トシの読書日記

読書備忘録

死によって与えられる救済の感覚

2017-07-25 15:32:37 | か行の作家



川上未映子 村上春樹「みみずくは黄昏に飛びたつ」読了


本書は今年4月に新潮社より発刊されたものです。川上未映子による村上春樹へのインタビュー集です。都合4回にわたるインタビューで、345項となかなかのボリュームになっています。


いろいろと考えさせられること、気づかされることがありました。もちろん、村上春樹の小説に対してです。


まず、村上春樹の執筆のスタイルというか、その筆の進め方に驚きましたね。特にプロットも立てず、とにかく筆のおもむくままに書いていくんだと。自分でもこれがどんな話になるのか、書いている時点ではわからないとおっしゃっています。しかし本当かねこれ。なわけないだろう、と突っ込みたくなりますが、真偽のほどは定かではありません。


それから、「文章がすべて」というところ。ちょっと引用します。

<そう、文章。僕にとっては文章がすべてなんです。物語の仕掛けとか登場人物とか構造とか、小説にはもちろんいろいろ要素がありますけど、結局のところ最後は文章に帰結します。文章が変われば、新しくなれば、あるいは進化していけば、たとえ同じことを何度繰り返し書こうが、それは新しい物語になります。文章さえ変わり続けていけば、作家は何も恐れることはない。>


これ、すごいですね。小説のテーマの選び方、また、それをいかに深く掘り下げるか、というのがその小説の重みである、という文学界の暗黙の了解をすっ飛ばして、ただ「文章」と言い切るところ。やっぱりこの作家はただ者ではありません。


また、インタビュアーの川上未映子も、さすが新進気鋭、第一線の作家です。質問が鋭い!村上春樹が巻末の「インタビューを終えて」という章で感想を言ってますが、ここ、ちょっと引用します。

<次々に新鮮な鋭い(ある場合には妙に切実な)質問が飛んできて、思わず冷や汗をかいてしまうこともしばしばだった。読者のみなさんも本書を読んでいてそういう「矢継ぎ早感」をおそらく肌身に感じ取ってくださるのではないかと思う。>

この大作家に冷や汗をかかせる川上未映子もやはりただ者ではありません。


村上春樹の小説(物語)に対する特異な考え方、また、自分を取り巻く世界に対するユニークな捉え方、大変面白く読ませていただきました。





プロレタリア文学の可能性

2017-07-18 18:11:47 | あ行の作家


先週はなんやかやとありまして更新できませんでした。


安部ヨリミ「スフィンクスは笑う」読了



本書は平成24年に講談社文芸文庫より発刊されたものです。誰あろう、安部公房の御母堂であります。先日、安部公房の「飛ぶ男」を読み終え、そういえばと書棚を探して本書を見つけたのでした。安部ヨリミ、生涯唯一の小説とのこと。


主人公の道子は恋愛至上主義というか、とにかく夫の兼輔を愛することで自分の存在を確かめているところのあるような女です。その道子の幼なじみの安子、そして道子の兄、一郎、これらの人物が織り成す愛憎劇といった作品です。


夫の兼輔が、かつては安子を愛していて、それを捨てて自分と結婚したことを知った道子は兼輔に詰め寄るわけですが、兼輔はそれを認めたうえで今は道子しか愛していないと釈明します。そして安子が行方不明になったとの知らせを受け、道子は東京から北海道へと行きます。


このあたりから話は、兄の一郎を巻き込んだ愛憎劇へと発展していくんですが、この辺のくだりは、タイトルは忘れましたが、夏目漱石の小説にもこんな話があったなと思い出しました。


無事、安子はみつかるんですが、しかし後半、安子が野田という男と駆け落ちし、北海道で暮らす場面、まぁすごいですね。凄惨な生活です。このあたりがプロレタリア文学と言われる所以でしょうか。


特に深い感動を受けたわけでもないんですが、なんというか、安部ヨリミの気迫がそくそくと迫ってくるような文章で、圧倒されました。



先日、久しぶりに名古屋 栄へ行き、買い物をしたあと、丸善で以下の本を購入


野坂昭如「とむらい師たち―野坂昭如ベストコレクション」河出文庫
久生十蘭「十蘭錬金術」河出文庫
辻原登「Yの木」文藝春秋社
丸谷才一「エホバの顔を避けて」河出書房新社
丸谷才一「彼方へ」河出書房新社
諏訪哲史「偏愛蔵書室」国書刊行会

6月のまとめ

2017-07-04 18:31:32 | Weblog



6月に読んだ本は以下の通り


髙村薫「土の記」(下)
佐藤正午「月の満ち欠け」
大場健「私はどうして私なのか」
堀江敏幸「アイロンと朝の詩人―回送電車Ⅲ」
安部公房「飛ぶ男」
町田康「ホサナ」


と、以上の6冊でありました。6月は何と言っても町田康ですねぇ。いやよかった。「宿屋めぐり」もすごい作品でしたが、それと並ぶか、ひょっとしたらそれ以上かもしれません。あと、髙村薫という、未知の作家に出会えたことも僥倖でした。この人、文章がうまいわ。


仕事の方は、名古屋市内の店に移って2年あまり経ちましたが、可もなく不可もなくといったところです。まぁ普通にごはんが食べられる程度にはなっております。

母の49日も無事済み、いつもの日常が戻ってきておりますが、そういえば来月は新盆だったなと、またちょっといろいろ気を使うことがあり、少し気が重いです。


自分の読みたい本が好きなように読めるわけですから、それだけでも感謝しなければと思っております(って誰に?)。


姉から以下の本を借りる

ジョン・ニコルズ著 村上春樹訳「卵を産めない郭公」新潮文庫
神吉拓郎「たべもの芳名録」ちくま文庫
吉田健一「旨いものはうまい」角川グルメ文庫



6月 買った本 1冊
   借りた本 3冊