トシの読書日記

読書備忘録

一月のまとめ

2017-01-31 16:04:12 | Weblog



今月読んだ本は以下の通り


野呂邦暢「諫早菖蒲日記」
アルフレッド・ジャリ著 澁澤龍彦訳「超男性」
久生十蘭著 川崎賢子編「久生十蘭短篇選」
G・ガルシア・マルケス著 木村榮一訳「わが悲しき娼婦たちの思い出」
小川洋子「ことり」
山下澄人「壁抜けの谷」


以上の6冊でした。今月もおおむね面白い本が多く、楽しめました。小川洋子にはがっかりさせられましたが。最後の山下澄人には考えさせられました。この方は劇団をやってる方らしいんですが、まぁそういう人が書きそうな小説ですね。昔、岡田なんとかっていう劇団をやってる人の、やっぱりこんなような観念的な小説を読んだおぼえがあります。(タイトル失念 僕たちに残された…なんとかといったような)


閑話休題 村上春樹の長編が2月に出版されるらしいですね。今から楽しみです。



1月 買った本 2冊
   借りた本 2冊

他者とのかかわり方 自己とのかかわり方

2017-01-31 15:28:18 | や行の作家



山下澄人「壁抜けの谷」読了



本書は平成28年に中央公論新社より発刊されたものです。


中日新聞夕刊の「大波小波」で本作家のことが書いてあり、興味がわいてネットの書評で調べて、一番山下澄人らしいものをと思い、本書を選んでみました。


一読、これはどうなんでしょうねぇ。評価は分かれると思います。自分は面白かったですがね。「しんせかい」という作品で第156回芥川賞を受賞しているんですが、これは山下らしくないとのこと。


全てがあいまい、あやふやで、現実のことなのか、夢の話なのか、過去のことを思い出しているのか、今現在の話なのか、もうとにかくわけがわかりません。主人公も最初は「ぼく」だったのが知らないうちに「わたし」になってるし、しかも「わたし」が女性になったり男性になったりと、本当の主人公は誰やねん!と突っ込みを入れたくなります。


人とのかかわり方、距離のとり方ということを考えさせられました。そうやって考えていくと、この小説はなかなかむつかしいです。今までの自分の読書の中では、こんな小説は初めてでした。


いい体験をさせてもらいました。いや面白かった。

小鳥の歌は愛の歌

2017-01-31 15:11:04 | あ行の作家


小川洋子「ことり」読了



本書は平成28年に朝日文庫より発刊されたものです。


姉から本書を渡されたときはちょっと驚きました。まだ小川洋子を読んでいるのかと。正直言いまして、最近の小川洋子にはあまり魅力を感じません。最後に読んだのは「猫を抱いて象と泳ぐ」だったか。これもあまり感心した出来映えではなかったように記憶しております。(ちょっとエラそうですが)


小鳥をめぐる兄と弟の物語です。優しくて、切なく、心にしみるお話です。と言えばいいんでしょうが、こんな小川洋子は、もう自分は見限りましたね。初期の頃の「ホテル・アイリス」「完璧な病室」のような切れ味鋭い不穏な色濃い小説は、もう望むべくもないんでしょうね。


作家、作品共に大変残念です。

古い年の死と新しい年の始まり

2017-01-24 16:18:49 | ま行の作家



G・ガルシア・マルケス著 木村榮一訳「わが悲しき娼婦たちの思い出」読了


本書は新潮社より平成18年に発刊されたものです。ずっと以前に姉から借りていて、ようやく読みました。2年前くらいだったか、姉も自分も「マルケスブーム」の時期がありまして、会えばマルケスの話をしていたんですが、そのブームの終わりごろに本書を貸してくれて、自分はその頃は、もう他の作家に興味が移っていて、忘れられた1冊となっていました。


しかし、今読んでみて、やっぱり面白いですね、マルケス。


小説の始まりのところに川端康成の「眠れる美女」の一節が引いてあるんですが、。ここにまずびっくりしましたね。マルケスと川端康成、全く作風の違う作家だと自分は思っているんですが、こうして川端の作品の一節を自分の小説のの冒頭に引くということは、マルケスは川端をリスペクトしている、ということなんでしょうか。ま、それはさておき。


90才の誕生日を迎えた男が14才の娼婦に恋い焦がれるという、そんな話なんですが、このマルケス独特の語り口、健在です。本書はもう11年前の作品で、調べてみるとその後、新作は発表されていないようなので、本作品が最新刊ということになると思います。ちなみにマルケスは3年前に87才で死去しております。


マルケスの多くの作品に共通しているんですが、色々なものが過剰なまでに横溢していて、それが南米の暑苦しい気候と相まって、まぁとにかく川端康成の世界など微塵も感じさせません。そこが面白いんですがね。



とにかく楽しめました。マルケス、面白いです。



姉に以下の本を借りる

川上弘美「このあたりの人たち」 スイッチ・パブリッシング
小川洋子「ことり」 朝日文庫


また、ネットで以下の本を購入

山下澄人「壁抜けの谷」 中央公論新社
森敦「月山/鳥海山」 文春文庫

美の底にある輝き

2017-01-24 16:17:15 | は行の作家


久生十蘭著 川崎賢子編「久生十蘭短篇選」読了


先週はいろいろとごたごたありまして、更新することができませんでした。失礼しました。


本書は平成21年に岩波文庫より発刊されたものです。全部で15の短編が収録されています。ずっと前に本作家の「十蘭レトリカ」を読んだとき、並々ならぬ筆力に圧倒された覚えがあるんですが、この短編集も、それに負けず劣らず久生十蘭の魅力がいかんなく発揮されています。


作品は、昭和21年から32年くらいの間に文芸誌に発表されたものが掲載されていますが、やはり戦争の影が色濃く映し出されているものが多いです。



それはともかく、ほんと、うまいですねぇ。洒脱という言葉がよく似合います。



一番最後の「春雪」という作品に特にひかれました。戦争末期、フランス系カナダ人の捕虜と日本人の娘との秘密の恋。この作品が執筆された昭和24年は、日本がまだGHQの支配下にあった時代で、それを考えると、作品の内容はもちろん、それを書いて発表することも相当苦労があったのではと推察されます。とにかくよくできた一遍でした。


巷ではジュラニアンという言葉があるそうです。要するに村上春樹のハルキストと同じことなんですが、それとちょっと意味合いが違うのは、十蘭の小説家としての技量を理解するには、それに応じた素養がなければジュラニアンと名乗る資格はないということなんだそうです。自分はもちろんそんな資格はありませんが…。


久生十蘭、機会があればまた別の作品も読んでみたいです。

神は無限小である。

2017-01-10 18:10:14 | さ行の作家



アルフレッド・ジャリ著 澁澤龍彦訳「超男性」読了



本書は平成元年に白水Uブックスから発刊されたものです。ジャリが本書を執筆したのは1902年、明治35年の年です。


超難解なことこの上ない小説でした。むつかしい言い回しとか、そういったものはないんですが、著者はこの作品で、何を表したいのかがうまく理解できません。自転車と列車の競争にしても、主人公のアンドレ・マルクイユがエレンなる女性と連続で何回性交できるかという実験(?)にしても、それが何を意味するのか、解説を読んでもよくわかりませんでした。


まぁ、知っている人は知っている、有名な作家らしいんですが、自分には歯が立ちませんでした。有名な古典を読んだってことでよしとしますか。



残念でした。

風にゆれる菖蒲の花

2017-01-10 17:53:29 | な行の作家



野呂邦暢「諫早菖蒲日記」読了



本書は平成22年に梓書院より刊行されたものです。


幕末の諫早藩の砲術指南役、藤原作平太。その家族は妻(名前失念)、娘、志津、下男、吉、下女、とら で構成されています。


佐賀藩から碌を減らされ、内情の苦しい台所を切り回す母を見つめる志津の眼差しがいいですね。そして会社でいうと中間管理職の役どころのような父親の苦しい立場を子供なりに理解する志津。作平太は長年の砲術の試し打ちで、耳を悪くしていて、要人と会って話をするときは、必ず志津を通訳代わりに連れて行くため、志津は自ずと藩の内情に詳しくなるわけです。


この小説がいいのは、作平太の娘、志津の視点で描かれていることで、これが自分の苦手な歴史小説の重苦しさを和らげてくれています。こんな歴史小説は野呂邦暢でないと書けないですね。面白かった。


そしてこれが先日読んだ「花火」へとつながっていくわけです。諫早菖蒲日記の15才の志津は、「花火」では15才の娘、むめを連れています。読書が後先になってしまいましたが、この、志津からむめへと流れる時間を考えると、なんともいえない気持ちになります。


野呂邦暢、やっぱりいいですね。堪能しました。

2016年を総括

2017-01-10 17:26:02 | Weblog


2016年を振り返って、まずはベスト20です



❶ 吉田知子「無明長夜」
❷ 松浦寿輝「巴」
❸ ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳「低地」
❹ ブライアン・エヴンソン著 柴田元幸訳「遁走状態」
❺ 松浦寿輝「不可能」
❻ J・Mクッツェー著 くぼたのぞみ訳「マイケル・K」
❼ エイモス・チュツオーラ著 土屋哲訳「薬草まじない」
❽ 野呂邦暢「草のつるぎ/一滴の夏」」
❾ J・Mクッツェー著 鴻巣友季子訳「遅い男」
➓ 松浦寿輝「そこでゆっくりと死んでいきたい気持ちをそそる場所」
⓫ 中島義道「差別感情の哲学」 
⓬ アゴタ・クリストフ著 堀茂樹訳「ふたりの証拠」
⓭ アゴタ・クリストフ著 堀茂樹訳「第三の噓」
⓮ 金井美恵子「軽いめまい」
⓯ 奥泉光「虫樹音楽集」
⓰ 吉田健一「金沢/酒宴」
⓱ ニコルソン・ベイカー著 岸本佐知子訳「フェルマータ」
⓲ J・Mクッツェー著 鴻巣友季子訳「恥辱」
⓳ 金井美恵子「文章教室」
⓴ 筒井康隆「モナドの領域」



というような結果になりました。2016年も素晴らしい本にたくさん出合うことができました。吉田知子の「無明長夜」、とにかくすごい作品でした。(ほぼ)デビュー作で最高のものが書けるという、稀有な作家です。また去年は松浦寿輝の作品もたくさん読みました。この作家の巧みな筆さばきを改めて感じ入りました。それから、クッツェーですね。このちょっとへそ曲がりなノーベル賞作家に出会えたことも大きな収穫でした。


ほかにもアゴタ・クリストフ、野呂邦暢等、上げればキリがないんですが、まぁとにかく面白い本をたくさん読むことができました。


さぁ、今年はどんな本に出会うことができますでしょうか。特に誰を読もうとかそんな計画もないので、行き当たりばったり、好きなようにやっていきたいと思っております。今年もどうぞよろしくお願いいたします。




2016年 読んだ本 79冊(前年比144%)
      買った本 52冊(前年比650%)
      借りた本 15冊(前年比100%)

12月のまとめ

2017-01-10 15:17:38 | Weblog



明けましておめでとうございます。久々の更新となりました。まずは12月のまとめです。


12月に読んだ本は以下の通り


多和田葉子「聖女伝説」
ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳「低地」
宮沢章夫「よくわからないねじ」


以上の3冊でした。ジュンパ・ラヒリ、よかったなぁ。ほんと、いい作家です。


多和田葉子にはいつも悩まされます。いずれまた機会をみて再挑戦してみます。



12月 買った本 1冊
    借りた本 5冊