トシの読書日記

読書備忘録

残念なエッセイ

2012-07-23 15:02:13 | や行の作家
吉村昭「縁起のいい客」読了



いやぁ間違えてしまいました。この吉村昭という作家、全く読んだことのない人で、それもそのはず、自分がほとんど興味のない歴史小説を主に書いているということなんですね。吉行淳之介と間違えたのかも知れませんが、それにしてもひどい勘違いです。あ恥ずかしい限りです。


でもまぁ一応読んでみました。これは、いろいろな文芸誌、新聞のコラム等に寄せたエッセイを、1冊の本にまとめたもので、エッセイならば読めるだろうと思ったんですが、著者が、ある歴史小説を執筆するにあたっての取材の顛末であるとか、その時出会った人とのそのテーマにまつわる話であるとか、そんな話が中心になっているので、門外漢の自分にとっては興味を惹くようなエピソードもなく、ただただ字面を追うだけの作業でありました。


大江健三郎フェアといいながらこんな本を読んでいてはいけません。深く反省した次第です。

小説読み方指南

2012-07-17 16:06:26 | あ行の作家
阿部公彦「小説的思考のススメ」読了



紀伊國屋書店がやっているサイトで、「書評空間」というのがありまして、各界のお歴々がそれこそ種々雑多な本を取り上げては書評をしているんですが、阿部公彦(あべ・まさひこ)という東大文学部の准教授がその中に名を連ねているわけです。またこの人の書評が他の人達とは一味も二味も違う視点で、めっぽう面白く、ちょいちょいチェックしているんですが、なんと!その阿部先生が本を書いたというので、早速買って読んでみたと、こういうわけであります。


本書は、小説には読み方がある。その勘所をしっかり押さえて読んでいけば、小説というものは、かくも楽しく、また読む者にとってこれほど知的な興奮を促すものはないと。その「勘所」が小説的思考であると、こうおっしゃるわけです。


それで、古今の日本の小説から11人の作家を選んで、この小説はこう読め、と指南をしてくれています。取り上げる作家は、太宰治、夏目漱石、辻原登、よしもとばなな、絲山秋子、吉田修一、志賀直哉、佐伯一麦、大江健三郎、古井由吉、小島信夫の各氏です。この中で、自分はが全く読んでいないのは古井由吉のみで、あとの作家は少なくても2~3作品くらいは読んでいるので、興味津々でページをめくったのです。


しかしすごいですね。この細かい読み方。それを書いた作家がこれを読んだら、作家冥利に尽きると感嘆の声をもらすだろうなぁと余計なことまで考えてしまうくらい、一つの作品を微に入り細にわたってそれこそ一字一句のその言葉の裏を読み、そこで作者は何を読者に思わせようとしているのかという、分析。ため息が出ました。


自分は、到底こんな読み方はできませんが、しかしここに書いてあることを踏まえてもう一度その小説を読み直してみようとは思いました。特に夏目漱石の「明暗」、小島信夫の「抱擁家族」。いずれ再読してみるつもりです。

偏屈で無愛想な名人気質

2012-07-11 15:33:28 | か行の作家
古今亭志ん生「志ん生芸談」読了



大江健三郎、すごく読み応えがあっていいんですが、やはり1冊読み終えるとずっしりと重いものがあって、間にこういった軽いものをはさまないとちょっときついですね。


以前、小林信彦の古今亭志ん朝の評伝を読み、その親父である志ん生にも興味をもっていたところ、姉が本書を買って読んでいたようで、早速借りて読んでみました。


いやぁ面白いですねぇ。若い頃、相当無茶をやったようです。そのエピソードの破天荒なこと!すごい人もいたもんです。志ん朝の評伝を読んでから彼のCDを何枚か買って聞いたんですが、志ん生のも聞いてみたくなってきました。ちょっとアマゾンに注文してみます。



志ん生のCDと一緒に以下の本を注文


阿部公彦「小説的思考のススメ」

モラルをモラルすることの意味

2012-07-11 15:18:15 | あ行の作家
大江健三郎「日常生活の冒険」読了



発表順から見れば「遅れてきた青年」を先に読まねばならなかったところを、誤って本書を先に手に取ってしまいました。しかし、そんな瑣末なことはさておき、なかなかに読ませる、面白い長編でありました。


先に読んだ「芽むしり仔撃ち」とはずいぶん文体の違いがあり、著者がすごく楽しみながら書いた作品のような読後感でした。


斎木犀吉という若い冒険家の半生を、主人公である「ぼく」が語るという構成になっています。斎木犀吉はモラリストです。これは、道徳家という意味ではなく、人間について、また、生について、また善とは、悪とは、といったことについて根本的なところから思索する人のことをいいます。


そのモラリスト、犀吉に翻弄されながら「ぼく」は犀吉の考えるところに大きく影響されながら行動を共にしていきます。犀吉の信念とは、まず反社会的である、ということ。社会の流れに順応せず、自分の頭で考え、そしてそれを行動に移せばそれは自ずと反社会的になる、ということ。また、それを更に突き進めばそれが日常生活における冒険になると、彼はこう考えるわけです。


これが40年前に発表された小説とは思えない、機智に富んだスリリングな作品でありました。

素晴らしい!

6月のまとめ

2012-07-02 16:37:28 | Weblog
6月に読んだ本は、以下の通り



大江健三郎「死者の奢り・飼育」
堀江敏幸「なずな」
ドン・デリーロ著 上岡伸雄訳「ボディ・アーティスト」
大竹昭子「図鑑少年」
大江健三郎「芽むしり仔撃ち」


以上の5冊でした。少いながら、内容の濃い読書ができました。まぁ数読みゃいいってもんでもないですからね。

大江健三郎の重く、深い小説を堪能しながら、堀江敏幸の素晴らしい作品に出会うこともでき、いい月でした。他にも、なんだかなぁという本もなく、充実しておりました。