トシの読書日記

読書備忘録

1月のまとめ

2012-01-30 16:58:42 | Weblog
今月読んだ本は以下の通り



堀江敏幸「本の音」
魯迅著 藤井省三役「故郷/阿Q正伝」
松浦寿輝「半島」
田中小実昌「ポロポロ」
井上荒野「不格好な朝の馬」


以上5冊でした。お正月が忙しくて10日くらいまではまるで読めなかったんで、まぁこんなもんでしょう。やっぱり今月は堀江敏幸の書評集ですね。非常に触発されるものがありました。

嘘と裏切りとセックスと

2012-01-30 16:39:27 | あ行の作家
井上荒野「不格好な朝の馬」読了



久々の井上荒野であります。直木賞受賞作である「切羽へ」を読んでからご無沙汰しておりました。本作品は「切羽へ」の2年前に刊行されたとのことです。


一読、井上荒野は、もういいかなと(笑)初期の頃の「グラジオラスの耳」とか「もう切るわ」のような切れ味が失われつつあるような感じです。まぁよく言えば円熟味が増したということになるんでしょうか。しかし、あの「グラジオラスの耳」のような、読む者を訳もなく不安な気持ちに駆り立てる、例えていうなら鋭利な刃物を頬に当てられているような、そんな文章が好きだったんですがね。


初期の頃は父である井上光晴の文体を模倣していたと、エッセイ「いやな感じ」で吐露しておりましたが、僕に言わせればそれでいいんです。それを踏襲してほしかった。でもそれでは荒野のオリジナリティが失われてしまうということなんでしょうね。両刃の剣というところでしょうか。


作品のプロットというか筋立ては、割に面白かったです。連作短編という体裁で、章ごとに主人公が入れ替わる構成になっています。最初は団地に住む、劇団を主宰する男の妻。そしてその夫。その子供。その子供が同級生とよく行く喫茶店の女主人…というように。嘘と裏切りが随所に散りばめられ、不穏な空気に満ちた小説になっています。しかし、あの切れ味が…。


まぁ、これからは井上荒野、遠くから見守ることにしますか。

文字は人を殺し、霊は人を生かす

2012-01-25 16:07:18 | た行の作家
田中小実昌「ポロポロ」読了



これも堀江敏幸「本の音」で紹介されていたものです。田中小実昌という作家は、一部の人達の間で非常にもてはやされていて、特にこの代表作「ポロポロ」は、評価の高い一冊です。


が、しかし読んでみてどうなんですかねぇ。この田中小実昌という作家の感性が並みの人のそれとはまったく違うということはよくわかるんですが、自分とうまくマッチしない感じで、読んでいてそれほど気持ちを動かされることがありませんでした。


田中小実昌は、自分の体験(戦争体験)をもとにエッセイともフィクションともつかぬ話を書いているわけですが、「物語」というものに大きなこだわりを持っていて、例えば以下のように述べています。


<物語でないものが、自分にはあるんだが、口にでると、物語になってしまう、というものでもあるまい。物語をはなす者は、もうすっかり、なにもかも物語なのだ。>


<世のなかは物語で充満している。いや、世のなかは、みんな物語だろう。しかし、物語がいいとかわるいとかはべつにして、それに、なにかの役にたつのは、物語や、それに連なるものだろうけど、すくなくとも、自分自身に物語をしゃべったって、つまらない。自分自身に物語をするのが、これまた、いけないこととか、まちがってることとか言うのではない。しかし、げんに、つまんないんだから、どうしようもない。自分で物語だとわかってることを、自分にはなしてきかせても…。>


体験を文字にして表したとたんにそれは物語になってしまう。言葉にしにくい、あるいは言葉にできない感情、情報を文字にしてしまうことで、それは事実とはかけ離れた、いわゆる「物語」になってしまうということなのでしょう。


これはむずかしい問題です。開き直って物語にしてしまわないところに田中小実昌の誠実さがうかがわれます。


ただ、この作家の文体が、どうにも読んでいて体中がむずがゆくなる感じで、それだけが残念でした。

仮初の棲み処

2012-01-25 15:57:48 | ま行の作家
松浦寿輝「半島」読了



堀江敏幸の「本の音」の中で同作家の「巴」という作品が紹介されていたんですが、それを買う前に確か松浦寿輝の長編があったはずと書棚から見つけてきました。


松浦寿輝独特の世界です。現実なのか、自分の夢想にすぎないのか、そのあわいを漂うこの不思議な感覚。ちょっと言葉で説明するのは難しいです。


しかし、この長編を読んで思ったんですが、この作家は短編にこそ、その切れ味が発揮されるのであって、どうも長編になると若干ではあるけれど冗長になってしまうところが出てくるわけで、それがこの作家の持ち味を殺してしまっている気がします。


しかし、それを差し引いてもなかなか素晴らしい小説でした。


松浦寿輝、この作家も目が離せません。

激動の中国に生きた作家

2012-01-20 16:35:08 | ら行の作家
魯迅著 藤井省三訳「故郷/阿Q正伝」読了



たまには中国の名著と呼ばれるものをと思って、手に取った次第。


ずっと昔に「阿Q正伝」は読んだような記憶はあったんですが、内容はすっかり忘れておりました。


しかしどうなんですかねぇ、これ。そんなに文学的価値の高い作品とは自分には思えません。


この作品の中に、人から受けた屈辱を自分より弱い者に転嫁して自己満足するという「阿Q式精神的勝利法」というくだりがあるんですが、これは非常に虚しいと思うんですがね。あ、そのアイロニーを味わえということなのか。そうか、それなら納得できます。


また、解説で訳者の藤井氏が大江健三郎も村上春樹も魯迅を愛読していて、強い影響を受けているとし、その例をそれぞれの作品で引用しているんですが、ちょっとこじつけの感も否めません。


とまれ、この本の中には16編の作品が収められているんですが、リスペクトするものはありませんでした。残念です。




ネットで以下の本を注文する


田中小実昌「ポロポロ」
久世光彦「桃」
永井荷風「摘録 断腸亭日乗(上)」
永井荷風「摘録 断腸亭日乗(下)」



また、書店で以下の本を購入


井上荒野「不格好な朝の馬」
小池昌代「自虐布団」



今年から姉に借りた本も記録しておきます。


姉から以下の本を借りる


小澤征爾×村上春樹「小澤征爾さんと音楽について話をする」
E・Mフォースター著 吉田健一訳「ハワーズ・エンド」
丸谷才一「持ち重りする薔薇の花」
朝倉かすみ「好かれようとしない」
ドン・デリーロ著 上岡伸雄訳「ボディ・アーティスト」
リチャード・ブローディガン著 青木日出夫訳「愛のゆくえ」
小川内初枝「緊縛」
ミランダ・ジュライ著 岸本佐知子訳「いちばんここに似合う人」


新年早々、読みたいというか、読まなきゃって本が満載です!

消尽したもの

2012-01-06 18:08:53 | は行の作家
堀江敏幸「本の音」読了



10年ほど前に出版された書評集で、つい最近文庫化されたものです。書店で偶然見つけ、自分の好きな作家の3本の指に入る同作家の書評集とあっては、買わないわけにはいかないでしょう。


堀江敏幸の、それぞれの著作に対する真摯なまなざしが、読む者を心地良い感動へ誘います。


いやぁほんとに堀江敏幸、いいですね。字は違いますが、自分と名前が同じところも妙な親近感があります。今年も、こんないい本でスタートでき、幸せです。


以下に本書を読んで、無性に読みたくなった本を挙げておきます。



永井荷風「断腸亭日乗」
久世光彦「桃」
田中小実昌「ポロポロ」
伊東静雄「夕映」
マリー・ダリュヤック「めす豚ものがたり」
後藤明生「しんとく問答」
松浦寿輝「巴」