トシの読書日記

読書備忘録

対話で綴る「自伝」

2014-02-25 14:28:00 | あ行の作家
大江健三郎「大江健三郎――作家自身を語る」聞き手・構成 尾崎真理子 読了



姉に大江健三郎の「晩年様式集――イン・レイト・スタイル」を読み始めたと言ったら、「これを先に読んでから読むといいんじゃないかな」と言って貸してくれたのが本書です。


これはすごいインタビュー集でした。20代の芥川賞受賞のころの著作に始まって、「晩年様式集――イン・レイト・スタイル」に至る、大江健三郎のまさに「自伝」ですね。おととしから去年、約1年半かけて大江の作品を順を追ってずっと読んできた自分にとっては、格好の復習本でした。


「飼育」「死者の奢り」「芽むしり仔撃ち」等の初期の作品、一つのターニングポイントとなった「万延元年のフットボール」に代表される中期の作品、そしてこれも一つの分水嶺となった「懐かしい年への手紙」を始めとする、「燃え上がる緑の木 三部作」「宙返り」等の中・後期の作品群、さらに「おかしな二人組」三部作といわれる「取り替え子(チェンジリング)」「憂い顔の童子」「さようなら、私の本よ!」、「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」「水死」の後期の作品と、時間の流れに即して行われたインタビューに、自分の読書体験を重ね合わせ、そこで語られる創作秘話、その時その時の大江の精神状態に一つ一つ相槌を打ちながら「そうか、そうだったのか」などと独り言をつぶやきながら一気に読んでしまいました。


読み終えたあとも、またあちこちぱらぱらと拾い読みをしてしまうくらい、自分にとっては意義深い本でした。また聞き手の尾崎真理子という編集者がいいですね。大江健三郎をかなり深く読み込んでいます。だからこそ発せられる質問の数々に読み手としては唸らざるを得ません。


大江健三郎をさらに深く理解することのできた本書に感謝、感謝です。




姉に以下の本を借りる


大江健三郎「大江健三郎――作家自身を語る」聞き手・構成 尾崎真理子(即読了)
バーナード・マラマッド著 阿部公彦訳「魔法の樽」

偉大なるモンキー・ビジネス

2014-02-25 14:17:02 | さ行の作家
柴田元幸「代表質問――16のインタビュー」読了



柴田元幸シンパである姉から借りたものです。翻訳家として超売れっ子の柴田氏が国内外の作家、評論家にインタビューしたものをまとめたものです。インタビューイーは、テス・ギャラガー、リチャード・パワーズ、バリー・ユアグロー、村上春樹、古川日出男等々、そうそうたるメンバーです。


リチャード・パワーズが村上春樹の小説にインスパイアされたり、バリー・ユアグローが北野武の映画を賞賛していたりと、かなり興味深い話が載っています。


岸田佐知子との翻訳家同士の対談も面白かった。


本書の中で、ジャック・ロンドンという作家の「火を熾(おこ)す」(柴田元幸訳)が紹介されていて、なかなか面白そうなので買ってみようと思います。


やはり、柴田元幸という翻訳家、賢いですね。相手の語りをうまく引き出しています。たいへん面白く読みました。

異界の穴

2014-02-12 14:31:15 | あ行の作家
小山田浩子「穴」読了



先日の第150回芥川賞受賞作です。週に一度は行く銀行のマガジンラックに「サンデー毎日」が置いてあって、それに岡崎武志の「今週のイチオシ」(たしかそんなタイトルでした)というページがあり、毎週10冊くらいの本の書評が載っているんですが、それでこの作家の「工場」という作品が紹介されていて、興味をそそられて買って読んでみたのでした。それがすごく面白くて小山田浩子という作家に興味が湧き、本作品が芥川賞を受賞したという報を聞き、早速買って読んでみたわけです。


いやぁ面白いですね。このなんともいえない不穏な空気。只者ではありません。夫の転勤に伴い、夫の実家の隣へ越してきた夫婦の話なんですが、主人公はその妻。スーパーとコンビニはあるにはあるが、10分くらい歩かないといけないような不便な所で、そのスーパーへ行った帰りに黒い獣を見る。犬でもないきつねでもないその動物を追ううちに穴に落ちる。穴といっても自分の胸くらいの深さで、足元にその獣のいる気配がするのだが、暗くてよくわからない。


穴の外へ出ようと苦労していると、見知らぬ女性が声をかけてくれて引っ張り上げてくれる。聞いてみるとすぐ近所に住んでいる人らしい。この女性も不思議な人でしたが、夫の兄と名乗る男がいて、この男も変なやつで、元々夫に兄がいたなんていう話は聞いたことがないし、それを疑うのだが、その男は間違いなくお宅の旦那の兄だと言い張る。


こんな感じで話は進んでいきます。どうというオチもなくおわるんですが、前作の「工場」同様、謎な部分になんの説明も解釈もなく、その読み手を突き放す感じがかえって心地よかったりします。吉田知子を彷彿とさせる筆致で、非常に将来が楽しみな作家であります。


ただ、本書にはこの表題作のほか、「いたちなく」と「ゆきの宿」という連作の短編が収められているんですが、この二作品はちょっと食い足りなかったですねぇ。悪くはないんですが、「穴」の完成度に比べると及ぶべくもありません。


次作、どんな作品をぶつけてくるのか、刮目して待つことにしましょう。

テレビがまだ新しかった頃

2014-02-05 15:20:54 | さ行の作家
獅子文六「コーヒーと恋愛」読了



本好きの人のブログをあちこち見ると、この獅子文六という作家はかなり高い評価を受けております。それで気になって、ずっと以前「獅子文六集」という函入りの本をブックオフで100円で買ったのですが、そのまま忘れておりまして、本書はそれとは別に本屋でたまたま見つけたものであります。


2013年4月に発刊されたものですが、初出は1962年の新聞小説といいますから相当古いです。まだ自分が小学校1年生でした!


いわゆるユーモア小説というやつですが、いいですね。面白いです。こういっちゃあなんですが、毒にも薬にもならないところがいい。


お茶の間の人気女優である坂井モエ子、43歳が回りを巻き込んで繰り広げるドタバタ劇。コーヒーというのが大きなモチーフになっております。


ちょっと息抜きをさせてもらいました。




ネットで以下の本を購入する


大江健三郎「晩年様式集――イン・レイト・スタイル」
小山田浩子「穴」