トシの読書日記

読書備忘録

ぬるい!

2006-10-31 19:44:55 | あ行の作家
井上荒野「ヌルイコイ」読了。

井上荒野は、「グラジオラスの耳」、「しかたのない水」に続いて3冊目。
最初に受けた衝撃が、だんだん薄れていく。この小説、タイトル通り、かなり「ヌルイ」です。

出てくる人達が。常識とはちょっと違う行動に出たり、ちょっとおかしなことを言ったりして、それで読む者をざわっとした気持にさせるのがこの人の持ち味なのに、これは、かなりそのテイストが薄まっている。

31歳のなつ恵(既婚)と26歳の「鳩」(独身)の不倫の話なのだが、普通の話なんですね、これが。ちっともどきどきしないんです。出会い方にしても、最後、二人での逃避行にしても、ありきたりなんです。残念でした。

もう1冊、「もう切るわ」というのが積ん読本の中にあるので、それに期待します。これは、処女長編らしいので、期待大です。
まぁ、いつ読むかわかりませんが(笑)

「封じ込められる」もの

2006-10-27 18:47:23 | あ行の作家
小川洋子「薬指の標本」読了。

フランスで映画化されたのを、日本で公開されるということで、見に行く前に再読した次第。

最近の「博士の愛した数式」、「ミーナの行進」とは全く趣のちがう小説で、自分としては、こっちのほうが断然好きです。
一時期、貪るように小川洋子を読んだ。「ホテル アイリス」「寡黙な死骸 みだらな弔い」「完璧な病室」「妊娠カレンダー」「まぶた」「沈黙博物館」「冷めない紅茶」「やさしい訴え」「偶然の祝福」「貴婦人Aの蘇生」・・・・・

「薬指の標本」、このなんともいえない妖しい空気。彼から与えられた靴が、段々自分の足を侵食し始めているにもかかわらず、それを脱がずに受け入れる覚悟をする「わたし」。靴をはいたまま彼に封じ込められたいと願い、ついには自分の薬指を標本にしてもらうべく、彼の技術室のドアを叩く。


小川洋子の一連の小説には「何者かに支配されたい」と願う女性の内面を描くものが多い。映画「薬指の標本」で、監督の解釈をじっくり見てみたいと思う。

余談だが、「まぶた」の文庫の解説が堀江敏幸でした。どちらも大好きな作家ではあるが、この二人、僕の中ではどうやってもつながらないんですが・・・(笑)

小説の向こう側

2006-10-22 13:11:29 | あ行の作家
小川洋子「犬のしっぽを撫でながら」読了。

今まで文芸誌等に載ったものをまとめたエッセイ集。
一番始めのものだけ書き下ろしになっている。

「博士の愛した数式」で読売文学賞と第1回本屋大賞を受賞して一躍、時の人になっただけに、「数の不思議に魅せられて」と題してそれに1章を割いている。

やはり一番おもしろかったのは「『書く』ということ」の章で、彼女が編み出した数々の小説についての秘話(?)が載っている。
「完璧な病室」を評した山口哲理氏の、その書評に対する思い、短編集「まぶた」誕生のいきさつ、「貴婦人Aの蘇生」を書くことになったきっかけ、「偶然の祝福」に犬を登場させた理由、「ブラフマンの埋葬」を書こうと思い立ったそのキーワード、「沈黙博物館」を執筆していたときの不思議な気持・・・

「ブラフマン・・」を除いては既読の本ばかりだったので、大変興味深く読めた。
小川洋子の、それぞれの小説に対する思いを反芻しながら再読してみたいもんです。

また、忘れてはならないのは、小川洋子のアンネ・フランクに対する思いで、このエッセイ集でも、「アンネ・フランクへの旅」と題してそこだけ紙の色を変えて(薄いグリーン)本書の真ん中にもってきてある。

ここを読むと、なぜ小川洋子がこれほどまでにアンネ・フランクに深い思い入れを抱くのかがよくわかる。

年を偽って生き残った人は、そうせずに死んでいった人達を裏切ったという感情に苛まれながら生きていかなければならない・・・。

本文引用――「死者は被った犠牲の理不尽さと、永遠の不在によって敬われる。生者は生き残るために犯したささやかな偽りと、何故あの人でなく自分が、という疑問から、逃れられない(中略)よき人々が帰ってこられなかったのは、自分の責任ではないのに、本当に責めを負うべき人間は他にいるのに、どうして被害者たちは己れの生存に疑問を持つのか、罪悪感さえ抱いてしまうのか。
 この問題を思い浮かべるたび、私は首を傾げつつも、同時に、人間の深遠な心の動きに対し、畏れにも似た心持ちを覚える。なぜ自分が生者になったのかという、答えのない問いを探し求めることは、ホロコーストを越え、あらゆる人間の存在に、濃密な働き掛けをしてくる。」

自分自身に「書く」ということの意味を問い掛ける作業でもあった「アンネ・フランクの記憶」、ファンならずとも読まねばならない1冊であると思う。

珠玉(?)の短編集

2006-10-20 23:38:31 | Weblog
群像10月号 創刊60周年記念号読了。 

短編特集ということで、なんと46人の作家の短編が掲載されている。
普段読まない作家の短編も、これならサンプルみたいにして読めるのが利点であった。

やっぱり小川洋子はいいです。独特の世界で。糸糸山秋子は、なんだか底が見えてしまった感じ。角田光代って食わず嫌いだったんだけど、おもしろかったです。思わぬ拾い物でした。堀江敏幸は、相変わらずいいなぁ。この短編は、句点と句点の間が短くて読みやすかったです(笑)町田康は、つまんなかった。調子に乗るなよと(笑)青山真治の「夜警」という短編、この人は始めて読んだんだけど、不思議な世界でちょっとおもしろかった。ただ、こなれてない感じ。桐野夏生、タイトルがいい!「幻視心母」だって(笑)ピンク・フロイドかよ!って突っ込みをいれたくなります(笑)川上弘美は、相変わらずという感じで、可もなく不可もなくといったところか。高橋源一郎は、笑いました。わざと会話の部分をありえないような形にして、工夫が見られました(笑)

そんなこんなで、以前、こういった文芸雑誌は買わないとか言ったんですが、なかなかどうしていいもんだわいと思った次第です(笑)

市井の人を書くエネルギー

2006-10-16 01:53:50 | あ行の作家
上原隆「雨にぬれても」読了。

「友がみな我よりえらく見える日は」「喜びは悲しみのあとに」続くコラム・ノンフィクション3冊目。

「普通」の人々を取材してその人達の心に光をあてる。なんともやりきれないものもあるし、希望がかすかに見えるものもある。なんだろう、この気持。この人達にすごく同調している自分を見てびっくりする。
作者自身のことを書いたのもある。「森の奥へ」がそうだ。これが一番心に沁みた。ロマンティックな妄想から一転、現実に引き戻されるこの感覚。ものすごくよくわかる。

『ピーター・バラカン「ウィークエンド・サンシャイン」』の中で、ジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」が紹介されている。「私は両方から人生を見てきた 勝ったり負けたり、それなのにどういうわけか 私の思い出せるのは人生のまぼろしだけ 人生がどんなものか私にはいまだにはっきりとは判らない」

そうだよなぁと思ったら知らぬ間に涙がこぼれていた。


消滅の新しい体系

2006-10-14 13:55:27 | ま行の作家
村上春樹 短編集1980-1991「象の消滅」読了。

17編が収められた初期の短編集。
以前に読んだものもいくつかあったが、やっぱりいいですね。村上春樹。

とにかく主人公がクールなんです。例えば「・・・世の中には正しい結果をもたらす正しくない選択もあるし、正しくない結果をもたらす正しい選択もあるということだ。このような不条理性――と言って構わないと思う――を回避するには、我々は実際には何ひとつとして選択してはいないのだという立場をとる必要があるし、大体において僕はそんなふうに考えて暮らしている。・・・・」(パン屋再襲撃より)
とまあ、こんな調子です。

普通で考えてあり得ないようなことが起こり、でもそれが読んでるとちっとも不自然でなくて、「そっかー」なんてうなづいたりして、いつしか春樹ワールドにどっぷり漬かってしまってるんです(笑)

既読本だが、「羊をめぐる冒険」、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」、「回転木馬のデッドヒート」、「レキシントンの幽霊」・・・・そのうち再読しようと思ってます。


そして山田太一「君を見上げて」読了。

まあ、大人のラブストーリーといったところですが、自分は、この手のものに滅法弱い(笑)つい、激しく感情移入してしまって何度も泣かされました(笑)

男 32才 身長163cm
女 30才 身長182cm
19cmの差は互いの身長差だけではなく、なかなか素直になれない気持の溝の幅でもあったりするわけです。
もちろん、ハッピーエンドですが(笑)

最後の山場は、あまりにもドラマティックすぎて、さすがテレビドラマの脚本家だけあるわいと妙な感心をしてしまった(笑)

(写)消滅の新しい体系

2006-10-14 13:00:00 | や行の作家
村上春樹 短編集1980-1991「象の消滅」読了。

17編が収められた初期の短編集。
以前に読んだものもいくつかあったが、やっぱりいいですね。村上春樹。

とにかく主人公がクールなんです。例えば「・・・世の中には正しい結果をもたらす正しくない選択もあるし、正しくない結果をもたらす正しい選択もあるということだ。このような不条理性――と言って構わないと思う――を回避するには、我々は実際には何ひとつとして選択してはいないのだという立場をとる必要があるし、大体において僕はそんなふうに考えて暮らしている。・・・・」(パン屋再襲撃より)
とまあ、こんな調子です。

普通で考えてあり得ないようなことが起こり、でもそれが読んでるとちっとも不自然でなくて、「そっかー」なんてうなづいたりして、いつしか春樹ワールドにどっぷり漬かってしまってるんです(笑)

既読本だが、「羊をめぐる冒険」、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」、「回転木馬のデッドヒート」、「レキシントンの幽霊」・・・・そのうち再読しようと思ってます。


そして山田太一「君を見上げて」読了。

まあ、大人のラブストーリーといったところですが、自分は、この手のものに滅法弱い(笑)つい、激しく感情移入してしまって何度も泣かされました(笑)

男 32才 身長163cm
女 30才 身長182cm
19cmの差は互いの身長差だけではなく、なかなか素直になれない気持の溝の幅でもあったりするわけです。
もちろん、ハッピーエンドですが(笑)

最後の山場は、あまりにもドラマティックすぎて、さすがテレビドラマの脚本家だけあるわいと妙な感心をしてしまった(笑)

古書市へ

2006-10-12 19:11:12 | Weblog
昨日は雨の中、名古屋の古書会館の古書市へ行く。

購入本
辻仁成「オープンハウス」
辻仁成「白仏」

今回は、あまり収穫がなかった。

帰りに、JR高島屋へ寄る。新聞の広告で北海道物産展をやっているのを見て、娘が「食べてみたい」と言っていたお菓子を買いに行ったのだが、自分の勘違いで、物産展は松坂屋であることをあとで知る。
せっかくなので、三省堂で本を物色。小川洋子のエッセイ「犬のしっぽを撫でながら」を購入。
食器売り場で、ビールのグラスを衝動買いする(笑)

家に帰って、居間に入ると娘がいて、僕を見て顔がパッと輝くが、わけを言って買った本とグラスを見せると、どうでもいいと言わんばかりにふてくされてました(苦笑)

団塊の諦観

2006-10-09 01:13:07 | さ行の作家
関川夏央「やむにやまれず」読了。

18編が収められた短編集ということだが、これは小説の名を借りたエッセイでしょう。
出てくる主人公は、間違いなく本人と思われます。

自分の損得関係なしに筋を通す、義理を立てる、やせ我慢する。通俗的な言い方だが、関川夏央のダンディズムをそこに見る。

いい作家です。上原隆に通じるところがある。そしてこの二人は山口瞳とまた相通じているのである。

ひとつだけ苦言。
各短編の扉にある、いしいひさいちの漫画、いかがなものかと(苦笑)

いつもと違うブックオフ

2006-10-07 01:37:38 | や行の作家
運転免許の更新へ行った帰りに、近くのブックオフへ

購入本
山口瞳「社会人心得入門」
山田太一「君を見上げて」
関川夏央「やむにやまれず」

「社会人心得入門」は、成人の日などにサントリーの新聞広告として載せたもののなかから選んで集めたもの。ダブりかもと思って買ったのだが、未読でした。
「君を見上げて」は、ずっと以前読んだ気がしたのだが(10年以上前か)、なんだかまた読みたくなったので。
「やむにやまれず」はダブりでした。しかも、わりと最近買った本でした(苦笑)


往復の電車の車中と、免許更新の待ち時間の間に山崎マキコ「さよなら、スナフキン」読了。
あまりのつまらなさに腹がたって、新幹線のホームのゴミ箱に投げ捨てた人もいたらしいが(笑)それほどでもありませんでした。感想をあーだこーだ言うほどの本でもないんですが、まぁ、息抜きにはなりました(笑)


今、村上春樹の短編集と、若合春侑「脳病院へまゐります」と、関川夏央「やむにやまれず」の3冊が同時進行してます(笑)順次、感想を書いていきます。