トシの読書日記

読書備忘録

4月のまとめ

2010-04-30 17:28:55 | Weblog
今月読んだ本は以下の通り



田中小実昌「天国までぶらり酒」
諏訪哲史「ロンバルディア遠景」
阿部和重「アメリカの夜」
山口瞳「男性自身~冬の公園」
内田百「阿房列車」
池波正太郎「夜明けのブランデー」
池波正太郎「江戸の味を食べたくなって」
村上春樹「1Q84 Book1」「1Q84 Book2」
村上春樹「1Q84 Book3」
吉本隆明「夏目漱石を読む」
ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳「見知らぬ場所」
万城目学「鹿男あをによし」
山田詠美「学問」


以上、12タイトル14冊でした。今月は結構読みましたねぇ。


良くも悪くも自分の中に一番残っているのは「1Q84 Book3」です。まことに残念です。あと、心に強く焼き付いているのは諏訪哲史「ロンバルディア遠景」、山口瞳「冬の公園」、ジュンパ・ラヒリ「見知らぬ場所」あたりですね。今日、諏訪哲史のデビュー作「アサッテの人」を買ってきたんで、早速読むつもりです。5月も楽しみです。

欲望の愛弟子

2010-04-30 17:05:19 | や行の作家
山田詠美「学問」読了



1年くらい前に買ったまま忘れていたのを引っ張り出して読んでみました。その時、同作家の「無銭優雅」というのを読んで全然おもしろくなかったにもかかわらず、何故か気になっていて、もう1冊読んでみようと買ってあったのでした。

うーん…これもどうなんでしょうねぇ。面白いことは面白いんです。構成もしっかりしてるし、ストーリー展開もうまいし、言葉の選び方もプロだなと思わせるんですが、「それで?」って思ってしまうんですねぇ。


4人の小学生の男女が成長していく過程を描いた物語なんですが、もうひとつ感情移入ができないんですね。ふと気がつくと醒めた目で見ている自分がいるという…


自分は、基本的にこの作家が好きではないみたいですね。その書く内容云々以前に、この作家自身が好きになれないみたいです。なんか生意気なんですね(笑)いつも自信たっぷりで謙虚さがない感じで。


なので、好きでない作家を無理して読むこともあるまいということで、山田詠美、さようならです。




所用で出たついでに書店に寄り、以下の本を購入


太田和彦「自選 ニッポン居酒屋放浪記」
川上未映子「ヘヴン」
諏訪哲史「アサッテの人」

前代未聞の救国ストーリー

2010-04-30 16:56:38 | ま行の作家
万城目学「鹿男あをによし」読了


ちょっと息抜きに万城目小説に手を出してしまいました。デビュー作「鴨川ホルモー」に続く万城目学お得意のエンタメ系小説であります。

いやぁやっぱりおもろいわ。「鴨川…」は京都を舞台にしたのに対して今度は奈良であります。奈良といえばやっぱり鹿ですね。話は、鹿に指図されて国を救う女子高教師の話です。


まぁ内容が内容なんで読み終わってもなんにも残らないんですが(笑)とにかくおもしろかったです。「プリンセストヨトミ」、文庫化されたら買います(笑)

愛と喪失の物語

2010-04-27 18:33:50 | ら行の作家
ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳「見知らぬ場所」読了



この新潮クレストブックというシリーズは、素晴らしい本をたくさん出版しているのはいいんですが、ちょっと高いのが(2300円!)玉にキズですねぇ。

それはさておき…


デビュー作「停電の夜に」で幾多の賞を独占し、2作目の「その名にちなんで」も映画化されて話題になるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いのラヒリの第3作目の短編集です。短編といっても50~80ページくらいの、まぁ中篇ですね。あと、第二部として「へーマとカウシク」という、インド出身の男女の織り成す物語が載せられています。


やっぱりラヒリ、いいですねぇ。じわっときます。「停電の夜」、「その名にちなんで」から考えると、訳者も指摘するように作風はそのままに、その描くテーマというものが少しづつ変わってきている感じがします。


以前は、インドで生まれ、後にアメリカへ移住することになる人達の文化や生活習慣の違いに対するとまどい、また、この地に根を張る気持ちを決めきれない不安、焦燥といったものを主に描いてきたという印象があるんですが、本作品はそこからもう一歩進んで彼らの二世世代に焦点を当て、同世代のアメリカ人との軋轢、また旧弊な感覚の親に対する批判的なまなざし等、まさに今現在のところへ話を持ってきている点に新味を感じます。


表題作になっている「見知らぬ場所」。これが良かった。アメリカ人と結婚した娘とその父親との言葉に表せない心の交流が行間からしずかに滲み出てきます。


また「へーマとカウシク」という中篇。これもよくできた小説でした。それぞれの人物からの視点で話を進めていくという、ラヒリお得意の手法もさることながら、ともすれば安易なメロドラマに陥りそうなラブストーリーを、この小説家は見事な純文学に仕立て上げています。

いやはや感服つかまつりました。

漱石の資質

2010-04-27 17:51:49 | や行の作家
吉本隆明「夏目漱石を読む」読了



以前、瀬戸浩爾が「思想なんかいらない生活」の中で、あまたの哲学者を斬って捨てる中、吉本隆明だけは「別格」と言っていたのが妙に頭に残っていて、少し前に夏目漱石をまとめて読んだことだしと思い、買ってみた次第。


「吾輩は猫である」「夢十夜」「それから」「坊ちゃん」「虞美人草」「三四郎」「門」「彼岸過迄」「行人」「こころ」「道草」「明暗」の12の小説を取り上げ、それぞれのテーマに深く迫るといった構成になっています。


自分が持った感想と吉本隆明の評論を比べてみるなどという大それたことはもちろんしませんが(笑)やっぱりすごいですね。卓越してます。


ただ、ひとつ思ったのは「門」という小説。自分はあまり上出来な小説とは思わなかったのですが、吉本氏は「いちばん好き」なんだそうです。小説を満たす「ひっそりさ」が好きなのだということです。

なるほど、そう言われて「門」をぱらぱら読み返してみると、この小説の主人公である宗助とその妻、お米の日常のなんということのない生活が細かく、ていねいに描かれているのを感じました。

例えばこんなところ。

「平常(いつも)は好い時分に御米がやって来て、『もう起きてもよくってよ』と云うのが例であった。日曜とたまの旗日(はたび)には、それが、『さあもう起きてちょうだい』に変るだけであった。しかし今日は昨夕(ゆうべ)の事が何となく気にかかるので、御米の迎(むかえ)の来ないうち宗助は床を離れた。そうして直(すぐ)崖下の雨戸を繰った。」

朝、妻が夫を起こすシーンです。なんだかほのぼのしてきます。


吉本隆明は、夏目漱石の生まれ育った環境に注目し、そこから漱石の作品世界を読み解こうとしています。

漱石は、両親が少し歳をとってから生まれた子で、いわゆる「恥かきっ子」として、当時の風潮としてはそれはかなり恥ずかしいことだったようです。それで、親は漱石を里子に出してしまうわけです。四谷あたりの古道具屋にひき取られた漱石は、そこで幼年期を過ごすわけですが、その後、今度は浅草の塩原という人のところへ養子にやられます。そこの養父母が、女性関係がからんで仲が悪く、もめ事が絶えなかったため、結局漱石は実家へ戻ってくるんですが、夏目姓にかえるのはずっとあとになってからだということです。漱石は、幼年期、少年期にこんな苦労をしているんですね。それが後の小説に色濃く影を落としてるということです。


漱石の小説の多くは、男女のいわゆる「三角関係」を扱ったものが多くあります。これは「不倫」とか「浮気」とか、そういったものではなく、もっと人間の根源に迫るような深いものを感じます。一人の女性と二人の男。構図はすべてこれです。そしてその二人の男は無二の親友であったり、血を分けた兄弟であったりします。ここがポイントなんですね。お互いの関係がかなり深いんです。そこでいろいろな葛藤が生まれる訳です。

では、漱石はなぜ執拗に三角関係をテーマにした小説を書き続けたのか。吉本氏は以下のように解説します。

「こういうことは漱石の理解の仕方からいえば、男女の問題については自然のほうが人工的よりいいし、自然ならば無意識の自然がいちばんいいし、確かなんだという観点が、漱石に抜き難くあったとおもいます。漱石はそれに外れるといいますか、それに対抗してさまざまな考え方をもった主人公たちがどうなるかということを、執拗に作品のなかに描いています。」

ここですね。自然に男女が結ばれるなんてことは、いろんな人間がいろんな考え方で生きている以上、まずあり得ないことだと。それで漱石はいろいろなパターンを駆使して男女のあり方を模索してみたのではないでしょうか。それこそ、「虞美人草」「門」「行人」「こころ」とそれぞれに多様な男女の三角関係がそこにはあります。


この評論を読んで、夏目漱石に対する理解がもうひとつ深まった気がします。

吉本氏に感謝です。

このやるせなさをいかにせん

2010-04-27 17:38:36 | ま行の作家
村上春樹「1Q84 Book3」読了


期待に胸ふくらませて読んだのですが、今の心境はこの記事のタイトルです。


なんですかこれ。気に入らないとこだらけです。以下、何が気に入らないのか列挙してみましょう。

「1」「2」では天吾と青豆が章ごとに交互に語られる構成になっていたところへ牛河の章が入ってきたこと。なんで牛河をクローズアップさせなきゃいけないのか。構成としては失敗だと思います。次にストーリーの展開の仕方が妙にミステリーじみていて春樹らしさがかなり損なわれていること。また、前作で行方不明になっていた編集者の小松の後日談が、いかにもとってつけたようなつじつま合わせになっているところ。青豆の「その後」のことも同様です。

そしてラスト。なんだかねぇ…。このブログを読んでいる人がいるかも知れないので(笑)ラストに関しては何も言いません。


まぁそんな訳で、前回、この小説世界の成り立ちを「3」を読んだあとでまとめてみようと思っていたんですが、ちょっとそんな気になれないですねぇ。一応自分なりに理解しましたが。


ともあれ、村上春樹の「1Q84 Book3」、彼の著作の中では最大の駄作と断言してしまいましょう。「Book4」はこのラストを読めばあり得ないですね。もっとも、出ても買いません。多分(笑)

イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン

2010-04-18 16:21:02 | ま行の作家
村上春樹「1Q84 Book1 Bo o k2」読了



今週発売される同タイトルの「Book3」を読む前に(予約済)もう一度おさらいをしておこうと思って再読しました。


去年読んだときには、もちろん面白いのは面白いんですが、ちょっともやもやしたものが残ったんです。でも再読して、かなりすっきりしました。

しかしこれは読めば読むほど難解な本です(笑)この小説のポイントは「Book2」の中ほど、青豆がホテルオークラのスイートルームへ宗教法人「さきがけ」のリーダーを「あちら側の世界に移す(つまり殺す)」ところの場面にあると思われます。ここをじっくり読むと、この小説世界の成り立ちがかなり明確につかめてきます。


この世に「善」と「悪」の境目のない頃から存在した(あるいは観念としてあった)リトル・ピープルの「声」を聞くことができるごくわずかな人間の一人である「さきがけ」のリーダー。そしてリトル・ピープルの存在を(あるいは観念を)世に知らしめてしまった、小説「空気さなぎ」の著者、ふかえりとそれをリライトした天吾。リトル・ピープルにとっては、このふかえりと天吾は非常に邪魔な存在なわけです。しかし、「さきがけ」のリーダーが殺されることで、この二人はリトル・ピープルから危険にさらされる必要がなくなると。だから青豆は自分の命をひきかえに天吾の命を助けるわけです。


文章に書くことで自分の頭の中をまとめようと思ったんですが、かえって段々わかんなくなってきました(笑)これは「Book3」を読んですっきりするしかないみたいですね(苦笑)


すべてを読んでもう一回まとめるとしますか。

「Book4」が出るといううわさもありますが(笑)




書店で予約した村上春樹「1Q84 Book3」を受け取るついでに以下の本を購入


筒井康隆「銀齢の果て」
万城目学「鹿男あをによし」
ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳「見知らぬ場所」
吉本隆明「夏目漱石を読む」


また、ネットで以下の本を購入


多和田葉子「文字移植」
佐伯一麦「鉄塔家族」
藤枝静男「悲しいだけ/欣求浄土」

ア・ラ・モードの味

2010-04-18 16:05:13 | あ行の作家
池波正太郎「江戸の味を食べたくなって」読了


池波正太郎エッセイシリーズ第二弾であります。このエッセイは、あちこちに書いたものをまとめたもののようです。

食べ物の素材に対する思い出、フランス旅行で見つけた江戸の面影を感じさせる居酒屋「B・O・F」への偏愛を綴った散文、池波氏が愛してやまない天ぷら屋と寿司屋の主人を招いての座談会、絶筆となった短編小説など、盛りだくさんの内容です。

いやぁいいですねぇ。堪能しました。この中で、第一部「味の歳時記」の二月のところに「小鍋だて」というものがあって、これがやたらうまそうなんですね。底の浅い小鍋に出汁を張り、浅蜊と白菜をざっと煮ては、小皿に取り、柚子をかけて食べる。ただこれだけのものなんですが、池波氏の文章の表現力でとんでもなくおいしいものに感じられるんですね。ただ、気をつけるのは、入れるものは二種類か三種類。あまりごたごた入れるのは野暮ってもののようです。今度、自分でやってみようと思います。

軽妙洒脱な心

2010-04-18 15:53:58 | あ行の作家
池波正太郎「夜明けのブランデー」読了


「週刊文春」に連載されたエッセイであります。著者直筆の挿絵も載せられていて、なかなかしゃれた造りになっています。

これまで、同作家のエッセイは「散歩のときなにか食べたくなって」等、食にまつわるものしか読んでなかったんですが、この作家は映画、芝居(洋の東西を問わず)に相当精通しているようで楽しく読ませてもらいました。もっとも、池波氏は元々芝居(時代劇)の脚本を書いていた方ですから当たり前といえば当たり前なんですが。


滋味溢れるエッセイでした。池波正太郎のエッセイ、もう一冊いってみます。

比類なきリアリスト

2010-04-18 15:44:38 | あ行の作家
内田百「第二阿房列車」読了



先日の「一箱古本市」で購入したものです。同作家は、以前にも1冊エッセイを読んだんですが、まぁいいか、くらいの気持ちいたところ、「古本市」でこの本を見つけ、なんだか買わないと悪いような気になってつい買ってしまったのでした。


これも「百鬼園随筆集」と同じテイストの、ユーモアあふれる、とぼけた、しかし観察眼の非常に鋭いエッセイであります。エッセイというよりは紀行文といったほうがぴったりくるかもしれません。


昭和30年代に走っていた国鉄の特急、「つばめ」、「桜」、「はと」、「越路」等に乗って九州の方へ行ったり、新潟の方へ行ったりして、見聞したものをまとめたものです。


まぁどうということのない本でしたね。ユーモアはたっぷりです。がしかし、自分のツボではないですねぇ。って前にも同じことを書いたような…(笑)