トシの読書日記

読書備忘録

超リスペクト!

2018-03-27 16:33:50 | あ行の作家



内田百閒「私の『漱石』と『龍之介』」読了


本書は平成5年にちくま文庫より発刊されたものです。内田百閒の夏目漱石と芥川龍之介にまつわる思い出を綴ったエッセイ集です。


本書を読むと、百閒の漱石を敬愛して止まない姿が鮮明に見えます。百閒が漱石をこれほどリスペクトしていたとは、恥かしながら存じ上げておりませんでした。


「木曜会」と称して、百閒をはじめ漱石の門弟が集まり、談論風発する様子が臨場感あふれる筆致で描かれています。ここから「吾輩は猫である」が生まれたんですね。


生活に困窮した百閒は、金の無心をするために漱石邸を訪れると、湯河原へ療養に行っていて留守だという。ならばと片道の汽車賃だけかき集めて湯河原へ行き、借金の申し込みをするわけですが、漱石は一言、「いいよ」と承諾するエピソード、泣かせますねぇ。いい話です。しかし、これだけ百閒に慕われていた漱石、幸せ者ですね。


本書は漱石に関する部分にかなりの頁を割いており。芥川龍之介に関する記述はかなり少ないんですが、そこに芥川の意外な一面がうかがい知れるエピソードがいくつかあり、なかなか面白かったです。芥川龍之介は、神経衰弱とかノイローゼとかのあげくに自死してしまって、暗いイメージがつきまとうんですが、意外とおっちょこちょいです。そこが笑えました。


もう一冊、内田百閒の未読本があるので、つぎも百閒先生、いってみます。



姉から以下の本を借りる

イザベラ・バード著 高梨健吉訳「日本奥地紀行」平凡社ライブラリー



また、ネットで以下の本を購入

小山田浩子「庭」新潮社




下町生まれの矜持と含羞

2018-03-20 17:42:41 | や行の作家



吉村昭「味を追う旅」読了



本書は平成25年に河出文庫より発刊されたものです。


北は北海道から南は九州・沖縄まで、著者が取材や資料集めに訪れた地の食のエッセイであります。姉が貸してくれたものですが、姉はこの手のものが好きですねぇ。まぁ人の事は言えませんが。


読んで楽しいエッセイですが、どうというところもなく、特に感想もありません。ただ、ひとつ気になるのは、著者は自分が「食通ではない」と本書のあちこちで言っているんですが、なかなかどうして、結構うるさい感じです。食通が「自分は食通ではないから」と言うのはお約束と思うのは、自分のひねくれた見方なんでしょうかね。



とまれ、なかなか味のあるエッセイではありました。

咳をしても一人

2018-03-13 17:43:08 | わ行の作家



渡辺利夫「放哉と山頭火―死を生きる」読了



本書は平成27年にちくま文庫より発刊されたものです。


放哉、山頭火の句は、以前何かの折りに読み、このブログにもレビューを書いたことがありますが、本書はこの二人の凄絶な半生を綴った評伝であります。


東京帝国大学を卒業後、東洋生命保険株式会社に入社し、エリート社員として将来を嘱望された放哉だったが、その後アルコール依存症に陥り、また、肋膜炎を発症して坂道を転げ落ちるようにして会社を辞め、西田天香の主宰する一燈園に入所する。このあたりから放哉の並々ならぬ句才ぶりが発揮されるわけです。


印象に残った句をいくつか書き出してみます。


晴れつゞけばコスモスの花に血の気無く

妻を𠮟る無理と知りつゝ淋しく

つくづく淋しい我が影よ動かして見る

一日物云はず蝶の影さす

たつた一人になり切つて夕空

畳を歩く雀の足音を知つて居る

春の山のうしろから烟が出だした



最後に掲げた句は、放哉、死ぬる直前に発した句です。全ての執着を捨て、自然に帰る放哉の心中を思うと心がふるえます。

そして、このレビューのタイトルにもした、あまりにも有名な一句。一人の男が抱える淋しさと悲しさが、一切の修辞を排したこの句に集約されています。



種田山頭火も生きることの孤独と悲哀を山頭火自身の生き方と、そして自由律俳句という形で表した一人です。


自分がこれはと思った山頭火の句を以下に列挙します。


またあふまじき弟にわかれ泥濘ありく

この旅、果てもない旅のつくつくぼうし

波音遠くなり近くなり余命いくばくぞ

何でこんなに淋しい風ふく

何を求める風の中ゆく

いつまで死ねないからだの爪をきる

うしろすがたのしぐれてゆくか


最期の句は、山頭火の句としてはかなり有名なんですが、本書を読んでその意味を知りました。その部分、引用します。

<一人歩く自分は、さて果たして本当の自分なのか、この自分を後方から冷ややかにみつめるもう一つの自分の方が実在のようにも思える。>


放哉も山頭火も共通しているのは酒に溺れて転落していった人生ということなんですが、なんというか、自制がきかないんでしょうね。山頭火なんかは、女房、子供がいながら何も言わずにぷいと旅に出てしまう。そして家庭の暖かさが恋しくなり、また家へ戻る。しかし三月もしないうちにまた放浪の旅に出るという、自己中のかたまりのような男です。


社会で生活していくという枠の概念がないんですね。まぁこれをすごいと言うか、ダメ男と言うか、賛否の分かれるところだとは思いますが。


しかし、社会の中で生活している自分達にも放哉、山頭火を抱え持っていると思います。だからこそ、この二人の句に心打たれ、シンパシーを感じるんだと思います。


著者の渡辺利夫氏、全く存じ上げない方なんですが、うまいですねぇ。ぐいぐい引き込まれて一気に読んでしまいました。もちろんその折々に載っている句を味わいつつ。

あり得ないはずの男と女の友情

2018-03-06 17:37:25 | ま行の作家



松浦理英子「奇貨」読了



本書は平成27年に新潮文庫より発刊されたものです。


続いて読んでみました。松浦理英子のレズビアン物。読む前に裏表紙のキャプションを読んでみたら、あ、またレズビアンかと思ったんですが、本書はまた、ちょっとひねってあります。


小説家のさえない中年男、その男と同居するレズビアンの30代半ばの女性の物語であります。なかなか面白く書けてはいるんですが、ちょっとうんざりしてきました。男女を問わず、人と人とのおかしくも悲しい人間関係についてこの二人に語らせたり行動させたりしているわけですが、なかなかにしつこい。「もういいから」と心中つぶやきながら読み終えました。


松浦理英子、まだ2冊くらいあるんですが(しかも単行本)、もういいかな。