日本文藝家協会編「現代小説クロニクル1975➧1979」読了
本書は講談社文芸文庫より平成26年に発刊されたものです。
1975年から2014年までの39年を5年ごとに区切って、その期間に発表された中・短編の中から文藝家協会のお歴々が厳選した作品を掲載しているとのことです。本書はそのシリーズ第一巻であります。
全部で7編の作品が収められているんですが、そのうち4編はすでに読んだことがあるもので、富岡多惠子の未読の短編が気になって買ったのでした。「幸福」と題されたその作品は、わずか18頁という短さの短編集なんですが、いかにも富岡多惠子らしい、独特の味わいのあるものでした。
他に中上健次「岬」、田中小実昌「ポロポロ」、開高健「玉、砕ける」を再読できたのも自分なりの収穫でした。
また、三田誠広「僕って何」という中編も収録されているんですが、小難しい観念的な小説と勝手に思い込んでいて、どうなんだろと思って読み始めたらなんのことはない、すらすらと読めてしまいました。田舎の高校を卒業して東京の大学に入学したのはいいんですが、折からの学生運動に巻き込まれ、右往左往するお坊ちゃん、とまぁ簡単に言うとそんな物語なんですが、はっきり言ってあまり心に残りませんでした。ちなみに本作品は1977年に芥川賞を受賞しています。
と、これをネットで調べていたらなんと、三田さんは日本文藝家協会の副理事長をされているんですね。それで本書全体の4割ものスペースを使ってこの作品を掲載している、というのもうなずけます。なんだか少し後味悪いですがね。