トシの読書日記

読書備忘録

「家族」というフィクション

2009-01-26 17:08:42 | た行の作家
富岡多恵子「逆髪」読了

富岡多恵子の長編を久々に読みました。期待にたがわず読ませてくれました。大満足です。

かつて子供姉妹漫才で鳴らした二人のその後を追いつつ、妹の鈴江を中心にその周りの人たちとの関わりから鈴江の生き方、姉である鈴子の生き方を対比させながら流れていくという話です。

前にも言ったんですが、自分は「家族」というテーマにはそれほど興味がないんですが、本作家の描くところの「家族」には簡単に吸い寄せられてしまうんですねぇ。

狂女逆髪と盲法師蝉丸をモチーフにもってくるところなど、唸らざるを得ません。しかし、この力強い文体はなんなんですかねぇ。すべてをなぎ倒して突き進むブルドーザーのようです(笑)

町田康の解説もなんともつかみどころがなくて、それがいかにも町田康らしくて楽しませてくれました。

「私」という心を「私」がいかに生きるか

2009-01-26 16:41:22 | さ行の作家
白石一文「草にすわる」読了

表題作のほか、「砂の城」「花束」の2編が収められた短編集。

以前、「僕のなかの壊れていない部分」を読んで興味を持ち、今度はこれを読んでみました。

訴えたいことはわかるし、そうだよなぁと同意できる部分もあるんですが、この作家の致命的な欠点は、文章の表現力がかなり稚拙という点ですねぇ。これを小説として読むのでなく、話の中の登場人物を通して作者の観念を迸らせるという手法を使った「哲学書」と思えば、かなり落ち着いた気持ちで読むことができます(笑)

「草にすわる」以外の短篇には、特に見るべきものはないです。「砂の城」はこむずかしい熟語や言い回しを使って高尚な作品に仕立て上げようという姑息な魂胆がみえみえだし、「花束」に至っては、なんですか?これ。安っぽい社会派ヒューマニズム?これが初期の頃の作品なら笑ってすますこともできるんですが、わりと最近の作品のようなので、ちょっとため息です。

白石一文、ここらで見切りをつけたほうがいいのかも知れません。

胸のすく鼎談

2009-01-26 16:23:15 | あ行の作家
上野千鶴子・小倉千加子・富岡多恵子「男流文学論」読了

当世「札付き」の関西女性3人が、「大家」といわれてゆるぎないステイタスを誇る男性作家6人を独自の視点で切り捨てる座談形式の文学論です。

切捨てられる男性作家は、吉行淳之介、島尾敏雄、谷崎潤一郎、小島信夫、村上春樹、三島由紀夫の6人。

非常に過激な意見が飛び交っておもしろかったです。基本的なスタンスが、世に名作とうたわれて確固たる地位を築いている作品が、ほんとにそうなのかと疑うところからスタートしているので、ほとんどの作家がけなされまくられてます(笑)

ことに吉行淳之介なんかはもうみそくそでしたねぇ。村上春樹も、かなりあげつらわれていましたが、取り上げた作品が「ノルウェイの森」だったので、まぁこれもむべなるかなと(笑)

これを読んで、小島信夫の「抱擁家族」を逆に読んでみたくなりました(笑)

たぐい稀な男の人生

2009-01-13 17:01:57 | あ行の作家
井上荒野「あなたの獣」読了

短編集と思いきや、10の話に分けられてはいるものの、主人公は常に同じで、かといって長編というジャンルにも属さないような不思議な小説です。

櫻田哲生という男の女性をめぐる様々な物語が断片的に連なっています。時系列が順になっていないのでちょっととまどうところもありますが、櫻田哲生の結婚する少し前の時代から75才で死ぬまで(死ぬ場面は描かれていない)の話です。

最近の井上荒野は「グラジオラスの耳」に代表されるような、なんともいえない、いやな感じ(それは僕にとって好ましい空気なんですが)が影をひそめ、非常にわかりやすい話になってます。しかし、荒野のもつ独特のテイストは失われておらず、これはこれで良いのではと思っております。

ところどころに挿入されるエピソードがシュールな雰囲気を醸しており、これは川上弘美あたりの小説を思い起こさせます。

ともあれ井上荒野、快調です。

静寂にして過激

2009-01-13 16:44:06 | た行の作家
富岡多恵子「動物の葬禮・はつむかし」読了


作者自身による自選短篇集とのことで

「窓の向こうに動物が走る」
「動物の葬禮」
「はつむかし」
「魚の骨」
「立切れ」
「末黒野(すぐるの)」
「野施行(のせぎょう)」
「雪の仏の物語」
「花の風車(かじまやー)」
 
の9編が収められている。
最後の2編を除いて一貫しているのは「家族」「家庭」というテーマである。これは、どの小説家もこぞって取り上げるものではあるが、同作家の切り口は独特で、そういったテーマに実は自分はあまり興味がないのだけれども、思わず引き込まれて読み入ってしまう、そんな力強いものをこの作家は持っている。

過剰な修飾語を極力排した文章は一種そっけないほどではあるが、晴れ渡った冬空のようにきりりと冴えわたっている。

以前読んだ「波うつ土地・芻狗(すうく)」と同様、淡々とした文章でありながら実はものすごくラディカルな内容で、読む者の心臓の高鳴りを抑えることができない。

「丘に向かってひとは並ぶ」で初めて富岡多恵子を知って以来、同作家のとりこです。とにかくすごい作家です。

周到な文章力

2009-01-06 19:05:28 | は行の作家
堀江敏幸「おぱらばん」読了

パリ郊外に住む筆者(?)の身の回りに起こる出来事を小説のように、あるいはエッセイのように綴った短編集。三島賞を受賞してます。

いやぁうまいなぁ。ほんと、文章の達人です。この作家は何冊も読んだんですが、毎度唸らされます。余談ですが、この間読んだ須賀敦子の文章もこの作家と似たテイストですね。

文章の巧みさ、その中から立ち昇る教養の深さ・・・。恐れ入りました。

2008年を振り返って

2009-01-06 18:19:57 | Weblog
パソコンが調子が悪くて困ってましたが、今日、リカバリーをしまして全て消してしまいました。新年にふさわしく、まっさらな気持ちでブログを続けたいと思っております。

さて、2008年に読んだ本は数えてみたら139冊もありました。もうこれはビョーキですね(笑)その中で特におもしろかった本をあげてみたいと思います。全部で30冊です。ですからベスト30ってことですね


《1》 井上荒野「切羽へ」
《2》 町田康「宿屋めぐり」
《3》 村上春樹「羊をめぐる冒険」(上)(下)
《4》 イーユン・リー著 篠森ゆり子訳「千年の祈り」
《5》 桜庭一樹「私の男」
《6》 絲山秋子「海の仙人」
《7》 町田康「告白」
《8》 橋本治「夜」
《9》 小池昌代「タタド」
《10》蜂飼耳「紅水晶」
《11》井上荒野「グラジオラスの耳」
《12》絲山秋子「ばかもの」
《13》村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」3部作
《14》アルベール・カミュ著 窪田啓作訳「異邦人」
《15》エイミー・ベンダー著 菅啓次郎訳「燃えるスカートの少女」
《16》ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳「停電の夜に」
《17》山口瞳「江分利満氏の華麗な生活」
《18》井上荒野「ベーコン」
《19》町田康「パンク侍、斬られて候」
《20》小池昌代「屋上への誘惑」
《21》ジャネット・ウィンターソン著 岸本佐知子訳「灯台守の話」
《22》小池昌代「感光生活」
《23》村田喜代子「鯉浄土」
《24》吉本ばなな「キッチン」
《25》朝倉かすみ「タイム屋文庫」
《26》ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳「その名にちなんで」
《27》須賀敦子「ヴェネツィアの宿」
《28》中島義道「時間を哲学する」
《29》筒井康隆「ダンシング・ヴァニティ」
《30》中島義道「孤独に」ついて」



とまぁ、こんな感じなんですが、順位はどうしてもこれじゃなきゃダメってわけでもないです。5位~25位くらいは順番が変わっても一向にかまわないんですがね(笑)

№1は、この人を選ばなきゃいけないって気持ちで井上荒野「切羽へ」にしました。あと、再読してぐっとのめりこんでしまったのが同作家の「グラジオラスの耳」です。11位にランクインさせました。あと、町田康の小説もほんとおもしろくて2位、7位、19位にいれました。

それから、2008年の読書で大きく変わったのは、翻訳物を多く読むようになったことです。これは岸本佐知子のエッセイ「気になる部分」とか「ねにもつタイプ」ではまり、この人の訳なら面白そうと入っていった次第です。


今年も、充実した読書ライフを送りたいと思っておりますです。