町田康「ホサナ」読了
本書は今年5月に講談社より発刊されたものです。雑誌「群像」に平成24年から28年にかけて、不定期に連載されていたものが単行本として刊行されたものです。
正直、やられました。すごい小説です。単行本で700項近い大長編なんですが、途中だれるところもなく、時には抱腹絶倒、時には緊迫した場面をぞくぞくしながら全編読み通しました。
本作家の既刊「告白」「宿屋めぐり」にも言えることなんですが、本作の主人公(名前が一度も出てこない)は、親の遺産で苦労を知らない男で、胡散臭い者たちに翻弄、蹂躙されながら悶え、苦しむわけです。
愛犬家たちが集まるバーベキューパーティーの最中、突然光の柱が迫ってくる。そこから「私」の艱難辛苦が始まるんですが、「私」はあまりにもいろいろなことが起こりすぎて、そして達観します。「抜け作」になろうと。そこに人生の真実を見出し、そのように生きようとするんですが、中途半端な意識改革なので、自分が常に意識してそうしようとしなければならず、なかなか「抜け作」になりきれません。
光柱、犬との会話、億単位の毒虫の群れ、死んで腐って折り重なっている大量の「ひょっとこ」達…。普通では思いもつかないような光景が次から次へと息をもつかせぬ展開で、もうとにかくすごいです。そして最後、「私」は小舟に乗ってどこまでも流されていきます。それを読む自分は、只々呆然とするばかりでした。
ちなみに「ホサナ」というのは「救い給え」という意味のヘブライ語とのことです。
真実とは何か、人間の幸福とは何か。それらの根源的な問いを問う、町田康、渾身の長編でありました。いや、すごかった。