トシの読書日記

読書備忘録

絶望の形而上学

2018-06-26 18:16:42 | か行の作家



フランツ・カフカ著 辻ヒカル(変換できず)訳「審判」読了



本書は昭和41年に岩波文庫より発刊されたものです。カフカの代表作と言われている長編です。


本作品を読んでまず思うのは、理不尽、不条理という言葉が頭の中をよぎるんですが、どうしても滑稽な感じがつきまとってしまうのは何故なんでしょうか。「変身」しかり、「流刑地にて」しかりです。目的のための手段に拘泥するあまり、本末転倒になってしまうというのもあると思います。


カフカは、むしろそこをねらっているのかもしれません。


主人公のヨーゼフ・Kは、ある日突然逮捕されて裁判にかけられるわけですが、何故自分が裁判にかけられるのか、そこが一番知りたいところなんでしょうが、「K」はそこにはあまりこだわらないんですね。ここも不思議でした。そして裁判所のいいかげんさにも驚きました。


カフカを何冊か読んできましたが、なんというか、カフカの本質に今ひとつ迫れない自分にもどかしい思いをしております。まぁ自分にカフカのなんたるかを理解する力がないということなんでしょうが。

いずれ、「城」を読んでみようと思います。

非日常へ逃れる

2018-06-19 17:49:12 | や行の作家



吉田知子「日本難民」読了



本書は平成15年に新潮社より発刊されたものです。先日、名古屋、栄のジュンク堂、丸善と本を買いに行ったんですが、本書は見当たらなかったので、ネットで買いました。


戦争が始まり、「連合軍」が日本に攻めてきて、東京はもう危ないということで、人々は山へ海へ逃げていきます。50代半ばとおぼしき主婦の視点で描かれたこの小説は、やはり吉田知子のテイストはあるものの、ちょっと物足りない作品というのが自分の感想です。


深い山の中の閉鎖した温泉宿に自分と夫と隣りに住む男と3人で逃げ込んできた彼らは、何人かの人達と非日常の中で日常的な日々を過ごします。しかし、そこも危ないということで、またそこから逃げ出すわけですが、そのあたりの様子がいかにも吉田知子的なシニカルな描き方で、そこは面白かったです。


アマゾンの本書のレビューで、なぜ戦争になったのか、何の説明もないし、結末もただなんとなくという感じで終わってて、つまらなかったというのがありましたが、この方は吉田知子は読まなくてもいいですね。この恐ろしいものに追いかけられて、右往左往、逃げまどうこのシチュエーションを楽しめばいいのであって、戦争が起こった理由なんかどうでもいいんです。


吉田知子の面白さを理解できない、残念な人でありました。


もう一冊、吉田知子の本をネットで注文してあるので、こちらを楽しみにして待つことにします。


生きることの寂しさ

2018-06-12 17:15:44 | か行の作家



幸田文「おとうと」読了



本書は昭和43年に新潮文庫より発刊されたものです。自分は当時小学生でした。「流れる」「黒い裾」等、その独特の文体で読む者を魅了する、幸田文の長編小説です。


しかし、本作品は、あの「流れる」のようないわゆるパキパキした文体とはまた一味違った感じで、なんというか、姉の弟を思う心情の描写がなんとも細やかで情感にあふれ、これはこれでまたいいですねぇ。


姉、げん、弟、碧郎。父は高名な文筆家で、悪意はないのだが、子供に対する挙動が冷たい継母。この一家四人の話なんですが、姉のげんの目線で物語は語られていきます。


不良グループに入って万引きをしたり、ビリヤードに凝って父からお金を借りてばかりいる弟の碧郎に、姉のげんは不満を抱いたり、弟なのに自分より年上の大人の男のように感じて驚いてみたりと様々な感情を読む者に見せます。


そしてある日碧郎は結核にかかって入院します。ここから話の流れは大きく変わっていくわけですが、この、姉の弟に対する看病の健気さに思わずほろりとさせられます。約一年の闘病ののち、碧郎は若くして亡くなってしまうのですが、そのシーン、ちょっと引用します。

<「御臨終です。お悼み申し上げます。四時十分でした。」
こんな、そぼんとした、これが臨終だろうか。死だろうか。見るとみんなが立っていて、母だけに椅子が与えられていた。父は合掌し、母は祈りの姿勢をしてい、誰も動かず、ざわめきもあり、しんともしていた。これが死なのだろうか、こんな手軽なことで。>

万感迫ったようなお涙ちょうだいの文章にしないところがさすが幸田文です。実に上手い。


こんな幸田文もいいですね。



5月のまとめ

2018-06-07 00:52:24 | Weblog



5月に読んだ本は以下の通り


町田康「権現の踊り子」
G・ガルシア・マルケス著 木村榮一訳「迷宮の将軍」
中村文則「何もかも憂鬱な夜に」


以上の3冊でした。5月は最初にG・Wがあったり、あと何やかやありましてなかなか読書が進みませんでした。しかも町田康は再読だし、「迷宮の将軍」は今ひとつだったし、「何もかも憂鬱な夜に」もちょっとどうかなと…。久々に実り少ない月でありました。残念。



久しぶりに名古屋市内のジュンク堂と丸善へ行き、以下の本を購入


松浦寿輝「名誉と恍惚」新潮社
金井美恵子「『スタア誕生』」文藝春秋
奥泉光「雪の階(きざはし)」中央公論新社
多和田葉子「容疑者の夜行列車」青土社
月刊「群像6月号」講談社
大江健三郎「見るまえに跳べ」新潮文庫
坂口安吾「勝負師」中公文庫
田山花袋「田舎教師」岩波文庫
町田康「餓鬼道巡行」幻冬舎文庫
パトリック・ジュースキント著 池内紀訳「香水―ある人殺しの物語」文春文庫
マルキ・ド・サド著 澁澤龍彦譚「ソドム百二十日」河出文庫
ポーリーヌ・レアージュ著 澁澤龍彦訳「O嬢の物語」河出文庫
澁澤龍彦「少女コレクション序説」中公文庫
深沢七郎「みちのくの人形たち」中公文庫


なんと14冊も買ってしまいました。また、書店になかった以下の本をネットで購入


吉田知子「日本難民」新潮社
吉田知子「天地玄黄」新潮社



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