トシの読書日記

読書備忘録

7月のまとめ

2014-07-31 15:51:16 | Weblog
今月読んだ本は以下の通り



G・ガルシア・マルケス著 鼓直訳「百年の孤独」
古井由吉「聖耳」
庄野潤三「プールサイド小景・静物」
井伊直行「お母さんの恋人」


以上の4冊でした。冊数は少なかったですが、非常に中身の濃い読書ができました。今月はとにかく「百年の孤独」ですね。これは名著です。古井由吉も庄野潤三もそれぞれいい味の作品で、堪能しました。井伊直行だけがちょっと残念でしたが。



7月 買った本0冊
   借りた本0冊

世界は矛盾でできている

2014-07-31 15:22:38 | あ行の作家
井伊直行「お母さんの恋人」読了



ずっと前に姉が貸してくれたものです。面白いともなんとも言ってなかったんですが、まぁ読まなくてもよかったですね。この作家は、かなり前「さして重要でない一日」というのを読んで、なかなかやるじゃんと思ったような覚えがあるんですが、どうやらそれは記憶違いのような気がしてきました。


17才の高校生が36才の女性に恋をする。まぁありがちな話ですね。いずれにせよ、ちょっと薄っぺらな印象はぬぐえませんでした。


こういう軽いものはいけません。もっとがっつり食いごたえのある小説が読みたいです!

生活の抒情

2014-07-31 14:54:35 | さ行の作家
庄野潤三「プールサイド小景・静物」読了




古本評論家でライターの岡崎武志氏がこよなく愛する庄野潤三ですが、自分も岡崎氏に触発されて「夕べの雲」「ガンビア滞在記」等を読んだものでした。しかし、庄野潤三の代表作であり、芥川賞受賞作でもある「プールサイド小景」、これをはずしておりました。


この「プールサイド小景」は昭和29年12月号の「群像」に発表され、翌年、芥川賞を受賞したとのことです。本作品を始め、7編の短編が編まれているわけですが、いずれも昭和25年~35年と、初期の短編集ということが言えると思います。


一読、驚きましたね。晩年の庄野の作品は、小説というよりほとんどエッセイというか、日記のような体裁になっているわけですが、本作品集の中の、例えば「イタリア風」「静物」などは、ただ事実というか、エピソードだけをたんたんと書き連ねていったもので、初期の頃から一貫して変わらない、こういう作風だったんですね。ここに男と女の心象の機微とか、人生いかに生くべきかといったような重いテーマは介在しておりません。これは文学としてどうなのか、といった思いが自ずと湧いてきます。


が、しかし、それが庄野の作品なんですね。これに異論をとなえるものではありません。むしろ、それだからこそ、そこに深い余韻が生まれ、本を閉じたあと、なんともいえないおだやかな気持ちに包まれるわけです。


いや、いいものを読ませて頂きました。庄野氏、また岡崎氏に感謝です。

聴覚的な視覚

2014-07-18 18:30:43 | は行の作家
古井由吉「聖耳」読了



ずっと前に姉から借りていたものです。この作家は以前、「木犀の日」を読んで非常に難解な文章に苦労したものです。本作品は、連作の形式の短編集でありますが、これはいい。難解なことは難解なんですが、文章のうまさ、プロットの巧みさに目をみはります。


自在に変わっていくシチュエーション、その状況を人称抜きで語っているため、文章に非常に鋭い切れ味を感じます。これが古井由吉の文体の魅力と言えるのではないか。


五度にわたる眼の手術をし、その後、聴覚にまで影響を受けた主人公の思考が時空を超えて自在にめぐっていきます。ここが読みにくいといえばそうなんですが、逆にそこがたまらない面白さになっているわけです。


阿部公彦の「小説的思考のススメ」で紹介されていた同作家の「妻隠(つまごみ)」、やはり読まねば!

100年の愛と孤独

2014-07-09 14:31:47 | ま行の作家
G・ガルシア・マルケス著 鼓直訳 「百年の孤独」読了
 


15年前位に読もうとして途中で挫折したマルケスの代表作を今回、やっと読了することができました。それにしてもすごい物語です。マルケスの著作全体についても言えるんですが、すべてが豊穣で、過剰で、熱気に溢れています。


ホセ・アルカディオ・ブエンディーアに始まる一族の6代に渡る歴史を描いた一大絵巻であります。


谷崎潤一郎の「細雪」を思い出しました。でもあれは姉妹の一代限りの話なのでちょっと違いますが。以前、挫折したのは、代々の子孫の名前がほとんど同じで、誰が誰だかごっちゃになってしまって、いや気がさしたんですが、今回は、巻頭にある家系図と首っ引きで読んだので、そこはなんとかクリアできました。



なにしろ、ホセ・アルカディオ・ブエンディーアの息子がホセ・アルカディオ(長男)とアウレリャノ(二男)で、そのホセ・アルカディオの子供がアルカディオ、そのまた子供がホセ・アルカディオ・セグンド(長男)とアウレリャノ・セグンド(二男)と、まだまだ続くんですが、もうなにがなにやらという状態なわけです。


しかし、そんな読みにくさを超えてあまりあるこの物語の豊穣さ!特に自分が目をひいたのはホセ・アルカディオ・ブエンディーアの妻、ウルスラ・イグアランです。家を守ろうとして、文字通り家の改築にけたはずれのパワーを発揮するこのお母さん、すごいです。玄孫(やしゃご)の顔を見るまで長生きして、推定年齢130歳で亡くなったという、ウルトラ婆さんです。


それと、ホセ・アルカディオ・ブエンディーアの二男に当たるアウレリャノ・ブエンディーア。この人もすごい。一族の住む町、マコンドが戦争に巻き込まれ、自由党の大佐となったアウレリャノは、32回の反乱を起こし(そのつど敗北)、14回の暗殺と73回の伏兵攻撃、1回の銃殺刑の難をまぬがれた猛者であります。しかも、自殺しようとして自分の口にピストルを発射し、貫通したために死ななかったという、うそのような話のおまけまであります。


とにかく、この何もかもが過剰な一族の歴史に、読む者はただただ圧倒されるばかりです。小説の一番最後、6代目のアウレリャノが住む、すでに朽ちかけた代々の家が、折からのすさまじい熱風で崩壊してゆくんですが、アウレリャノとその伯母であるアマランタ・ウルスラとの愛について、「この百年、愛によって生を授かった者はこれが初めて」という文があるんですね。ここがちょっとわかりません。甥と伯母という、いわゆる道ならぬ恋で生まれた子供であるわけですが(心配した通り、その子には豚のしっぽが生えている)、その先祖達は愛によって子を作ったのではないのかという疑問がわいてきます。


解説の梨木果歩も指摘するように、マルケスにとって「愛」とは何なのだろうと。




最後の最後のところで「?」という壁に当たりましたが、とにかくすごい小説であることは間違いないです。ノーベル文学賞もとって当然でしょう。ノーベル賞といえば思い出したんですが、大江健三郎の小説「万延元年のフットボール」もこの「百年の孤独」とちょっとテイストが似てなくもないです。

6月のまとめ

2014-07-04 17:10:27 | Weblog
6月はパソコンが壊れ、買い替え、接続がうまくいかず、すったもんだした月でありました。今もパソコンを起動するたびにちょっとした操作をしないとインターネットにつながらない状態で、プロバイダを別のところにすれば、家まで来て全部うまくやってくれるということで、それを待っている状態です。

買ったパソコンも、これがノートで、前のと使い勝手がちょっと違うので、入力するのも四苦八苦しています。まぁこちらは、おいおい慣れると思いますが。


さて、6月に読んだ本は以下のとおりです。



村上春樹「女のいない男たち」
町田康「壊色(えじき)」
G・ガルシア・マルケス著 鼓直訳「族長の秋」
ベンジャミン・パーシー著 古屋美登里訳「森の奥へ」
バーナード・マラマッド著 阿部公彦訳「魔法の樽」
星野智幸「俺 俺」
中村文則「遮光」


以上の7冊でした。9冊と思っていたんですが、勘違いでしたね。


まぁどれもこれも平均点以上なんですが、突出したものがありませんでした。強いて言うならマルケスかな。今、「百年の孤独」読んでます。すごいです。




6月 買った本3冊
   借りた本0冊

死という絶望

2014-07-04 16:30:55 | な行の作家
中村文則「遮光」読了



ずっと以前に買ってあって、ふと今、読む気になって手にとってみました。



この作家の作品はいくつか読んだのですが、全く発表順で読んでないので、ちょっと頭の中が混乱しますね。本作品はデビュー作の「銃」の次、つまり二作目の作品ということです。中村文則を初めて読んだのは三作目の「土の中の子供」で、これで芥川賞を受賞しています。


さて、この「遮光」ですが、やはり中村文則らしい、恐ろしく暗い小説であります。恋人が交通事故で死んでしまい、その小指をホルマリン漬けにして持ち歩く「私」。しかもその恋人は、勘違いでアパートの隣の部屋に行くはずだったデリヘル嬢というんですから、このつながりの薄さというか、もろさがいかにも中村文則です。


特にストーリーが動いていく話でもないんですが、不思議な力に引き込まれ、一気に読んでしまいました。印象に残った一節を引用します。


<あの時私は、太陽を睨みつけていた。太陽はちょうど水門の真上にあり、酷く明るく、私にその光を浴びせ続けていた。私はそれを、これ以上ないほど憎み、睨みつけていた。その美しい圧倒的な光は、私を惨めに感じさせた。この光が、今の私の現状を浮き彫りにし、ここにこういう子供がいると、世界に公表しているような、そんな気がしたのだった。私はその光に照らし出されながら、自分を恥ずかしく思い、涙をこらえた。それは多分数秒のことだったが、あの時の私には、とても長く感じられた。>


この、圧倒的に明るい太陽に照らされる自分を惨めに感じるという幼児体験がこの主人公の「私」という人間を形成したわけです。最後、死んだ恋人の美紀のホルマリン漬けになった小指を口に含むシーンは、恐ろしく、また、「私」の心情を思うと、なんともやり切れない気持ちになります。



最近の中村文則はサスペンスというか、なんだかそっちの方向へ向かっているという話を聞いたとがあるんですが、なんとも残念なお知らせであります。こういった小説こそが中村文則なんですがね。

完結した自己と世界との一致

2014-07-04 16:00:30 | は行の作家
星野智幸「俺 俺」読了



ブックオフで何か面白い本はないかと眺めていたら、本書が目に止まりました。奥付を見ると、この作家は三島由紀夫賞、野間文芸新人賞、大江健三郎賞(本作品)と、かなりの実力者ではないかと思い、買って読んでみました。



が、それほどでもなかったですね。テーマはなかなかいいと思いました。「私が私であるとはどういうことか」という哲学的問いをこの作家流に小説にしたと、そういうことだと思うんです。ストーリーもプロットもなかなかよくできていて面白いです。が、いかんせん文章がちょっと稚拙なんですね。やはり、文章のうまくない作家はちょっと自分としてはどうかという思いが、どうしてもあります。



ちょっとしたいたずら心でオレオレ詐欺のようなことをしてしまった「俺」は、いつの間にか別の「俺」になっていて、そのうち「俺」が何人も出てきて、さらに「俺」がどんどん増殖していって、しまいには自分の上司、母親、姉の夫、父親までもが「俺」化してしまうという、なんとも奇想天外な話であります。目のつけどころはなかなかいいと思いましたね。




「俺」と「俺」だからこそお互いに完璧に理解しあえる、それがかけがえのない瞬間だと主人公の「俺」は言うんですが、やはりそれは仮想の世界でしかあり得ないんですね。やはり、きびしい現実の世界を見すえて生きていかねばと思うのであります。

















どん詰まりからのしぶとさ

2014-07-04 15:39:25 | ま行の作家
バーナード・マラマッド著 阿部公彦訳「魔法の樽」読了



これも姉借り本です。「書評空間」という紀伊國屋がやっている書評のサイトがあるんですが、そこで書評をしているうちの一人に阿部公彦がいて、その人の書評がめっぽう面白いんですね。思わず買って読みたくなる書評を書きます。それを姉に教えたところ、姉もこの人のファンになったようで、本書もその経緯で買ったのでは、と思われます。



著者のマラマッドはアメリカの人で、1950~70年代に活躍した作家のようで、元号でいうと昭和30~50年代ということで、少し昔の人なんですね。この短編集の中にもそのあたりの時代が色濃く反映されています。


内容はというとなかなか面白かったです。派手な印象はなく、むしろ地味で控えめな空気が漂う世界なんですが、そこはかとないユーモアもあり、なかなか読ませる作家という印象でした。


どの作品もそうなんですが、貧乏で生活に困窮している人、仕事に行き詰っている人、結婚したくてもできない人等、ネガティブな内容が多いんですが、どっこい生きている、みたいなしぶとさがそこにはあり、それが救いになっています。全くのアンチクライマックスで終わってしまうものもありましたが。


とまれ、今までの自分の読書経験にない、毛色の変わった作品を読ませてもらい、それなりに堪能させてもらいました。

瑕疵のある群像

2014-07-04 15:14:50 | は行の作家
ベンジャミン・パーシー著 古屋美登里訳 「森の奥へ」読了



これも姉に借りた本です。単行本で364項のまあまあの長編なんですが、一気に読めてしまいました。


主人公は高校教師のジャスティン。その妻 カレン、一人息子のグレアム、ジャスティンの父であるポール、カレンにストーカーまがいの行動を起こすブライアンというのが主な登場人物であります。このポールというおじいさんが典型的な昔気質の人で、孫のグレアムを「男は強くなきゃいかん」とか言って、かなり乱暴な教育をするんですが、これがカレンには気に入らないわけです。


そしてジャスティンの休暇を利用して、父と子と孫の男3人で森へキャンプに出かけるんですが、悲惨な事件が起こります。そして留守を守るカレンにも魔の手が…という、内容はミステリーじみてはいるんですが、なかなか面白く読めました。森の風景描写がいいですね。著者のベンジャミン・パーシーはアメリカ、オレゴン出身ということですから小さいころから森に親しんでいたんでしょう。


テーマとしては、男の責任感、男としての誇りというような、まぁちょっと陳腐なことになってしまうんでしょうけど、展開がスリリングで読ませました。佳作であると思います。