トシの読書日記

読書備忘録

「ボクトーキタン」を読む少女

2014-04-23 19:34:50 | た行の作家
多和田葉子「ヒナギクのお茶の場合」読了



先回のレイモンド・カーヴァーといい、この多和田葉子といい、好きな作家の未読本を見つけるというのは、本当にいいもんです。心がうきうきします。


が、しかし、本書は今ひとつでしたねぇ。5編の作品が収められた短編集なんですが、多和田葉子の独特の世界は健在なんですが、練れてないというか、以前読んだ本谷有希子の小説を思い出してしまいました。ちょっと似たものがあります。1955年から2000年にかけて発表された文芸誌の作品を集めたもののようですが、特に初期のものということでもないし、なんなんですかねぇ。


「ゴットハルト鉄道」とか「飛魂」なんかと比べると雲泥の差です。ただの不思議な話になってしまっています。非常に残念でした。



ちょっと「不思議系」の本が続いたので、次は毛色の変わったのでいってみようと思います。

おかしみの中の哀しみ

2014-04-23 19:05:27 | か行の作家
レイモンド・カーヴァー著 村上春樹訳「ファイアズ(炎)」読了



ずっと前に姉から借りていたもので、読まずに忘れていました。カーヴァーファンなのに…。


本書はエッセイ(2編)と詩(51編)、それに短編(7編)が収められていて、いわゆる未発表の原稿を集めた体裁になっています。しかし、寄せ集めといっても、エッセイも短編も読ませるものが多く(いくつかは他の短編集で読んだものですが)、内容の濃い作品集になっています。


しかし、詩はむずかしいですね。50編以上あるんですが、味わい方がよくわかりません。カーヴァー独特の世界は感じるんですが、何を表現しようとしているのか、大まかなところは理解できてもそれ以上の深いところへ入っていけません。詩は理解するのではなく、感じるのだというのなら、それはそれでいいんでしょうかね。


短編は初めて読んだのが3編ほどありましたが、やっぱりいいですね。なんともいえないカーヴァーの世界が広がっています。


再読になった「足もとに流れる深い川」がやはり出色です。仲間と釣りに行った男が川で若い女の死体を発見する。しかしせっかく遊びに来たんだからと、その死体を二日間放置して、自分たちは釣りをし、夜にはウィスキーを飲んでテントで寝る。二日後、荷物をまとめて帰る途中、警察に電話をし、死体のことを話す。家へ帰ってそれを聞かされた妻は大きなショックを受ける。そこから夫婦の関係がぎくしゃくしてきます。この妻も少し精神を病んでいるような感じがします。

そして妻は自分で車を運転して2時間半かけてその若い娘の葬儀に参列する、という話なんですが、この夫婦のなんともいえない緊張感がすごいですね。妻の独白「過去はぼんやりとしている。古い日々の上に薄い膜がかぶさっているみたいだ。私が経験したと思っていることが本当に私の身に起こったことかどうかさえよくわからない。」


こんな風に考えている妻が語り手になっている小説ですから、どこまでが事実で、どこからが妻の妄想なのか、混沌としています。そこがまたこの作品の面白いところであると思います。


久しぶりにカーヴァー、堪能しました。いや、面白かったです。

恋患いの果てに

2014-04-23 18:47:23 | ま行の作家
村上春樹「独立器官」読了



一連の「文藝春秋」に掲載されている短編です。3月号のものです。


一読、つまんねーという感想です。ちょっとワル乗りが過ぎやしませんか?村上さん。感想は以上です。

「文藝春秋」に発表された「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「木野」と本作、「モンキービジネス」に発表された「シエラザード」、それに書き下ろしの一編を加えて短編集が発売されたそうですが、世のハルキストはこぞって買うんでしょうねぇ。踊らされてたらあかんよと言いたいです。



FM愛知でやっている「メロディアス・ライブラリー」で色川武大の「狂人日記」(講談社文芸文庫)が紹介されていて、読みたくなって講談社文芸文芸文庫ならほとんど揃っている安藤書店に走ったんですが、見つからず、手ぶらで帰るのもなんなので、以下の本を購入。



堀江敏幸「正弦曲線」
獅子文六「てんやわんや」

日常的非日常

2014-04-10 16:10:39 | や行の作家
吉田知子「日常的隣人――吉田知子選集Ⅱ」読了



そういうわけで本谷有希子の口直しに吉田知子を読んでみました。これも姉借り本です。


やっぱりすごいですね、吉田知子。この日常に漂う底知れない恐ろしさ。ただ者ではありません。本谷さんもこれをよく読んで勉強していただきたいもんです。

「日常的~」と題された短編が10編と、「人蕈(ひとたけ)」という作品が収められています。


中でも出色は「日常的親友」でした。カナダに住む親友がガンで余命いくばくもないことを知る。彼女から「私」に「死ぬ前に一度会いたい」と手紙が来る。そのすぐあと彼女の夫から「妻はあなたに会うと気持ちがゆるんですぐ死んでしまうと思うので、来ないでほしい」という手紙が来る。どうしようかと「私」は思い悩み、結局カナダには行かないことにするのだが、「私」はそのあたりから悲しいこと、楽しいことに対する感情のコントロールが段々にできなくなり、職場で部下から結婚の報告を受けるとさめざめと泣き、親友の妹がやって来て親友の母が亡くなったことを聞くと、とたんに吹き出すという、錯乱した状態になる。この辺、ちょっと恐いです。


吉田知子の、日常の中で、じわじわと迫ってくる尋常でない感覚、これを書かせたら天下一品です。久々に興奮した読書でした。

妄想もそのへんで…

2014-04-10 16:04:49 | ま行の作家
本谷有希子「嵐のピクニック」読了



これも姉が貸してくれました。面白いともなんにも言わずに貸してくれたんですが、はっきり言って全然面白くない!吉田知子か、そのあたりのちょっと「変」な路線を狙っているんでしょうが、吉田知子の足元にも及びません。


まず、文章が全くなってない。僕でもこんな小説だったら書けそうです。これが大江健三郎賞を取ったというんですから驚きです。大江さん、しっかりして下さい。


久しぶりにつまらない小説(短編集)を読んでしまいました。時間のムダでした。

大正の気骨の人

2014-04-10 15:57:02 | あ行の作家
阿川弘之「天皇さんの涙――葭の髄から」読了



文芸雑誌「文藝春秋」に長きにわたって連載していたエッセイ集です。著者は、テレビ等で活躍している阿川佐和子の御尊父であります。


姉が面白いと言って貸してくれたんですが、まぁ可もなし不可もなしといったところでしょうか。海軍時代の話とか、あまり興味がないし。


ただ、文章はうまいです。旧仮名遣いというところも丸谷才一を彷彿とさせてなかなか好もしいです。


関川夏央の解説が、なかなか読ませました。関川夏央、やっぱりいいですね。