トシの読書日記

読書備忘録

あり得ないはずの女同士の友情

2018-02-27 16:30:21 | ま行の作家



松浦理英子「裏ヴァージョン」読了



本書は平成21年に文春文庫より発刊されたものです。以前、同作家の「犬身」を読んで、なんだかなぁと思ったものでしたが、この作家は玄人受けするというか、何か新刊が出ると、例えば中日新聞の「中日春秋」なんかですぐ取り上げられるわけです。そして必ず言われるのが寡作な作家であると。なので「待望の新刊」とかよく言われるようです。


それでまぁ気になる作家ではあるわけで、それで3、4冊程まとめて買ってみたのでした。


高校時代の同級生で、一時は疎遠になっていた40代の女性二人が、一方のマンションに居候する代わりに、その相手に短編小説を毎月一編書いて読ませるという約束をする。作品はその短編とそれに対する家主のコメントで綴られていきます。


この作家のことは詳しくは知りませんでしたが、普通の男女の性愛ではなく、女同士、いわゆるレズビアンの問題に関して積極的に取り組んでいる方なのでしょうか。この小説に出てくる女性達はレズビアンではないのですが、作中で書かれる作品はレズビアンを扱ったものが多く、その登場人物達の感情を巧みな筆致で描いています。


しかし、読んでいて特にガツンと来るものもなく、なんとなく読み終えてしまいました。自分は松浦理英子に向いてないのかも知れません。


せっかく何冊も買ったので、次、もう1冊松浦理英子、いってみます。

葦原の中国の八百万の神

2018-02-20 17:23:02 | な行の作家



中村啓信 訳注「古事記」読了


本書は平成21年に角川ソフィア文庫より発刊されたものです。もちろん、初出は約1300年前、元明天皇の和銅5年に書かれたもので、日本最古の書籍とされています。



仕事の帰りに車の中でよくNHKの「ラジオ深夜便」をきくんですが、先日、この古事記のことを紹介していて、興味がわいて買ってみたわけです。


なかなか面白かったです。が、上、中、下と3巻建てになっているんですが、下巻が天皇の系譜が延々と続いて書かれているところが結構多くあり、そこいらへんはちょっとくたびれましたね。それと全体的に漢字が多すぎです。もちろん現代語訳で読んだんですが(それでしかもちろん読めません)、漢字の細かいルビを追っていくのにもちょっと疲れました。


まぁでも稲羽の白兎の話とか、八俣の大蛇(やまたのおろち)の話とか、倭建命(やまとたけのみこと)の話とか、エピソード満載で、そのあたりは興味深く読めました。倭建命は若い頃、熊曾征伐に行く前になんと、兄を殺しているんですね。それも手足をもぎ取って薦(こも)にくるんで投げ棄てたというんですから恐ろしいです。倭建命は正義の味方みたいなイメージがあったんですが、ちょっと違ってたみたいです。


たまにはこんなものも読んで教養を高めようと無駄な努力をしております。

1月のまとめ

2018-02-13 15:48:27 | Weblog



1月に読んだ本は以下の通り


カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」
坂口恭平「けものになること」
内田百閒「冥途―内田百閒集成3」


以上の3冊でした。やはりカズオ・イシグロ、すごいですね。それから坂口恭平、只者ではありません。そして百閒。この人もすごい。たった3冊しか読んでないんですが、はずれがないというのはうれしいことでした。


さて、2月も半ばになって、辞めていくアルバイトはいるんですが、入ってくるアルバイトが一人もいません。ネットでも紙媒体でも募集をかけてるんですが、反応がありません。困ったもんです。いまだかつてない営業の危機にさらされております。とにかく、なんとかこの危機を脱出すべく頑張らねば!



1月 買った本 2冊
  借りた本 2冊

夢の中へ

2018-02-06 17:32:27 | あ行の作家



内田百閒「冥途―内田百閒集成3」読了


本書は平成14年にちくま文庫より発刊されたものです。諏訪哲史の「偏愛蔵書室」に紹介されていたものです。内田百閒は、以前何冊も続けて読んだことがあり、このちくまの「集成」シリーズも何冊か買ったんですが、諏訪氏が紹介した「3」だけ抜けておりました。


短編というか小品と呼んでいいような作品が全部で33編収められています。表題作の「冥途」「件(くだん)」「土手」「豹」等、自分にはおなじみの百閒ワールドであります。


しかし、中には全く違う毛色の作品も収められていて、「昇天」という短編がそれなんですが、しばらく一緒に住んでいた女が肺病になって入院しているという話を聞き、「私」は見舞いに行くんですが、その男女のやりとりが、なんというか淡い情感で、まるで永井荷風の「墨東奇譚」のような世界を彷彿とさせる内容でした。こんな小説も書くんですね。内田百閒の素晴らしさを改めて実感しました。


最期に収められている「青炎抄」という作品、これも百閒ワールド満載なんですが、ちょっと驚いたところがあるので、少し長くなりますが引用します。


<「早くして貰わなければ間に合わぬ。君のところに写真がある筈だ」
 何の写真だろうと考える暇もなく、
 「あれの写真ですよ。病気になる前に写したのがありましたね」と云って、青くなってふるえている。
  そんな物を惜しいとは思わないが、しかし何処にしまってあるか思い出せないから、一生懸命に考えていると、 
「それはそうです。僕の所に来てから病気になったには違いないが、何ッ」と云いかけて、起ち上がりそうにした。
「うん、そりゃ解っている。そんな事を云いに来たんじゃない。しかしもう駄目なんです。可哀想な事をしました。だから、今写真がいるんだ。解らんかね」>


この会話の中で相手がいきなり「何ッ」と云いかけるところ、なんなんですかね。わけがわかりません。しかし、そのわけのわからなさ感が面白いんですがね。


本書で「昇天」のような百閒の新たな一面を知ることができたのは僥倖でした。



姉から以下の本を借りる

川上未映子「愛の夢とか」講談社文庫
川上弘美「森へ行きましょう」日本経済新聞出版社