トシの読書日記

読書備忘録

1月のまとめ

2014-01-31 17:02:54 | Weblog
今月読んだ本は以下の通り



リチャード・フォード他著 村上春樹編・訳「恋しくて」
多和田葉子「旅をする裸の目」
トルーマン・カポーティ著 河野一郎編・訳「カポーティ短編集」
ロバート・ニュートン・ベック著 金原瑞人訳「豚の死なない日」
大塚滋「野の牝鶏」
ラッセル・バンクス他著 村上春樹編・訳「バースディ・ストーリーズ」
種田山頭火「草木塔」



以上の7冊でした。1月にしては読めたほうです。春樹訳のアンソロジー2冊がよかったですね。ノーベル賞作家のアリス・マンローの作品も読めたし。最後の山頭火にも深く考えさせられました。山頭火には「孤高」という言葉が似合うと思っていたら、最後の方で山頭火自身が「孤高というのは夜郎自大のシノニムに過ぎない」と切って捨てております。すごいです。




姉から以下の本を借りる


尾崎放哉「尾崎放哉全句集」村上護編
アントニオ・タブッキ著 和田忠彦訳「夢のなかの夢」
柴田元幸「代表質問――16のインタビュー」
本谷有希子「嵐のピクニック」
吉田知子「吉田知子選集Ⅱ――日常的隣人」
文藝春秋2013年12月号、2014年1月号、2月号


また、地元で唯一のお気に入り書店 安藤書店で以下の本を購入


多和田葉子「ヒナギクのお茶の場合」
幸田文「番茶菓子」




1月 買った本 4冊
   借りた本 8冊

いつでも死ねる

2014-01-31 16:23:12 | た行の作家
種田山頭火「草木塔」読了



姉が100円ショップの「ダイソー」で売っていたと言って貸してくれたものです。なんと本書は「ダイソー文学シリーズ」と銘打ってその⑲ということで発刊されたものです。ダイソーは本の出版まで手がけてるんですね。びっくりです。それはさておき…


本書は自由律俳句の種田山頭火の句を網羅したもので、701句が掲載されています。有名なところで


うしろすがたのしぐれてゆくか

まっすぐな道でさみしい


この2句ではありますが、自分がこれは、と思ったものを以下に並べてみます。たくさんあってちょっと絞りきれませんでした。



歩きつづける彼岸花咲きつづける

食べるだけはいただいた雨となり

どうしようもないわたしが歩いてゐる

捨てきれない荷物のおもさまへうしろ

月が昇って何を待つでもなく

誰か来さうな空が曇ってゐる枇杷の花

やっぱり一人がよろしい雑草

明けてくる鎌をとぐ

こほろぎよあすの米だけはある

人を見送りひとりでかへるぬかるみ

ここにかうしてわたしをおゐている冬夜

いつでも死ねる草が咲いたり実ったり

ともかくも生かされてはゐる雑草の中

わかれてきた道がまつすぐ

旅はいつしか秋めく山に霧のかかるさへ

さて、どちらへ行かう風がふく

もう逢へますまい木の芽のくもり

乞ひあるく水音のどこまでも

誰も来ないとうがらし赤うなる

ひつそり暮らせばみそさざい

何を求める風の中ゆく

それもよからう草が咲いてゐる

死をまへに涼しい風

また一枚ぬぎすてる旅から旅

てふてふひらひらいらかをこえた

みんなかへる家はあるゆふべのゆきき

わたしひとりの音させてゐる

何おもふともなく柿の葉のおちることしきり

わかれて遠い人を、佃煮を、煮る

悔いるこころの曼珠沙華燃ゆる

産んだまま死んでゐるかよかまきりよ

けふは凩(こがらし)のはがき一枚

しみじみ生かされてゐることがほころび縫うとき

一つあれば事足る鍋の米をとぐ

ぢっと瞳が瞳に喰ひ入る瞳

風の中おのれを責めつつ歩く

誰を待つとてゆふべは萩のしきりにこぼれ

雨ふればふるほど石蕗(つわぶき)の花

ここに月を死のまへにおく

ごろりと草に、ふんどしかわいた

風のなか米もらひに行く

石に腰を、墓であったか





ちょっと並べすぎたきらいもありますが、このなんともいえない寂寥感が読む人の心をとらえます。行乞という、人に食べ物を分けてもらって旅をする山頭火にとっては、とにかく食べるものがないということが即、死につながることから、食べ物、特に米が出てくる句が多いです。これだけ自分を深く見つめる姿勢、ちょっと凡人には真似できません。





ハッピー・バースディ・トゥー・ユー

2014-01-31 16:06:14 | ま行の作家
ラッセル・バンクス他著 村上春樹編・訳「バースディ・ストーリーズ」読了



先日読んだ「恋しくて」同様、誕生日をテーマにした短編を村上春樹が選び、訳したアンソロジーです。本書の方が「恋しくて」よりも前に刊行されています。


誕生日がどうのというより、こういった知らない作家の短編をいろいろ味わえるというのが、こういったアンソロジーの醍醐味ですね。


自分が面白いと思ったのはラッセル・バンクスというアメリカの作家の「ムーア人」という作品。仲間と3人でレストランバーへ1杯やりに行ったところ、70代くらいの女性が家族と誕生日のお祝いに来ていて、その女性から声をかけられる。30年ぶりに会った彼女は主人公が昔、若い頃、性の手ほどきを受けた女性だった。お互い、久闊を叙す訳だが、その時の老女のセリフ「…ところで私に出会ったとき、あなたは童貞だったの?」それに対して中年男は「イエス」と答える。このやり取りがいいですね。若い頃のほろ苦い思い出というやつです。


ほかにもポール・セローの「ダイス・ゲーム」とか、クレア・キーガンの「波打ち際の近くで」とか、ちょっと奇妙な作品もあり、充分に楽しませてくれました。ちなみにポール・セローという作家は、ちょっと前に読んだ「極北」のマーセル・セローのお父さんなんですね。親子で素晴らしい作家です。


こんな具合に、未知の作家に出会い、またそこから読書が広がっていく、これは本好きにはたまらない楽しさです。春樹氏に感謝です。

生きることを肯定する人たち

2014-01-27 15:35:49 | あ行の作家
大塚滋「野の牝鶏」読了



これも何年か前にブックオフで100円で買ったものです。7つの中・短編が収められた作品集です。古いものは1955年から1993年に渡る、著者の集大成のようなものでしょうか。この作家はネットで調べてみると著述業が本業ではないようで、生化学、食品文化学の方面が専門の人で、この作品もいわゆる同人誌に掲載されたものをまとめたとのことです。


しかし、本格的なプロでないにしても、筋立てとか人物描写、心理描写、かなり巧みの技です。面白く読みました。1928年生まれということで、いわゆる「戦中派」で、作品の中にもその時代の空気が色濃く反映されています。


たまにはこういった小説もいいもんです。

シェーカー教の教え

2014-01-24 16:37:49 | は行の作家
ロバート・ニュートン・ペック著 金原瑞人訳「豚の死なない日」読了



何年か前にタイトルに惹かれて「ブックオフ」で100円で買ったまま忘れてしまっていた本を、やっと読んでみました。


なんとなく想像していた内容とは全く違うもので、ちょっと拍子抜けという感じでした。これはあれですね、中高生くらいの人が読むと、ぐっとくるんじゃないでしょうか。


主人公のロバート(著者と同じ名前です)は13才の少年。父のヘイブンと母、伯母の3人暮らし。父は借地で牛・にわとりを飼い、りんごを育て、そして豚の屠畜の仕事をしている。父は熱心なシェーカー教徒で、その教えを忠実に守り、それを子供に伝承していこうとしている…。という、これはその父に対する子供の成長物語なのであります。


最後、ロバートの育てている牝豚が不妊症とわかり、父と二人で殺してしまうところは、ちょっと涙がこぼれてしまいました。そしてそれから数ヶ月して父が肺炎で亡くなってしまうところも。


それなりによくできた小説だと思います。息子の嫁さんあたりがこれを読んだらきっと感動すると思うので、今度貸してやろうと思います。




所要で出かけたついでに地元の本屋に寄り、大江健三郎の新刊を探すが見当たらず(さすが田舎の本屋!)手ぶらで帰るのもなんなので以下の本を購入


獅子文六「コーヒーと恋愛」
中島義道「哲学の道場」(性懲りも無く)

犬は吠える

2014-01-24 16:26:24 | か行の作家
トルーマン・カポーティ著 河野一郎編・訳「カポーティ短編集」読了



最近たまに行くイタリアンのお店で働いている女性(シェフの奥さんか?)と話をしていると、なんと彼女も大の本好きということが分かり、読書談義に花が咲いたのですが、彼女が一番好きな作家がこのカポーティということで、以前、姉に借りていたのを思い出して読んでみたのでした。


しかし、自分にはちょっとしっくりこなかったですね。かなり初期のものから晩年に至るまでの、まだ日本で翻訳されていないものを中心に河野氏がセレクトしたようなんですが、どこを楽しめばいいのか、ちょっと戸惑いました。


ただ、一番最後に入っている「無頭の鷹」という中編。これは他の作品とまったく色合いを異にしていて、ものすごく引き込まれました。時間軸をわざとずらせたような手法も斬新で、ちょっとついていくのが大変でしたが、なかなか面白かったです。


カポーティはやはりあの有名な「ティファニーで朝食を」や「冷血」あたりを読まないと充分な魅力が伝わってこないのかも知れません。



ちょっと残念でした。

視覚と言語

2014-01-24 16:09:50 | た行の作家
多和田葉子「旅をする裸の目」読了



書棚の未読本コーナーを眺めていたら、なんと本作品がありました。多和田葉子の本を読まずにほっとくとは、我ながらお恥ずかしい限りです。


ベトナムの女子高生の「わたし」は学校からの推薦で講演をするため東ベルリンへ行く。そこで知り合ったヨルクという青年に拉致される。モスクワへ行けば帰国の手続きができると思った「わたし」は、そこを逃げ出して、来た列車に乗り込むのだが、その列車はパリへ着いてしまう。パリの映画館で見たカトリーヌ・ドヌーヴに心酔し、娼婦の住む地下室に居候しながら「わたし」は何度も映画館へ足を運ぶ…。


というストーリーなんですが、なんともいいですね、やっぱり。結局「わたし」は最後にヨルクと再会するのですが、もうその時には「わたし」の頭の中には「帰国」という意識はないんですね。最後までカトリーヌ・ドヌーヴ命なんです。


この「見る」という行為が言葉にもたらすものがどんなものなのか、多和田はこの小説で実験したといえると思います。自分にはそこいらへんはちょっと難解でなかなか理解しづらいのですが、小説としてはすごくたのしめました。


いやぁ多和田葉子、やっぱりいいわ。

暗がりの中のたき火のように

2014-01-24 15:56:50 | ま行の作家
リチャード・フォード他著 村上春樹訳「恋しくて」読了



9人の作家が著した短編ラブ・ストーリーを村上春樹が訳した、いわゆるアンソロジーというやつです。どれもこれもなかなかいいです。


特に良かったのはリチャード・フォードの「モントリオールの恋人」。男はバツイチの独身弁護士で世界を飛び回っている。女は夫と一人の子供がいて、二人は仕事の関係で知り合い、一緒に仕事を続けていくうち、不倫の関係となる。

二人共、もう別れなければという思いがあり、ある日、カナダのモントリオールのホテルで密会したあと、彼女がある仕掛けをする。これがびっくりでした。なかなかよく出来た小説です。村上春樹の訳もいいですね。


一番最後に春樹自身が書いた「恋するザムザ」という作品が載ってるんですが、これはどうなんですかねぇ。やっつけ仕事という臭いがぷんぷんします。


ずっと前に誕生日にまつわる作品を編んだアンソロジーの「バースデー・ストーリーズ」というのがやっぱり春樹訳で出ていたことを思い出しました。書棚の未読本コーナーにあるので、近々読んでみます。

2013年を総括

2014-01-07 15:43:58 | Weblog
毎年恒例の1年の総まとめをしてみたいと思います。


去年は、商売の方が思うような業績を上げられず、苦しんだ1年でした。秋から始めた新しい業態で、なんとか生き延びてはおりますが、マイナスが少し軽減されたくらいで、本格的な立ち直りはまだまだ先になりそうです。そんな状況での読書だったので、なかなか気持ちが入り込めず、特に後半は冊数も少なく、味気ないものとなってしまいました。


まぁそんな中で去年、特に面白かった本を以下に列挙します。いつものことながら、ランキングにはそれほど厳密なものはありません。



① 大江健三郎「宙返り」(上)(下)
② 大江健三郎「燃え上がる緑の木 第1部――救い主が殴られるまで」
③ 大江健三郎「燃え上がる緑の木 第2部――揺れ動く(ヴァシレーション)」
④ 大江健三郎「燃え上がる緑の木 第3部――大いなる日に」
⑤ ジャネット・ウィンターソン著 岸本佐知子訳「灯台守の話」(再読)
⑥ 幸田文「黒い裾」
⑦ 野呂邦暢「白桃――野呂邦暢短編選」豊田健次選
⑧ 多和田葉子「飛魂」
⑨ 大江健三郎「懐かしい年への手紙」
⑩ 吉田知子「脳天壊了(のうてんふぁいら)」
⑪ 堀江敏幸「時計回りで迂回すること――回送電車Ⅴ」
⑫ 丸谷才一「年の残り」
⑬ 多和田葉子「ゴットハルト鉄道」
⑭ 大江健三郎「取り替え子(チェンジリング)」
⑮ 大江健三郎「憂い顔の童子」
⑯ 大江健三郎「さようなら私の本よ!」
⑰ 小山田浩子「工場」
⑱ 川上弘美「なめらかで熱くて甘苦しくて」
⑲ 堀江敏幸「雪沼とその周辺」(再々読)
⑳ 中島義道「ニーチェ――ニヒリズムを生きる」
21 大江健三郎「水死」
22 村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」
23 中上健次「枯木灘」
24 久生十蘭「十蘭レトリカ」
25 丸谷才一「たった一人の反乱」
26 野坂昭如「マリリン・モンロー・ノー・リターン」
27 スティーヴン・ミルハウザー著 柴田元幸訳「マーティン・ドレスラーの夢」



とまぁこんな具合です。2012年から13年にかけてずっと大江健三郎を中心に読んできたので、いきおい、大江中心のランキングとなっております。あと、吉田知子、多和田葉子、幸田文と女性作家も多くランクインしました。そして小山田浩子。この人は発見でした。この作品ではないのですが、小山田浩子は、近く発表される芥川賞にノミネートされております。そして秋口に何冊か立て続けに読んだ丸谷才一。やっぱりこの作家はいいです。亡くなってはや1年ちょっとですか…ほんとに惜しいです。


今年はどんな年になるんでしょうか。仕事の方がまだまだ安定しなくて、どれくらい本が読めるのか、いささか心もとない状況ではありますが、自分をわくわくさせてくれる本との出会いを期待してぼちぼちやっていこうと思っております。


2013年 読んだ本 71冊
      買った本 30冊
      借りた本 29冊