トシの読書日記

読書備忘録

おれはドゥルーズだ

2018-01-30 16:21:23 | さ行の作家



坂口恭平「けものになること」読了



本書は去年の2月に河出書房新社より発刊されたものです。


ネットで本作家のことを知り、興味がわいて手に取ってみました。この人は作家であると同時に建築家、音楽家、画家でもあるという、非常に多才な方のようです。



で、読んでみたんですが、びっくりしましたね。調べてみたところ、哲学者ドゥルーズが書いた「千のプラトー」という、その筋ではかなり有名な著作、それを本作家が書き直すというもののようなんですが、まぁとにかくこの言葉の羅列!まるでマシンガンのように言葉が読む者めがげて飛んできます。


ちょっと引用してみます。こんな感じです。


<それは最期ではない。彼らは生きている。完全に。肉体もまた完全に。何もかも完全に。再現するのではなく完全に。彼としてではなく、彼で。男で。女で。ねずみで。水で。われわれはまだ最期ではない。それはぎりぎりに接近した限りなく最期に近い、生である。>


とりあえずドゥルーズの「千のプラトー」なるものを全く知らないので、何とも言いようがないのですが、まぁ知らなくても面白い人には面白いんでしょう。自分はというと、面白いとかつまらないとか言う前に只々啞然としてしまって、面食らってしまいました。


でもこの作家の他の著作を読んでみる気にはちょっとなりませんね。


いや、でもすごかった。


愛と記憶

2018-01-23 15:59:43 | あ行の作家



カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳「忘れられた巨人」読了



12月中旬頃から読み始め、クリスマス、年末年始と全く読めない期間をはさんで、先日、ようやく読了しました。


本書は去年の10月にハヤカワepi文庫より発刊されたものです。本作家が去年のノーベル文学賞を受賞したのを受けて、急遽文庫として出版したと何かの記事で読みました。それに乗せられて姉が買ってきたというわけです。


カズオ・イシグロという作家は、最初「日の名残り」を読んで今ひとつぴんと来ず、しかし大江健三郎とか村上春樹が「カズオ・イシグロを読むのは至福のひと時」とか言ってるのを見て、自分の感性に疑いをもったものですが、「浮世の画家」を読んで、そのプロットのうまさに舌を巻き、「わたしを離さないで」に脱帽した経緯を経て本書を読んでみたのでした。


一読、確信しました。本書はカズオ・イシグロの最高傑作ですね。イギリスで最も権威があるとされているブッカー賞を受賞したというのも当然といえば当然のことと言えると思います(他の候補作を全く知らずに勝手なことを言ってますが)。


と、ここまで書いて念のため調べてみたら、すみません、間違ってました。ブッカー賞を受賞したのは「日の名残り」の方でした。失礼しました。


6世紀のヨーロッパ、アーサー王亡き後、ブリトン人とサクソン人は凄絶な戦争を経て、見た目は共存しているのだが、まだお互いを憎んでいる人達(特に戦士の生き残り)も多くいる。そんなシチュエーションの中、老夫婦のアクセルとベアトリスは遠く離れた村に住む息子に会いに旅に出ます。また、村の人達は(老夫婦も含めて)昨日のことすらきちんと思い出せないくらい記憶をなくしていく。それはクエルグという巨大な竜の吐く息が霧となって、人の記憶を失わさせているという。


物語は息子に会うため旅をするアクセルとベアトリス、そしてそこにサクソン人の戦士ウィスタン、それにアーサー王の甥と名乗るブリトン人のガウェイン卿が加わり、一見、竜退治の冒険譚のような様相を見せ始めるんですが、そこはカズオ・イシグロです。そんなただのファンタジーでは終わらせません。


本書のテーマは「記憶」ということなんだと思いますが、中世ヨーロッパの人種間の争いを現代の国際社会になぞらえ、忘れてしまった方がいいこと、また、絶対忘れてはならないこと、そこをカズオ・イシグロは訴えたいのだと思います。


そして竜を殺したことで失われた記憶がよみがえるであろうアクセルとベアトリスの二人は、それでも深い愛で結ばれ続けるのか、ここが本書のもう一つの読みどころでもあります。読み方によってはこの作品は、老夫婦の壮大なラブストーリーと言ってもいいかもしれません。


しかし、この結末には考えさせられました。ベアトリスが島に渡ったあと、舟頭は本当にアクセルを迎えに戻ってくるのか?また、アクセルはもう島には渡らないようなそぶりさえ見せているのは何故なのか?お互い、直接には何も言わないのだが、記憶が戻ってきて、それによってお互いの愛がこわれてしまったのか?最後の最後、ものすごく考えさせられてしまいました。


でもこういう終わり方もいいですね。記事のタイトルにもしましたが、愛と記憶ということなんでしょうね。



久しぶりに深く、面白い小説を堪能しました。




ネットで以下の本を購入

内田百閒「内田百閒集成3―冥途」 ちくま文庫
中村哲信 訳注「古事記」角川ソフィア文庫

2017年を総括

2018-01-09 17:52:00 | Weblog



毎年の例にならって、去年読んだ心に残った本をランキング形式で列挙してみようと思います(再読は除きました)。



❶  町田康「ホサナ」
❷  ブライアン・エヴンソン著 柴田元幸訳「ウィンド・アイ」
❸  諏訪哲史「偏愛蔵書室」
❹  諏訪哲史「岩塩の女王」
❺  丸谷才一「エホバの顔を避けて」
❻  ジャック・ロンドン著 柴田元幸訳「火を熾す」
❼  フリオ・リャマサーレス著 木村榮一訳「黄色い雨」
❽  フランツ・カフカ著 池内紀 編・訳「カフカ短編集」
❾  野呂邦暢「諫早菖蒲日記」
❿  イーユン・リー著 篠森ゆりこ訳「さすらう者たち」
⓫  三島由紀夫「花ざかりの森・憂国」
⓬  奥泉光「石の来歴/浪漫的な行軍の記録」
⓭  色川武大「生家へ」
⓮  髙村薫「土の記」(上)(下)
⓯  久生十蘭著 川崎賢子編「久生十蘭短編選」
⓰  アルフレッド・ジャリ著 澁澤龍彦訳「超男性」  
⓱  イーユン・リー著 篠森ゆりこ訳「黄金の少年・エメラルドの少女」
⓲  丸谷才一「彼方へ」
⓳  夢野久作「ドグラ・マグラ」(上)(下)
⓴  山田太一「彌太郎さんの話」
㉑  奥泉光「その言葉を/暴力の舟/三ツ目の鰻」
㉒  G・ガルシア・マルケス著 木村榮一訳「わが悲しき娼婦たちの思い出」
㉓  山下澄人「壁抜けの谷」
㉔  イーブリン・ウォー著 吉田健一訳「ピンフォールドの試練」
㉕  辻原登「Yの木」



とまぁこんな感じです。1位と2位は、なんの迷いもなく決まりました。6位あたりからもうすでにそんなに順番は関係なくなってます。


町田康、やっぱりこの作家はすごいです。新聞かなにかの評論で、町田康のことを「くだらなさを徹底的に追求する作家」と評していましたが、我が意を得たりと思わずひざをたたきましたね。「ホサナ」もその例にもれず、くだらなさもここまでくると、もはや哲学的ですらあります。


諏訪哲史の「偏愛蔵書室」、これもすごかった。本書のおかげでカフカの素晴らしさを知ることができたし、「ドグラ・マグラ」という奇書を読む気にもなりました。まぁ感想はともかくとして。


17年は特に特定の作家を集中して読むこともなかったのですが、それでも奥泉光、イーユン・リー等は2、3冊くらい続けて読んでそれなりに堪能することができました。


2017年 読んだ本 54冊(前年比 68%)
    買った本 38冊(前年比 73%)
    借りた本 28冊(前年比 187%)




さてさて、今年はどんな本が待っているでしょうか。店の方が極端な人手不足で、年末年始とまともな営業ができませんでした。明日以降もそんな状態が続きます。今までのようなペースでの読書もままならないかも知れません。とにかく、アルバイトを募集をかけて、体制を作らないことには、のんきに本など読んでいられません。


頑張ります!

12月のまとめ

2018-01-09 16:09:15 | Weblog



12月に読んだ本は以下の通り


浅田哲也「麻雀放浪記」
フリオ・リャマサーレス著 木村榮一訳「黄色い雨」
ジャック・ロンドン著 柴田元幸訳「火を熾す」
山田太一「彌太郎さんの話」


以上の4冊でした。12月も面白い本に出会うことができました。リャマサーレス、いいですねぇ。この寂寥感、ちょっと他の作家には真似できないものがあります。ジャック・ロンドンの短編集にも心を揺さぶられました。また、山田太一、相変わらずうまい作家です。


今、カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」を読んでいます。自分の好きな作家がノーベル文学賞を受賞するというのは、ほんと、うれしいものですね。



12月 買った本3冊
    借りた本16冊