トシの読書日記

読書備忘録

8月のまとめ

2017-08-29 18:20:56 | Weblog



今月読んだ本は以下の通り


野坂昭如「とむらい師たち―野坂昭如ベストコレクション」
諏訪哲史「偏愛蔵書室」
神吉拓郎「たべもの芳名録」
丸谷才一「エホバの顔を避けて」


以上の4冊でありました。最近は週1冊のペースになっています。まぁ長いのもすぐ読めるものもいろいろあるんですが、トータルのバランスがいいんでしょうか。


今月はなんといっても丸谷才一ですね。そこの記事で書き忘れたんですが、単行本なのに解説があって、それを松浦寿輝が書いているんですが、なかなか読ませる解説でした。「エホバの顔を避けて」、「笹まくら」を絶賛するんですが、それ以降の作品に、松浦の言葉を引用するなら<上質な「市民小説」の系譜に属する丸谷の諸作には、あまり心が震えたためしがない。>とやんわり批判しています。ここがすごいですね。


自分も、遺作となった「持ち重りのする薔薇の花」には、なんだかなぁと思ったんですが、それ以前の「たった一人の反乱」「裏声で歌へ君が代」「輝く日の宮」なんかは面白かった記憶があります。ここがプロと素人の違いなんでしょうね。



諏訪哲史「偏愛蔵書室」に入っている本を9月以降、順繰りに読んでいこうと思っております。楽しみです。



8月 買った本 5冊
   借りた本 0冊

みずからあたため、ゆすぶり、かきまぜる

2017-08-29 17:44:42 | ま行の作家



丸谷才一「エホバの顔を避けて」読了


本書は河出書房新社より平成25年に発刊されたものです。初出はなんと昭和35年、自分はまだ小学校にも上がってない頃で、丸谷才一、35才の処女長編ということです。


ずっと前から読みたかった小説で、ネットで捜してもなかなかなくて、あったとしてもすごい高値がついていたりして、買えずにいました。多分、その頃は丸谷才一が亡くなった直後ということもあったのかも知れません。


それが先日、名古屋の栄、丸善に並んでいるのを発見、値段も2800円+税ということで即、買いました。


しかしこれはすごい小説ですねぇ。どんな感想を書いていいのか、ちょっと頭がまとまっておりませんが、とにかくなんとか書いてみませう。


旧約聖書の「ヨナ記」に材をとり、古代アッシリアを舞台に、神、エホバからの神宣を受けたヨナが、最後までエホバへの信仰を疑いつつ自己のアイデンティティの確立に苦悩するという物語です。


ヨナはエホバから<起ちてかの大(おおい)なる邑(まち)ニネベに往(ゆ)きこれを呼(よば)わり責めよ>との神宣を受けます。何故自分なのか、そして何故自分はそれに従わなければならないのか。このヨナの葛藤がこの作品の核心をなしています。そして娼婦のラメテ、その元情夫アシドド。この二人がこの物語の重要な役割を担っています。


ラメテは以前は神を信仰していたが、今はもう信じていないと言う。ヨナはその理由を聞いて大きく動揺します。神と個人、個人と国家。そのはざまでこの優柔不断な男は大いに悩み、苦しみます。


最後は圧巻でした。もともと旧仮名使い(歴史的仮名遣い?)で書かれているんですが、一番最後のほうはじょじょに漢字が少なくなっていって、とうとう最後はひらがなだけになってしまって、読みにくいことこの上ないんですが、しかしものすごい迫力で、読む者に迫ってくる、圧倒的な力を感じました。


すごい小説でした。もっと早く読めばよかったです。

美味しい話

2017-08-22 18:09:08 | か行の作家



神吉拓郎「たべもの芳名録」読了



本書は今年4月にちくま文庫より発刊されたものです。


筆者の名前は聞いたことだけはあったんですが、著作を読むのは初めてでした。この人は評論家というか、エッセイストというか、そっち方面の人と思っていたんですが、小説も書くんですね。しかも寡聞にして直木賞も受賞していたことも知りませんでした。


まぁしかし本書は当たり障りのない、食に関するエッセイです。可もなし不可もなしといったところでしょうか。でも文章はなかなかのものです。なんというか、あっさりとした味わいで、食べ物に関してはとかく蘊蓄を傾けて嫌味なエッセイをよく読まされるんですが、その点、本書はそんないやらしさもなく、さらりとしていて、面白く読めました。



ネットで以下の本を注文する


富岡多惠子「湖の南」新潮社


狂気が讃えられるべき唯一の場所、文学

2017-08-15 16:04:30 | さ行の作家



諏訪哲史「偏愛蔵書室」読了



本書は平成26年に国書刊行会より発刊されたものです。


実は自分はこれが1冊の本になる前に読んでおりまして、というのは本書は中日新聞に隔週の火曜日(だったか?)に連載されていたものをまとめたもので、それはもうじっくり読ませていただいておりました。


先日、栄の丸善へ行った折に本書を見つけ、まぁ新聞で読んだからいいかなと思ったんですが、中身をパラパラ見るうち、もう一回読まねばという強い気持ちが働き、大枚2500円+税をはたいて買ってしまいました。


しかしまぁすごいですね。このマニアックなこと。普通誰も顧みないような本を選び、諏訪哲史独特の視点で解説するのを読むと、もう、うなるやら呆れるやら、彼はこういった系統の本がほんと、好きなんだなというのがひしひしと伝わってきます。


本書を読むと本作家の「アサッテの人」とか「ロンバルディア遠景」等を書いたその著者の観念の核心みたいなものがおぼろげに見えてきたりします。本書の中で是非読んでみたい本があるので、ここにリストアップしておきます。山ほどあります。


「チャンドス卿の手紙」ホフマンスタール著 檜山哲彦訳 岩波文庫
「檸檬」梶井基次郎 新潮文庫
「伝奇集」ホルヘ・ルイス・ボルヘス著 鼓直訳 岩波文庫
「子之吉の舌」島尾敏雄 国書刊行会
「トムは真夜中の庭で」フィリパ・ピアス著 高杉一郎訳 岩波少年文庫
「内田百閒集成3 冥途」内田百閒 ちくま文庫
「泥棒日記」ジャン・ジュネ著 朝吹三吉訳 新潮文庫
「少女コレクション序説」澁澤龍彦 中公文庫
「バカカイ」ヴィトルド・ゴンブローヴィチ著 工藤幸雄訳 河出書房新社
「闇の中の黒い馬」埴谷雄高 河出書房新社
「幻影都市のトポロジー」アラン・ロブ=グリエ著 江中直紀訳 新潮社
「薔薇日記」トニ・デュヴェール著 志村清訳 新潮社
「眼中星」大泉黒石 桃源社
「パルチザン伝説」桐山襲(かさね) 作品社
「眠る男」ジョルジュ・ぺレック著 海老坂武訳 晶文社 
「鶏の脚」池田得太郎 中央公論社
「プロタゴニスタ奇想譚」ルイージ・マルバ著 千種堅訳 出帆社
「夜ひらく・夜とざす」ポオル・モオラン著岩波文庫 堀口大學訳 新潮社
「五十万人の兵士の墓―反乱の雅歌篇」ピエール・ギュイヨタ著 榊原景三訳 二見書房
「妖花譚」荒木良一 毎日新聞社
「葬儀のあとの寝室」秋山正美 新世紀書房
「流刑地にて」フランツ・カフカ著 池内紀訳 岩波文庫 
「モナ・リーザ泥棒」ゲオルク・ハイム著 本郷義武訳 河出書房新社 
「O嬢の物語」ポーリーヌ・レアージュ著 澁澤龍彦訳 角川文庫
「ミッドナイト・ミートトレイン」クライヴ・パーカー訳 宮脇孝雄訳 集英社文庫
「ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え」マルキ・ド・サド著 澁澤龍彦訳 富士見ロマン文庫
「普賢」石川淳 集英社文庫                          
「悪の華」シャルル・ボードレール著 安藤元雄訳 集英社文庫
「嘔吐」ジャン=ポール・サルトル著 白井浩司訳 人文書院
「数(ノンブル)」フィリップ・ソレルス著 岩崎力訳 新潮社
「ナージャとミエール」山口椿 トレヴィル
「失われた時を求めて」マルセル・プルースト著 鈴木道彦訳 筑摩書房
「春は馬車に乗って」横光利一 岩波文庫
「優雅な獲物」ポール・ボウルズ著 四方田犬彦訳 新潮社
「短かい金曜日」アイザック・バシェビス・シンガー著 邦高忠二訳 晶文社
「私生児」ヴィオレット・ルデュック著 榊原景三ほか訳 二見書房
「憂国」三島由紀夫 新潮文庫
「メルラーナ街の恐るべき混乱」カルロ・エミリオ・ガッダ著 千種堅訳 早川書房 
「納屋は燃える」ウィリアム・フォークナー著 瀧口直太郎訳
「ブライツヘッドふたたび」イーヴリン・ウォー著 吉田健一訳 ちくま文庫
「ファイター」アーネスト・ヘミングウェイ著 高見浩訳 新潮文庫
「みちのくの人形たち」深沢七郎 中公文庫
「マーフィー」サミュエル・ベケット著 川口喬一訳 白水社
「家畜人ヤプー」沼正三 都市出版社
「地獄編」寺山修司 思潮社
「ユーゲント」ヴォルガング・ケッペン著 田尻三千夫訳 同学社
「ユリシーズ」ジェイムス・ジョイス著 丸谷才一ほか訳 集英社
「ドグラ・マグラ」夢野久作 社会思想社
「夜の果ての旅」ルイ=フェルディナン・セリーヌ著 生田耕作訳 中公文庫
「生家へ」色川武大 中公文庫
「昆虫図」久生十蘭 現代教養文庫
「ロリータ」ウラジミール・ナボコフ著 若島正訳 新潮文庫



全100冊中、52冊を選んでみました。もう絶版になっているものも多数ありそうなので、先のカーヴァーの書評で書き出したもの同様、ネットでゆっくり探してみることにしてみます。久々に古本屋をめぐるのもいいかも知れません(ブックオフとかではなく)。


それにしても各作品を評する諏訪氏の表現のうまさには舌を巻きます。とにかく豊富な語彙で、読む者をその気にさせます。もちろん、拙ブログなどと比べるのはあまりにも不遜というものですが、やはり自分のレビューの拙さにはため息が出ます。


本編の中で諏訪哲史が口を酸っぱくして言う<小説とは「物語」と「詩」と「批評」から成る>という意味が、本書を読んで少しは理解できたような気がします。



というわけで早速以下の本をネットで購入


「トムは真夜中の庭で」フィリパ・ピアス著 高杉一郎訳 岩波少年文庫
「生家へ」色川武大 講談社文芸文庫
「カフカ短編集」フランツ・カフカ著 池内紀訳 岩波文庫
「悪の華」シャルル・ボードレール著 安藤元雄訳 集英社文庫








生きるという醜さ

2017-08-08 16:20:44 | な行の作家



野坂昭如「とむらい師たち―野坂昭如ベストコレクション」読了



本書は今年6月に河出文庫より発刊されました。初出はもちろんもっと古く、昭和40年の前半くらいに文芸誌に掲載されたものを集めた短編集です。


あまりにも有名な「火垂るの墓」を自分はへそ曲がりの性格ゆえ、読んでないので、それと本編とを比べることはできないんですが、しかしなんというか、凄まじいですね。戦争末期から戦後のどさくさの中で生きる市井の人々の姿が赤裸々に描かれています。


中でも「死児を育てる」という作品には少なからぬショックを受けました。自分の飢餓のために幼い妹を見殺しにした経験が、後の彼女の人生を狂わせることになるわけですが、なんともやりきれない思いに囚われました。


亡くなった今でもやはり、野坂昭如、忘れてはならない作家の一人です。


それにしても本書の解説、これはどうなんでしょうねぇ。自分は本編でうなり、解説でうなりたいんですが、なんというか、筆力がまるでない。こんな程度の解説なら自分でも書けそうです。ちなみに東山彰良(作家)とのことです。

7月のまとめ

2017-08-01 19:00:25 | Weblog



7月に読んだ本は以下の通り


安部ヨリミ「スフィンクスは笑う」
川上未映子 村上春樹「みみずくは黄昏に飛びたつ」
レイモンド・カーヴァー著 村上春樹訳「英雄を謳うまい」


と、7月は3冊にとどまりました。どれもそこそこに楽しめたんですが、前に読んだ「ホサナ」みたいにガツンとくるやつがないと、やっぱり淋しいですね。


今月は母の新盆で、8月15日が、たまたまお店が定休日なので、身内だけで母を迎えようと思っております。墓の場所もやっと決まって、一周忌には納骨できそうです。



7月 買った本 6冊
  借りた本 0冊

魂の中の小さな声

2017-08-01 17:50:24 | か行の作家



レイモンド・カーヴァー著 村上春樹訳「英雄を謳うまい」読了



本書は平成20年に中央公論新社より発刊されたものです。レイモンド・カーヴァーは自分がリスペクトする作家の一人なんですが、本書はずっと手元にあったものの、読まずに今日に至っておりました。


短編集ではなく、詩、評論、書評など、もちろん、ごく初期の短編も収められているんですが、訳者村上春樹が言うように、いわゆる落穂拾い的な性格の本で、未発表の原稿をとにかく寄せ集めたといった体のものになっています。なので、ちょっと手を出しにくい気持ちになっておりました。


でもやっぱり読んでよかったです。初期の短篇は、やはり荒削りで、実験的な要素も多分に含んでいて、これは小説として成り立っているのかと思わせるような作品も散見されましたが、でもやっぱり後年のカーヴァーの世界の片鱗はしっかり見せています。


あと、書評がいくつかあったんですが、カーヴァーの好みが色濃く反映されていて、読み物としてなかなか面白かったです。その書評でカーヴァーが強く推す本がいくつかあったので、それを覚え書きとしてここに記しておきます。


ドナルド・バーセルミ「雪白姫」
ジム・ハリスン「レジェンド・オブ・ザ・フォール」
ウィリアム・キトリッジ「ヴァン・ゴッホ・フィールド」
ヴァンス・ブアジェイリ「男たちのゲーム」
ジョナサン・ヨーント「ハードキャッスル」
リチャード・ブローディガン「アメリカの鱒釣り」
リチャード・フォード「究極の幸運」
リン・シャロン・シュウォーツ「ラフ・ストライフ」

上記の本が果たして日本語訳で手に入るのか、怪しいものですが、とりあえずネットで調べてみることにしてみます。


29年前に50才の若さでなくなったカーヴァーゆえ、新作を望むことはもちろん無理な話なんですが、なんとも残念至極です。