トシの読書日記

読書備忘録

ひたむきな頑固さ

2009-02-25 16:43:28 | や行の作家
山口瞳「居酒屋兆冶」読了

4度目くらいの再読です。これはいつ読んでもいいですねぇ。今の若い子が読んだとしたら、「ふるっ!」と一蹴されそうですが(笑)まぁ、僕が考えてもいまどきこんなまっすぐな男はいないでしょうがね。

だからこそいいんですね。兆冶のこの愚直なまでの一本気さが。いい話を読ませていただきました。

映画化もされましたが、高倉健、やはりハマリ役でしたね。

青春の通過儀礼

2009-02-25 16:26:11 | か行の作家
小池真理子「無伴奏」読了

毎週欠かさず聞いているFM愛知の「メロディアス・ライブラリー」で小川洋子が勧めていたので、買って読んでみました。普通の書店ではなかなか見つけられなくて、偶然ブックオフで見つけて100円で買ったんですが…

小川洋子が言うほどのもんでもないっていうのが第一感でした。これはなんでしょう…サスペンス?青春小説?まぁジャンル分けはいいとしても、僕には今ひとつでした。

仙台に昔、「無伴奏」というバロック音楽を中心に流す喫茶店があったそうで、その店のシーンが作中何度も出てくるんですが、その店の主人は、店をたたんだあと、どこかの山にこもってチェンバロ作りを始めたんだそうです。で、小川洋子が「やさしい訴え」という小説を執筆するにあたって、その元主人をなにかのつてで知り、取材をしたという、小池真理子と小川洋子はそんなつながりがあったんですね。

そんなこともあって本書を推薦したのかも知れませんが、僕にはちょっと…でした。残念です。

狂ってないですねぇ

2009-02-25 15:57:47 | は行の作家
ひろさちや「『狂い』のすすめ」読了

姉が、中島義道が好きならこれも読んでみたら?と言って持ってきたので読んでみました。

室町時代に編纂された歌謡集「閑吟集」の中にこんな歌があるそうです。

《何せうぞ くすんで 一期は夢よ たゞ狂へ》

「くすむ」とは「まじめくさる」という意味だそうです。

まじめくさったところで人の一生など夢でしかない、遊び狂え! といったところでしょうか。

この最初の「つかみ」の部分で、「お!」っと思ったんですが、後がどうにもいけませんでした。

まぁ、書いてある内容はもっともなんです。「常識にとらわれるな」「目的意識を持つな」「生きがいは不要」等々…なるほどねぇそうだよなぁと読み進めていって、読み終わったあと考えてみたら、全然残ってないんですね(笑)なんでしょうね、これは。いやな人のお説教が右の耳から左の耳に抜けていったような感じでした。

書いてある内容に深さがないというか、通り一辺な印象でした。作者が仏教の宗教家であるということにも僕自身偏見があったのかも知れません。

まぁ、こんな本もあるってことでいいと思います。

パリティ非保存説

2009-02-19 16:28:44 | は行の作家
広瀬正「鏡の国のアリス」読了

広瀬正、今ちょっとマイブームです(笑)

同作家の小説は、「ツィス」、「エロス」ときて、これが3冊めなんですが、これもなかなかよかった。鏡に写る像に関する研究というのが、昔からなされてきたようで、もうそれがかなり詳しくというか、マニアックに延々と書かれていて、そこはちょっとついていけませんでしたが(苦笑)

普通、SF作家というのは、アイデアとかプロットに溺れてしまってそこにのめり込んでしまう場合が往々にしてあるんですが、同作家の文章は叙情的ともいえる美しい文章を綴り、またエスプリのきいたユーモアも交えて読む者を飽きさせません。天才です。

原典となっているルイス・キャロルの同名の本、読んでみたいと思います。ついでといってはなんですが、あの有名な「不思議の国のアリス」も読んでみたくなりました。

悲しみの構図

2009-02-19 16:19:36 | は行の作家
フィッツジェラルド著 小川高義訳「若者はみな悲しい」読了

毎週欠かさず見るNHKBSの「週刊ブックレビュー」でどこかの大学の教授が勧めていたので買って読んでみました。

それほどでも…というのが正直な感想です。フィッツジェラルドといえば「華麗なるギャツビー」で有名な作家で、それを最近、村上春樹が訳したことでも話題になった人なんですが、どうなんだろ、これ。訳者の小川高義は「停電の夜に」「その名にちなんで」のジュンパ・ラヒリも手がけてましたが、同じ訳者でも、こうも違うものかと驚かされました。それだけ作家の資質が違うということで、まぁ当たり前のことなんですがね。

これを読んでから「グレイト・ギャツビー」にとりかかろうと思ってたんですが、やめときます。残念でした。

静謐に刻まれていく歳月

2009-02-16 17:00:34 | は行の作家
堀江敏幸「未見坂」読了

以前読んだ「雪沼とその周辺」と同じようなテイストの短編集です。

いいですねぇ堀江敏幸。「雪沼…」の感想の時にも書いたと思うんですが、「静謐」という言葉がこんなにぴったりくる小説はないですね。

子供(少年)が出てくる話がいくつかあるんですが、それが殊にいいです。最後の「トンネルのおじさん」なんかは、読んでて泣けてしまって困りました。泣かせるような話ではないんですがね(笑)

「雪沼とその周辺」を近いうちに再読し、続けて本書をもう一度味わいなおそうと思ってます。

もしも、あのとき

2009-02-13 11:02:35 | は行の作家
広瀬正「エロス」読了

以前読んだ「ツィス」がなかなか面白かったので、ちょっと手にとってみました。

大物女性歌手の過去を振り返り、もしもあのとき、こうなっていなかったらもう一つの人生はきっとこうなっていたのでは、と、まぁよくある手法ではあるんですが、そこがありきたりの話に終わっていないところが本作家が天才と称される所以であると思われます。

各章は「現在」と「過去」が交互にフラッシュバックのように絡み合って展開していき、途中から「もう一つの過去」が「歴史の分岐点」として介入しはじめ、それが最後に大きなどんでん返しにつながっていく・・・。この構成のうまさ!舌をまくとはこのことですねぇ。うまいもんです。

小説の、SFの醍醐味を堪能させてもらいました。

最後のポートレイト

2009-02-13 10:46:52 | さ行の作家
桜庭一樹「ファミリーポートレイト」読了

「私の男」で直木賞を受賞して以来の書き下ろし長編です。なんと1000枚!

途中、なんだかなぁと思う箇所がいくつもあり、投げ出しそうになりつつもなんとか読み通しました(笑)後半はなかなかおもしろかったです。

前半は母・マコと娘・コマコの逃避行です。後半は母を失った娘が余禄で生きながら、作家として目覚め、有名な文学賞を獲るというお話です。主人公の心情を書き表すのに、これでもかというくらいの類似語、対義語を繰り出し、「もうわかったから」と思わず読みながら突っ込みを入れてしまいました(笑)

でも、どうしても「ラノベ」出身というイメージがつきまとい、事実、「はぁ?」って思うような文章も散見されて、ちょっとついていけないところもあります。

小説としては非常におもしろかったんですが、桜庭一樹、ここらで見切りをつけたほうがいいのかなぁ・・・。

ほとんど狂人

2009-02-13 10:38:10 | な行の作家
中島義道「狂人三歩手前」読了

雑誌の「新潮45+」に連載していたものをまとめたもののようです。

中島義道、ちょっと久しぶりでした。でも、読んでみると意外にすらすら読めてしまい、(途切れ途切れに読んだんですが、合計で4時間くらいかな)あとになんにも残らないというか・・・。知ってるエピソードもたくさんあったし、彼の信条も以前に別の本で読んで大体わかっているし。でも何故か読んでしまうんですねぇ。

やはり私は、この人の前向きなネガティブさ(変な表現ですが)とかマイノリティであることを充分自覚した上での社会に対する正々堂々さ、みたいなものに強く惹かれるのかも知れません。

さすがに最近は新刊で買う気はないですが、読んでない文庫が出たらまた買ってしまうかもです(笑)

初心者向き?

2009-02-13 10:31:56 | ま行の作家
村上春樹「はじめての文学」読了

文藝春秋からシリーズで出ている「はじめての文学」の中の村上春樹です。

全部で17の短篇を村上春樹自身が選んで1冊の本に仕立てたようです。「はじめての文学」というシリーズの名前から察せられるように、割に低い年齢層(中高生?)を対象にしているようで、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を読んだあとでは少し、いや、かなり物足りない内容でした。まぁこんな本もあっていいんじゃない?って程度かな。

ただ。「沈黙」という短篇(中篇?)は、いつもの村上春樹とはちょっと違うスタイルで、なかなか興味深かったです。