トシの読書日記

読書備忘録

バスティーユの遺産

2018-07-24 17:23:57 | さ行の作家



マルキ・ド・サド著澁澤龍彦譯「ソドム百二十日」読了



本書は平成3年に河出文庫より発刊されたものです。初出は昭和41年とのことです。


ルイ14世治下、殺人と汚職によって莫大な私財を築き上げたブランジ公爵と三人の仲間が繰り広げる大饗宴と、裏表紙のキャッチコピーにあったのですが、その四人の中心人物と八人の、いわゆる遣り手婆あと四人の強蔵の紹介に紙数を費やし、それでこの小説はそこで終わっています。なんだかストリップの見物に来て、さあこれから、というところで踊り子が袖に引っ込んでしまったような、「え?」という感じです。


ちょっと調べてみたんですが、その先の120日に及ぶ大饗宴と、繰り広げられる痴態の数々というのは、小説の体をなしていないようなことが巻末の澁澤氏の解説にありました。


2作続けてちょっと危ない小説を読んでみたんですが、いずれも不発に終った感じで、なんだかモヤモヤしています。


残念でした。

魂の韜晦

2018-07-17 16:05:14 | ら行の作家



ポーリーヌ・レアージュ著 澁澤龍彦訳「O嬢の物語」読了



自分の敬愛する諏訪哲史の「偏愛蔵書室」の中に紹介されていた本、やっと手に取ってみました。


著者のポーリーヌ・レアージュなる人物は全く架空のものらしいです。今では当時のフランス、ガリマール書店の重鎮、ジョン・ポーランだという説が有力のようです。

まぁそれはさておき…


かなり有名な古典小説ではあったんですが、そんなにセンセーショナルな印象は受けませんでしたね。男に物のように扱われ、蹂躙され、服従することに無上の悦びを感じるという女の話なんですが、現代ではもちろん考えられないことで、まぁ昔と比べても仕方ないんですが。特にどうという印象はありませんでした。


残念です。次、もうちょっときわどいやつ、いってみます。



姉から以下の本を借りる

アントニオ・タブッキ著 須賀敦子訳「供述によるとペレイラは・・・」白水Uブックス
若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」河出書房新社
笙野頼子「幽界森娘異聞」講談社文芸文庫
つげ義春「近所の景色/無能の人」ちくま文庫
群像編集部編「群像短編名作選 2000~」講談社文芸文庫
フリオ・リャマサーレス著 木村榮一訳「狼たちの月」ヴィレッジブックス
ミハイル・シーシキン著 奈倉有里訳「手紙」
大本泉「作家のまんぷく帖」平凡社新書
カートヴォネガット・ジュニア著 伊藤典夫訳「スローターハウス5」早川書房
最果タヒ「星か獣になる季節」ちくま文庫


またたくさん貸してくれたものです。まぁ当分買う必要はなさそうです。

静謐なラーメン

2018-07-10 17:34:38 | ま行の作家



町田康「餓鬼道巡礼」読了



本書は平成29年に幻冬舎文庫より発刊されたものです。


先日、大量に本を購入した折り、勢いでこんなものも買ってしまいました。町田康のしょーもないエッセイは、何年も前に卒業したつもりだったんですが、、勢いというのは恐ろしいものです。


で、やっぱりどうでもよかったですね。どうでもいいので内容にはふれませんが、解説の平松洋子氏、ふざけているのか、はたまた大真面目なのか、なかなか面白い解説をしています。その語彙の豊富なこと。ちょっと引用してみましょうか。

<雑木林を背負って立つラーメンショップ、その名も「天願屋」を舞台に繰り広げられる「矛盾まみれのラーメンショップ」から「静謐なラーメン」まで7編、混沌の中に身を投じ、さんざん翻弄されたあげくの、一杯のてんがんラーメンとの邂逅。その過程で微に入り細をうがって描写し尽される「私」の心の動きは圧巻というほかなく、しかも孔雀の羽を一枚ずつ広げるかのように華麗かつ繊細きわまりなく、一語一文、呆けたように息を呑む。>


うまいもんです。この解説を読めたことで、まぁよしとしますか。

読み方の問題

2018-07-03 16:52:52 | か行の作家



「群像」6月号読了


月に一度掲載される中日の夕刊の「文芸時評」という、ほぼ1面を使ったコーナーがあるんですが、それに、この文芸誌に掲載されている北条裕子という新人作家の「美しい顔」というのと乗代雄介「生き方の問題」が取り上げられていて、どちらもかなり絶賛の体であってので、気になって購入してみたのでした。ちなみに評者は佐々木敦です。


まず北条裕子「美しい顔」。本作品はことしの群像新人賞を受賞しています。3・11の東日本大震災を扱った小説です。しかし、あの震災を扱った小説で、こんなにその震災に対して真正面から、まともにぶつかっていった作品ってのは今まであったんでしょうか。自分は寡聞にして知りませんが、まぁ新人ならではというところなんでしょうね。


主人公の17才の少女サナエが語り手で、7才の弟と避難所での生活を余儀なくさせられながら、行方不明のの母を探し歩き(しかしその時点で母は亡くなっていることを確信している)、そして母の遺体と対面したあと、弟と共に新しい人生を歩み始めようという、ストーリーとしてはそんな展開なんですが、作中」の「私」ことサナエの心情がずっと綴られていく中で感じたこと、以下に述べてみます。


被災した人達が暮らす避難所にマスコミのテレビカメラが入るわけですが、「私」のマスコミに対する痛烈な批判の目がまずすごいです。そして、テレビに紹介されるたびに救援物資がどんどん届くようになって、「私」は逆にマスコミを利用するようになります。「母とまだ対面できないかわいそうな少女」の役を演じながら。このあたりの裏返しの皮肉な感じ、その筆力がすごいです。


被災して何もかも失ってしまった人とそうでない人。その「そうでない人」が被災者を支援する時の「自分は関係ないけど、これだけの施しをしたんだから許されるよね」的な感覚を、これでもかというくらい暴いています。読んでいて「自分も多分にそんなところあるよなぁ」という思いもあり、非常に辛かったです。


そしてなんと、読後に知ったんですが、この著者は被災者でもなんでもなく、しかも被災地に行ったこともないと言うじゃありませんか。ほんと、びっくりしました。ということは、「そうでない人」を筆者自身も含めて断罪するくらいの気持ちで書いたんでしょうか。


とにかくすごい作品でした。これ、次の芥川賞候補になるんじゃないでしょうかね。


と、ここまで書いて、ついこの間の新聞を読んでびっくり仰天です。本作品が既刊の震災を扱ったルポルタージュの書籍の中に記載されている文章とそっくりな部分があり、それで盗作ではないかというんですね。まぁ参考文献を明示してなかったのはよくないとしても、そのルポに書かれている文章と全く同じ文章が使われているとあっては、「参考」にとどまっていないどころか、盗作と言われても仕方がないかと思います。


芥川賞のノミネートは取り消しになるにしても、群像新人賞はどうなるんでしょうか。今後の動きを見守っていきたいと思います。


そして乗代雄介「生き方の問題」。この作家、名前はなんとなく聞いたことはあったんですが、作品を読むのは初めてでした。


2才年上の従姉妹へ宛てた手紙というスタイルで小説は進んでいくんですが、この作家、うまいですね。子供の頃からの親戚づきあいを経て、24才になった「僕」が「会いに来てほしい」と従姉妹に請われるままに行った、その顛末が書簡形式で綴られていきます。


まぁ内容としては自分はどうということもない感想を持ちましたが、プロットの組み立てといい、作中のいろんな場面での言い回しといい、なかなかの使い手であるなと。


「群像」という文芸誌にふさわしい作品であると、思いましたね。

6月のまとめ

2018-07-03 16:45:40 | Weblog



6月に読んだ本は以下の通り


幸田文「おとうと」
吉田知子「日本難民」
フランツ・カフカ著 辻ヒカル訳「審判」


以上の3冊でした。どの作品も読むことに意義があったと思います。幸田文、吉田知子、全く違う二人ですが、どちらもいいですねぇ。カフカはいずれもう少し掘り下げてみたいと思っております。


お店の方は努力のかいあって、アルバイトも少し増え、なんとか普通に営業できるようになりました。7月あたりからはもう少し本も読めるかも知れません。あとは売上を上げるだけです。これがまぁ一番難しいんですがね。



6月買った本 16冊
  借りた本 0冊