トシの読書日記

読書備忘録

匂いによる愛の奇跡

2018-09-25 18:03:37 | さ行の作家



パトリック・ジュースキント著 池内紀訳「香水―ある人殺しの物語」読了



ずっと以前、同作家の「ゾマーさんのこと」という絵本(といっても中高生向けくらいの)を読んで、作中のゾマーさんという人物を通して人間の孤独というものをしみじみ考えさせられたことがあったんですが、それ以来、その作品のほかに「香水」という小説があることを調べて知ってはいたんですが、なかなか読む機会がなく、今回、やっと手に取ったのでした。


なかなか面白い小説でした。主人公は孤児のグルヌイユ。この男の一代記ということなんですが、この男、並外れた嗅覚を持っていて、これがこの男を破滅へと追いやる結果になってしまうわけです。


皮なめし職人の徒弟として仕事をスタートさせるんですが、ある日、商品を届けに行った調香師の工房で、香水に使っている材料と、その分量をぴたりと言い当て、それでその調香師の弟子となる。そこから頭角を現し、ついにはその店はパリ一番の香水店として繫盛するようになります。


しかしグルヌイユはそれだけでは飽き足らず、その店を飛び出して流浪の旅に出ます。そして何故か洞窟に7年暮らすことになるんですが、このあたり、何の伏線なのか、ちょっとわかりませんでした。グルヌイユはその後、世界最高の香水を作ろうと思い立ち、それには処女の体臭がぜひとも必要で、それも大量に必要ということで、そのために25人もの若い娘を殺してしまうわけです。その先は、もう驚くことばかりで、グルヌイユは処刑されるんですが、そこで匂いによる愛の奇跡が起きてしまうんですね。


そしてそして、一番最後のシーンにもとにかくびっくりさせられました。この作家、なかなか一筋縄ではいかない人のようです。このパトリック・ジュースキントの他の作品もちょっと調べて読んでみようかと思っております。

ヤンデレ義経、メンヘラ弁慶

2018-09-18 18:54:40 | ま行の作家



町田康「ギケイキ」読了



本書は今年6月、河出文庫より発刊されたものです。なんと、姉が買って貸してくれたものです。自分は書店で見かけて「ま、いっか」と思っていたんですが、思わぬところから本書が転がり込んできて、大喜びで読んだ次第です。


本書は室町時代に書かれた源義経の一代記「義経記」を義経の一人称で語り直した小説なんですが、まぁあちこちでいろんなギャグをかましながら読む者をぐいぐい引っぱっていきます。相変わらずの町田康です。やってくれますねぇ。


歴史物はあまり好きではないんですが、こういうのだったらどれだけでも食べられます。本書の単行本の帯には「平家、いてこます」とあったんですが、この文庫は「ギケイキ」の前半部分になっており、まだいてこましてません。


次巻でいよいよ合戦が始まるんだと思いますが、まだ文庫では出てないようです。こんなに面白いんなら自分が単行本を買いましょうかね。


いやほんと、面白いっす。




砂の行方

2018-09-11 14:29:58 | さ行の作家



坂口恭平「現実宿り」読了



本書は平成28年に河出書房新社より発刊されたものです。以前、「けものになること」を読んで、難解この上なく、かなり手を焼いたものでしたが、本書もそれに負けず劣らず滅茶苦茶難解でした。


ネットで日和聡子という人が、本書のレビューを書いているんですが、そのタイトルが「まだわからない。しかし、きっといつかわかる。」というんですからふるってます。自分も同じ心境であります。


<わたしたちは止まってはいけない。動かなくてはいけない。しかし、それは無駄な動きではいけない。わたしたちにできることは、なまけないことだ。なまけずに、常にいまここで、動くことである。時間は常にここにいる。止まったまま。わたしたちはそのために道具をつくっている。誰が笑おうがそれは問題ではない。問題なのは、これが時間だ、とわたしたちが知ることである。>


全編こんな調子です。


いとうせいこう氏が「これはベケットだ」とどこかで言っていたんですが、自分はベケットのなんたるかすらよく知らないので、まぁ読む資格がなかったのかも知れません。


坂口恭平、もう読まないと思いますが、名前だけは憶えておきます。


なんにせよ、貴重な読書体験でした。

8月のまとめ

2018-09-05 03:08:29 | Weblog



8月に読んだ本は以下の通り


若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」
最果タヒ「星か獣になる季節」
フリオ・リャマサーレス著木村榮一訳「狼たちの月」
つげ義春「無能の人」


以上の4冊でした。8月はやはりリャマサーレスですかね。なんだか夏読むには似合わない感じですが、それでもすごい作家です。若竹千佐子もなかなかよかった。次作に期待ですね。



8月 買った本0冊
   借りた本7冊



無知の人

2018-09-04 14:14:08 | た行の作家



つげ義春「近所の景色/無能の人」読了



本書は平成21年にちくま文庫より発刊されたものです。ちくま文庫からは「つげ義春コレクション」と銘打って全9冊が発刊されているんですが、本書はその中の1冊で、姉が貸してくれたものです。自分もこの9冊4のうち、どれか1冊くらいは読んだような記憶があります。




まぁ好きな人にはたまらない、このつげ義春の世界です。自分も昔は一時ハマったことがあるんですが、今となってはまぁ、それほどでもって感じです。


出てくる男がダメ男ばかりで、こういう男に女性は魅せられるのかと、ちょっと勇気づけられたりもするんですが、自分は無能に加えて無知なんで、これはもう救いようがないですねぇ。


久しぶりにつげワールド、楽しませてもらいました。