トシの読書日記

読書備忘録

黒塚の鬼女

2014-11-28 17:37:12 | か行の作家


倉橋由美子「よもつひらさか往還」読了



主人公の慧(けい)君の祖父が経営するクラブのバーがありまして、そこの九鬼さんが作る怪しげなカクテル。慧君はいつも昼過ぎの中途半端な時間にそのバーを訪れ、九鬼さんのカクテルを飲むわけです。すると不思議な世界が見えてくるんですね。時空を超えた妖しい空間。黄泉の国なのでしょうか。


まぁそんな話がいくつか並んだ連作集なんですが、はっきり言ってあまり面白くありませんでした。自分は倉橋由美子のもっと内面にぐいぐい迫ってくるような作品を読みたいと思っているんですが、これはあまりにも軽いです。上手いんですがね。残念でした。


とりあえず、これにてプチ倉橋由美子祭り、終了ということにしておきます。ちょっと、というか、かなり消化不良でした。もし機会があれば、「パルタイ」とか「スミヤキストQの冒険」とか「ヴァージニア」とかを読んでみたいと思っております。まぁ自分がその気にならなければそんな機会も訪れることはないんですが。




姉に以下の本を借りる


川上弘美「水声(すいせい)」
J・Dサリンジャー著 村上春樹訳「フラニーとズーイ」
多和田葉子「かかとをなくして」
小川洋子「人質の朗読会」
中島京子「女中譚」
柴田元幸「死んでいるかしら」

残酷で退屈な寓話

2014-11-21 18:17:09 | か行の作家


倉橋由美子「大人のための残酷童話」読了



これはなんでしょうね。はっきり言って面白くもなんともなかったです。倉橋由美子も、編集者に「先生、こんなテーマでひとつ」とか言われていやいや書いたのではないでしょうか。


グリム童話、ギリシャ神話、日本昔話等に材を取り、それを換骨奪胎し、シニカルに書き換えた童話が26編並んでいます。まぁ宴会の余興といったところでしょうか。


教訓が含まれる話を逆手に取り、救いもなにもない話にするのは倉橋由美子の性格から言ってお手の物なのでしょう。かなり残念でした。

反小説

2014-11-21 17:39:45 | か行の作家


倉橋由美子「反悲劇」読了



プチ倉橋由美子祭り、開催中であります。


本作品は五つの中編からなる作品集で、内容は異なれど、舞台はそれぞれ似通ったところで、連作集ということでしょう。


しかし、これは読んでいて少し辛かったですね。まず、古代ギリシアのいわゆるギリシア悲劇というものをある程度知っていないとこの作品の面白さは伝わらないということ。それと、文体がかなり硬い感じで、なんだかめちゃくちゃ頭のいい人に、ああだこうだと理屈をこねて話されているような感覚で、かなり疲れました。読みながら「理詰めでこられてもなぁ」と思わずつぶやいてしまいました。


でも、まったくつまらないかというと、そうでもなくて、ストーリーの展開に「おっ」と思うところもあって、なんとか読み通すことができました。これからいくつか倉橋由美子を読むことを思うと、少し気が重いんですが、頑張ります。


以下に作品リストをあげておきます。しかし、こうしてみると意外に多作の作家なんですね。まぁ未読本の中から読むだけで、買ってまで読むことはないと思うんですがね。




1960 「パルタイ」
1961 「人間のない神」
1965 「聖少女」
1966 「妖女のように」
1968 「蠍たち」
1969 「スミヤキストQの冒険」「暗い旅」
1970 「ヴァージニア」
1971 「反悲劇」「夢の浮橋」
1977 「迷宮」
1980 「城の中の城」
1984 「大人のための残酷童話」
1985 「シュンポシオン」
1986 「アマノン国往還記」
1987 「ポポイ」
1988 「交歓」
1996 「夢幻の宴」
2002 「よもつひらさか往還」

生と性への執念

2014-11-21 16:04:22 | あ行の作家


岡本かの子「老妓抄」読了



ずっと以前、「素晴らしい日本文学」とかいうタイトルで、著者名も忘れたんですが、そんな本を読んだことがありまして、その中に本書が紹介されていたのでした。買ったままずっと忘れておりました。


表題作の他に全部で八編の短編が収められています。「老妓抄」という、近代日本文学の中ではかなり有名な作品なんですが、面白かったです。


若い頃から芸者として苦労し、それなりに成功して、やっと心の平穏が訪れたのが40を超えたあたり。もう女としての盛りが過ぎてしまった老妓の悲哀が描かれています。出入りの電気屋の若い男を離れに住まわせ、男の面倒をみるわけですが、肉体的な交接は描かれていないものの、女は男から若い性のエネルギーを吸い取ろうとするんですね。いわゆる「悲しい女の性(さが)」というやつでしょうか。しみじみと憐憫の情が湧いてきます。


とにかく、文章がうまい。語彙の豊富なこと!読んでいて陶然とさせられます。他の短編もなかなかに光るものが多く、流れていくような文章に存分に浸ることができ、幸せな時間を過ごすことができました。


ちなみにあの芸術家の岡本太郎は、この方の息子であります。

極私的読書

2014-11-11 15:05:05 | か行の作家


倉橋由美子「偏愛文学館」読了



前回の「あたりまえのこと」という小説論を読んだからには、流れとして当然本書に帰結すると思います。倉橋由美子の「おすすめ本」が38冊紹介されています。


しかし偏屈な人ですね。世間一般に言われている大作、名作など見向きもせず、ちょっと変わった(?)本ばかり紹介しています。しかしさすがに夏目漱石、谷崎潤一郎、森鴎外、内田百などは、はずしていません。外国の作家の作品もたくさん出ているんですが、恥ずかしながら知らない人ばかりです。これを読んで、読みたい本のリストをあとに記しますが、倉橋由美子が、いかにひねくれた人であるかというのをちょっと引用します。



<作家のプロとしての力量を知るには短編を読むのが一番です。それに読んで楽しく、冴えた料理のように味わえる小説といえば短編に限ります。(中略)生涯かけて長大な小説を書くというのは、何かを創造することが暇つぶしであるような神様か、稼がなくてもよい貴族の御曹司が、大富豪か、あるいは泥をこねて遊んでいられる子供のすることでしょう。>


<私の言う偏愛の条件にはいろいろありますが、形式的なことをあげてみると、それはまず再読できるということです。(中略)再読できないものにダメな小説があります。これは本当にダメな小説で、文章がひどすぎたり、話が徹底的につまらなかったりして、読んでも頭に入らないものがそれです。>


<自分の弱さを克服し、ボディビルで筋肉をつけるようにして弱さを覆い固めてしまった三島流よりも、弱さを露呈してピエロを演じた太宰流が若い人には受けるということでしょうか。>


なかなか食えないおばさんです。



澁澤龍彦「高丘親王航海記」
吉田健一「金沢」
イーヴリンウォー「ブライツヘッドふたたび」
壺井栄「二十四の瞳」
トーマス・マン「魔の山」
サマセット・モーム「コスモポリタンズ」

小説はリアリズムで成り立っているのか?

2014-11-06 18:09:31 | か行の作家

倉橋由美子「あたりまえのこと」読了



本のタイトルからは想像つきませんが、本書は小説論であります。倉橋由美子の考える「面白い小説」とは何か?「つまらない小説」とは何か?また「、小説とは何を書くか」ではなく「、どう書くか」であるといった、小説を書くにあたっての大前提も述べられています。

しかし痛快ですね。あの倉橋女史ですからどんな小説論かと思ってページをめくったら、もう島崎藤村を斬るわ、志賀直哉を斬るわ、返す刀で村上春樹もばっさりぶった斬るという、天衣無縫の暴れぶりであります。その論理の展開に賛否の意を表す前に、もう溜飲の下がる思いです。


しかし、その反面、良い小説の例として、谷崎潤一郎、三島由紀夫、カフカ等の名前を挙げ、それがいかに面白いか、という解説をしているところには、大きくうなずかされました。


ひとつ面白かったのは、内田百を取り上げ、


<つまらないことを面白く書く名人は内田百でした。(中略)この人の文章は、読み出すとやめられなくなるところがある種の駄菓子に似ています。>

と、ほめてるんだか、けなしてるんだかよくわからないところ、笑えました。


倉橋由美子の小説論、なかなか参考になりました。今後に活かしたいと思います。

10月のまとめ

2014-11-06 17:51:30 | Weblog

10月に読んだ本は以下の通り



辻原登 「約束よ」
辻原登 「マノンの肉体」
辻原登 「家族写真」
小池昌代「感光生活」
辻原登 「闇の奥」
村田喜代子「龍秘御天歌(りゅうひぎょてんか)」
小野不由美「残穢(ざんえ)」
富岡多恵子「ひるべにあ島紀行」
辻原登 「村の名前」
辻原登 「遊動亭円木」
辻原登 「枯葉の中の青い炎」
辻原登 「寂しい丘で狩りをする」


というわけで、12冊でした。たくさん読めました。8冊が辻原登で、まさに辻原一色の月でありました。
辻原登への最初の強い思い入れは多少色褪せたものの、やはり「約束よ」、「マノンの肉体」、「家族写真」は素晴らしい作品だと思います。また、他にも小池昌代「感光生活」、村田喜代子「龍秘御天歌」、富岡多恵子「ひるべにあ島紀行」とすごい作品に出会えたことも僥倖でした。10月は、いつにまして充実した月でありました。



10月 買った本6冊
    借りた本0冊

人生は一瞬の花火にすぎない

2014-11-06 16:50:49 | た行の作家
辻原登「寂しい丘で狩りをする」読了



本書も自分の好みとは少し外れた作品だったんですが、まぁ、頑張って読んでみました。こういう小説はなんと言うんでしょうか。クライム・ノベルとでもいうんですかね。


ある女性が男に強姦され、男は捕まり、7年の実刑判決を受ける。男は、女が警察には言わないと約束したのにそれを裏切ったことを恨み、出所してから女を殺すつもりで居所を探す。それを察知した女は探偵事務所を訪ね、男の動きを調べてもらう。


結局、男はその女探偵にスタンガンで体に強いダメージを受け、記憶喪失なってしまうんですが、このプロットというか、構成のなんと緻密なこと!こういう小説を書くときは、事実関係が食い違わないように綿密に計算して書くんでしょうね。


作品としては、息をもつかせぬストーリー展開で、ぐいぐい読ませるんですが、どうもこの手の小説はあまり惹かれるものがないですねぇ。ちょっと残念でした。



これで一応辻原登祭り、終結ということにしておきます。最初のテンションはどこへやら、ちょっと腰くだけといったところが無きにしも非ずでした。


とにかく、いろんなジャンルを書き分ける作家なので、自分のストライクゾーンに合った作品だけを選んで読んでいけばよかったのかなと。


自分の性格として、一旦のめり込むと、不見転でコンプリートしようとしてしまうので、こんな事態も生じるというわけです。ちょっと反省です。

ル・アリィイの小壜

2014-11-06 15:13:14 | た行の作家
辻原登「枯葉の中の青い炎」読了


これも短編集です。表題作を含む六つの作品が収録されています。


この作品集は、わりと最近刊行されたもののはずなんですが、ちょっとなんだかなぁという感じでした。なんというか、文章が稚拙なところが気になりましたね。特に「水入らず」という作品。これがあの辻原登か、と一瞬目を疑いました。


しかし、表題作の「枯葉の中の青い炎」、これはよかった。往年の名投手、スタルヒンの300勝がかかる試合を、南洋の小島の言い伝えのなんでも願いがかなう小壜とシンクロさせ、ゲームの進行を手に汗握る解説風に読ませる筆さばきは、なかなかのものです。


さて、辻原登祭りもあと1冊で終了と相成ります。なんだかあっけなかったです。

人情と残酷

2014-11-06 14:43:19 | た行の作家
辻原登「遊動亭円木」読了



実は本書を読む前、同作家の「翔べ麒麟」と「ジャスミン」というのを読みかけたんですが、どちらもあえなく挫折してしまいました。前者は遣唐使の時代の話で、自分には全く興味のないところ。後者は前に読んだ「許されざる者」のような作品で、歴史に翻弄される男女の物語で、これも、もうご馳走様という感じで、パスしてしまいました。


そんなわけで本書です。題名の通り、遊動亭円木という、盲の落語家とそれをとりまく人達の人情話で、連作短編の形をとっています。


なかなか面白かったんですが、ちょっと気になるというか、前にも出てきたようなモチーフがちょいちょいあって、それがちょっとどうかなと。女性のうなじのあたりから漂う得も言われぬ香りとか、円木の住まいであるマンション、ボタンコートのすぐそばにある池の金魚の話とか、ネタの使い回しというのはどの作家もやっていることなんで、まぁいいんですが、それを辻原さんにはやってほしくなかった。作品としてはすごく面白かったです。単なる人情話に終わらず、ちょっと怖い話とか、人を出し抜いたり、自分を取り繕うために嘘をついて人を傷つけたりとか、いかにも人間の生活にありがちなリアルなエピソードが満載で、そこが辻原登のうまいとこなんですね。


素直には楽しめなかったんですが、さすがという短編集でありました。