トシの読書日記

読書備忘録

日本語の喪失

2017-04-18 16:48:11 | た行の作家



多和田葉子「犬婿入り」読了


本書は平成10年に講談社文庫より発刊されたものです。


ずっと以前読んだものの再読です。考えてみれば、自分が多和田葉子と最初に出会ったのは本書でした。この芥川賞受賞作の「犬婿入り」を読んで以来、すっかり多和田葉子の魅力にとりつかれてしまっております。


再読して思ったのは、一度読んで深い感動を味わった作品を、何年か後に再読してみたとき、当時の思いのそれほどのレベルにならないという経験を何度もしているんですが、本書は違いましたね。やっぱりこの小説は何度読んでも面白い。


併載されている「ペルソナ」という中編、これもなかなかのものです。言語にこだわる、いかにも多和田葉子らしい作品でした。


解説の与那嶺恵子という人、全く存じ上げないんですが、なかなかむつかしい言い回しで本書を分析しているんですが、これが名解説なのか、はたまた迷解説なのか、よくわからないんですが、例えばこんな文章…

<言葉が伝達の手段を超えて<もの>の本質として屹立する言語空間が立ち現れているのである。>


まぁなんとなくわからないでもないですが、犬の婿入りという日本各地に伝わる伝説、昔話を多和田葉子流に料理した話を、面白く読むだけでいいのでわ?と思ってしまうのは私だけでしょうか。



Say It Over And Over Again

2017-04-18 16:26:02 | あ行の作家



奥泉光「その言葉を/暴力の舟/三つ目の鯰」読了



本書は平成26年に講談社文芸文庫より発刊されたものです。奥泉光の初期の中編が三編収められています。やはり同じ作家ですから、先日読んだ「虫樹音楽集」とか「石の来歴/浪漫的な行軍の記録」等とテイストは似ていますが、初期というだけあって、なんというか、かなり理屈っぽい。でも面白い。


70年代の大学生を主人公に据え、著者自身の青春時代をそこに重ね合わせたような作品群で、なかなか読ませます。


「暴力の舟」が出色でした。すべてわかった風な口を聞いて、他人の怒りをかう、一風変わった大学の先輩をおとしいれようと、「ぼく」は、ある仕掛けを施すのですが、思惑とは全く違う展開になり、「ぼく」はがっくりきます。この場面、非常に劇的で、感動的ですらありました。「理想社会」の実現という、考えてみれば絵空事のようなことを、先輩がそれほど望んでいたということが、ちょっとおかしいような、胸を打たれるような複雑な気分を味わいましたね。


次にちょっと寄り道をしてから、本作家の中期の傑作と称される「バナールな現象」を読んでみようと思っております。

床に落として割れたら、それは卵だ

2017-04-11 16:32:30 | ま行の作家



村上春樹「騎士団長殺し――第2部 遷ろうメタファー編」読了


本書は今年2月に新潮社より発刊されたものです。



前回の第1部「顕れるイデア編」に続いて読みました。1部はわくわくして読んだんですが、本書はちょっとあっけにとられましたね。読後、「え?」ってな感じです。


「私」が「メタファー通路」を通り抜けて、家の前の雑木林の中にある穴に落ちたことと、秋川まりえが行方不明になっていた、その真相とが全く呼応してないところに驚きましたね。秋川まりえは免色の家に4日間、ただひそんでいただけというんですから。


全体になんというか、わかりやすいというか、安易な展開になっていて、村上ファンのはしくれとしては全然納得がいきません。ラストの大団円的な終わり方にも唖然とさせられました。「1Q84」の方がずっと面白かったです。


非常に残念でした。

3月のまとめ

2017-04-11 16:23:34 | Weblog



3月のまとめをするのを、すっかり忘れておりました。


3月に読んだ本は以下の通り


イーユン・リー著 篠森ゆりこ訳「黄金の少年 エメラルドの少女」
奥泉光「石の来歴/浪漫的な行軍の記録」
ブライアン・エヴンソン著 柴田元幸訳「ウィンドアイ」
エイミー・ベンダー著 菅啓次郎訳「燃えるスカートの少女」


と、3月も4冊でした。しかしひとつもはずれなしという、素晴らしい結果でありました。中でもブライアン・エヴンソン、いいですねぇ。4月も、かくありたいものです。



3月 買った本 3冊 
3月 借りた本 0冊  

真実がどれほど深い孤独を人にもたらすものか

2017-04-04 18:00:18 | ま行の作家



村上春樹「騎士団長殺し――顕れるイデア編」読了



本書は今年2月に新潮社より発刊されたものです。いよいよというか、やっとというか、発売から一ヶ月以上経って今、読み始めました。


もうネットとかさまざまなメディアで取り沙汰されているので、詳しいあらすじとかは紹介しませんが、村上春樹、やっぱり面白いですね。良くも悪くも村上春樹らしい内容で、これもアマゾンのレビューなんかを見ていると賛否両論のようで、自分としては「賛」の方へ1票投じたい気持ちです。


山あいの人里離れた家に住む「私」、深い谷をはさんで向かい側に住む「免色(めんしき)」。第1部を読み終えて思うのは、その免色が「私」に意図的に近づいてきたのだろうということ。肖像画を描かせたのはたんなる方便だったのでしょう。しかし、そのくだりも、もちろん小説のプロットとしてはなくてはならないものではあるんですが。


今までの作品の焼き直しみたいなことが、あちこちで言われているようですが、自分としてはそれで十分ですね。もっとコアなファンとしては物足りないのかも知れませんが。文章の表現の仕方とか、謎の残し方とか、突飛な比喩とか、まぁまぁ今までのところを踏襲しているわけですから。


とまれ、「私」は免色と秋川まりえ、そしてその叔母によってどんなところに巻き込まれていくのか、また、山中の隠された穴から出てきた「騎士団長」は物語でどんな役割を果たすのか、興味は尽きません。第2部の展開が楽しみです。