トシの読書日記

読書備忘録

10月のまとめ

2017-10-31 18:10:45 | Weblog



今月読んだ本は以下のとおり


夢野久作「ドグラ・マグラ」(上)(下)
諏訪哲史「岩塩の女王」
丸谷才一「彼方へ」
平松洋子「買えない味」


以上の4タイトル5冊でした。今月はいつもの月よりちょっとだけ多く読めました。諏訪哲史の久々の作品集、堪能しました。やっぱいいわこの人。また「ドグラ・マグラ」には手こずりました。まさに奇書です。


閑話休題 
たまっていく一方で収拾がつかなくなってきた本を整理して、いらないものは処分しようと思い立ち、休みの日ごとに少しづつ進めてきたんですが、今日やっと、とっておく本は、あいうえお順に書棚に並べ直し、処分する本を段ボールに積み終えました。ざっと数えてみたら、本は全部で約1000冊、この内、単行本を50冊、文庫を170冊、計220冊を処分しました。

さてさて、いったい幾らくらいになるのやら、いつものバーで一杯飲めますかな。



10月 買った本 0冊
   借りた本 9冊

洒脱な暮らし

2017-10-31 17:03:14 | は行の作家



平松洋子「買えない味」読了



本書は平成22年にちくま文庫より発刊されたものです。


先日、仕事場に本を持って行くのを忘れ、休憩時間に読む本がないのであわてて近くの本屋に走り、「まぁこれでいいか」と本書を購入したのでした。


雑誌「Dancyu」に連載されていたものを1冊にまとめたとのことですが、平松洋子の文章の切れ味、相変わらず冴えてます。


中でも「冷やごはん」のおいしさについて語るところ、目からウロコの思いで読みました。ご飯は炊き立ての熱いのに限ると思い込んでいた自分に鉄槌を下されたような気分です。ちょっと大げさですが。


ちなみに本書は第16回ドゥマゴ文学賞を受賞しているそうです。


平松洋子のエッセイ、時々読みたくなりますね。




姉から以下の本を借りる

笙野頼子「金毘羅」河出文庫
吉村昭「味を追う旅」河出文庫
安西水丸「東京エレジー」ちくま文庫
フリオ・リャマサーレス著 木村榮一訳「黄色い雨」河出文庫
池波正太郎「映画を食べる」河出文庫
倉橋由美子「完本 酔郷譚」河出文庫
フランツ・カフカ著 辻 瑆(ひかる)訳「審判」 岩波文庫
アーネスト・ヘミングウェイ著 小川高義訳「老人と海」光文社文庫
篠田博之「増補版 ドキュメント死刑囚」ちくま文庫

死と結婚

2017-10-31 16:31:37 | ま行の作家



丸谷才一「彼方へ」読了



 本書は昭和48年に河出書房より発刊されたものです。初出は昭和37年の「文藝」誌といいますから、先に読んだ「エホバの顔を避けて」に続く作品と思います。


丸谷才一らしい、軽妙洒脱な展開で、それでいてテーマは「死」という重いものを扱う、そのコントラストがなかなか読ませました。


しかし、こんなことを自分が言うのはおこがましいんですが、いかにも若書きという印象は否めません。昔の人たちは死んだあとは天国へ行くか地獄に落ちると言ったが、今は死んだらそれで終わり、天国も地獄もないんだよねみたいな会話がそこここにあって、その単純な構図に「若さ」というものを感じてしまうわけです。


とまれ、こういった作品がのちの「笹まくら」「横しぐれ」等の傑作につながっていく素養になったのかと思うと、やはり感慨深いものがあります。読んでおいてよかったと思わせる長編でありました。

瓦解し去った言葉の音

2017-10-24 16:01:41 | Weblog



諏訪哲史「岩塩の女王」読了



実は本書を読む前に、ボードレール「悪の華」、富岡多惠子「湖の南」を読みかけ、そして両方とも途中で挫折しました。「悪の華」は、それまでの詩の概念を大きく変えたという有名な詩集なんですが、やはり自分は詩は難しいですね。どう味わっていいのか、よくわからないんです。


また、「湖の南」は、自分のリスペクトする作家の一人、富岡多惠子の小説なんですが、ちょっと厳しかったです。明治24年、ロシアのニコライ皇太子が滋賀県の大津にやって来た際、サーベルで斬り付け、大怪我を負わせた当時の巡査、津田三蔵の評伝という形式になっていて、いわゆるノンフィクションという内容が、いつもの富岡多惠子と全く違っていて違和感を覚えたのと、これは小説であるのだからどこかから話が動き出すんだろうと我慢して読み進めていたんですが、どうにもこうにも辛抱たまらなくなって断念しました。


読みかけの本を途中で投げ出すことはまずないんですが、今回ばっかりはムリでしたね。しかも2冊連続とは!   まぁそれはさておき。


本書は今年8月に新潮社より発刊されたものです。本作家の「偏愛蔵書室」のすすめに従ってあれやこれや読んでいる訳ですが、今回はその本人の書いた短編集を手に取ってみました。


全部で6編の作品が収められているんですが、どれもこれもいいですねぇ。特に心奪われたのは「ある平衡」という「群像」に発表された短篇です。若い新婚の夫婦の心の機微を描いたものなんですが、この二人の(特に夫の)相手の心情をおもんぱかる描写がなんとも心憎いです。


夫は一人、心の中の「魔物」と闘っているんですが、それをおくびにも出さず、いい夫婦を演じているわけです。このあたりの諏訪哲史の書き方、さすがと思いました。シチュエーションが若い夫婦の日常という、本作家には珍しい作品なんですが、やっぱりうまいですね。


もう一編「修那羅(しょなら)」という作品。旅回りの一座の花形役者(男)が、新しく入ってきた若い男の子に惚れられ、それを邪険にしたことで、男の子は首を吊って自殺する。花形役者はその男の子の故郷、長野へ供養の旅という訳でもないのだが、思い立って旅立つ。地元の子供、宿の女将との会話が何とも言えない味で、ここも諏訪哲史ならではですね。そして圧巻のラスト。これはすごい。びっくりしました。


「偏愛蔵書室」を読んでから本書を読むと、例えば表題作の「岩塩の女王」などは、あ、あの作品にインスパイアされたのかな、と思い当たるところがあり、本書の読み方がさらに深くなるという効用があって、ほんと、これが読書の楽しみです。



合理主義の中の妄想的世界

2017-10-17 16:45:32 | Weblog



夢野久作「ドグラ・マグラ」(下)読了



(上)は読み進めるのが、かなりつらかったんですが、最後の方からちょっと面白くなってきたので(下)に期待したんですが、こちらもかなり難敵でした。いや、疲れました。全編読み終えての感想は「よくわからない」です。


精神病院のベッドで「私」は目を覚ます。自分は誰なのか、何故ここにいるのかわからない。いわゆる、記憶喪失というやつです。そこへ若林博士がやってきて、君が記憶を取り戻せば君の心理遺伝の実験の実証ができると言う。


また、正木博士という教授からも、千年も前の絵巻物を見せられて、君とうり二つの男がこれを見て、殺人を犯した。しかし、これは君自身がやったことかもしれないと言われ、「私」はわけがわからなくなります。読んでいる方も本当にわけがわかりません。


本書を読んだ人は精神的に異常をきたすというのが、有名なキャッチコピーなんですが、異常はきたさないものの、頭がボーっとしてきました。まさに奇書の名にふさわしい小説ではありましたが、自分にはちょっと歯が立ちませんでした。


少し残念。









奇想の物語

2017-10-10 18:41:31 | や行の作家



夢野久作「ドグラ・マグラ」(上)読了



本書は昭和51年に角川文庫より発刊されたものです。例によって諏訪哲史の「偏愛蔵書室」に紹介されていたものを選んでみました。


著者とタイトルだけは知っておりましたが、読むのは初めてでした。そしてまた、表紙の絵がすごいですねぇ。米倉斉加年画伯による、なんともエロチックでいてしかも荒廃感満載の絵で、ちょっとそのままでは持ち歩きできないですね。


どんなおどろおどろしい世界が待っているのかと、怖さ半分、期待半分で読み始めたんですが、前半はちょっと拍子抜けでしたね。


九州帝国大学法医学部の若林という教授が、精神病患者が、その病に至る経緯、その原因 、また、一般人と精神病の人間との間には大した差はない、五十歩百歩であるとの見解を延々と述べるくだりがあり、そのしつこさにちょっとうんざりしました。




また、なかなかストーリーが展開していかないところも読みずらい一因でした。しかし、(上)の最後のあたりからがぜん面白くなってきました。がんばって読み進めたかいがあったというものです。(下)に期待です!

9月のまとめ

2017-10-10 17:57:07 | Weblog



先月読んだ本は以下の通り


色川武大「生家へ」
フランツ・カフカ著 池内紀訳・編「カフカ短編集」
「小説新潮」9月号
「すばる」9月号
「文學界」9月号
フィリパ・ピアス著高杉一郎訳「トムは真夜中の庭で」


以上の6冊(3冊?)でした。色川武大のフィクションと事実のあわいを独特な筆致で描く才能には脱帽しました。また、カフカの難しいんだけどどこか滑稽な不思議な世界にも魅了されました。文芸誌3冊にはがっかりさせられました。




9月 買った本5冊
   借りた本5冊

時がもたらす変化

2017-10-03 16:34:23 | は行の作家



フィリパ・ピアス著 高杉一郎訳「トムは真夜中の庭で」読了



本書は昭和50年に岩波少年文庫より発刊されたものです。本書は名著であるという話をあちこちで聞いていて、どんなものかと興味津々で手に取ってみたのでした。


がしかし、自分としてはどうなんですかね。一読、「そんなに?」というのが実感です。岩波少年文庫ということで小学校の高学年から中学生くらいを対象にしてあるんでしょうが、まぁそれはいいとして、幻想的なタイムパラドックス物と言っては言い過ぎでしょうか。


つまらなくはないんですが、例えば最後の場面、トムがバーソロミュー夫人(ハティ)と抱擁するところは、多分最大の泣かせどころなんでしょうが、なんということもなく読み終わってしまいました。


まぁ自分にはもう少年のようなみずみずしい感受性はとっくの昔になくしてしまったのかも知れません(笑)。



姉から以下の本を借りる


伊藤比呂美「犬心(いぬごごろ)」文春文庫
大江健三郎「定義集」朝日文庫
内田百閒「阿呆の鳥飼」中公文庫
吉田健一「酒に呑まれた頭」ちくま文庫
吉田健一「旨いものはうまい」角川グルメ文庫