トシの読書日記

読書備忘録

稲妻小路の訪問者

2020-07-22 14:57:47 | は行の作家


平出隆「猫の客」読了



本書は2009年に河出文庫より発刊されたものです。何年かぶりの再読でしたが、やっぱりいいですね、この小説は。


テイストは堀江敏幸とかなり似た感があるんですが、それでもこの作家にしか書けないデティールの細やかさとか、本作の主人公である猫、「チビ」に注ぐ夫婦の愛情の描き方などは、やはり一目を置くものがあります。自分としては、小説、映画等に登場するものとして、動物、子供、難病といったものに対しては、拒否反応を示すものではあるんですが、こと本作に関しては猫が中心の話ではありながら深い感動を誘う、素晴らしい作品に仕上がっていると思います。


初めて本作品を読んだとき、この作家の他の小説も読んでみようかと思って、そのままにして忘れてしまっていたんですが、自分のこの先の寿命を考えたらまぁやっぱりいいかなと。


今日は消化器内科の検診があったので、がんセンターへ行ってきたんですが、今後の予定が決まってきました。31日にCT、8月5日にその結果を見ての放射線科の診察、8月13日に胃カメラ、その翌日の14日にその結果を見ての消化器内科の診察と、こういった段取りになりました。なので、自分の病気の治療の状況が最終的にわかるのは8月14日ということになります。なんだか死刑の判決が下る前の被告人のような心持ちです。


あと約3週間、じっと待つより仕方ないですね。



市井の人々の演じるドラマ

2020-07-14 17:49:00 | は行の作家

今日、退院してきました。あと、水、木、金の3日で放射線治療は終わります。で、ちょっと日を置いて31日にCTの検査、それから1週間後くらいに胃カメラ、それでやっと自分のガンの状態がわかるというわけです。あまりにも長い。自分の病状を知るのにあと1ヶ月ほども待たねばならないとは…。患者の不安、心配をどう考えているんでしょうか。ま、なにを言ってもそんなシステムになっているのなら従うしかないんでしょうが。


それはともかく…

堀江敏幸「雪沼とその周辺」読了
本書は2003年に新潮社より発刊されたものです。


もう、何回読んだか知れないくらい、自分の中での名著です。全部で7編の短編が編まれた作品集になっています。冒頭の「スタンス・ドット」がいいですね。


5レーンしかないボウリング場を経営する50代(?)の男の話なんですが、もう店をたたむと決めた、その最後の夜、若いカップルがトイレを借りにきます。その二人に事情を話し、最後に無料でいいので1ゲームだけ遊んでいきませんかと誘います。結局彼が投げることになり、男はそのスコアを手書きでつけていくわけです。


男がスコアをつけながら自分の来し方を振り返るという手法は、小説のプロットとしてはありがちなんですが、そこは堀江にしか表現のできない詩情あふれるものになっていて、読む者を静かな感動に誘います。亡くなった妻との仕事を兼ねたアメリカ旅行、この仕事を始めるきっかけとなったハイオクさんとの思い出…。このあたりの筆運びは心憎いばかりです。


そしてラスト、意外な展開に読者は少し驚くんですが、このあたりの持ってきかたもうまいですねぇ。最後の数行でグッと盛り上げてスパッと切り捨てるように終わる。この手法は、本書の他の作品にも使われていて、トータルとして作品の全体に素晴らしい効果をあげています。ちなみに本作品は優れた短編小説に贈られる川端康成文学賞を受賞しています。


まぁ堀江敏幸となると、全くけなすところがないというか、小川洋子が百閒を愛するように、私も堀江敏幸を愛するということですね。


自分の人生で堀江敏幸に出会えたことだけでも僥倖としましょうか。

再入院します

2020-07-05 18:57:27 | Weblog



明日から再入院です。月曜日から4日間抗がん剤を点滴投与しながら月~金まで週5回放射線治療、それを2週やります。それで腫瘍がどの程度小さくなったかCTとか胃カメラで検査して、今後の治療方針を決めるとのことです。


オプジーボ(治験)という、今までの治療法とは違うものがあるんですが、まぁとにかくできることは何でもやってみようということで、この治験もやってみることにしました。なにしろ食道がんのステージ4というのは5年生存率が10%~20%らしいんで、やるだけのことはやってみようということです。


前回は2週間近く入院していたにもかかわらず、抗がん剤の副作用で2冊くらいしか本が読めな
かったんですが、今度もそうなのかちょっとわからないので、3冊ほど持っていってみようと思ってます。スティーブン・ミルハウザー「ナイフ投げ師」、堀江敏幸「雪沼とその周辺」、多和田葉子「容疑者の夜行列車」です。どれも既読本ですが、この機会にもう一度味わい直してみようと思っております。


また退院したら更新するつもりです。