トシの読書日記

読書備忘録

3月のまとめ

2016-03-29 17:20:57 | Weblog


今月読んだ本は以下の通り

富岡多恵子編「大阪文学名作選」
村上春樹「職業としての小説家」
中島義道「哲学の教科書」
松浦寿輝「不可能」
松浦寿輝「巴」
柴田元幸「生半可な學者」
松浦寿輝「花腐し」
金井美恵子「軽いめまい」


なんと今月は8冊も読んでしまいました。新しい仕事場をスタートさせてほぼ1年、ちょっと気持ちにも余裕ができ、また、前の店で長くアルバイトをやってきた男が、最近、こっちの店の社員になり、いろいろまかせられるようになってきたのも自分の気持ちを楽にさせてくれています。そんなこともあって読書量がふえたのかな、と思っております。


3月はやっぱり松浦寿輝でしたね。やっぱりすごい作家です。中島義道も久々に読んでいろいろ考えさせられました。

さて、4月もこの調子で読んでいきたいと思います。


3月 買った本 11冊
   借りた本 2冊

主婦の屈託

2016-03-29 16:29:23 | か行の作家


金井美恵子「軽いめまい」読了



本書は平成9年に講談社より発刊されたものです。未読の棚を眺めていたところ、ふと目に止まり、手に取ってみました。本書が棚にあることはずっと以前から知ってはいたんですが、これはエッセイだと勝手に思い込んでいて、ずっと手にすることがなかったんですが、パラパラと開けてみたらこれが自分の勘違いで、小説だったんですね。

しかしこれはすごい小説ですね。何がすごいかというと文章にずっと句点(。)がなく、えんえんと、時には一項以上も文が途切れず続いていくわけです。本書のタイトルではないですが、軽いめまいすら覚えます。読みにくいこと、この上もないんですが、だんだん慣れてくると、これがまた心地よくもなったりするわけです。


夫と子供を2人持つ、どこにでもいるような主婦の日常がえんえんと語られていきます。それだけなら無味乾燥なイメージなんですが、そこはやはり金井美恵子です。独特の語り口で読ませます。この作家の持つ辛辣でアイロニーに満ちた文章は、少しばかりスノッブな臭いが鼻に付くものの、なかなかに面白いです。


金井美恵子は、以前「柔らかい土を踏んで」「小春日和(インデアン・サマー)」等を読んで感銘を受けた覚えがあります。機会があったら再読してみようかなと思います。




ちょいちょい行く地元の本屋の古本コーナーから以下の本を購入


佐野洋子「死ぬ気まんまん」光文社文庫
万城目学「ホルモー六景」角川文庫



想念と抒情

2016-03-29 16:29:10 | ま行の作家



松浦寿輝「花腐(くた)し」読了


本書は平成12年に講談社より発刊されたものです。そして本作品は第123回芥川賞受賞作です。この単行本には芥川賞受賞後第1作の書き下ろし、「ひたひたと」が併録されています。


短編集「あやめ 鰈 ひかがみ」や長編「半島」等が書かれた5年前の作品ということもあり、いかにも若い、というのが第一感でした。文章はそれなりに洗練されていてなかなかのものなんですが、「あやめ…」や「不可能」なんかの寿輝ワールドは影をひそめております。まぁ、これはこれで悪くはないんですがね。


友人と立ち上げたデザイン会社が資金繰りに行き詰って倒産しかかっているところへ、以前知り合ったアパートのオーナーから、取り壊しが決まっているアパートに住んでいる住人の立ち退きを依頼され、その部屋へ行くのだが、そこの住人となぜか酒を酌み交わし、相手の世界観を聞かされ…という筋立てなんですが、そこに主人公が以前一緒に暮らしていた女との思い出がオーバーラップし、物語は重層的な様相を帯びています。


作品の作り方はなかなか上手いんですが、あの寿輝ワールドを期待した者としては少しばかり拍子抜けでした。


もう一編の「ひたひたと」、これも「花腐し」と色合いは似たような作品でしたが、自分としてはこっちの方が好きですね。主人公が子供の頃に帰ったり、いつの間にかまた大人になっていたりと、読んでいて不思議な気持ちにさせられました。


松浦寿輝を何冊か読んできましたが、やっぱりすごい作家であるなぁと痛感したした次第です。まだ未読の本もあるので、機会があれば買って読んでみようと思っております。


とりあえず松浦寿輝ミニフェア、終了といたします

翻訳家の日常

2016-03-29 15:39:26 | さ行の作家



柴田元幸訳「生半可な學者」読了



例の安藤書店で目に付いたので買ってみました。柴田氏のエッセイは前にも読んだことがあって、まぁ読まなくてもよかったかなと思ったんですが、つい魔が差してふらふらと買ってしまいました。


で、やっぱり読まなくてもよかったですね。息抜きにはちょうどいい本でしたが。


しかし、元東大英米文学の教授、アメリカ小説の翻訳家ということで、英語のことわざ、慣用句など、少しためになる内容もあり、そこがちょっとよかったかな。

放散する螺旋

2016-03-25 23:17:30 | ま行の作家


松浦寿輝「巴」読了



自分の中で松浦寿輝、再ブームです。本書は平成13年に新書館から発刊されたものです。アマゾンのマーケットプレイスで購入しました。


前回読んだ「不可能」もすごい小説でしたが、これもすごい。セックスあり、バイオレンスあり、ファンタジーあり、ミステリーありと、もう松浦寿輝の持っているものを全てぶち込んだような内容になっております。



主人公は大槻俊一34才。東大を中退し、杉本という男と昔、「東洋経済研究所」という怪しげなところで怪しい仕事をしていたのだが、その後、ヒモのような生活をしていたところ、その杉本と3、4年ぶりくらいでばったり会う。そこから話は始まります。


その杉本から、彼が師事しているという篝山(こうやま)という謎めいた老人の仕事を手伝ってほしいと頼まれる。そこから大槻はとんでもないことに巻き込まれ、死にそうな目にもあいながら篝山を追いつめていこうとするのだが…という内容なんですが、もうぞくぞくしながら読み終えました。大槻の心情の描写が、時には抒情的に、時にはリアルに、読む者の心を翻弄します。


唯一、難を言うなら、篝山がやろうとしていた「サカサトモエ」なるものがどんなものなのか、朋絵、寛子は最後はどうなったのか、そういったもろもろが分からずじまいで終わってしまったことですかね。しかし、この小説は完全なミステリ小説でもないし、また、村上春樹の小説でこういったことはよく経験することなので、まぁよしとしますか。


ちょっと軽いものを読んでから、また次、松浦寿輝いきます。




ネットで以下の本を購入


松浦寿輝「花腐(くた)し」
谷崎潤一郎「乱菊物語」

距離が消えた世界

2016-03-15 16:36:27 | ま行の作家


松浦寿輝「不可能」読了


先日、姉と会って話をしたとき、本書を絶賛していたので借りようと思ったのですが、図書館から借りて読んで、もう返したとの由。ならばとアマゾンのマーケットプレイスで128円で買ったのでした。


本書は平成23年に講談社より発刊されたものです。文芸誌「群像」に不定期に連載されていた連作短編を、出版するにあたって筆を加えたとのこと。


これはあれですね。三島由紀夫の話です。何の予備知識もなく読み始めたんですが、冒頭に三島由紀夫の戯曲から引いた一節があり、そしてそこに三島の本名、平岡公威の記載、しかも本編の主人公の名が平岡とあって、もしやと思い、ネットで調べたら図星でした。


三島由紀夫が昭和45年、自衛隊市ヶ谷駐屯地でクーデターを促す演説をし、その後、割腹自殺を遂げたわけですが、その切腹が、もし失敗に終わり、一命をとりとめていたら…という設定のもとにこの作品は作られています。


主人公の平岡は無期懲役の判決で入獄していたところ、27年経って仮出獄します。そこから話が始まるわけですが、自宅の地下室に籠もり、諦念にも似た思いで過去を振り返り、行く末を見つめる日々を送ります。S…君というまだ30前とおぼしき青年に、石膏の人間像をいくつも作らせ、それを地下室に配し、酒を飲みながら眺めて悦に入るという酔狂なことをしたり、「ROMS」という悔悛した老人たちの集いというグループに入会して、東京大空襲のような大火事や鹿鳴館のようなところでわけのわからない裁判劇(?)に巻き込まれたりする。


平岡は、金には不自由しないようで、西伊豆に高さ数十メートルもあるような塔を建て、ここが自分の死に場所、いわば縦型の棺桶などとうそぶく。


そしてある日、平岡は自宅の隣にある竹林に足を踏み入れたとき、啓示を受けます。以下引用します。

<そのとき、静かな啓示が来た。
まず音が来た。世界は音に満ちていた。雨の音があり風の音があった。(中略)その絶え間ない変化のさまはいかなる法則にも統御されていなかった。平岡は音を聞いていた。その変化を、一瞬も途絶えることのないその流れを聞いていた。(中略)
それからにおいが来た。においもまた無限だった。濡れた竹の葉のにおい、地面に落ちて雨に叩かれくたれてゆく枯葉のにおい、(中略)いちどきに彼の鼻孔に届いてくる無数のにおいの集合が眩暈のような恍惚で彼を満たした。(中略)
最後に何とも言いようもない感覚が来た。それは自分がそこにいるという感覚だった。(中略)いま平岡は水に、空気にじかに触れていた。足元に地面が広がっているように、その地面に根を下ろした孟宗竹の林が彼を囲んでそそり立っているように、ちょうどそのように自然に、彼もまたそこにいた。他方、世界は世界で、その彼を包みこむようにしてそこに在った。いや、彼がいて世界が在ってその世界が彼を包みこんでいるのではなく彼自身が世界の一部として在るのだった。彼が世界なのだった。>

そして、

<この竹林までは来た。石垣を乗り越えてここまではたしかに来たのだと平岡は思った。たったこれだけの距離を踏破してここまで辿り着くのにこんな長い歳月がかかったのかという考えは彼を愕然ととさせた。(中略)それだけでもう俺の生の時間は尽きてしまうのか。いやいやと平岡は思い直し、死ぬための場所はもう用意したのだし慌てる必要などまったくないのだと、腹まで深く息を吸いまた吐くようにしながら自分に言い聞かせた。(中略)それならまだまだ生きてやる、この官能とこの直接性の生の時間の退屈に付き合ってそれにとことん倦み果てるまで、いつまでもいつまでも生きてやる。>

と決意するわけです。このあたり、中島義道を読んだあとだったからか、割とすんなり頭に入りました。


そして最後、ものすごいことが起こります。これはちょっとびっくりしましたね。しかし一番最後、その種明かしをS…君との会話で暴露するあたり、そこはちょっと興ざめでした。そのための伏線を目いっぱい張ってあるのはわかるんですが、この最後のシーン、これはなんですかね。何かのパロディなんでしょうか。


とまれ、三島がもし生きていたら、というこの着想のすごさ、そして緻密なストーリー展開、さすが松浦寿輝です。この勢いでもう1冊、松浦いってみます。

哲学とは似て非なるもの

2016-03-15 15:29:11 | な行の作家


中島義道「哲学の教科書」読了



久しぶりに中島義道を引っぱり出して読んでみました。本書は講談社学術文庫より平成13年に発刊されたものです。何かの雑誌に書いた寄せ集めではなく、書き下ろしのようです。


今まで中島の著作を多数読んできましたが、全ては本書に要約されるように思いました。これは名著です。


哲学の最大のテーマ「自分がいつかは死ぬ。これは何を意味するのか」を中心に据え、何が哲学でないか、なぜ哲学書は難しいのか、はたまた哲学は何の役に立つのか、等々中島義道のかなりバイアスのかかった見地から次々と論理を繰り広げていきます。


特に自分が関心を持つのは「時間」という問題です。その中の「過去」というものに興味を惹かれます。過去はもう文字通り過ぎ去ってしまっているものなのに、我々は過去を想起することができます。何故か。これは不思議です。人間の体は脳も含めてすべて物質でできているのに、何故過去の出来事を思い起こすことができるのか。そのメカニズムとは何か。これは哲学というより科学、生理学の分野なのかも知れません。


解説の加藤尚武氏、これもまたいいですね。解説というのは、いかに著書をほめそやすかというものが多い中、決して媚びることなく解説の中で中島氏に反論を試みているところがいい。


著者は哲学は何の役にもたたないと言います。しかし、

<哲学は「死」を宇宙論的な背景において見つめることによって、この小さな地球上のそのまた小さな人間社会のみみっちい価値観の外に出る道を教えてくれます。そして、それは同時に本当の意味で私が自由になる道であり、不思議なことに自分自身に還る道なのです。>

と言います。なかなか含蓄のある言葉だと思います。仕事に明け暮れる毎日、ともすれば目の前のことに心が奪われがちなんですが、自分を自由な心に導くための努力を惜しまないようにと肝に銘じた次第です。

春樹、自信を語る

2016-03-08 16:36:56 | ま行の作家


村上春樹「職業としての小説家」読了



以前、姉から借りてあったものを読んでみました。本書はスイッチ・パブリッシングから平成27年に発刊されたものです。翻訳家の柴田元幸が編集する雑誌「MONKEY」に連載されていたものをまとめ、他に書き下ろしを加えたものとなっています。


村上春樹が「小説」というものに対してどのように考え、それをどのように作り出していくかという、いわば村上春樹のプロとしての小説家の根源に迫るような内容になっています。それはそれとしてなかなか興味深いものがあるんですが、しかしいわゆる創作秘話というか、小説を執筆するにあたっての裏話のようなエピソードは盛り込んでほしくなかった。


自分は何の先入観もなく、村上春樹の小説を読みたいのであって、「ねじまき鳥クロニクル」の草稿の一部を大幅に削って、それを「国境の南 太陽の西」にしただとか、「海辺のカフカ」を書こうとしたときの裏話のような話は、読んだあとからにせよ、知りたくなかった。これは前にも読んだエッセイ「走ることについて語るときに僕の語ること」のときにも感じたことです。


ならそんなエッセイは読まなきゃいいんじゃねーの?という声が聞こえてきそうなんですが、そうですね、その通りです。その通りなんですが、でも読まずにいられないという、この矛盾した気持ち、いかんともしがたいです。


ただ、自分の本をアメリカで売っていくそのいきさつ、ヨーロッパ等で自分の本がどのように販路を広げて売り上げを伸ばしていったかというような商業的戦略のような話は全くの蛇足で、それこそどうでもよかったですね。


まぁこれだけ詳しく深く自分のことを語ったものは今後、出ることはないと思うので、よしとしますか。




姉に以下の本を借りる

奥泉光「虫樹音楽集」(集英社文庫)
朝倉かすみ「恋に焦がれて吉田の上京」(新潮文庫)(なんだかなぁ)


ネットで以下の本を購入

筒井康隆「モナドの領域」(新潮社)
松浦寿輝「不可能」(講談社)
松浦寿輝「巴」(新書館)


そしてまた安藤書店で以下の本を購入

柴田元幸「生半可な學者」(白水Uブックス)
ニコルソン・ベイカー著 岸本佐知子訳「フェルマータ」(白水Uブックス)
日本文藝家協会編「現代小説クロニクル 2000➧2004」(講談社文芸文庫)
深沢七郎「笛吹川」(講談社文芸文庫)

近松、西鶴から連綿と続く大阪文学

2016-03-08 16:18:13 | た行の作家


富岡多恵子編「大阪文学名作選」読了



講談社文芸文庫より平成23年に刊行されたものです。タイトルの通り、大阪を代表する作家を富岡多恵子の独断(?)で編まれたアンソロジーです。


河野多恵子、庄野潤三、山崎豊子、野坂昭如、織田作之助、川端康成ら全部で11人の作家が名を連ねています。あまり興味のないところは飛ばして読んだので読了というわけではないんですが、まぁこれでよしとしましょう


自分が好きな作家、野坂昭如を真っ先に読んだのですが、やっぱりいいですね。「浣腸とマリア」というけったいなタイトルの短編集なんですが、相変わらずの歯切れのいい語り口に魅了されます。


また、河野多恵子の「みち潮」という小品。少女の家族が都会から田舎へ引っ越した、その顛末を描いたものですが、少女の揺れ動く心情がじんわりと心に沁みてきます。


あと何編か読んだんですが、自分にはとりたてて取り上げるほどのものは見当たりませんでした。無理を承知で言うなら、富岡多恵子自身の作品もひとつ入れてほしかったです。

2月のまとめ

2016-03-01 17:31:36 | Weblog


2月に読んだ本は以下の通り


ブライアン・エヴンソン著 柴田元幸訳「遁走状態」
長野まゆみ「冥途あり」
スティーブン・ミルハウザー著 柴田元幸訳「バーナム博物館」
羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」


と、2月は4冊にとどまりました。2冊が最高に面白く、2冊がまぁまぁという結果になりました。やっぱりミルハウザーはすごい。そしてブライアン・エヴンソン。このなんともいえない世界に魅了されました。


3月は、マンションの改修工事が始まったり、娘がおめでたで、そっちへ行ったりといろいろありそうで、今月も毎週火曜日の更新はむずかしそうです。まぁ細く長くやっていこうと思っております。


2月 買った本0冊
   借りた本0冊