トシの読書日記

読書備忘録

見つめて考える面白さ

2008-11-28 16:51:30 | あ行の作家
赤瀬川原平「じろじろ日記」読了


1996年というから12年前の本です。どうりで古い話題が多いと思った(笑)

しかしこの人は面白いですねぇ。発想がユニークです。いろんなものを「じろじろ」観察することで見えてくる意外な真相とでもいいましょうか。それをほんとに面白がってやってるところがいいんですね。

この人は、カメラを趣味にしてるんですが、新型カメラの発表会があり、会場に駆けつけるんですが、そこにはキャンペーンガールがうようよいて、昔ならそんなもの見向きもしないでカメラのボディに視線が釘付けだったのが、中年となってしまった今、むしろキャンギャルのボディに目がいってしまうと。
ここまではよくある話なんですが、この赤瀬川氏は、それをアインシュタインの相対性理論に結び付けて考えてしまうんです。びっくりしました(笑)

まぁ一筋縄ではいかない人ですねぇ。こんな人、好きですがね。

勧められるがままに

2008-11-28 16:40:37 | か行の作家
川上弘美「大好きな本」読了


またまた書評集です。今度は川上弘美が勧める144冊です。

奇をてらった文章が、やや鼻につくものの、なかなかいい選び方をしているなぁと感心した次第。

読んでみたい!と思わせる本が何冊かありました。メモを散逸してしまうといけないので、ここに記しておきます。



マリー・ダリュセック「めす豚ものがたり」
吉田知子「箱の夫」
松山巌「日光」
ターハル・ベン=ジェルーン「最初の愛はいつも最後の愛」
ローリー・ムーア「アメリカの鳥たち」
ジム・クレイス「死んでいる」
吉住侑子「真葛が原」
山本昌代「手紙」
辻原登「約束よ」
ドン・デリーロ「ボディ・アーティスト」
佐藤雅彦「毎月新聞」
伊井直行「お母さんの恋人」
松浦寿輝「あやめ 蝶 ひかがみ」
平田俊子「二人乗り」
小林恭二「電話男」
吉田修一「パレード」
田辺聖子「愛の幻滅」「九時まで待って」「愛してよろしいですか?」「恋にあっぷあっぷ」


以上、17作家、20作品です。

今、自分はNHKの「週刊ブックレビュー」という番組を見てどんな本を買うか決めてるところ大なんですが、やっぱり、こういった一流の作家のナビも必要だなとつくづく思いました。

良いも悪いもメッタ斬り

2008-11-22 18:01:06 | た行の作家
豊崎由美「正直書評」読了

あの豊崎氏の歯に衣着せぬ痛快な書評です。期待通りでした。おもしろいっすねぇこのおばはん。

全部で99冊の本を俎上に上げて、まぁ斬るわ斬るわ(笑)自分が読んだ本は、このうち19冊でした。自分の感想と豊崎氏の批評がどれも大体似た感じだったので、ほっと胸をなでおろしました(笑)

本書は、ちょっとおもしろい趣向があって、巻末に袋とじになってるところがあって、どれどれと開いてみると、石原慎太郎の「火の島」という長編小説の書評が載ってるんですが、すごい酷評をしてます。爽快でした(笑)

本当の自分を探す旅?

2008-11-22 17:44:17 | か行の作家
北尾トロ「男の隠れ家を持ってみた」読了

知らない町で肩書きのない自分を住まわせて、全く知らない人たちとコミュニケーションをとってみる・・・。ライターである北尾トロではない、本名の自分のアイデンティティの確立を模索する、まぁ自分さがしってことですかね。

日々の暮らしに追われる身にとっては、なんともぜいたくな悩みです(笑)

話そのものはなかなか面白かったんですが、勝手にやってくださいって感じです(苦笑)

漂う言葉たち

2008-11-17 15:20:51 | ま行の作家
村田喜代子「鍋の中」読了

で、読んでみました。「鯉浄土」を読んでからもう1度本書を読み返してみると、ずいぶん印象が変わりますねぇ。ただ、「鍋の中」は昭和62年の出版で21年前、「鯉浄土」はj平成18年なので2年前ということで、19年の隔たりがあります。やっぱり本書は初期の作品集ということで荒削りな部分も目立つんですが、まぁ、よくいえば瑞々しいってことですかね。なかなかよかったです。

ちなみに表題作「鍋の中」は第97回芥川賞を受賞してます。


破滅に突き進む愛

2008-11-17 10:21:10 | ら行の作家
レーモン・ラディゲ著 中条省平訳「肉体の悪魔」読了

カミュの「異邦人」の興奮がいまださめやらぬ今、なんとなくその勢いで読んでみました。

ちょっと拍子抜けですねぇ。これっていわゆる「古典の名作」として世に名高い作品ですよね。なんだかなぁ・・・。

簡単に言ってしまうと、15歳の男が19歳の人妻と出会い、愛し合い、彼女が妊娠し、出産したのち彼女が病気で死んでしまうというお話です。

訳者あとがきの一部を引用します。

「ラディゲの心理分析は、私たちの心を、その最高の喜びから最低の愚劣さまで、それはもう外科医のメスのように縦横に、残酷に切り刻んでいきます。しかし、その文章はけっして透明なものとはいえません。つまり、読者に明晰な意味を譲りわたしたあと、あっさりと消滅するような文章ではないのです。もっと言葉の物質的手ごたえとでもいいましょうか、ずっしりと重く、稠密な質量を感じさせる文章なのです。」

うーん・・・そうは思えないんですがねぇ。読み込み方が足りないんでしょうかね。とりあえず自分の心には響いてきませんでした。残念です。

現実と幻想のあわい

2008-11-17 10:04:24 | ま行の作家
村田喜代子「鯉浄土」読了

9編が収められた短編集です。姉が持ってきたので読んでみたんですが、この作家、以前に「鍋の中」というのを読んだことがあって、あんまり印象に残ってなくて、どうなんだろうなという気持ちで読み始めたんですが・・・。

なかなかどうして、いいじゃないですか(笑)「薔薇体操」というのがおもしろかったです。入院中の夫に代わって妻が仕事の書類を九州から大阪へ行って届けるんですが、その後、夫の同僚とホテルのレストランで食事をしたときに、そのホテルでここにいるはずのない夫の姿を認めるんですね。それが現実なのか、幻なのか、そこらへんの書き方が絶妙でちょっとうなりました。

あと、表題作の「鯉浄土」もなかなかでした。病気療養中の夫の滋養のために鯉を求めて鯉こくを作る話ですが、「命」というテーマを、夫と鯉のふたつの命を並べて料理する手さばきは見事でした。

また、継子殺しの民話をメタファーにした「庭の鷺」も幻想的な話で、なかなかよかった。

村田喜代子、あなどれません(笑)「鍋の中」、再読します。

男の哀愁

2008-11-17 09:18:12 | や行の作家
山口瞳「男性自身 おかしな話」読了


「山口瞳の会」会員としてはたまには読まないとねと思いまして。

やっぱりいいですねぇ。山口瞳はいいです。例えばこんなところ。

「私と関さんとがカラスミを中にして対座していた。こっちは宿酔である。一滴も飲めぬという心境である。それより、今日ここではじまったら、えらいことになるぞと思っていた。(中略)これは危険だ。関さんと目と目があう。笑ったら負けだ。しかし、遂に、私はこの重苦しいような空気に負けてしまった。私は駄目な男だ。『ウイスキイなんか・・・すこしぐらい、すこしずつ・・・ストレートで・・・飲むというのも・・・これは・・・どうだろうかな』」

この、やむにやまれぬという心持ちが、なんとも山口瞳的なんですねぇ(笑)

「もろともにあわれとおもえやまざくら」です(ってなんのこっちゃ)

リアリズムの極致

2008-11-07 12:49:36 | な行の作家
西村賢太「小銭をかぞえる」読了

ブログのO氏が「実におもしろい」と言っていたので、どれどれと思って読んでみたんですが・・・。

これはあれですね。車谷長吉の亜流といったところでしょうか。内容は、間違いなく自分のことを書いてあるんですが、ここまでさらけ出すか?というほど、普通なら絶対人に言いたくない、自分の浅ましさ、醜さ、卑怯な部分をまぁ繰り出す繰り出す・・・。ちょっと読んでで辟易しました。

車谷と大きく違う点は、車谷の私小説は、それが一つの文芸作品として昇華しているのに対して、西村のそれは、ただのもてない男の愚痴話に終わってるところですね。残念です。

これを読んでから、出世作の「どうで死ぬ身の一踊り」を読もうと思ってたんですが、やめときます(苦笑)

禁煙は愉しいのか

2008-11-07 12:30:05 | や行の作家
山村修「禁煙の愉しみ」読了

以前読んだものの再読です。ブログのB氏が「文章の点で、誰かひとり選べといわれたら、最終的にはこの人をおいてほかにない。」と言っていたので、再び手に取った次第。

私は喫煙者です。決して禁煙しようと思って読み始めたわけではないんですが、いや、実におもしろかった。

禁煙は辛抱ではないという。喫煙の衝動を意思の力でねじ伏せることでもないという。ではなにか。禁煙を愉しみなさいと説いておられるわけです。湧き上がる喫煙衝動の波に対して、それに立ち向かうのではなく、サーフィンのようにその波に乗れというんです。なんとなくイメージとしてわかる気もするのですが・・・。

禁煙のことは措くとして、著者の文章の上品で洒脱なこと!軽妙なユーモアを交えて綴られる文章は大変心地よく、思わず自分も禁煙してみるか、という気にさえさせてくれました(笑)


まぁ、禁煙するかどうか、一服つけてゆっくり考えてみます(笑)