トシの読書日記

読書備忘録

闇に潜む光

2020-06-21 10:58:47 | あ行の作家


内田百閒著 小川洋子編「小川洋子と読む内田百閒アンソロジー」読了


本書は今年の2月にちくま文庫より発刊されたものです。内田百閒を愛して止まない小川洋子がその百閒作品のなかでも特にお気に入りの短編、中編を編んだものです。


本書を手に取るのは初めてなんですが、収められている作品はほとんどが再読のものばかりです。全部で24の作品が収録されているんですが、やはり注目すべきは「サラサーテの盤」、「柳検校の小閑」ですかね。まぁ有名(?)な「件(くだん)」とか「冥途」等の短編も内田百閒にしか描けない独特な世界で読ませるんですが、自分は「柳検校の小閑」がイチ押しですね。初読のときにも思ったんですが、これ、ほんとに百閒が書いたの?と思わせる、百閒、唯一の(?)恋愛小説なんですね。


柳検校という、盲人の琴のお師匠さんと三木さんという若い女性の物語なんですが、盲人の柳検校の脳裏に浮かぶ情景を目明きの百閒がつぶさになぞって描いていくこの筆力、うなりますね。悲しい恋の物語なんですが、百閒、渾身の一作であると思います。内田百閒は、不思議でちょっとこわい短編とか、とぼけたエッセイを書くだけの作家ではないということが、この一作からだけでも見てとれます。


本書は、作品ごとに小川洋子のキャプションがついているんですが、まぁとにかく百閒に対する小川洋子の愛がすごい!そこがまた面白いです。


とりあえず昨日、退院してきたわけですが、明日からまた、月~金まで週5回放射線治療に通う、これをあと5週続けます。それに加えて7月6日からまた抗がん剤の96時間連続点滴のため入院します。今は食道にできた癌がかなり大きくなってしまって、口から飲食物を入れることが難しく、先日、入院中に胃瘻(いろう)の手術を受けました。これはお腹に穴を開けてそこから胃にも穴を開けて、その穴から液体の栄養を注入するものです。250㏄の缶を一日に4缶入れるんですが、その缶に「コーヒー味」と書いてあるのが笑わせます。お腹からいれるんだから何味だろうが関係ないっつーの(笑)。あとで聞いたら、これは口から入れる需要もあるそうなので、多少の工夫をこらしているようです。自分は麺類が大好きなので、早くよくなって、そばやらラーメンやらを、しぶきを飛ばしながら思いっきりずるずるすすりたいと思う今日この頃です。




なんのとりえもない犬

2020-06-20 15:10:35 | や行の作家


吉田知子「そら―吉田知子選集Ⅲ」


がん治療で入院するということで、本を5~6冊持って行ったんですが、抗がん剤と放射線治療の副作用で読書どころではない状態が続き、少し苦しみました。ただ、入院直後と退院間際は、それほど体調も悪くもなく、そんな中で2冊ほど読んだので、レビューします。


本書は2014年に景文館書店より発刊されたものです。吉田知子選集全3巻のうちの「Ⅲ」です。「Ⅰ」の「脳天壊了(のうてんふぁいら)」、これにもすごい作品が目白押しなんですが、こっちの「そら」もすごい。もちろんどちらも再読です。そういえば、入院する前に「Ⅰ」も読了してたんですが、レビューを書くのを忘れてました。なので、それも合わせて書いてしまいましょう。

「Ⅰ」の「お供え」。もう何度読んだかわからないくらいなんですが、やっぱり名作ですねぇ。今まで自分が読んだすべての短編の中で、間違いなくベスト5に入ります。ほかにもいろいろあるんですが、すみません、ちょっと面倒になりました。


そして「Ⅲ」の「そら」。この作品集も名作ぞろいです。出色はやはり「ユエビ川」です。これも何度読んでもぞくりとします。一昼夜荒野を走り続けたトラックから放り投げるように荷物と共に降ろされた男、「A」が少し歩いた先にある建物に入っていく。何人かの男たちが寝泊まりしているようなのだが、そこがホテルなのか、なにかの施設なのか、明らかにされないまま物語は不穏な空気と共に進んでいきます。最後、「A」と男たちは殺し合い、「A」は生き残るのだが、迎えに来たと思い込んでいた飛行機から機銃掃射を浴び、あっけなく死んでしまうという、「え!?」という話なんですが、これが吉田知子の世界なんですね。誰にも真似できません。


自分はあと何年生きられるかわからないんですが、今は新しい小説に取り組むより、過去に読んだ自分の中の名作をもう一度味わい直すということをやっていこうかなと思っております。


前のブログではっきり書いてなかったんですが、お店は癌治療に専念するため、今月いっぱいで閉めることにしました。今、自分は店に出ていないんですが、まかせられる優秀な子がいるので、彼女にまかせているところです。こんな形で店を閉めるのは痛恨の極みではありますが、癌の治療ということであれば致し方ないです。


治療のため入院します

2020-06-06 11:35:38 | Weblog



半月ほどかけて愛知がんセンターでいろいろ検査をした結果、病名は食道がん、ステージは4、他の部位への転移は認められないとのことでした。がんの進行がかなり進んでいるので、手術することはもう困難だそうです。しかし、あきらめるのはまだ早いと言われました。抗がん剤と放射線治療でがんを小さくすることは充分可能だそうですが、完治は難しいそうです。食道がんというのは俗に進行がんと言われていて、自覚症状があった時点ではすでにかなり進んでいるというのがだいたいのケースのようです。


思えば3月の初め頃、のどに違和感を感じ始めた時には、もうすでにかなりがんに冒されていたということなんでしょうね。その一ヶ月前、地元の市民病院で健康診断を受けたときに、すでにがんの萌芽はあったと思うんですが、そこは異常なしと診断されました。でも、その時がんが見つかったとしても今の状態を回避できたかというと、やっぱり大差ないんじゃないかと思うわけです。


一時は市民病院に対して医療ミスじゃないかと憤りを覚えもしたんですが、今となってはそこでがんが発見されたとしても同じかなという思いです。


明日の日曜日から入院します。月曜日から96時間連続の抗がん剤の点滴と、合わせて放射線治療のようです。7~10日くらいでそれを終えて、一度退院し、その後、月~金まで5日連続で放射線治療に通うというのを3周連続、計15回やって、また1週間入院。このパターンを3回だか4回繰り返すようです。まぁそれで半年くらい過ぎていきますね。それが終わったあと、治療の成果を見て、その後どんな治療をしていくのか検討するそうです。


17からこの飲食業界に飛び込んで、以来46年、ずっと同じ業界で働いてきました。昨日、、それを終えて帰ってきたわけですが、よもやこんな形で自分の仕事納めをするとは思いもよりませんでしたね。非常に不本意であります。まぁこんな病気を得てしまったんですからどうしようもないんですがね。


これからはこのブログは、読んだ本の感想に加えて、自分の近況なども綴っていこうかなと思っております。また退院したら(多分)投稿します。