トシの読書日記

読書備忘録

透徹した眼差し

2017-11-28 17:47:38 | は行の作家



久生十蘭「十蘭錬金術」読了



本書は河出文庫より平成24年に発刊されたものです。


全部で10編の短編が収められた作品集ですが、十蘭、相変わらずいいですねぇ。文章がうまい!遊びがありながら無駄なものは省いて間然とするところがない。


南極探検の歴史や1800年代のフランス内戦の史実を材に取り、それをフィクションに仕立て上げる手管は、まさに錬金術師の名に相応しい仕事と言えると思います。


久生十蘭、この人も見逃すことのできない作家の一人であります。



超絶怒涛の魂

2017-11-21 17:23:07 | さ行の作家



笙野頼子「金毘羅」読了



本書は平成22年に河出文庫より発刊されたものです。


姉が「訳わからん」と言って貸してくれたものです。今まで笙野頼子は何冊か読んできたんですが、前衛というか、過激というのか、はたまたアバンギャルドと言おうか、まぁ大体そんな感じの作品が多く、リスペクトする作家の一人でありました。


がしかし、この読書はいささか辛かったです。7~8割くらいのところまでは読んだんですが、とうとう最後まで読み切ることができませんでした。もうこれ以上はムリと本を閉じてしまいました。まさに訳がわかりません。


1956年、生まれてすぐ死んだ女の赤ちゃんの体を借りて深海から陸に上がった金毘羅。その金毘羅の一代記であります。何故自分は金毘羅なのか、そもそも金毘羅とは何か、その金毘羅が人の子の体を借りて成長していくさまをモノローグの形で縷々述べられていくわけですが、これは日本の神話のこともある程度わかってないとついていけませんね。


苦しい苦しい、修行のような読書でした。
残念。



所用で出たついでに久しぶりにブックオフに寄り、以下の本を購入。


松浦理英子「裏ヴァージョン」文春文庫
幸田文「おとうと」新潮文庫
山田太一「彌太郎さんの話」新潮文庫
中村文則「教団X」集英社文庫
中村文則「A」河出文庫
中村文則「何もかも憂鬱な夜に」集英社文庫
阿佐田哲也「麻雀放浪記(1)青春編」角川文庫



少年の蹉跌

2017-11-14 14:37:00 | ま行の作家



三島由紀夫「花ざかりの森・憂国」読了



本書は昭和43年に新潮文庫より発刊されたものです。


ずっと前から姉に「読め読め」と言われていた三島の短編集をやっと読了することができました。他に読みたい本がいつもあって、まぁそのうち…とずっと思っていたのですが、今回、勇躍手に取ってみたのでした。


一番最初に収められている「花ざかりの森」という文庫で50項ほどの作品、いやぁ、これが一番難関でしたね。恥かしながら何が書いてあるのかさっぱりわからない。何のことを言っているのか、誰の何の話なのか、読めども読めども頭に入って来ず、これは先が思いやられると暗澹たる気持ちになったんですが、その後の作品はそんなこともなく、コントのようなくだけた短編もあったりして、面白く読めました。


しかし、「憂国」にはびっくりしましたね。「花ざかりの森」同様、三島の代表的な作品ということは知識として知っていたんですが、こういう小説だったんですね。


近衛歩兵の中尉が2・26事件で叛乱軍に加入した自分の親友の青年将校達を討たねばならないことに懊悩を重ね、皇軍相撃の事態必至となる情勢に痛憤して自害したことを扱った短編なんですが、これぞ三島の作品と膝を打ってしまいました。ここまで甘美なエロスとタナトスを描いた作品を知りません。


他にも、中年の婦人が若い頃見合いをして断った相手をずっと気にかけていて、何年かぶりにその男と会う機会を得て、男は今でも自分のことを慕っていると思い込んでいたら、とんでもない勘違いだったという「遠乗会」という作品。同じような話が、ジュンパ・ラヒリの短編集にもあったことを思い出しました。


いや、やっぱり三島由紀夫、すごい作家です。これも姉おすすめの「豊饒の海」四部作、読まねばと思っております。

小説家の運命

2017-11-07 17:16:09 | た行の作家



辻原登「Yの木」読了



本書は平成27年に文藝春秋より発刊されたものです。「新潮」「すばる」等の文芸誌に掲載されたものをまとめた作品集で、三つの短編と表題作の中編が収められています。


以前、名古屋 栄の丸善へ行った折、丸谷才一「エホバの顔を避けて」等と一緒に購入したものです。


短編に関しては、はっきり言ってどれもこれもあまり印象に残る作品はありませんでした。まぁいかにも辻原登らしい、上手く書けた短編という感じで、悪くはないんですが、はっとするような作品はありませんでした。


表題作の「Yの木」は、44才で作家デビューした小説家が主人公なんですが、その後、いろいろ紆余曲折があり、童話で少し売れたこともあったんですが、その後は、ぱったりと芽が出ず、苦しい生活を強いられるという、およそ辻原登本人らしくない設定となっております。


最後、飼っていた犬を知人に預け、Yの木で自殺を図るわけですが、その瞬間、飼い犬の鳴き声が聞こえた気がして思いとどまり、自宅へ帰るわけです。


そして自分がさんざん推敲して書き直した時代劇の原稿を読み、「おもしろい…――≪一同脱帽!≫」とつぶやいて眠りに落ちます。


これが一番最後の場面なんですが、これは小説家にとって救いのある話なのかどうなのか、ちょっと計りかねるところがあります。不思議な終わり方なんですが、この小説は主人公の葛藤が行間ににじみ出ているところなどは、いかにも辻原らしい巧みな筆さばきで、思わず引き込まれましたね。


なんだかなぁという作品もたまにありますが、辻原登も目が離せない作家の一人です。