堀江敏幸「回送電車Ⅱ 一階でも二階でもない夜」読了
久しぶりの堀江敏幸です。これは、一般的にはエッセイと呼ばれるものですが、この作家は「散文集」と言っています。まずここからこだわるわけですね。
いろいろな雑誌、文芸誌等に掲載された54編がおさめられています。堀江敏幸、やっぱりいいですねぇ。この作家は、自分の中ではベスト3に入る人です。
まず、この文体がいいですね。一番最初の「静かの海」と題された「散文」の書き出しを引用します。
「営業まわりをしているのでもないかぎり正常な勤め人ならまず出没しないような時間帯に繁華街からはずれた通りを歩いていていちばん気になるのは、というより足を休めるために気にせざるをえないのは、ビルとビルのはざまや私鉄のガード下や私道の一部にしか見えない場所にとつぜん魔界の口をあけている小公園で、学齢まえの幼児を遊ばせているお母さんたちの姿が消え、放課後は友だちの家でしか群れなくなっている小学生のうちわずかな例外ともいえる連中の声が短時間響くまでの、たぶん午後三時半から四時半近くにかけてのひと気のない空間に私は足を踏み入れ、なるべく乾いたベンチを選んで腰を下ろす。」
どうですか、この延々と句点なく続いていく文章。最初は、何を言いたいのかさっぱりわからず、読んでいくうちに、それもだいぶ後の方でやっと見えてくるという、この堀江氏の遠回しというか、修飾過多というか、でもやっぱりこれが堀江敏幸の魅力なんですね。あ、いかん、堀江氏の文体がうつってしまった。
何でもない事がら、風景からいろいろなことを思い起こしたり、感じとったり、それが同作家の繊細な神経によって紡ぎ出されるそれらの文章は、読んでいて本当に心地いいです。
最近は、小説(長編)がなかなか出ないので、ちょっと淋しいですねぇ。刮目して待っております。
久しぶりの堀江敏幸です。これは、一般的にはエッセイと呼ばれるものですが、この作家は「散文集」と言っています。まずここからこだわるわけですね。
いろいろな雑誌、文芸誌等に掲載された54編がおさめられています。堀江敏幸、やっぱりいいですねぇ。この作家は、自分の中ではベスト3に入る人です。
まず、この文体がいいですね。一番最初の「静かの海」と題された「散文」の書き出しを引用します。
「営業まわりをしているのでもないかぎり正常な勤め人ならまず出没しないような時間帯に繁華街からはずれた通りを歩いていていちばん気になるのは、というより足を休めるために気にせざるをえないのは、ビルとビルのはざまや私鉄のガード下や私道の一部にしか見えない場所にとつぜん魔界の口をあけている小公園で、学齢まえの幼児を遊ばせているお母さんたちの姿が消え、放課後は友だちの家でしか群れなくなっている小学生のうちわずかな例外ともいえる連中の声が短時間響くまでの、たぶん午後三時半から四時半近くにかけてのひと気のない空間に私は足を踏み入れ、なるべく乾いたベンチを選んで腰を下ろす。」
どうですか、この延々と句点なく続いていく文章。最初は、何を言いたいのかさっぱりわからず、読んでいくうちに、それもだいぶ後の方でやっと見えてくるという、この堀江氏の遠回しというか、修飾過多というか、でもやっぱりこれが堀江敏幸の魅力なんですね。あ、いかん、堀江氏の文体がうつってしまった。
何でもない事がら、風景からいろいろなことを思い起こしたり、感じとったり、それが同作家の繊細な神経によって紡ぎ出されるそれらの文章は、読んでいて本当に心地いいです。
最近は、小説(長編)がなかなか出ないので、ちょっと淋しいですねぇ。刮目して待っております。