トシの読書日記

読書備忘録

10月のまとめ

2013-10-31 16:22:16 | Weblog
今月読んだ本は以下の通り



車谷長吉「世界一周恐怖航海記」
村田喜代子「あなたと共に逝きましょう」
ジャネット・ウィンターソン著 岸本佐知子訳「灯台守の話」
山田風太郎「死言状」
ジェローム・K・ジェローム著 丸谷才一訳「ボートの三人男」
丸谷才一「年の残り」
丸谷才一「たった一人の反乱」


以上7冊でありました。月の前半は快調に飛ばしていたんですが、今月25日から今の商売とは別に新しい業態を始めたので、その準備やら、スタートしてからも慣れないオペレーションでばたばたでありました。それで、後半は2冊しか読めませんでした。


今月はなんといっても「灯台守の話」、これが出色でした。また、丸谷才一の素晴らしさを改めて確認することもでき、収穫の多い月でもありました。


昨日の夕刊に、大江健三郎の新刊の記事が載ってました。執筆中、例の震災があり、一旦全て破棄した上で書き改めた小説とのこと。これが最後の作品になるかも(いつもこれが最後と言ってはいますが)なので、近いうち書店に走ろうと思っております。



10月 買った本 3冊
    借りた本 0冊

市民社会からの脱出

2013-10-31 16:02:39 | ま行の作家
丸谷才一「たった一人の反乱」読了



昭和47年に刊行された、谷崎潤一郎賞受賞作品であります。文庫本で619項とかなりの長編なんですが、読み応えのある、めっぽう面白い小説でした。


主人公は馬淵英介。元々通産省に勤めていたのを防衛庁に出向せよとの命を蹴り、役人を辞して民間会社に就職する。そして才如なく仕事を続けるうち、友人の紹介で若いモデルと知り合い、20も年の差がありながら結婚するわけです。家付のお手伝いさんがおり、三人で暮らすわけですが、そこへなんと殺人の罪を犯して刑務所へ入っていた妻の祖母が、刑期を終えて転がり込んできたからさあ大変。


そうして暮らすうち、妻、妻の祖母、お手伝いのツルがそれぞれ英介に対して反乱を起こすわけです。


いやほんと、面白いですね。ユーモアとウィットに富んだ作品と言えましょう。楽しみました。


さて、これで丸谷才一フェアはひとまず終了致します(と言ってもたったの3冊でしたが)。次はまた姉が貸してくれたのをいってみますかね。



やがてみんな死ぬ

2013-10-18 15:29:55 | ま行の作家
丸谷才一「年の残り」読了



丸谷才一の第二弾であります。表題作の「年の残り」と(中編)「川のない街で」(短編)「思想と無思想の間」(中編)の三作品が収められています。


やっぱりいいですね、丸谷才一。どれもいいんですが、やはり芥川賞受賞作の「年の残り」が秀逸でありました。


主人公は69才の病院長。話はその院長が患者である高校1年生の少年と自宅で院長の昔描いた絵を見ながら話をするところから始まります。この出だしがまずいいですね。読み進めていくうちに、読み手はだんだん事情が飲み込めていくように作られています。


しかし、こんなに人が死ぬ小説も珍しいんじゃないですかね。主人公の友人(自殺)、また別の友人の妻(自殺)、先の友人の甥の新聞記者(殉職)。それぞれに深い意味があり、そこに主人公の心の投影があります。人はみな死ぬ。では、そこに至るまでの生にどんな意味があるのか、というのが本書のテーマであると思うんですが、本作品には明確な答はありません。


丸谷才一は、有名な私小説(私小説家)嫌いなんですが、その真意を解説の野呂邦暢が、次のように丸谷の文章を引用しています。

〈日本の自然主義者たちは形式を排除し、実質をとうとんだ。そのことは彼らの、芸術への蔑視と実生活への偏執に対応するものである。ここから私小説が生れ、詩と戯曲の貧困が生れ、生活綴方が生れ、さらには伝記的批評という、作品そのものの検討をなおざりにして転向や女でいりを仔細に研究する奇怪な批評の方法が生れた。あるいはまた、体あたり主義を奨励し、すっ裸になることを褒めちぎり、血まみれ、泥まみれを礼賛し、そうじて言えば、暗くて厭らしくて、じめじめしていて人を不愉快な気持ちにさせるものはみな深刻であり真面目であると考え喝采する、日本「純文学」の風土が生れた。〉


要するに、「私小説」は総じて「暗くて厭らしくてじめじめしていて、人を不愉快な気持ちにさせる」ということなんですね。それをなんで「深刻であり真面目であると喝采する」のかと、こう言いたいんだろうと思います。もっと生活に根ざした、いわゆる「風俗小説」を書いていくことが文学者の進むべき道なのではないかと、こう言いたいんだろうと思います。


自分はどちらに与するものではないんですが、丸谷氏の高説ごもっともとはおもいますが、でもしかし、という思いも捨てきれません。まぁこれは見解の相違なんで、どちらが正しいというものでもないんでしょうね。要は面白ければいいんです!

滑稽と諧謔の難しさ

2013-10-11 17:19:38 | さ行の作家
ジェローム・K・ジェローム著 丸谷才一訳「ボートの三人男」読了



岡崎武志氏のブログを見ていると、最近丸谷才一をよく読んでいるようで、自分も大好きな作家でもあり、ちょっと触発されて丸谷才一の著書を2冊と、本書を買ってみました。


英国ユーモア小説の古典という触れ込みなんですが、どうなんでしょう、この作品は。これは人によって評価がまちまちでしょうね。自分は、はっきり言ってなんだかなぁという感じでした。イギリス人のユーモアというのは、例の「モンティ・パイソン」とか、「ミスター・ビーン」のようなものだと思うんですが、本書もこれに似たテイストでありました。時々笑えるんですが、全体を通じてはあまり感心しませんでした。


残念至極でありました。

病人の氷枕やヒヤシンス

2013-10-11 17:05:20 | や行の作家
山田風太郎「死言状」読了



同作家の1960~90年代に雑誌、新聞等に書いたものを集めたエッセイ集です。


山田風太郎は今まで小説もエッセイも読んだことがなかったんですが、「甲賀忍法帖」シリーズとか、大昔に真田広之(?)が主演した映画「魔界転生」の原作であるとか、そういった時代物の作家というイメージでした。


しかし、なかなかユニークな方です。「遺言状」ではなく「死言状」というのがふるっています。今際の際で人は何を言うか、何を言えばそれなりの形を作れるのか、これがこのエッセイ集の後半で繰り返し語られています。面白いものを2、3挙げると、


〈いろいろあったが、死んでみりゃあ、なんてこった、はじめから居なかったのとおんなじじゃないか〉


○臨終の人間「ああ、神も仏もないものか?」
 神仏「無い」
○また臨終の人間「いま、神仏が無いといったのはだれだ?」

答無し。――暗い虚空にただぼうぼうと風の音。



自分が死ぬとき、どんな心境になるのか?それはなってみないとわからないというもんですが、しかし、そうなってからではもう遅いというこのパラドックス。


誰しも思うことですが、最後くらいはきれいに死にたいものだと、本書を読んでつくづく思いました。


山田風太郎、ただ者ではありません。

二つの魂の遍歴

2013-10-11 16:46:06 | あ行の作家
ジャネット・ウィンターソン著 岸本佐知子訳「灯台守の話」読了



同作家の「さくらんぼの性は」が非常に難解な作品であったので、ならばこれはどうかと、以前読んだ本作品を再読してみたのでした。


これはいい。すごくいい小説です。1回目に読んだとき、自分はどこを読んでいたのかと、自分を叱りつけたいくらいです。


10才の少女シルバーは母親と二人きりでスコットランドの北西部の港町で暮らしている。二人の家は崖っぷちに斜めに突き刺さるように建っているため、母娘はいつも命綱でしっかり体を結び合っている。しかしある日、母親が足を滑らせて崖から落ちて死んでしまう。孤児になったシルバーは、灯台守のピューの養女として引き取られる。かくしてシルバーは灯台守見習いとしてこの不思議な老人と暮らすようになる。


そしてまたある日、灯台が国の方針で無人化されることが決まり、ピューは灯台を去ることになる。天涯孤独の身となったシルバーは、流浪の旅を始める…。



あらすじとしてはこんなところなんですが、とにかくシルバーがけなげで、読んでてほんと、せつなくなってきます。本当の愛を知らないシルバーがそれを求めて遍歴するさまは痛々しいかぎりです。


このシルバーの物語に、100年前にソルツの町に生きた牧師バベル・ダークの数奇な人生の物語が重層的に語られ、作品に厚みを加えています。このあたりの手法はウィンターソンならではですね。


こんな素晴らしい小説を1回読んでそのすごさに気がつかなかったんですが、今回再読してほんとよかった!本書は今年のベスト3に間違いなく入るでしょう。

赤い肉の袋としての心臓

2013-10-11 16:29:48 | ま行の作家
村田喜代子「あなたと共に逝きましょう」読了



夫の心臓に動脈瘤ができていることがわかり、手術を回避するためにいろいろな方法を試す夫婦の物語です。多分、これは村田氏のご主人の実際の出来事をもとに執筆した長編であると思われます。


しかしすごいですね。福元食養院という、いわゆる民間療法のようなところで教わって玄米食に切り替え、一口100回噛む食事を毎日続けたり、岩盤浴日本一という、長野県の焼野温泉へ2週間近く湯治に出かけたり、それで動脈瘤を少しでも小さくするためにものすごい努力をするわけです。しかし、結局そのかいむなしく、手術することになってしまうんですが。


夫に付き添って懸命な看護を続ける奥さんだったんですが、手術が無事成功し、日に日に回復していく夫を見ていると、なぜか段々腹が立ってきて、旦那さんに当り散らすようになるんです。ここのとろ、なんとなく気持ちがわかります。自分だけが取り残されていくような感覚になるんでしょうね。


文章のうまい村田喜代子なので、なかなか読ませます。佳作でした。

俗物を俗物視する俗物

2013-10-11 16:17:17 | か行の作家
車谷長吉「世界一周恐怖航海記」読了



「鹽壺(しおつぼ)の匙」「文士の生魑魅(いきすだま)」「武蔵丸」等、すさまじい私小説を書く車谷なんですが、この作品はなんですかね。詩人の奥さん高橋順子にせがまれてピースボートの世界一周の船旅に出た、その航海記なんですが、「見損なったぜ!車谷!」という心境です。


船旅の途中、一人思索にふけるところは多々あるんですが、どれもこれも前に読んだ内容だし、乗客の悪口も聞き苦しいばかりです。


奥さんがどうしても乗りたいというのを、自分はいやいや同行したようなことを言ってますが、いやなら断ればいいのに。そんな俗物の女房なんか切って捨てろと言いたい。でもそれにくっついて行ってしまう車谷。お前も俗物だったなと、そんな車谷の小説に衝撃を受けていた自分が情けないです。残念。

9月のまとめ

2013-10-07 17:46:45 | か行の作家
9月に読んだ本は以下の通り


スティーヴン・ミルハウザー著 柴田元幸訳「マーティン・ドレスラーの夢」
堀江敏幸「時計まわりで迂回すること――回送電車Ⅴ」
ジャネット・ウィンターソン著 岸本佐知子訳「さくらんぼの性は」
金井美恵子「柔らかい土をふんで、」
金井美恵子「小春日和――インディアン・サマー」
美濃部美津子「おしまいの噺」


以上の6冊でありました。

なんだか金井美恵子に振り回された感の9月でした。しかし、堀江、ミルハウザーと存分に楽しませてくれた月でもありました。最近は本を買う元気もないので、姉に借りた本をぼちぼちこなしていこうかと思っております。



と言いつつネットで以下の本を購入


丸谷才一「たった一人の反乱」
丸谷才一「年の残り」
ジェローム・K・ジェローム著 丸谷才一訳「ボートの三人男」



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