トシの読書日記

読書備忘録

おかしくもせつない、この夫婦の関係

2008-08-28 18:21:33 | た行の作家
大道珠貴「後ろ向きで歩こう」読了

大道珠貴、ついつい買ってしまうんですね。
相変わらずの「ぐだぐだ系」です(笑)でも、以前読んだ「ひさしぶりにさようなら」とか「傷口にウォッカ」みたいな救いようのない「ぐだぐだ」ぶりではなく、ちょっと練れてきたというか、さわやかな「ぐだぐだ」というか(笑)そんな印象を受けました。

3つの短編が収められているんですが、全部、夫婦の話です。どの小説も、妻の側からの目線で描かれていて、まぁ、相変わらずの脳天気な人たちばかりなんですねぇ。でも、これらの小説に出てくる奥様達、(一人は結婚するところまではいかないんですが)ちょっとだけ好感がもてます。なんとかしてあげたい!ってつい思ってしまいます。

普通ではありえないような夫婦関係ばかりなんですが、そこが大道珠貴らしいところです。楽しかったです。

軽やかな厚み

2008-08-28 18:09:28 | は行の作家
堀江敏幸「回送電車」読了

エッセイでもなく、評論でもない、いわゆる「散文」とでも呼べばいいのでしょうか。一つが5ページくらいの話を集めたものです。

読み始めて、これはつらい、とまず感じました。話が高尚すぎてついていけないんですね(笑)しかし、ここで挫折しては読書人の名折れとばかりに頑張りました。そのかいあってか、途中から非常に平易な話ばかりになって、これならいけると喜んだ次第です。何事も最初からあきらめてはいけないと、巷でよく言われる人生訓を地でいったようなものでした。

作中に、フランスの紙巻タバコの銘柄の表記に誤りがあり、それを敢えてそのまま載せ、(そのままにしたい理由があって)それを解説の杉本秀太郎氏がゆるやかに指摘したのを受けて、最後の「ながい追記として」と題したあとがきのようなものの中で、そのわけを書いている。

このあたりが堀江敏幸の真骨頂というか、面目躍如たるところですね。そこらあたりの堀江氏の心情は、私の拙い語彙ではうまく表現できません(笑)

「雪沼とその周辺」「いつか王子駅で」「めぐらし屋」を読んだときから感じていたんですが、やはり堀江敏幸、ただものではありません。

「回送電車」シリーズは、たしかもう1冊買ってあるので、是非共近いうちに読みます。

「少年」の位置

2008-08-25 16:56:05 | あ行の作家
井上光晴「紙咲道生少年の記録」読了

表題作を含む6編を収めた作品集。

先日のブログに記したように、井上荒野の「ひどい感じ」を読み、それに触発されて本作品と、もう1冊をネットで購入し、さっそく読んでみました。

35年くらい前に、同作家の小説を何冊か読んで以来で、なんだかなつかしく読みました。相変わらずのテイストで、このなんともいえない感じがいいんですねぇ。

連続暴行殺人事件を11歳の少年が起こすことができるのか。ひょんなことで知り合った37歳の独身看護師と少年。まだ子供だとみくびっていた看護師は、気軽に部屋に招きいれた少年の豹変ぶりに驚くことになる・・・・。

おもしろいです。読ませます。小学校6年生の男の子が、いっぱしのことをするんです。その着眼点がさすが、井上光晴です。もう1冊あるので、近々読みます。楽しみです。

理不尽さを生き抜く覚悟

2008-08-25 16:11:18 | な行の作家
中島義道「たまたま地上にぼくは生まれた」読了

中島義道「心の旅」シリーズ第5弾です(笑)

地方での講演、社会学者・宮台真司との対談、NHKラジオの番組でのインタビュー等をまとめたもの。

今までの著書で言っていることを大体そのまましゃべっているので、特に目新しさはありませんでした。

おもしろかったのは、宮台氏との対談。茶化してんの?と思うくらい宮台真司の空気がゆるくて、ちょっと笑ってしまいました。

それと、ひとつ疑問に思うのは、中島義道は「カントの時間論」というのをかなり研究してるようなんですが、この本の中でもそのことについて講演していますが、これと、氏の「どうせ死んでしまうのに、なぜ生きなければならないのか」という哲学的な問いと、どう関わっているのかということがよく理解できません。「時間論」の概念はわかるんです(大体ですが)「どうせ死んでしまうのに、なぜ生きなければならないのか」という根源的な問いのもつ意味もわかるんです(自分なりに)でも、それとこれがどう結びつくのかがよくわからないんですねぇ。別に結びつける必要もないのかも知れないんですがね。

まぁ、いずれにしても、今までの中島義道の著書の内容をしゃべっていることなので、自分の中でそれをまとめるにはちょうどいい本でした。

後戻りできない場所へ

2008-08-18 17:06:30 | あ行の作家
井上荒野「切羽へ」読了

荒野ファンを自認する自分が、直木賞受賞作を今頃読んでいてはいけませんね(笑)

よく、「切羽詰る」という言い方をしますが、タイトルは、その「切羽」です。ただ、作者はこれを「きりは」と読ませています。いずれにしても、「もう、これ以上進めない場所」という意味ですね。

読み始めて数ページで確信しました。これは荒野の最高傑作であると。読み終わった今も、その思いは変わりません。この小説はいいです。ただ、今までの「荒野テイスト」が若干薄まっている感じはあるんですが、これは、井上荒野の新境地といってもいいのではないでしょうか。

夫と平穏に暮らす日々の中で、現れる一人の男。「あ、よくあるパターンかな」と思いきや、そこからがいつもの小説と違うんですね。この小説は、主人公である麻生セイの心の動き、感情の発露だけを徹底して描いています。これがよかった。

本筋とは関係ないかも知れないけれど、子供の描き方が非常に温かく、愛情に満ちていて、荒野の別の一面を見たような気がしました。

がんばり過ぎている人のために

2008-08-18 16:52:08 | さ行の作家
佐野洋子「がんばりません」読了

「シズコさん」という母親をテーマにしたエッセイがベストセラーになっているようで、へそまがりな自分としては、こちらをと思って手に取った次第。

「本の雑誌」に連載されていたものをまとめたエッセイのようです。

先日読んだ角田光代のエッセイにはうんざりさせられたが、これはよかった。エッセイにありがちな、いわゆる「自分自慢」というものがないわけではないんですが、そこのところはうまく筆力でカバーされている感じ。どきっとさせられる箇所もいくつかあり、なかなか読ませてくれました。

「読書は、単なる暇つぶしである」と言い切る豪胆さにまいりました(笑)

全身小説家

2008-08-10 16:55:48 | あ行の作家
井上荒野「ひどい感じ 父・井上光晴」読了

井上光晴の半生を、娘・荒野が数々のエピソードを交えて綴った・・・まぁ、オマージュといってもいい読み物です。

三十数年前、なんの予備知識もなく、井上光晴という作家を好きになり、「地の群れ」「死者の時」「胸の小槌にしたがえ」「黒と褐色と灰褐色」等をむさぼるように読んだ記憶がある。

それから最近、井上荒野という作家を知り、何冊か読むうちに「このなんともいいようのない感覚、昔読んだ本で味わったような気が・・・」と感じ、ネットで調べたら、なんと井上光晴の娘であることがわかって、さもありなんとうなずいた次第。

血は争えないもんだなぁと感慨を深くしていたら、なんと荒野は、父・光晴の文体を意識的に真似していたと、この本で白状してるんですね。二度びっくりです。
デビューした当初だけそうだったらしいんですが、いやいや荒野さん、最近の小説でも、お父様の色がにじみ出ていますよ(笑)

井上光晴の小説は、ほんの数冊しか読んでないので、また読んでみようかと思ってます。特に亡くなる少し前あたりのもの、「妊婦たちの明日」「海へ行く駅」「象のいないサーカス」等の短編、「紙咲道生少年の記録」のような長編(?)をやっつけてみようかと思っております。

彼は、正しいものであろうとしないかぎりでのみ正しい

2008-08-10 16:50:16 | な行の作家
中島義道「人生を<半分>降りる」読了


以前読んだものの再読です。

過去の哲学者、文学者等からの引用があまりにも多く、著者自身の論理の展開にもっとページを割いてほしかったというのが第一感。
著者は、「半隠遁」を勧めているが、言わんとするところはよくわかります。もっと哲学的に生きよ!ということなんでしょうが、これをすると世間からつまはじきにされてしまうことは非を見るより明らかで、中島氏は、刊行した本の印税等で、ある程度の経済力をつけているので、この「半隠遁」は充分可能であると思われるが、我々社会の底辺に生きる者は、こんなことをしたら次の日から食いっぱぐれてしまうしまうのは間違いないところです。

しかし、問題はここだと思うんです。「食っていくことができないから人生を半分<降りる>ことができない」と考えるのでなく、「人生を半分<降りる>ことによって引き起こされると予測されるどんな事態にも耐えて生きる覚悟があるかどうか」ということだと考えます。とりあえず、自分にはその覚悟はありませんが(笑)

全体的に賛同できる部分は多かったです。自分が人生を降りてるところは、親戚づきあいを一切しない、年賀状を書かない、仕事の上で行かなくてもいいような会合(忘年会等)には出席しない・・・・こんなところですかね。まぁ、人生の5分の1くらいは降りてるのではないでしょうか(笑)

「いかにして自分自身になるか」(ニーチェ)「半分」に近づけられるよう、精進します。

挫折に真剣に向き合う

2008-08-02 18:26:28 | な行の作家
中島義道「孤独について」読了


中島義道を介しての「心の旅シリーズ」です(笑)

自分の不幸な体験を味わいつくす、自分の目をそむけたくなるような性格を徹底的に吟味する・・・・それが自分の「生きる意味」を見出す方法であると。

この本で得たことはこれだけでした。あとは、作者の身の上話をさんざん聞かされて、ちょっと辟易しました。

次の中島本、いきます。