トシの読書日記

読書備忘録

壮大なほら話

2014-06-24 21:38:47 | ま行の作家
G・ガルシア・マルケス著 鼓直訳「族長の秋」読了



ずっと以前、読もうとして途中で挫折した同作家の「百年の孤独」。これにも一回挑戦しようと思ったんですが、その前に手始めに本書を読んでみようと思ったのでした。


年齢は107歳から232歳の間といわれる中南米のある国の大統領。この大統領をめぐるさまざまな事件とそれにかかわる人間たちの壮絶なドラマであります。


しかしこの大統領、やることがめちゃくちゃですね。国がやっている宝くじを、自分が当選するように不正をし、それに無理やり加担させた子供たちを、不正が発覚するのを恐れて大統領府の地下室に隠し、それがふくれにふくれあがってなんとその数2000人に達し、どうにもならなくなるとみるや、セメントを満載した船に子供たちを乗せて沖に船を出し、ダイナマイトで爆破させるという、もうとんでもないやつです。


ほかにも、自分の部下の中将を終生の友と信じ、お互いの信頼関係を築いていたのはいいんですが、あることがきっかけで、その中将を信じられなくなり、自分を裏切るのではないかという妄想にとりつかれ、とうとうその中将を殺してしまうんですね。それだけならまだしも、その中将をオーブンで焼き、部下達を集めた晩餐会のメインディッシュとして食べさせるという、なんとも極悪非道の行いをします。


こういったとんでもないエピソード満載の小説なんですが、結局この大統領は孤独なんですね。「裸の王様」ではないんですが、側近達が大統領が読んで満足するようなウソの新聞を作って毎朝届けたり、大統領が望む結末になるようにテレビドラマをテレビ局に作らせたり…。しかし、このことを大統領は見抜いていたんです。見抜いていたんですが、何も言わない。ここにこの大統領の孤独があると思うんです。派手なエピソードの裏に隠された大統領の暗い影。これがこの小説の読みどころだと思います。


しかし、とにかくめちゃくちゃスケールの大きいほら話を聞かされ続けた感じで、ちょっとめまいがしました。いや、面白かったです。





ブックオフで以下の本を購入


太宰治 「ヴィヨンの妻」
星野智幸「俺俺」
庄野潤三「プールサイド小景・静物」

言葉の絶叫ライブ

2014-06-24 21:16:29 | ま行の作家
町田康「壊色(えじき)」読了



ずっと以前に読んだものですが、なんとなく気になり、再読してみました。


初めて読んだ時のショックがよみがえりました。この本はすごい!言葉があっちへこっちへスパークしまくってますね。それと、気色悪い状況を書くのがほんと、うまいですね。たとえばこんなの。


<排水パイプの具合がおかしいのかい。雨が降ると浴室が臭まるのだよ。下水が逆流してんのかい。思てはいつくばって浴槽の下を覗くと、なんや、おい。白いふやけたような三寸ほどの小さな蛇が何百匹もにょろにょろ蠢いている。ああ、おぞましい。一体いつからこんなことになっているのだろう。今度は風呂釜の裏をみると、黒い鋏のある百足とごきぶりと蟷螂(かまきり)を足して二で割ったような不気味な昆虫が五、六匹こっちを見ている。おぞましい。>


あー気色悪い。こんな文章が次から次へと繰り出されるわけです。


後半は自身のやっているパンクバンドの行状記のようなものになってるんですが、これがまた面白い。情けない話を書かせたらこれまたうまい。


そして最後は、多分、自分のバンドの曲だと思うんですが、その歌詞が載ってます。これもすごいですね。爆発してます。しかも大爆発。


町田康もしばらく長編が出てないですねぇ。「猫にかまけて」とか、そんなしょーもないエッセイなんかやめて、早く、まじめに長編に取り組んでもらいたいものです。


永劫不朽のイージーリスニング

2014-06-24 19:50:44 | ま行の作家
村上春樹「女のいない男たち」読了



村上春樹、久々の新刊であります。が、この短編集、ほとんどが書下ろしというわけではなく6編の短編のうち、4作は文芸春秋に、1作は柴田元幸主宰の文芸誌「MONKEY」に掲載されたものです。文春に載った4作はすでに読んではいましたが、姉が貸してくれたので、まぁ最初からひととおり読んでみました。



前に読んだ「独立器官」、酷評をしましたが、再読してみるとそれほど悪くもないという印象で、ちょっと不思議な気持ちです。「ドライブ・マイ・カー」も「イエスタデイ」も初読のときは、なんだかなぁと思ったものでしたが、これらの作品もなかなかい出来ばえではないかと思わされました。未読の「シェラザード」という短編。これはなんてことないです。そして書下ろしの「女のいない男たち」。これもなかなか面白かったです。男が女を失うということ、それが男にとってどんな世界の変化をもたらすかということを執拗なまでに追求した物語になっています。ちょっと鬼気迫るものがあります。


村上春樹という作家は物語のプロットの作り方が実にうまいですね。読み始めると一気にその世界に引きずり込まれます。
ただ、今回のの短編集のように、夢中になって読んで、読み終えたとき、なんというか、響くものがないという作品も少なからずあります。そこらあたりが堀江敏幸とか多和田葉子あたりと決定的に違うところであると思います。


まぁどちらも好きなんですが。

5月のまとめ

2014-06-24 17:11:40 | Weblog
すっかり久々の更新となってしまいました。今月の始めにPCが壊れて、買い換えたはいいんですが、全くのPCオンチの自分なのでなかなか設定ができず、ネットもつながらずで、四苦八苦してこの度、やっと無事つながったという次第です。


今から9冊分の記事をアップいたします。おっとその前に5月のまとめでした。



5月に読んだ本は以下の通り



尾崎放哉「尾崎放哉全句集」村上護編
獅子文六「てんやわんや」
多和田葉子「尼僧とキューピッドの弓」
山口瞳「男性自身――巨人ファン善人説」
色川武大「怪しい来客簿」
浅田哲也「新麻雀放浪記」
堀江敏幸「正弦曲線」
幸田文「番茶菓子」
中原昌也「名もなき孤児たちの墓」



以上の9冊でありました。けっこう読めました。


やっぱりよかったのは堀江敏幸でした。あと、多和田葉子も獅子文六も、そして色川武大、浅田哲也も秀逸でありました。残念だったのは中原昌也で、こいつは手に負えませんでした。



 

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