トシの読書日記

読書備忘録

横すべりしていく現実

2016-10-11 15:45:10 | や行の作家



吉田知子「吉田知子選集Ⅲ―そら」読了



吉田知子ミニフェアも本書で幕となります。「選集」をⅠ・Ⅱ・Ⅲと再読して感じたのは、この「Ⅲ」が図抜けていいということ。誰彼かまわずすすめたいくらいです。あ、でもこういったのは読む人を選びますね。


全部で九編の作品が収められた短編集となっております。やはり出色なのは「艮(うしとら)」「幸福な犬」「ユエビ川」「そら」あたりですかね。「ユエビ川」、この作品は不穏小説と言っておきましょう。全編、これ不穏です。読んでいる間、ものすごく居心地の悪さを感じ、しかし読まずにいられないという不思議な体験をしました。


最後に収められている「そら」、これもすごいです。ノサキヨネコという小学生が主人公なんですが、彼女の何とも交わらない視点が物語の異常な世界を形作っています。


巻末の町田康の「そら」に対する問題が出ているので引用します。

<この小説の主たる登場人物・ノサキヨネコはこの世の一切を動かぬ視点から等距離に見ており、がためにかれの所属する世界は通常の世界とは異なった世界である。がためにときに、小説世界で現象が物質化する。その様を描いた箇所をひとつ以上挙げたうえで、それを通常人の見る世界として描き直せ(例えば横山の視点で)。>


かなり難しい問いですが、よく考えればわかる気がします。


ここのところ、ずっと吉田知子を読んできて、この異常な世界にどっぷりつかってちょっと疲れました。がしかし、ほんと、面白かったです。

コメントを投稿