トシの読書日記

読書備忘録

9月のまとめ

2014-09-30 14:41:35 | Weblog
今月読んだ本は以下の通り



イーブリン・ウォー著 小林章夫訳「ご遺体」
獅子文六「わが食いしん坊」
G・ガルシア・マルケス著 木村榮一訳「コレラの時代の愛」
村田紗耶香「授乳」
河野多恵子「夢の城」
なぎら健壱「東京の江戸を遊ぶ」
辻原登「許されざる者」(上)(下)


以上の7タイトル8冊でした。今月はわりに読めましたね。今月はなんといってもマルケスですね。やっぱりすごいです。他は微妙なのもありましたが、辻原登とか河野多恵子とか、すばらしい作品にも巡り合えて充実した月でした。


話は違いますが、今年のノーベル文学賞、またまた村上春樹がどこかのブックメーカーで1位に予想されてるようです。毎年のことなので驚きませんが、村上春樹はノーベル賞はこれから先もずっと獲らないと思います。大好きな作家なんですけどね。ちょっと違うかなって感じです。




9月 買った本 0冊
   借りた本 2冊

輪唱し、連鎖する物語

2014-09-30 14:16:19 | た行の作家
辻原登「許されざる者」(上)(下)読了


文庫で二巻、計1074項に及ぶ大長編であります。いや、面白かった。まさに手練れですね。以前読んだ「約束よ」とか「家族写真」のような人間の深層心理に迫ったような作品を書いてみたり、本作のような歴史大河ドラマを書いてみたりと、ほんと、すごい作家です。


紀伊半島、熊野川の河口にある森宮という町を舞台に繰り広げられるドラマです。時は1903年といいますから明治36年の頃の話です。折しも、日露戦争勃発の時代です。主人公は医師の槇隆光。町の人々から「毒取ル先生」と呼ばれて親しまれています。それに目の覚めるような美しい姪の西千春、甥の若林勉、元、森宮の藩主を父に持つ永野忠庸、そしてその妻と、登場人物はまだまだたくさんいるんですが、彼ら、彼女らの人間模様が繊細に綴られていきます。日露戦争の場面で、森鴎外とか、田山花袋が出てくるところも興味をそそられます。


槇隆光と永野夫人が道ならぬ恋に落ち、結局は結ばれるんですが、そうなるまでのさまざまなエピソード、ドラマがまたいいんですね、これが。いしいしんじの解説がこれもまたいい。



1000項を超える長さを感じさせない、感動の大巨編でした。堪能しました。

「粋」と「小粋」の差

2014-09-21 23:19:02 | な行の作家
なぎら健壱「東京の江戸を遊ぶ」読了



ここいらでちょっと肩の凝らない本をと思って選んでみました。なぎら健壱は、今まで「日本私的フォーク大全」「東京酒場漂流記」など、何冊か読んできました。この人、わりと好きなんです。


東京に残る江戸文化を求めて下町育ちの筆者が、あちこち探索するという趣向です。自分は東京の住人ではないので、読んでもそれほど熱くはならないのですが、なぎら健壱の軽妙な語り口に乗せられて楽しく読ませてもらいました。

細やかな愛情

2014-09-19 00:53:10 | か行の作家


河野多恵子「夢の城」読了



先に少し過激な新進作家の作品を読んだので、今度は正反対に位置する作家を読んでみようと、手に取ってみました。


発行は1964年といいますから50年も前の短編集であります。表題作を含む五編の短(中)編が収載されています。



やっぱりいいですね。たまにこういう作品を読むと心が洗われる気がします。時代ということもあるんですが、夫に仕える妻が心の鬱屈を抱え、それを夫に言い出すこともできず、一人で悩み苦しむ様とか、父の娘に対する愛情の細やかさとか、そういった夫婦、家族の機微が美しい日本語で綴られていきます。いつも言いますが、文章のうまい作家はいい。


例えばこんなところ。

<今度、篤に頼まれた何より苦手な買い物を、君子が拒みかねたり、宮地に代りを頼みかねたりしたのも、その理由の理解され難さのために生じる誤解を懸念したためだったのだ。しかし、今の彼女が、山鳥の死骸への自分の拘泥りを宮地に言えないのは、もやはそのためではないのであった。逆に自分の鳥ぎらいを宮地に感知されることに羞恥を覚えるせいなのである。>(「禽鳥」より)


この君子の複雑な心境を、すっとこんな風に書き表す。白眉ですね。


かと思うとこんな文章も。

<屢々、辰子は死を夢みた。ロープで巻き緊められてゆきながら、ひっくり返される自分の体がどさりと伏すとき、あるいは最早やそこだけしか動けない片方の指先が背中で冷たくなっているのを知るとき、彼女は死後の快楽にあるのだと感じた。全く曲らなくなった体を、加納は俯伏せにおき足首から持ちあげて反らせ、力いっぱい撓わせにかかる。苦痛が全身を襲うたびに、彼女は幾つかに切断されて転がっている肉塊として、血をたらしながら声をあげた。気がつくと、自分の体がぐったりしているのは、既に縄目のせいでないことがある。いつの間にか解かれていて、太い横腕がどこまでも咽喉を締めつけてきている。彼女は、加納に与えられる死と死後の快楽を夢みて、一層われを忘れた。>(「路上」より)


これは、主人公の辰子の妄想なんですが、すごい迫力です。貞淑な妻が頭の中でこんなことを想像してるのかと思うとちょっと恐いです。


河野多恵子は、以前、「不意の声」という作品を読んだことがあるんですが、これもすごい小説だったと記憶しています。忘れてはいけない作家の一人です。


自分だけの王国

2014-09-19 00:06:08 | ま行の作家


村田紗耶香「授乳」読了



姉に「微妙」と言われて借りた本です。なんとなく聞いたことのある作家だったんですが、調べてみたら群像新人賞とか、野間文芸賞とか、三島由紀夫賞等、数々の文芸賞を受賞しているすごい作家なんですね。が、しかし、読んでみてどうなんだろうと…。


すごい小説を書いてやるんだ、という意気込みは伝わってきます。その意気は大いに買います。でもちょっと気負いすぎなんじゃないですかね。空回りしてる感じです。


表題作を含む三編が収録されているんですが、シチュエーションが一貫していて、自分だけの世界に閉じこもるという主人公が出てきます。外の世界から自らを遮断して内側の世界だけで生きていく女性。それが中学生だったり、女子大生だったりするわけなんですが、それはそれで迫力ある筆致でなかなか読ませるんですが、先に言ったように、なんか空回りしてる感じなんですね。


ちょっと偉そうなことを言いますが、もっともっといろんな本を読んで、いろんな世界を知って、自分の作品を練り上げていってほしいと思います。いいものは持ってます。


少し残念でした。

51年9ヶ月と4日待ち続けた愛

2014-09-16 22:23:46 | Weblog

G・ガルシア・マルケス著 木村榮一訳「コレラの時代の愛」読了



あちこち寄り道しながら約一ヶ月かけて単行本で502項という大長編をようやっと読み終えました。


いやぁすごい小説ですね。すごいの一言です。


主人公のフロレンティーノ・アリーサは若い時、フェルミーナ・ダーサを見初め、恋をするんですが、彼女の気まぐれからあっさりと振られてしまうんです。そして彼女はウルビーノ博士という医者と結婚し、子供を作り、孫までもうけるんですが、その間、フロレンティーノ・アリーサはずっと彼女を愛し、時が来るのを待ち続けるわけです。そしてある日、ウルビーノ博士は庭に逃げたインコを捕まえようとして、脚立から足を滑らせて転倒し、亡くなってしまいます。これを千載一遇のチャンスと見たフロレンティーノ・アリーサは、フェルミーナ・ダーサに再度愛の告白をするんですが、「二度とこの家の敷居をまたがないで下さい」と冷たくあしらわれます。


まぁそれからなんだかんだありまして、結局二人は70を越した年になって結ばれるわけです。その間の経緯がすごいですね。エピソード満載です。


一人の女性を50年以上思い続け、自分の寿命が尽きようとしていても、それを守り続けるという、現実離れした話なんですが、このマルケスの手にかかると、それが不思議とリアルに迫ってくるんですね。


途中、ちょっとだれるところもあったんですが、とにかく圧倒されっぱなしの作品でありました。マルケス、すごい!

飲み、かつ食らう文士

2014-09-10 17:42:52 | さ行の作家

獅子文六「わが食いしん坊



どうにも寄り道ばかりして困ったもんです。マルケスの長編が3分の2くらいまで進んでるんですが、単行本で携帯するにはどうにもかさばるので、いきおいこういった手軽な文庫本を持ち歩き、面白いのでそっちばかり読んで先に読了してしまうという悪循環に陥っております。


まぁ読み始めたら必ず読了してから次を読むというきまりもないのでいいんですが。


さて、ユーモア作家として、つとに有名な獅子文六であります。食に関するエッセイ集なんですが、面白いですね。なかなか慧眼の持ち主であります。ちょっと上から目線なところが気にならないでもないんですが、それでも食べ物、酒に対してのこだわりというか、執念というか、なかなかすさまじいものがあります。


若い時は肉ばかり食っていたが、年をとるにつれ魚が好きになったとか、野菜がいいとかいう記述があるんですが、自分に照らし合わせると、どうなんだろうと思います。自分は50代後半ですが、肉も大好きですね。焼肉なんかがんがんいっちゃいます。まぁ時代の違いというのもあるんでしょうね。


とまれ、軽いエッセイにしてはなかなか含蓄のある内容で楽しませてもらいました。

容赦ないブラックユーモア

2014-09-08 16:00:30 | Weblog
 
イーヴリン・ウォー著 小林章夫訳「ご遺体」読了



姉が誰か別の作家と間違えて買ったそうで、「でもなかなか面白かった」と言うので読んでみました。なかなか面白かったです。著者は1903年生まれといいますから活躍したのは元号で言うと昭和初期から30年くらいということですね。

裏表紙にあるコピーをそのまま引用します。

<英国出身でペット葬儀社勤務のデニスは、友人の葬儀の手配のためハリウッドでも評判の葬儀社「囁きの園」を訪れ、そこのコスメ係と恋に落ちる。だが彼女の上司である腕利き遺体処理師もまた、奇怪な方法で彼女の気を引いていたのだった…。>


というわけで、自分がペット葬儀社に働きながら人間の葬儀社の女性に一目ぼれするってとこがミソなんですね。作品には随所に皮肉と風刺の効いた言い回しやらセリフが出てきて、思わずニヤリとさせられます。生粋のイギリス人がアメリカという国とアメリカ人を小馬鹿にするようなところもちょいちょい出てきて、昔はそんな風だったのかと。


死をしゃれのめす…と言ったら不遜に聞こえるかもしれませんが、とにかくなかなかスパイスの効いた佳作でありました。



姉から以下の本を借りる


村田紗耶香「授乳」
村田喜代子「龍秘御天歌(りゅうひぎょてんか)」