トシの読書日記

読書備忘録

8月のまとめ

2014-08-29 11:42:07 | Weblog
今月読んだ本は以下の通り




村田喜代子「八つの小鍋――村田喜代子傑作短編集」
瀧澤美恵子「ネコババのいる町で」
フランツ・カフカ著 高橋義孝訳「変身」
源氏鶏太「レモン色の月」


以上の4冊でした。今月も4冊しか読めなかったんですが、瀧澤美恵子という作家を知ることができたのが大きな収穫でした。なんの気負いもてらいもなく、坦々と書いていく文章に魅せられました。


今、またマルケスのの長編を読んでいるんですが、2週間くらいかかってやっと半分です。面白いんですけどね。乞うご期待です。




8月 買った本0冊
   借りた本0冊

恨み晴らさで

2014-08-27 23:18:02 | か行の作家
源氏鶏太「レモン色の月」読了



昭和40~50年代に活躍した作家ということですから、同じようなジャンルの作家として獅子文六の少し後の世代ということになりましょうか。


軽いタッチのユーモア作家という風に聞いていたので、獅子文六と同じような作風を想像していたんですが、この短編集はちょっと違いましたね。


後書きによると、そういったユーモア小説は、もう書きつくした、とのことで、本作品集は、また違った方向で挑戦しているわけです。つまり、幽霊奇譚なんですね。


非業な死を遂げた人が幽霊になって恨みを晴らしに来る…。と言うと怪奇小説のようなものを想像しますが、そこは源氏鶏太ですからそんなおどろおどろしいものは書きません。幽霊が恨みを晴らすんですが、どこかちょっとおかしい、というか、軽い感じなんです。


まぁ、でも獅子文六ほどには楽しめなかったです。読んでも読まなくてもよかったかなと。



少し残念でした。

現代実存主義文学?

2014-08-18 16:44:26 | か行の作家
フランツ・カフカ著 高橋義孝訳「変身」読了



前回ブログを更新した日以来の久々の休みで、そして今日が私の誕生日です。58です。自分でもビックリです。それはともかく…。



恥ずかしながら初読です。いろんな情報で大体のあらすじとか知っていたんで読んだ気になっていたんですが、ちゃんと読もうと思って手に取った次第です。


超難解な作品と思い込んで覚悟を決めて読んだんですが、全然そんなことなかったです。というか、めちゃ面白かったです。この面白いというのは本当の意味で、笑える、ということです。


だって、ある朝起きたら自分が巨大なムカデになってるんですから。しかも、それでもなんとかして仕事に行こうとする主人公のグレーゴル・ザムザが笑えます。そしてまた父、母、妹の態度もおかしい。


これを現代実存主義文学だのなんだとしかつめらしい顔をしてあれこれ論ずるのはいかがなものかと。決して茶化してるわけではないんですが、とにかく笑える短編でありました。しかし、その変身譚の奥に潜むカフカの心の闇のようなものを読み取らないといけないんでしょうね。

人の情の光と影

2014-08-06 16:49:18 | た行の作家
瀧澤美恵子「ネコババのいる町で」読了



ずっと前から未読本の棚にあり、自分で買った覚えもなく、姉から借りた記憶もなく、かみさんに聞いてみても「?」という顔をされ、どういう経緯でこの棚に収まったのか、わからない本で、気になって読んでみたのでした。


そしたらこれがびっくり。めちゃ面白いんです。もっと早く読めばよかった。三編の中編が収められている単行本で、タイトルの「ネコババのいる町で」、これがよかった。人の情のもろさ、はかなさを描いて、読んでいる間、「そうだよなぁ、そうするしかないよなぁ」と激しく感情移入してしまいました。


アメリカ人の父と日本人の母を持つ3才の子供が、アメリカから一人で飛行機に乗せられ、日本の祖母と叔母の住む家に引き取られるところから話は始まります。日本語が全くしゃべれず、持て余す祖母と叔母の間で、「わたし」はとなりのネコババと呼ばれるおばさんの住む家で日がな遊び、成長していきます。


高校生になった時、自分の実の父親が名古屋にいると知って、単身、東京から名古屋の父の家に行くんですが、このくだりがなかなかよかった。父に会って何を話すか、どうするのか、全く考えずに行った「わたし」は父と近くの鰻屋へ行って食事をするわけですが、その後、父と別れて帰りの新幹線のなかでの「わたし」の心情を以下に引用します。

<席に坐ってから、わたしは急に父が懐かしくなった。それなのに、わたしの求めていた父の顔も父の匂いも、遠いもののように思われた。父を訪ねていったこと自体が疑わしくなってきた。父がどんな顔だったのかさえ、瞬時にもう思い出せないほどだった。>

このあたり、せつなくてやるせないです。



父も突然訪ねてこられて当惑したんでしょう。その空気を敏感に察知した「わたし」は食事もそこそこに「わたし、帰ります。」と言って帰ってしまうわけです。やはり、現実の話としては「涙の対面」みたいなこととにはならないんですね(もちろんこの小説もフィクションですが)。



あと、ほかに収められている「神の落とし子」「リリスの長い髪」の2編もなかなか良かったです。



一体に、いわゆる女流文学といわれる作家たち、本当にいい作家が多いですね。自分が好きな作家でも富岡多恵子をはじめ、多和田葉子、吉田和子、川上弘美、小川洋子、それに前回読んだ村田喜代子、そしてこの瀧澤美恵子と、枚挙にいとまがありません。もちろん男性作家も素晴らしい人達はたくさんいますが、妙に女性が目立つんですね。


本書で小説の面白さを存分に味あわせてもらいました。ごちそうさまでした。

綺想とユーモア

2014-08-06 16:36:20 | ま行の作家
村田喜代子「八つの小鍋――村田喜代子傑作短編集」読了



ちょうど本書を読んでいるとき、FM愛知の「メロディアス・ライブラリー」で本書を紹介したのでした。なんという偶然!びっくりしました。番組では、この短編集の中の村田喜代子の初期の代表作ともいうべき「鍋の中」を紹介していたんですが、さすが小川洋子氏、なかなか鋭い解説をしていました。いや、楽しかった。


本書は、その芥川賞受賞作の「鍋の中」の他に7編の短編が収められていて、最初の「熱愛」「鍋の中」「百のトイレ」は以前読んだもので、そのあとに載っている5編は初読だったんですが、この初期から中期にかけての村田喜代子というのは、脂が乗っているというか、実に面白い。奇想天外な物語を破綻させることなくまとめ、かつ面白く読ませる技術は並大抵のものではありません。これらの短編で、女流文学賞、川端康成文学賞等、さまざまな文学賞を受賞しているのもうなづけます。


次も女流文学、いってみます。