大江健三郎「晩年様式集―イン・レイト・スタイル」読了
久しぶりの更新となってしまいました。いろいろとバタバタしておりまして、本書もその合間に少しづつ読みついで、ようやっと読了したというところです。1ヶ月近くかかりました。
本書は、小説というよりも、大江健三郎の集大成とでもいうべき作品ではないかと思います。
今まで著者(一応話の中では長江古義人となっておりますが)が書いてきた小説(私小説風のもの)の中に登場する主人公の妻 千樫、妹のアサ、娘の真木、この三人が、自分達の一面的な部分でしか書かれていないことに不満をもち、三人がそういったところを新たに書き直してそれを古義人に見せ、この「晩年様式集―イン・レイト・スタイル」に+αとして加えてもらうよう、持ちかける。この辺のくだり、かなりややこしいです。
そして「懐かしい人への手紙」に登場し、死んでしまった(殺された?)ギー兄さんの息子であるギージュニアがアメリカでテレビ関係の仕事をしていて、古義人のドキュメントを制作するという名目で来日し、古義人にインタビューを試みる。そこには当然先の三人の女性も加わり、話を補足したり、反論したりということで、なにか、古義人が槍玉にあげられている感がなくもないです。
そしてまた、無二の親友であった塙吾良の自殺に関連して、吾良と死の直前まで親しくしていたシマ浦という女性もそこに加わり、このあたりも相当にややこしいです。
本書はこういったインタビューを通して、古義人(=大江健三郎)の来し方行く末を見つめ、「3・11後」の日本はどうあるべきかということを、大江自身が残り少ない人生の中で、自分が生きているうちには成就しそうもない「核廃絶」という問題、しかしそれでもそれに向かって戦うという覚悟を決めるという話であります。
作中にも触れられている通り、おそらく本書が大江健三郎の最後の作品になるものと思われますが、その締めくくりに相応しい出来になっていると思います。
難を言えば、話がかなり込み入っていてややこしく、文もいつものことではありますが、回りくどく、読むのにかなり骨が折れました。とにかく疲れました。