トシの読書日記

読書備忘録

月子の夢

2013-08-27 16:02:07 | か行の作家
小池昌代「厩橋(うまやばし)」読了



小池昌代という作家も、自分が発見して姉に教え、今では姉の方がすっかりハマってしまっているという作家の一人です。それで本書も姉から借りたものでした。

この作家は、以前読んだ「弦と響」とか「わたしたちはまだ、その場所を知らない」のようなスタンダードバージョンと、「怪訝山」「自虐蒲団」のような、タイトルからして奇天烈なバージョンとに書き分けているような感じです。本作品はその前者に当たる、スタンダードなスタイルです。自分は奇天烈な方が好きなんですがね。


東京の隅田川にかかる厩橋。そのすぐ近くの川岸のマンションに住む50代の夫婦の話です。十数年前に厩橋に捨てられていた赤ん坊を拾い、一度は養護施設に預けるものの、その子の里親になることを決意して引き取ったのが月子です。妻の藜子(れいこ)と子供の月子の胸中の描写を中心に物語は進んでいきます。が、まぁなんということのない小説でした。建設中のスカイツリー、例の大震災等、時事ニュースをそつなく挿入し、うまくまとめた、といった体です。


小池昌代のもっとアヴァンギャルドな、かつ奇天烈なやつが読みたいです!

アメリカ文学史に残る冒険活劇

2013-08-27 15:51:20 | た行の作家
マーク・トウェイン著 村岡花子訳「ハックルベリイ・フィンの冒険」読了



ぽつぽつと読み続けております。本書を選んだのは、大江健三郎のエッセイの中で、大江が少年時代、本書を何回も繰り返し読んだとあったので、これが大江の原点か、という思いで手に取ったのであります。


文句なしに面白い冒険活劇でした。ハックルベリィがダグラス未亡人の家に引き取られ、その堅苦しい生活に嫌気がさし、黒人奴隷のジムと筏に乗ってミシシッピを下っていくうち、様々な事件に出くわすという物語です。しかしまぁエピソード満載で、息をもつかせず読ませるとはこのことですね。文庫で458項というまぁまぁの長さの話なんですが、ほぼ一気に読んでしまいました。


しかしこれが大江健三郎の原点かと問われると、どうなんですかねぇ。少なくとも大江文学の片鱗はどこにも見当たりませんでした。


まぁそれはそれとして、楽しく、面白く読ませてもらいました。

変化するもの・変化しないもの

2013-08-27 15:40:40 | あ行の作家
青山七恵「かけら」読了



更新しないと言いながら薄い短編集を読んでしまいました。逆に気持ちの上で本でも読んでないと気が紛れないというのもあります。


新聞の書評で同作家の「快楽」という最新刊のことが書いてあったので、書店で捜したんですが見当たらず、「ブックオフ」で本書を見つけたので、100円だし買って読んでみました。


まぁ読まなくてもよかったですね(笑)三編の短編が収められているんですが、女子大生、就職したばかりの若い男、新婚の奥さんというのがそれぞれの主人公なんですが、毎日の変わらない生活の中に何か小さな事が起こり、それによって変わっていくもの、それでも変わらないもの、それが主人公にどんな影を落とすのか、という心象風景を描いているんですが、これは20~40代くらいの女性に共感を与える小説であると思います。

50も、もう後半のくたびれたおじさんには全くピンときませんでした。残念。

ホッキョクグマ クロニクル

2013-08-19 16:36:32 | た行の作家
多和田葉子「雪の練習生」読了



おととしに出版された、多和田葉子の最新刊です。姉から貸してもらってて、ずっと忘れておりました。


三部構成になっていて、最初の章は「わたし」という、人間の会議に出たり、自伝を書きもするホッキョクグマ。次が「トスカ」というクマで、「わたし」の子で、サーカスの人気者のクマ。そして最後がトスカの子で「クヌート」という、地球温暖化防止キャンペーンの目玉になったクマです。ホッキョクグマ三代にわたる歴史が綴ってあるわけなんですが、面白いことは面白いんです。がしかし、なにゆえ多和田葉子がこれを書かなければいけないのか、それが理解に苦しみます。


多和田葉子らしさがなく、どんな世界を見せてくれるのかという期待は、あっさり裏切られました。残念。



ここのところ、店の経営状態が思わしくなく、先行きを考えると、とても本を読むような気持ちになれず、多分今月はこのあと、更新はないと思います。なんとかせねば!

マチゲンガ族の掟

2013-08-10 17:27:55 | ら行の作家
バルガス・リョサ著 西村英一郎訳「密林の語り部」読了



姉が「面白いよ!」と言って貸してくれた本です。大江健三郎もこの作家をリスペクトしているとのこと。しかし、読み始めて、どこが面白いのかさっぱりわからず、まさに苦行といっていいような読書でした。

でも、途中から、密林の語り部が誰であるのか、ということがわかってきてから俄然面白くなってきました。


ペルーの山奥、アマゾンの支流の流域に暮らす部族たちの生活と原始的な信仰とをベースに、そこに入っていったユダヤ人の青年の魂のありようを鋭く描いた作品です。


「物語る」という行為の最も原始的なかたちである「語り部」の姿を描くことで「物語」の真の意味を問う、というのが本書のテーマであると思います。しかし、この語り部の話の縦横無尽なこと。現在のこと、過去のこと、遠くの村のこと、自分たちの村のこと、一切の関係性を無視した語りには、逆の意味で整合性すら感じます。いや、恐れ入りました。


ちなみに本作家は2010年にノーベル文学賞を受賞しているそうです。恥ずかしながら知りませんでした。