トシの読書日記

読書備忘録

時代を切り拓いた作家達

2016-01-26 17:11:21 | な行の作家


日本文藝家協会編「現代小説クロニクル 1990~1994」読了


講談社文芸文庫から平成27年4月に発刊されたものです。講談社文芸文庫もいろいろ企画をやるもんですね。現代小説の担い手とうたわれる10人の作家の短編を集めたアンソロジーです。大庭みな子、鷺沢萌、山田詠美、安岡章太郎、石牟礼道子、後藤明生、古山高麗雄、多和田葉子、中沢けい、笙野頼子の面々です。


こういうの、いいですね。いろんな作家の個性を味わうことができて、ちょっと得した気分です。すごい!とうなるものもあれば、なんだかなぁという作品もありましたが。


石牟礼道子の「七夕」、これはよかった。読んでいて幸田文の小説を思い出しました。あんなにパキパキした文体ではないんですが、登場人物の心情がありありと心に浮かんできて、そのあたりの空気が幸田文を彷彿とさせます。とにかく文章が抜群にうまいです。


多和田葉子「光とゼラチンのライプチッヒ」、笙野頼子「タイムスリップ・コンビナート」はいずれも再読ですが、いかにも多和田、笙野らしい作品で、相変わらず不思議な世界を描いていて、元気だなぁという印象です。


さて、次は村上春樹の案内本から誘われて、安岡章太郎、いってみましょうか。



ネットで以下の本を購入


長野まゆみ「冥途あり」 講談社
ブライアン・エヴンソン著 柴田元幸訳「遁走状態」新潮クレストブックス

死にたくない!

2016-01-20 04:07:24 | ま行の作家


三島由紀夫「命売ります」読了



新聞の広告で「今、話題沸騰中!」のコピーに乗せられて買ってみました。平成10年にちくま文庫より発刊されたものです。


いや、驚きました。あの三島由紀夫がこんなエンタメを書くんですね。しかも読み始めたら止まらない、一気呵成に読んでしまいました。昭和43年に「プレイボーイ」誌に掲載されたとのことです。

しかし、エンタメとはいえ、三島の死生観のようなものを次のような一文から知ることができます。


<羽仁男(主人公)の考えは、すべてを無意味からはじめて、その上で意味づけの自由に生きるという考えだった。そのためには、決して決して、意味ある行動からはじめてはならなかった。まず意味ある行動からはじめて、挫折したり、絶望したりして、無意味に直面するという人間は、ただのセンチメンタリストだった。命の惜しい奴らだった。戸棚をあければ、そこにすでに、堆(うずたか)い汚れ物と一緒に、無意味が鎮座していることが明らかなとき、人はどうして、無意味を探求したり、無意味を生活したりする必要があるだろう。>


「命売ります」という広告を新聞に載せ、次から次に現れる依頼人から思わぬ金を受け取り、得意になっていた前半から、後半に入るとやはり人間の悲しい性、皮肉にも命が惜しくなるわけですね。敵のアジトに閉じ込められ、命からがら逃げ出して交番に駆け込むというオチは情けなくて笑わせられました。


なかなかよくできた小説でありました。

生でも死でもない空間

2016-01-12 16:50:42 | は行の作家


リュドミラ・ペトルシェフスカヤ著 沼野恭子訳「私のいた場所」読了



少し前に中日新聞の夕刊で紹介されていたもので、その書評が非常に魅力的で、思わずネットで購入したものです。


18の短編が収められた単行本なんですが、ちょっとどうかなと。この世ともあの世ともつかない不思議な世界が幻想的に描かれているんですが、単なる奇譚に終わってしまってる感が否めません。


以前の岸田佐知子の「居心地の悪い部屋」でも書いたんですが、不思議な話をいかに掘り下げて重厚な作品に仕上げるかが作家の腕の見せどころなわけで、このペトルシェフスカヤには申し訳ないんですが、ちょっとその力に欠けるかなと思わざるを得ません。


未知の作家の決して安くない価格の単行本(2100円!)を読んで、期待外れに終わると、結構へこむもんです。残念。

小説を読むという行為

2016-01-12 15:58:53 | ま行の作家


村上春樹「若い読者のための短編小説案内」読了



本書は平成9年に文藝春秋から単行本として、16年に文春文庫から文庫本として刊行されたものです。ずっと以前に姉から借りていたもので、「若い読者」というところに引っかかっていて、なかなか手が出せずにいたのでした。


が、しかし、若い読者でなくても、というかむしろ自分にもちょっと高尚なくらい読み応えのある案内本でありました。


吉行淳之介、小島信夫、安岡章太郎、庄野潤三、丸谷才一、長谷川四郎の6人の作家の、村上春樹がそれぞれの好きな短編を一編づつ取り上げて解説しています。いわゆる「第三の新人」と呼ばれる作家達を中心にラインナップしてあります。


しかし村上さん、前置きが長いなぁ。まず「僕にとっての短編小説」と題して、作家としての村上春樹が短編小説とどのように関わりあってきたかを26頁わたって縷々述べています。これでようやっと本題に入ると思いきや、次に「まずはじめに」として、何故に村上氏が日本の「第三の新人」と呼ばれる作家の短編小説に興味を持ち、またそれを読んでどのように深く感じ入ったかという話が12頁にわたって縷々語られています。

もうここまできて少し疲れましたね。結婚披露宴で長い長いスピーチをするおやじみたいです。ま、それはさておき…


やはり自分がうなったのは自分の最も好きな作家の一人でもある丸谷才一のところですね。「樹影譚」をテキストに取り上げていて、自分もこの短編は2度か3度読んでいるんですが、ここまで深く読むかというくらい、村上氏は読み込んでいます。でもやはり、これくらい読み込まないと本当の面白さはわからないんでしょうね。浅い読み方で喜んでいる自分に恥じ入る次第です。


他の作家の作品に対しても、光の当て方が非常に鋭いものを感じます。村上春樹の読書力のものすごい強さを垣間見た気がしました。本書に触発されて安岡章太郎の「ガラスの靴」を買いました。


村上春樹、やはり只者ではありません。

2015年を総括する

2016-01-05 16:11:19 | Weblog


2015年は自分にとってはいろいろなことがあった年でした。3月にそれまでやっていた店を閉め、新しい店に移り、7月にはずっと懸案だったマンションのローンの借り換えができ、ちょっと生活が楽になりました。まぁ肉体的、精神的にはかなり疲れましたが、おしなべて全ていい方向に向かっているので、いい年だったんでしょう。

さて、去年読んだ本のランキングを以下に記します。



① 吉田知子「吉田知子選集Ⅲ―そら」
② 富岡多恵子「丘に向って人は並ぶ」
③ 富岡多恵子「逆髪」
④ 絲山秋子「妻の超然」
⑤ 三島由紀夫「金閣寺」
⑥ 富岡多恵子「仕かけのある静物」
⑦ 谷崎潤一郎「谷崎潤一郎―マゾヒズム小説集」
⑧ 野坂昭如「妄想老人日記」
⑨ 谷崎潤一郎「金色の死―大正期短編集」
⑩ アンナ・カヴァン著 山田和子訳「氷」
⑪ 富岡多恵子「動物の葬礼/はつむかし」
⑫ 岸田佐知子 編・訳「居心地の悪い部屋」
⑬ 須賀敦子「塩一トンの読書」
⑭ 村田喜代子「光線」
⑮ 山田太一「遠くの声を捜して」
⑯ 町田康「パンク侍斬られて候」
⑰ 佐藤幹夫「村上春樹の隣には三島由紀夫がいつもいる」
⑱ 又吉直樹「火花」
⑲ カズオ・イシグロ著 飛田茂雄訳「浮世の画家」
⑳ J・Dサリンジャー著 村上春樹訳「フラニーとズーイ」


例によって11位くらいから下は順不同です。去年は、やはり最後のほうに集中して読んだ富岡多恵子が圧巻でしたね。ほんとにすごい作家です。しかし、それをしのぐ吉田知子のすごさ!富岡多恵子がすごい作家なら吉田知子はすざまじい作家と言っておきましょう。

また、絲山秋子のひとつの頂点ともいえる「妻の超然」を読めたことも僥倖でした。


2015年はプライベートでいろいろあったので、読書量としてはあまり実りの多い年ではありませんでしたが、富岡多恵子を始め、まずまず中味の濃い読書ができたのではないかと思っております。


さて、今年はどんな本が自分を楽しませてくれるのか、まずは今、読んでいる村上春樹の小説紹介本、なかなかに面白く、そこで紹介されている中から選んで読もうと思っております。


本年もどうぞよろしくお願いします。



2015年 読んだ本 55冊(前年比-20冊)
      買った本 8冊 (前年比-18冊)
      借りた本 15冊(前年比-6冊)

12月のまとめ

2016-01-05 15:52:19 | Weblog

年末から年始へと怒涛の2週間が過ぎ、今日、定休日でやっとひと息ついたところです。先週の火曜日も一応休みではあったんですが、かみさんと買い物に行ったり、いろいろあってパソコンを開けることすらできませんでした。


今年も週一のペースでゆっくりやっていこうと思っております。どうぞよろしく。


さて、12月に読んだ本は以下の通り


富岡多恵子「逆髪」
戌井昭人「まずいスープ」
野坂昭如「妄想老人日記」


以上の3冊でした。やはり「逆髪」、すごい小説でした。読めば読むほど味わいが深くなります。



かみさんと久々に名古屋市内へ買い物に行き、ジュンク堂で孫の絵本を買うついでに以下の本を購入


安岡章太郎「ガラスの靴/悪い仲間」
三島由紀夫「命売ります」
富岡多恵子編「大阪文学名作選」
スティーブン・ミルハウザー著 柴田元幸訳「バーナム博物館」(ダブりかも)


そして、姉から以下の本を借りる


日本文藝家協会編「現代小説クロニクル 1990~1994」
村上春樹「職業」としての小説家」
文藝春秋9月号



12月 買った本4冊
    借りた本3冊