トシの読書日記

読書備忘録

独断と偏見に満ちた名作集

2020-10-05 12:47:54 | ら行の作家



ジェイ・ルービン編「ペンギンブックスが選んだ日本の名短篇29」読了



本書は2019年に新潮社より発刊されたものです。姉が貸してくれたものですが、本書の序文を村上春樹が書いているというのがその購入理由だそうで、まぁ姉らしいと言えばそうなんですが。


表題にある通り、29の短編が収録されているんですが、かなり偏向した選び方になっています。そこがなかなか個性的で面白いんですがね。このジェイ・ルービンという人はアメリカの日本文学翻訳家だそうで、村上春樹の作品もいくつか英訳しているようです。


三島由紀夫の「憂国」が収められているんですが、これは何回読んでもすごい作品ですね。この繰り広げられる凄絶なドラマ。言葉がありません。川上未映子の「愛の夢とか」はこの短編が刊行されたとき、読んでみようかと思ってそのままになっていたものでしたが、別に買わなくてもよかったですね。つまらなくはないんですが、それほどでもなかったです。


澤西祐典(この作家、知りませんでした)の「砂糖で満ちてゆく」、これは面白かった。ラストがすごいです。どきりとさせられました。しかし、この澤西氏には申し訳ないんですが、これを例えば松浦理英子とか小池昌代あたりに書かせたらもっと切れ味鋭いものに仕上がっていたのではないかと推察します。着想はすごいです。


森鴎外から内田百閒、そして川端康成、星野智幸まで、日本文学をはしからはしまでをセレクトしたこの作品集は、初心者には入門書となるのかも知れません。あ、でも日本文学といえばこれ、というものがかなり外されているのでそうとも言えないかもですね。自分としてはかなり楽しめました。



弾圧、逃亡、そして絶望

2018-08-28 18:10:01 | ら行の作家



フリオ・リャマサーレス著 木村榮一訳「狼たちの月」読了


本書はヴィレッジブックスより平成19年に発刊されたものです。


1937年、スペイン内戦の折の敗残兵(民兵)が治安警備隊の執拗な追求を逃れ、山中の奥深くに身を潜める。この作品はその4人の民兵が逃亡しながらも生きる望みをなんとかつなぎつつ、生きながらえていく物語です。


しかし、治安警備隊の捜索は厳しく、物語が進むにつれ、一人、また一人と仲間が殺されていきます。最後に語り手であるアンヘル一人が残り、スペインから脱出するために列車に乗るところでこの小説は終わっていますが、この全編に流れる寂寥感と寄る辺のなさが、もう半端ないです。「黄色い雨」を読んだときにも感じたんですが、これがリャマサーレスなんですね。この独特の世界がとにかくすごいです。


アンヘルが国外への逃亡を決意するところが最後の方にあるんですが、自分の家の家畜小屋に身を潜めているアンヘルに対して、妹が「ここから出て行ってほしい」と告げるシーン。この妹の心中を思うと胸がふさがれる思いでした。


本作品がリャマサーレスのデビュー作ということなんだそうですが、デビュー作にしてこの世界観、稀有な作家です。本作家は他に「マドリッドの空」という長編も刊行しているようですが、まだ翻訳はされていないとのこと。発刊が待たれるところであります。




姉から以下の本を借りる


町田康「ギケイキ―千年の流転」河出文庫
佐野洋子「役にたたない日々」朝日文庫新刊
G・ガルシア・マルケス著 高見栄一他訳「悪い時 他9篇」新潮社
アントニオ・タブッキ著 須賀敦子訳「遠い水平線」白水Uブックス
レザー・アスラン著 白須英子訳「イエス・キリストは実在したのか?」文春文庫
辻原登「冬の旅」集英社文庫
カズオ・イシグロ著 入江真佐子訳「わたしたちが孤児だったころ」ハヤカワ文庫

魂の韜晦

2018-07-17 16:05:14 | ら行の作家



ポーリーヌ・レアージュ著 澁澤龍彦訳「O嬢の物語」読了



自分の敬愛する諏訪哲史の「偏愛蔵書室」の中に紹介されていた本、やっと手に取ってみました。


著者のポーリーヌ・レアージュなる人物は全く架空のものらしいです。今では当時のフランス、ガリマール書店の重鎮、ジョン・ポーランだという説が有力のようです。

まぁそれはさておき…


かなり有名な古典小説ではあったんですが、そんなにセンセーショナルな印象は受けませんでしたね。男に物のように扱われ、蹂躙され、服従することに無上の悦びを感じるという女の話なんですが、現代ではもちろん考えられないことで、まぁ昔と比べても仕方ないんですが。特にどうという印象はありませんでした。


残念です。次、もうちょっときわどいやつ、いってみます。



姉から以下の本を借りる

アントニオ・タブッキ著 須賀敦子訳「供述によるとペレイラは・・・」白水Uブックス
若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」河出書房新社
笙野頼子「幽界森娘異聞」講談社文芸文庫
つげ義春「近所の景色/無能の人」ちくま文庫
群像編集部編「群像短編名作選 2000~」講談社文芸文庫
フリオ・リャマサーレス著 木村榮一訳「狼たちの月」ヴィレッジブックス
ミハイル・シーシキン著 奈倉有里訳「手紙」
大本泉「作家のまんぷく帖」平凡社新書
カートヴォネガット・ジュニア著 伊藤典夫訳「スローターハウス5」早川書房
最果タヒ「星か獣になる季節」ちくま文庫


またたくさん貸してくれたものです。まぁ当分買う必要はなさそうです。

苛酷な旅路の果て

2017-12-19 17:57:06 | ら行の作家


今週は2冊読みました。



ジャック・ロンドン著 柴田元幸訳「火を熾(おこ)す」読了



本書は平成20年にスイッチ・パブリッシングより刊行されたものです。9編の短編が収録された作品集です。


以前、何かで本書のことを知り、ネットで調べてみたら3000円以上の値がついていて、しかもこの作家は動物を扱った作品が多いというのを聞き、自分は動物、子供、難病の話が苦手(というか、はっきり言って嫌い)なので、自分には関係のない作家と思っていたところ、たまたま立ち寄った書店で本書を見つけ、中味を少し立ち読みしてみたら、自分の思っていたイメージとは違っていて、値段も2100円(+税)と手頃なこともあって買ってみたのでした。


いや、買ってみてよかったです。面白い。実に面白い。この作家は1876年に生まれ、1916年に亡くなった(なんと享年41才)といいますから日本の元号で言うと明治時代の作家ということになります。


ある程度、時代を感じさせるものもあるんですが、なんというか、文章の表現が、どんと胸を突かれるような、そんな直球な感じを受けます。


表題作の「火を熾す」、これでまず心臓をわしづかみにされました。この短編、すごいです。他にも「一枚のステーキ」「メキシコ人」「戦争」「生への執着」等、一貫して回りくどい装飾がなく、テーマがはっきりしていて、これでどうだと言わんばかりの迫力でこちらに迫ってきます。


柴田元幸の訳も相変わらずいい。   いい作家に出会うことができました。




姉から以下の本を借りる

伊藤比呂美「読み解き『般若心経』」朝日文庫
辰巳浜子「料理歳時記」中公文庫
読売新聞社編「茶人物語」中公文庫
大塚ひかり「愛とまぐはひの古事記」ちくま文庫
齋藤明「志ん朝の風流入門―古今亭志ん朝」ちくま文庫
ソポクレス著 福田恆存訳「オイディプス王 アンティゴネ」新潮文庫
熊倉功夫校注「山上宗二記―付 茶話指月集」岩波文庫
ネヴィル・シュート著 佐藤瀧雄訳「渚にて―人類最後の日」創元SF文庫
夢枕獏編・著「鬼譚」ちくま文庫
織田作之助「六白金星・可能性の文学」岩波文庫
中野京子「怖い絵」角川文庫
村上春樹「図書館奇譚」新潮社
川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」講談社文庫
トルーマン・カポーティ著 安西水丸訳「真夏の航海」講談社文庫
渡辺利夫「放哉と山頭火―死を生きる」ちくま文庫
内田百閒「私の『漱石』と『龍之介』」ちくま文庫


いや、たくさん貸してくれたものです。以前は借りたものは全部読むつもりでいたんですが、もはや追いつきません。自分で読みたくて買った本もまだ何冊もあるし、まぁ興味がわいたものだけ選んで読むことにしましょうか。


失わていくものへの哀惜

2017-12-19 16:38:20 | ら行の作家



フリオ・リャマサーレス著 木村榮一訳「黄色い雨」読了



本書は今年2月に河出文庫より発刊されたものです。姉から「面白い人見つけた」と言って貸してくれたものです。



何の予備知識もなく読み始めたのですが、なかなかよかったです。この全編に流れる荒涼感、すごいですね。しかし、この陰々滅々とした空気は好みが分かれるかもしれません。シチュエーションは全く違うんですが、ポール・セローの「極北」にも似た世界を感じました。


スペインの山奥の寒村で、一家族、また一家族と彼らは村から出ていく。最後に「私」と妻のサビーナ、そして雌犬一匹だけが残される。しかしサビーナは淋しさに耐え切れず、自ら命を絶ってしまう。犬一匹と「私」はそこで何をすることもなく何年も暮らすわけですが、自分に死の影が近づいていることを知り、犬を猟銃で撃ち殺し、自らもベッドに横になってじっと死の訪れを待つ。


こんなあらすじなんですが、昔はやった「やおい」というのを思い出しました。この作品もヤマはないし、オチもない。がしかし、意味はあると思います。雨のように降りしきるポプラの枯葉。これがタイトルに象徴されているわけですが、この枯葉が死のメタファーになっているわけで、このシーンは度々登場します。しかし、そのもろく、壊れやすい枯葉=命というものを著者は、かけがえのないものとして慈しみ、作中でそれを慈愛に満ちた眼差しで捉えていると思います。


読むほどにこころにじんわり響く小説でした。

傷つけ、傷つけられる市井の人々

2017-05-23 14:03:07 | ら行の作家



イーユン・リー著 篠森ゆりこ訳「さすらう者たち」読了



本書は去年、河出書房新社より発刊されたものです。


前回読んだ「黄金の少年・エメラルドの少女」もよかったですが、本作もかなりうならされました。本作家の初の長編ということで、かなり力の入った執筆となったのではと推測されます。


文化大革命後の中国。反革命分子として逮捕、処刑された一人の女性の事件から端を発し、その両親、そして同じ集落で暮らす人々が否応なくその事件に巻き込まれていく。自分が生きていくためには裏切りも密告も辞さない、その中国人の気質に圧倒されます。


印象に残った部分、引用します。

政治犯として処刑された顧・珊(グー・シャン)の父、顧(グー)師のせりふです。


<この新中国に起こった最悪のことは――私は新中国に逆らう気はまったくないんだよ。しかし男の同意なしに好きなことをやり出した、こういう女たちときたら。(中略)それからうちの娘もそうだ(中略)彼女たちは自分を革命的だとか進歩的だとか思っているし、自分の人生を自由にできるようになって、おおいに世の中の役に立っていると思っている。でも革命なんぞ、ある人種が別の人種を生きたまま食らう計画的手段でしかないじゃないか。(中略)(歴史は)革命の力ではなく、人々の欲望に動かされてきたんだ。他人を犠牲にして自分の利益のために好き放題やってやろうという欲望だよ。>


この顧(グー)師は元教師で、かなり学のある人なんですが、それが故、娘のとった行動にいたたまれない思いでいるわけです。この顧師の苦悩を思うと、胸がふさがれる思いです。


また、市井の人々の心情をよく表しているところ、引用します。

童(トン)という子共のお母さんが言ってさとします。


<考えても仕方がないことをあんまり考えるんじゃないよ。人と同じ列におとなしく並んでいれば、面倒に巻きこまれることはないし、面倒をおこさなければ何も恐れることはないの。夜中にお化けが来てドアをノックしてもね>


こうして当たり障りのないように世間を渡っていく術を人々は身に付けていくわけです。反革命分子の集会の誘いに情にほだされて応じた人々。そして嘆願書に署名した人たちを検察がしょっ引いていきます。そこには、自分が逃れたいがために裏切り、密告が横行し、集落の人々は皆疑心暗鬼になり戦々恐々としていくわけですが、その様子がイーユン・リー独特の筆致で丹念に描かれていきます。


子共の素直な疑問に親が諭して聞かせるところなど、少し童話の教訓めいた臭いもして、そこはちょっと興ざめでしたが、全体にスケールの大きい、深い感動を呼ぶ名著と言っていいと思います。



ネットで以下の本を注文


髙村薫「土の記」(上)(下) 新潮社

佐藤正午「月の満ち欠け」 岩波書店

大森望 豊崎由美「村上春樹『騎士団長殺し』メッタ斬り!」河出書房新社

何も望まなければ何にも負けない

2017-03-07 16:38:51 | ら行の作家



イーユン・リー著 篠森ゆりこ訳「黄金の少年、エメラルドの少女」読了



先日、姉とイーユン・リーとイーヴリン・ウォーを間違えたという笑い話をしていて、そういえばイーユン・リーは「千年の祈り」を読んだきりだったなと思い出し、ネットで調べて買ったのでした。


やっぱりいいですね、イーユン・リー。九編の短編が収められた作品集なんですが、どの作品も「孤独」というものが通奏低音のように流れています。このあたりの筆致がイーユン・リー、うまいんですねぇ。


出色なのは冒頭に収められた「優しさ」という中編。41才の一人暮らしの女性が北京のはずれのアパートに住んでいる。この女性が過去を追想するんですが、その述懐がなんともやりきれない思いにさせます。軍隊に強制的に入隊させられ、そこでの魏(ウェイ)中尉との出会い。また入隊前後に杉(シャン)教授の家で過ごした読書体験。その一つ一つのエピソードが、結局自分は一人なんだという思いに行き着くわけです。


杉教授が言います。「愛は人に借りを負わせるの。最初からそんなものは負わないのがいちばんよ、わかった?」と。教授は未言(モーイェン、主人公)を人として愛するからこんな言葉をかけるという、このパラドックス。面白いですねぇ。そして未言はその愛を「借り」としてそれを返すために生きていこうとするんです。


作中で未言が「(自分の人生は)ほとんど人生ではない」と言い放つ、その言葉が胸に迫ります。


イーユン・リー、いいですねぇ。長編も買ってあるので近々読むつもりです。




ネットで以下の本を注文する


ブライアン・エヴンソン著 柴田元幸訳「ウィンドアイ」 新潮クレストブック

人の絆と孤独

2016-12-13 16:35:22 | ら行の作家


ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳「低地」読了



本書は平成26年に新潮社より発刊されたものです。新潮クレストブックです。少し前に新しくなった「丸善」に姉と行き、本書を見つけ、姉に買わされたようなかっこうになった本であります。


がしかし、買ってよかった!名著です。ラヒリ独特の抒情たっぷりの風景描写、繊細な心理描写、そして全体に抑制の効いた簡潔な文章。ほんと、うまい作家です。


兄、スバシュ、1才違いの弟、ウダヤン。二人は何をするにも一緒で、仲の良い兄弟だったんですが、成長するにつれ、互いの性格があらわになっていきます。二人は大学院を出ると、学究肌の兄は、研究のため渡米します。弟は、教員をしながら当時インドで隆起しつつあった革命運動に身を投じていきます。そしてウダヤンはある女性を見初め、結婚します。当時のインドでは、普通親が結婚相手を決め、お祝いも派手にやるらしいんですが、ウダヤンはそのどちらもせず、双方の親の承諾も得ず、自分の親の家に同居してしまいます。ここにひとつの軋轢が生じるわけです。相手の女性の名はガウリといいます。


ガウリは舅、姑とぎくしゃくしながらも幸せな結婚生活を送るかに見えたんですが、地下組織に入って活動を続けていたウダヤンは警察に捕まり、親とガウリの目の前で射殺されてしまいます。知らせを受けて飛んで帰ってきた兄、スバシュは、悲嘆にくれるガウリを見て、弟の果たされなかった残りの人生を引き受ける覚悟でガウリに求婚し、ガウリはそれを受け、アメリカに連れて帰ります。その時、ガウリのお腹には新しい生命が宿っていました。


アメリカで産まれたベラという女の子との三人の新しい生活が始まります。ガウリは精一杯の努力をするんですが、この生活にどうしてもなじめません。自分の夫は自分が産んだ子の本当の父親ではないという事実。そしてスバシュがベラの実の父親であるように努力する姿を逆に疎ましく感じます。


また、ガウリはスバシュと愛し合って結婚したわけではなく、そこに将来に対する経済的な打算等の思惑があったことを認めざるを得ず、そんな自分に対して猛烈な自己嫌悪を感じます。出口の見えない閉塞感に苛まれ、遂にガウリは家を出てしまいます。取り残されたスバシュとベラは、母親のいなくなった家で何とか生きていくのですが…


といった内容なんですが、もう、とにかくすごいですね。この人生模様。最後の方、スバシュから離婚の手続きを要望する知らせを受け、ガウリは何十年ぶりかで自分の過ごした家を訪れます。そこでベラに再会するんですが、このシーン、本書の最大のヤマ場でしたね。ベラは自分を捨てた母親を絶対に許しません。敵意を剥き出しにしてガウリに鋭い言葉を浴びせます。そして、自分はスバシュの実の子ではないことを知っていると告げます。これはガウリにとって大変なショックでした。



ガウリは追われるように家を出ると、この後に控えている仕事を連絡もなしにキャンセルし、インドへ飛びます。自分の生まれ故郷を訪ね、そこで自殺しようとするんですが、すんでのところで思いとどまります。このあたりのガウリの心理描写は、あえて詳述されてないんですが、ここでガウリは何か吹っ切れたんでしょう、アメリカに帰ってまた仕事を続けるんですね。


一方スバシュは新しい伴侶を見つけてアイルランドへ二人で旅行に出かけます。最後はスバシュもガウリも希望の光が見えるような結末になっており、そこは少し救われた思いです。


ミラン・クンデラの「存在の耐えられない軽さ」を思い出します。人生の岐路に立たされて、そのどちらかを選択したとき、もう一方の人生は二度と歩めないということ。人間はその無情さの中に生きているのだということを本書を読んで痛感しました。


本作品はラヒリのひとつの頂点ではあるまいかと感じた次第です。久しぶりにずっしりと読み応えのある作品を味わうことができました。

マチゲンガ族の掟

2013-08-10 17:27:55 | ら行の作家
バルガス・リョサ著 西村英一郎訳「密林の語り部」読了



姉が「面白いよ!」と言って貸してくれた本です。大江健三郎もこの作家をリスペクトしているとのこと。しかし、読み始めて、どこが面白いのかさっぱりわからず、まさに苦行といっていいような読書でした。

でも、途中から、密林の語り部が誰であるのか、ということがわかってきてから俄然面白くなってきました。


ペルーの山奥、アマゾンの支流の流域に暮らす部族たちの生活と原始的な信仰とをベースに、そこに入っていったユダヤ人の青年の魂のありようを鋭く描いた作品です。


「物語る」という行為の最も原始的なかたちである「語り部」の姿を描くことで「物語」の真の意味を問う、というのが本書のテーマであると思います。しかし、この語り部の話の縦横無尽なこと。現在のこと、過去のこと、遠くの村のこと、自分たちの村のこと、一切の関係性を無視した語りには、逆の意味で整合性すら感じます。いや、恐れ入りました。


ちなみに本作家は2010年にノーベル文学賞を受賞しているそうです。恥ずかしながら知りませんでした。

激動の中国に生きた作家

2012-01-20 16:35:08 | ら行の作家
魯迅著 藤井省三訳「故郷/阿Q正伝」読了



たまには中国の名著と呼ばれるものをと思って、手に取った次第。


ずっと昔に「阿Q正伝」は読んだような記憶はあったんですが、内容はすっかり忘れておりました。


しかしどうなんですかねぇ、これ。そんなに文学的価値の高い作品とは自分には思えません。


この作品の中に、人から受けた屈辱を自分より弱い者に転嫁して自己満足するという「阿Q式精神的勝利法」というくだりがあるんですが、これは非常に虚しいと思うんですがね。あ、そのアイロニーを味わえということなのか。そうか、それなら納得できます。


また、解説で訳者の藤井氏が大江健三郎も村上春樹も魯迅を愛読していて、強い影響を受けているとし、その例をそれぞれの作品で引用しているんですが、ちょっとこじつけの感も否めません。


とまれ、この本の中には16編の作品が収められているんですが、リスペクトするものはありませんでした。残念です。




ネットで以下の本を注文する


田中小実昌「ポロポロ」
久世光彦「桃」
永井荷風「摘録 断腸亭日乗(上)」
永井荷風「摘録 断腸亭日乗(下)」



また、書店で以下の本を購入


井上荒野「不格好な朝の馬」
小池昌代「自虐布団」



今年から姉に借りた本も記録しておきます。


姉から以下の本を借りる


小澤征爾×村上春樹「小澤征爾さんと音楽について話をする」
E・Mフォースター著 吉田健一訳「ハワーズ・エンド」
丸谷才一「持ち重りする薔薇の花」
朝倉かすみ「好かれようとしない」
ドン・デリーロ著 上岡伸雄訳「ボディ・アーティスト」
リチャード・ブローディガン著 青木日出夫訳「愛のゆくえ」
小川内初枝「緊縛」
ミランダ・ジュライ著 岸本佐知子訳「いちばんここに似合う人」


新年早々、読みたいというか、読まなきゃって本が満載です!