トシの読書日記

読書備忘録

1月のまとめ

2010-01-31 17:51:29 | Weblog
今月は、今日が最終日ですが、今読みかけの本が終わりそうにないので総括してみます。


今月読んだ本は、以下の通り。


夏目漱石「門」
開高健「珠玉」
中島義道「後悔と自責の哲学」
夏目漱石「彼岸過迄」
村上春樹 短編集「めくらやなぎと眠る女」
開高健「日本三文オペラ」


以上の6冊でした。普段の月の半分ですね。お正月が忙しくて読めないってのもあるんですが、夏目漱石、ちょっとお腹いっぱいというか、飽きてきました(笑)読んでても、ただ字面を追ってるだけで、気が付いてまたちょっと前から読み直すというのがちょいちょいあって、1冊読むのに時間がかかったんですね。でもまだ4冊残ってるんで、頑張りますが。


今月は特筆すべきものはないですねぇ。村上春樹が面白いのは当たり前だし、まぁあとは漱石と開高ですからねぇ…。しかし、開高健は、彼の心の奥底の闇のようなものが見えてきたような気がします。開高健、あと1、2冊いってみます。

寂寞としたエネルギー

2010-01-31 16:22:00 | か行の作家
開高健「日本三文オペラ」読了


まだまだ開高健のマイブームは続きます。

出世作「パニック」で文壇の寵児に躍り出た本作家は、「裸の王様」、「巨人と玩具」と次々に問題作を発表し、その後に刊行されたのが本作品であります。

大阪の旧陸軍工廠の広大な敷地に埋もれている鉄骨、銀板、アルミ等の残骸。別名「杉山鉱山」と呼ばれるこの地に目をつけた泥棒集団“アパッチ族”が警察の取り締まりを尻目に日毎夜毎それらを盗み出すという話です。時代背景は、多分昭和30年代だと思うんですが、実際にそれに近いことはあったんでしょうね。かなりのリアリティでもって描かれています。

人間が生きていくには食べないといけない、そうするにはお金が必要だと。そのためには手段を選ばずどんなことでもする、という、人間の根源的なエネルギーがこれでもかというくらい迫ってくる小説です。しかし、読後、感じるのはその圧倒的なエネルギーの後ろに隠されたやり切れない淋しさに似た感情でした。

「輝ける闇」「夏の闇」あたりにも共通する読後感ですが、凄まじい感情の爆発の背後に見え隠れする、淋しさ。生きていくのはなんと虚しく悲しいことなのかという、あきらめにも似た感情が読む者の心を襲います。

よく晴れた5月の最初の日曜日のような

2010-01-22 16:18:52 | ま行の作家
村上春樹 短編集「めくらやなぎと眠る女」読了


というわけで、さっそく読みました。この短編集は、(多分)10年ほど前にアメリカで出版されたものをそっくりそのまま日本語版として発刊した、いわば逆輸入のような体裁をとっています。


全部で24の短篇が収められていますが、最後の方の6編は、「東京奇譚集」として何年か前に出てます。まぁ「めくらやなぎ――」を買うなら「東京――」は買わなくてもよかったんですがね。ほかにもどこかで読んだぞこれっていうのがいくつかありました。しかし、それらの作品も、もう1回読み直すことでまた新たな味わいもありました。


この中で面白かった作品は、表題作でもある「めくらやなぎと、眠る女」「我らの時代のフォークロア――高度資本主義前史」「「ハンティングナイフ」「人喰い猫」(これは長編「スプートニクの恋人」の一部に入ってます。)「七番目の男」「トニー滝谷」「偶然の旅人」「ハナレイ・ベイ」あたりかな。


村上春樹の小説に関して言えることは(短篇も長編も含めて)登場人物が、大体において醒めてるのが大きな特徴であると思います。感情をストレートに表さない、あまりしゃべらない、あわてない、あせらない…等々。まぁそれが読んでて心地良いんですね。かっこよすぎるというきらいもありますが。


なんだかんだ言っても、やっぱり村上春樹は自分の中では特別な存在です。

相対的な精神分析

2010-01-22 15:56:25 | な行の作家
夏目漱石「彼岸過迄」読了


この小説のタイトルは、小説の前書きにあるとおり、これは新聞の連載小説なんですが、彼岸過ぎまでには書き終えるという、大した意味はないということです。


この小説は、なかなか面白かったです。須永という、誠実で真面目ではあるが行動力のない優柔不断の男が主人公なんですが、物語はその須永の親友である敬太郎の視点で描かれています。これは、解説にあるように敬太郎は「吾輩は猫である」の猫と同じ役回りであるということに気づくのに、読み進んでいくうちにようやくわかったという次第です。


細かい筋は省きますが、結局須永は千代子とは結ばれない運命なんだなと思います。文中にあるように、結ばれても地獄、結ばれなくても地獄という、二律背反の物語でありました。


こうして夏目漱石を何冊か読んできて思ったのは、「草枕」「坑夫」等を除けば、大体が男女の愛の物語であり、またそのほとんどが三角関係であったり、本作品のようにどちらかの性格が普通でなかったりと、なかなか一筋縄でいかない話なんですね。まぁだからこそそれが小説として成り立つんでしょうけど。

夏目漱石、残りあと4冊です。まだまだ楽しみは続きます。




所用で名古屋市内に出たついでにジュンク堂に寄り、以下の本を購入。


村上春樹 短編集「めくらやなぎと眠る女」
田中慎弥「犬と鴉」
志賀直哉「小僧の神様・城の崎にて」
三崎亜記「失われた町」
黒井千次「たまらん坂」
多和田葉子「犬婿入り」
高野悦子「二十歳の原点」
夏目房之介「孫が読む漱石」

運命と偶然

2010-01-13 12:24:41 | な行の作家
中島義道「後悔と自責の哲学」読了


久々の中島義道であります。書店で見かけて、あ、これ読んでないやと思い、気軽に買って読んでみたんですが…


めっちゃむずかしい!すみません…よくわかりませんでした。人の「後悔」という思いに光を当て、その思考のメカニズムに迫るといった内容なんですが、そこに「偶然」と「運命」というファクターを加味して吟味し、さらにカント哲学とかライプニッツとかマックス・ウェーバーとかの哲学を引き合いに出して考察するという、素人にはとても歯が立たない本でございました。


大崎善生の解説がじんわりあったかくて、そこが唯一の救いでした。

掌のなかの海

2010-01-09 14:47:56 | か行の作家
開高健「珠玉」読了


ほとんど記事を書き終わってたんですが、どこかおかしなところを触ってしまい、全部消えてしまいました。もう1回書く気力がないので、簡単に…

本作品は同作家の遺作ということです。

一番印象に残ったところを引用して終わりたいと思います(笑)


酒場で時々会う老人に誘われるままに老人のアパートについて行った主人公(開高本人)は、そこで一緒に酒を酌み交わすうち、老人からおびただしい数のアクアマリンを見せられる。そして…

「しかし先生(老人)はすでに形相を変え、体のまわりにはもうもうと陰惨がたちこめている。先生は羞(はに)かむようにして眼をそらしたが、爛々と陰火が輝いている。肩をふるわせて激情をおさえおさえ、さびしいですが、私は、さびしいですが、といって先生はすすり泣いた。かすかな声を洩らしているうちに崩壊がはじまったが、先生は大あぐらをかいてそれを支え、うなだれたまま肩をふるわせて声に出して泣いた。はばかることなく声をふるわせて泣きつづけた。手が濡れ、膝が濡れ、毛ばだった古畳に涙はしたたり落ちつづけた。」


最愛の息子を失くし、しかしあきらめ切れずに船医となって世界中を捜し回るこの徒労。そして孤独。切々と伝わってきます。

苦恨の日々

2010-01-09 14:00:51 | な行の作家
夏目漱石「門」読了


本書は、「三四郎」、「それから」に続く“3部作”と言われているもので、まぁテーマが似通っていることからそう言われるんでしょうね。僕にはそれぞれが全く異なった印象を受けるんですが。


この小説は、はっきり言ってあまり面白くなかったですねぇ。なんというか必然性が感じられないんです。また、主人公の宗助は親友の安井を裏切ってその妻、御米と結ばれるんですが、その裏切ったという経緯がほとんど書いてなかったり、安井とひょんなことから会うことになってしまい、心が千々に乱れ、禅寺に1週間入門するんですが、どうしてもそうしなければならないといったものが感じられないんですね。


しかし、そうではあっても、御米と過去を振り返らないようにして坦々と毎日をやり過ごす宗助の心持が丁寧に描かれていて、そこはその筆力に脱帽しました。


次、いってみます。

2009年を総括

2010-01-06 15:08:09 | Weblog
2009年に読んだ本は数えてみたら141冊ありました。よくもまぁ読んだもんです。その中からベスト40を選んでみました。もうかなり迷いに迷って選び出すのに小1時間もかかりましたとさ(笑)



<1>  開高健「輝ける闇」
<2>  ミラン・クンデラ著 千野栄一訳「存在の耐えられない軽さ」
<3>  堀江敏幸「河岸忘日抄
<4>  橋本治「巡礼」
<5>  村上春樹「1Q84」Book1 Book2
<6>  山本昌代「緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道」
<7>  開高健「夏の闇」
<8>  村上春樹「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」
<9>  富岡多恵子「逆髪」
<10> 堀江敏幸「おぱらばん」
<11> 村上春樹「海辺のカフカ」(上)(下)
<12> 安陪公房「箱男」
<13> 丸谷才一「笹まくら」
<14> 筒井康隆「虚人たち」
<15> 村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」(上)(下)
<16> 庄野潤三「夕べの雲」
<17> 丸谷才一「横しぐれ」
<18> 小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」
<19> 堀江敏幸「未見坂」
<20> エイミーベンダー著 菅啓次郎訳「私自身の見えない徴(しるし)」
<21> 車谷長吉「塩壺の匙」
<22> 夏目漱石「こゝろ」
<23> 井上荒野「雉猫心中」
<24> 夏目漱石「それから」
<25> 山口瞳「居酒屋兆治」
<26> 武田百合子「富士日記」(上)(中)(下)
<27> 笙野頼子「母の発達」
<28> 大江健三郎「さようなら、私の本よ!」
<29> ポール・オースター著 柴田元幸訳「幻影の書」
<30> 夏目漱石「三四郎」
<31> ベルンハルト・シュリンク著 松永美穂訳「朗読者」
<32> 太宰治「斜陽」
<33> フィリップ・クローデル著 高橋啓訳「リンさんの小さな子」
<34> チャールズ・ブコウスキー著 青野聰訳「町でいちばんの美女」
<35> 辺見庸「もの食う人びと」
<36> 車谷長吉「贋世捨人」
<37> 藤枝静男「田神有楽/空気頭」
<38> 伊丹十三「日本世間噺大系」
<39> 田中慎弥「切れた鎖」
<40> 稲葉真弓「海松(みる)」




例によって11番くらいからあとはこれでなきゃ、といったものはありません。30番あたりが20番くらいにきても何の問題もないです。


やっぱり2009年は、11月に読んだ「輝ける闇」でしたねぇ。もう、かなり衝撃的でした。そしてクンデラ!有名な本なのに、なんでもっと早く読まなかったのか悔やまれてなりません。堀江敏幸は、ずっと前から好きな作家で何冊も読んでるんですが、この「河岸忘日抄」がベストですね。橋本治も結構読んでますが、「巡礼」はこの作家のひとつの頂点ではないでしょうか。それから村上春樹。この人の小説は、ほかのどの作家よりもわくわくして読めます。まぁどれもこれも終わり方がすっきりしないんですがね。夏にはBook3が刊行されるようですので楽しみに待つことにします。

2009年は、車谷長吉、太宰治、丸谷才一、庄野潤三、開高健、夏目漱石など、一人の作家を集中して読むことで、その作家の世界に深く入り込むことができたように思います。今年もどんな本との出会いがあるのか、楽しみです。

12月のまとめ

2010-01-06 14:20:02 | Weblog
12月に読んだ本は以下の通り




夏目漱石「虞美人草」
南陀楼綾繁「一箱古本市の歩きかた」
カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳「日の名残」
フィリップ・クローデル著 高橋啓訳「リンさんの小さな子」
夏目漱石「坑夫」
山本昌代「手紙」
夏目漱石「それから」
開高健「人とこの世界」


以上の8冊でした。まぁ12月ならこんなもんでしょう。


特別に「これ!」といった本はなかったのですが、クローデルの「リンさんの小さな子」、久しぶりに本を読んで涙をこぼしてしまいました。なかなか読ませる本でした。 


そして夏目漱石と開高健、いいですねぇ。まだまだこれからも続けて読んでいきたいと思っております。