トシの読書日記

読書備忘録

とめどなく洩れ、流れる言葉

2012-04-25 16:43:00 | あ行の作家
伊藤比呂美「ラニーニャ」読了



ずっと以前から読みたいと思っていた小説で、ブックオフのネットで見つけて購入したのでした。読み終えてまず思ったのは、そんなに期待したほどでもなかったなという思い。


いや、面白いんです。文体も独特だし、主人公の「あたし」にぐいぐい引き込まれてしまうんですが、ちょっとくどいというか、最後の方は義理でつき合っている感じでした。


「ハウス・プラント」「ラニーニャ」の2編からなる作品なんですが、どちらも延々と続く「あたし」のモノローグであります。もちろん、「あたし」は筆者自身であると思われます。




アメリカのカリフォルニア南部での、夫であるアーロンと娘のあい子とグミの生活。アーロンは、股関節を患って車椅子の生活。あい子は過食症と拒食症を繰り返す。家の中には羽虫が飛び交い、庭にはユーカリの木が恐ろしいくらいの勢いで繁殖している…。


全体に不毛な空気が漂ってはいるんですが、「あたし」はそれにめげないというか、あっけらかんとしているんですね。そこは面白かったんですが、この「あたし」の延々と続く話を聞いていると、だんだんうんざりした気分になってくるのも否めません。


まぁ伊藤比呂美らしいといえばそうなんですがね。


そんな感じです。

死ぬまで生き続けることの意味

2012-04-25 16:27:43 | あ行の作家
小川内初枝「緊縛」読了



姉が貸してくれた本です。著者については、全く知らなかったんですが、一読、独特の世界が広がる作品で、「生きる」ことの意味を考えさせる佳作でした。


主人公の水木美緒は32才、一人暮らしのOL。不倫相手の利明と2年以上関係を続け、また、同級生の土井ともつき合っている。働くことに全く意義を見出せず、また、生きていくことにすら意欲を失う毎日。そして、学生時代からの友人、ユカが突然自殺したことを知り、生きることの無意味さをさらに募らせる。


最後のシーン、姉の家へ行った美緒は、3才の姪を毛糸で縛り上げ、死の直前へ至らしめる。今まで、セックスで縛られることに喜びを見出していた美緒が、逆に子供を縛ることに喜びを覚える。


これは、生きることに倦んでいた主人公が、唯一、能動的に動くことで、自己の主体性を回復させるメタファーととっても良いのではと思われます。


この先、主人公の美緒は、自分が社会や世間から隔離されてしまっていても、決然と生きていく覚悟を暗示しているというところで話は終わっています。


なかなか面白い小説でした。

悲哀の殼

2012-04-17 17:45:30 | あ行の作家
大江健三郎「取り替え子」(チェンジリング)読了



いよいよ大江健三郎、三部作の大きな海に漕ぎ出しました。伊丹十三へのオマージュとも受け取れる作品でありました。


物語は、主人公である長江古義人(ちょうこう・こぎと=大江健三郎)、その幼馴染の塙吾良(はなわ・ごろう=伊丹十三)、そして古義人の妻であり、吾良の妹でもある千樫(ちかし)、この三人を中心に進んでいきます。


冒頭、古義人が朝、寝ているところへ妻の千樫が起こしにやってきて、吾良が飛び降り自殺を図り、亡くなったと告げるところから話はいきなり始まります。そして吾良との回想にかなりの紙数が費やされます。


この小説は、三部作というだけあって、これ一冊で話が完結していないので、まだ感想をどうこう言える感じではありません。


しかし、伊丹十三が墜落死したことや、映画監督であったことなど、この作品はかなり事実に忠実に描いています。回想シーンでの数々のエピソードも相当リアルに近いのではと思わせます。


次作の「憂い顔の童子」楽しみです。




姉に以下の本を借りる


安部ヨリミ「スフィンクスは笑う」

あの安部公房の母が、生涯でただ一つ遺した作品とのことです。

読むこと──生きること

2012-04-10 14:34:42 | あ行の作家
大江健三郎「読む人間」読了



1ヶ月近くかけて少しづつ読み継いで、今日、やっと読了しました。大江健三郎が、池袋のジュンク堂本店で講演したものをまとめたものです。大江が今までどんな本を読んできたのか、また、それによってどんな触発を受け、どんなふうに自分の人生に反映させてきたかを語ったものです。


当たり前のことですが、やっぱり自分のような本読みとはレベルが全然違うなというのが最初の印象です。ただ、思ったのは、大江健三郎が若いころ読んで感銘を受けたものは、小説ではなく詩がそのほとんどであったというのが意外でした。ウィリアム・ブレイクしかり、T・S・エリオットしかり、また伊東静雄しかり。自分も伊東静雄の詩集を読んでみようとネットで調べたんですが、絶版ばかりでないんですねぇ。残念です。


また、大江健三郎の小説の三部作、「取り替え子」「憂い顔の童子」「さようなら、私の本よ!」についてもふれていて、これらの小説が、大江健三郎の義兄である伊丹十三を強くリスペクトして書かれたものであるというところに、はっとしました。塙吾郎という人物が伊丹十三をモデルにしているというのは知ってはいたんですが、そこまで強い思いがあったのかと、今さらながら感じ入った次第です。


そこで、そういったことを踏まえて、もう一回この三部作を読み直してみようと思い立ち、今、「取り替え子」を再読中であります。


本書を読んで感じたのは、やはり大江健三郎のような理知的でピュアな文学者と関わっていないと自分が磨けないということであります。これからも大江のエッセイはちょいちょい読まなきゃという思いを強くしました。

3月のまとめ

2012-04-04 16:59:40 | Weblog
3月に読んだ本は以下の通り



中島義道「人生に生きる価値はない」
西川美和「ゆれる」
吉本ばなな「とかげ」


以上、たったの3冊でした。3月もキャンペーンで多忙を極め、おちおち読書もできませんでした。3月の売上が、前年同月比なんと145%というとんでもない数字となりました。ただ、かなり元手がかかってるんで、素直に喜べないんですが。


それはともかく、またゆっくり読書をする時間を取り戻したいと切に願う今日このごろであります。




読む時間がないにもかかわらず、ネットで以下の本を注文


平田俊子「二人乗り」
伊藤比呂美「ラニーニャ」