トシの読書日記

読書備忘録

出られないものには入らない

2016-12-20 17:20:40 | ま行の作家



宮沢章夫「よくわからないねじ」読了


本書は平成14年に新潮文庫より発刊されたものです。何年も前に一度読んだんですが、最近、歯医者に通っておりまして、待っている間、いつ呼ばれてもいいようにと、ごくごく軽いエッセイはないかと書棚を探して本書を見つけたのでした。



まぁ再読するような価値はなかったですね。日常のささいなことに突っ込みを入れ、それを宮沢氏流に考証するというような内容なんですが、まぁしょうもないことばかりで、あ、自分もこういったしょうもないことを真剣に考えるという姿勢は、決して嫌いではないんですが、そのしょうもなさ加減が自分のベクトルとはちょっと違うかな、という印象でした。



毎朝、仕事場へ車で40分かけて行くんですが、月曜日はいつもNHKラジオの「すっぴん!」という番組を聞いておりまして、これに宮沢章夫がパーソナリティで出てるんですが、これがなかなか面白い。相方の藤井彩子というアナウンサーとの掛け合いがなかなかよかです。この藤井彩子という人、かなり頭のいい人ですね。どんな人か全く知りませんが。



さて、今週末からクリスマス、そして年末年始と、一番忙しいシーズンがやってきます。12月27日は更新できるかどうかわかりません。来年の1月3日はお店は営業しますので、更新はムリです。悪しからずご了承下さいませ。




ネットで以下の本を購入


ジャリ・アルフレッド著 澁澤瀧彦訳 「超男性」




また、姉に以下の本を借りる


三島由紀夫「豊饒の海(一) 春の雪」
三島由紀夫「豊饒の海(二) 奔馬」
三島由紀夫「豊饒の海(三) 暁の寺」
三島由紀夫「豊饒の海(四) 天人五衰」
川端康成・三島由紀夫 「往復書簡」
三島由紀夫「花ざかりの森・憂国」
久生十蘭著 川崎賢子編「久生十蘭短編選」
梯久美子「昭和の遺書――55人の魂の記録」

人の絆と孤独

2016-12-13 16:35:22 | ら行の作家


ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳「低地」読了



本書は平成26年に新潮社より発刊されたものです。新潮クレストブックです。少し前に新しくなった「丸善」に姉と行き、本書を見つけ、姉に買わされたようなかっこうになった本であります。


がしかし、買ってよかった!名著です。ラヒリ独特の抒情たっぷりの風景描写、繊細な心理描写、そして全体に抑制の効いた簡潔な文章。ほんと、うまい作家です。


兄、スバシュ、1才違いの弟、ウダヤン。二人は何をするにも一緒で、仲の良い兄弟だったんですが、成長するにつれ、互いの性格があらわになっていきます。二人は大学院を出ると、学究肌の兄は、研究のため渡米します。弟は、教員をしながら当時インドで隆起しつつあった革命運動に身を投じていきます。そしてウダヤンはある女性を見初め、結婚します。当時のインドでは、普通親が結婚相手を決め、お祝いも派手にやるらしいんですが、ウダヤンはそのどちらもせず、双方の親の承諾も得ず、自分の親の家に同居してしまいます。ここにひとつの軋轢が生じるわけです。相手の女性の名はガウリといいます。


ガウリは舅、姑とぎくしゃくしながらも幸せな結婚生活を送るかに見えたんですが、地下組織に入って活動を続けていたウダヤンは警察に捕まり、親とガウリの目の前で射殺されてしまいます。知らせを受けて飛んで帰ってきた兄、スバシュは、悲嘆にくれるガウリを見て、弟の果たされなかった残りの人生を引き受ける覚悟でガウリに求婚し、ガウリはそれを受け、アメリカに連れて帰ります。その時、ガウリのお腹には新しい生命が宿っていました。


アメリカで産まれたベラという女の子との三人の新しい生活が始まります。ガウリは精一杯の努力をするんですが、この生活にどうしてもなじめません。自分の夫は自分が産んだ子の本当の父親ではないという事実。そしてスバシュがベラの実の父親であるように努力する姿を逆に疎ましく感じます。


また、ガウリはスバシュと愛し合って結婚したわけではなく、そこに将来に対する経済的な打算等の思惑があったことを認めざるを得ず、そんな自分に対して猛烈な自己嫌悪を感じます。出口の見えない閉塞感に苛まれ、遂にガウリは家を出てしまいます。取り残されたスバシュとベラは、母親のいなくなった家で何とか生きていくのですが…


といった内容なんですが、もう、とにかくすごいですね。この人生模様。最後の方、スバシュから離婚の手続きを要望する知らせを受け、ガウリは何十年ぶりかで自分の過ごした家を訪れます。そこでベラに再会するんですが、このシーン、本書の最大のヤマ場でしたね。ベラは自分を捨てた母親を絶対に許しません。敵意を剥き出しにしてガウリに鋭い言葉を浴びせます。そして、自分はスバシュの実の子ではないことを知っていると告げます。これはガウリにとって大変なショックでした。



ガウリは追われるように家を出ると、この後に控えている仕事を連絡もなしにキャンセルし、インドへ飛びます。自分の生まれ故郷を訪ね、そこで自殺しようとするんですが、すんでのところで思いとどまります。このあたりのガウリの心理描写は、あえて詳述されてないんですが、ここでガウリは何か吹っ切れたんでしょう、アメリカに帰ってまた仕事を続けるんですね。


一方スバシュは新しい伴侶を見つけてアイルランドへ二人で旅行に出かけます。最後はスバシュもガウリも希望の光が見えるような結末になっており、そこは少し救われた思いです。


ミラン・クンデラの「存在の耐えられない軽さ」を思い出します。人生の岐路に立たされて、そのどちらかを選択したとき、もう一方の人生は二度と歩めないということ。人間はその無情さの中に生きているのだということを本書を読んで痛感しました。


本作品はラヒリのひとつの頂点ではあるまいかと感じた次第です。久しぶりにずっしりと読み応えのある作品を味わうことができました。

「わたし」は死なない

2016-12-06 15:51:28 | た行の作家


多和田葉子「聖女伝説」読了


本書は今年3月にちくま文庫より発刊されたものです。つい最近出版されたばかりなんですが、平成8年に太田出版より刊行されたものを、ちくま文庫が書き下ろし「声のおとずれ」を加えて出版したとのことです。


ですので、多和田葉子、初期の作品ということになります。今ネットで調べたらデビュー5作目のようです。


初期の多和田らしく、初々しいところもあるんですが、でもやっぱり多和田らしく、えらく難解です。裏表紙のコピーに<ことばの力で生きのびていく少女たちのためのもうひとつの「聖書(バイブル)。>とあるんですが、うーん…


以前読んだ「文字移植」にも思ったんですが、読む者がどう考え、どう思おうが無関係に疾走していく感じ。この感覚、決して嫌いではないんですがね。


「文字移植」のときのように少し時間をおいて再読してみようかと思います。感想はまたそのときということで。