、最後に主人公である渡真利氏が死ぬことで、それ以前のことはすべて、回想だったのかと思わせる仕掛けになっているんですね。

たしか、この作家は、もう70代だったと思うんですが、ますます気鋭の作家というか、新鮮です。頼もしいかぎりです。

節度がねぇ

2008-03-11 15:24:54 | か行の作家
北尾トロ「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」読了

作者が約2年間、東京地裁を傍聴したものをルポ風にまとめたもの。

ここのところ、裁判シーンの多い映画を立て続けに見たからというわけでもないんですが、なんとなく買って読んでみました。自分も3、4年前に裁判を起こされた経験があり、(なんと、訴えられたんです!)法廷内の様子はなんとなくわかるんですが、やはり刑事事件ともなると、様相はまったく異なります。

まぁ、いろんな事件があり、作者の思い入れも多少共感できる部分もあるんですが、節度ってものがあるでしょう。野次馬根性丸出しのデバガメに成り下がってます。

これは月刊「裏モノJAPAN」という雑誌に掲載されたものらしいんですが、雑誌の性格上、北尾氏が、あえてこんな下世話な内容に無理に仕上げたんだと思いたいです。この人、わりと好きなんで、そんな人であってほしくないという願いを込めてね(笑)