ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカルミートでスタミナごはん…高崎 『焼肉 箕輪亭』の、増田和牛の焼肉

2015年12月07日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん
高崎ブランド食材「高崎そだち」の生産者めぐりの昼ごはんで寄ったのは、箕郷町にある「焼肉 箕輪(きりん)亭」。地元で生産している銘柄肉・増田和牛を味わった。最近、高評価されている銘柄で、都心の高級飲食店からのニーズが非常に高いとか。群馬ではここともう一軒でしか味わえないらしいから、実にありがたい機会である。

群馬や高崎の地名に聞かないその名は、生産者である増田順彦氏に由来する。箕郷町で10年ほど畜産農家をやっていたが、生産物の質を上げていかないと先細りになると危惧。そこで独自の方法の肥育により、自身でブランドを作り上げた。販路もJAに依存せず、自らの足で開拓。結果、食味への評価が口コミで広がり、川越達也や道場六三郎ら、影響力のある料理人の目に留まったこともあり、現在では「幻の高級牛肉」として名だたる存在となっている。

その味の秘訣は、通常よりも長い肥育期間にある。未経産の但馬牛を素牛として、肉の旨みが出てくる36ヶ月かけて肥育。出荷前の6ヶ月には大麦を蒸した「炊き餌」を与え、脂が口の中で自然に溶ける塩梅に仕上げられる。かつての松阪牛のやり方なのだそうで、長期肥育とかかる手間隙のため、月間の出荷頭数が5〜6頭がせいぜいなのが、希少となる所以だそうだ。

しかしながら「脂の質が違います。口溶けが良く、口に残りません」と、店の方が手間と希少さ相応の味の良さを推してくれる。いただいた大トロハラミ、ランプ、イチボいずれも、かめば脂甘さが身の丈で染み出し、後から赤身の旨みがじっとりくる。それでいて重さはまったくなく、体に負荷がかからずいっぱい食べられる肉だ。赤身と脂が並立した、二重の旨さが舌に胃に嬉しいこと。

群馬県は牛肉の消費量が全国で下位であり、この素晴らしい肉の認知度も今ひとつらしい。だからなおのこと、美味しい牛肉を地元の群馬・高崎の方に味わってもらいたいとの、生産者の狙いもあるという。値段はやや張るものの、「安心、安全は時間がかかり高いものなんです」と店の方。野菜と同様に畜産品にも、高崎の生産者の心意気が込められてるのを実感した、プチ贅沢なランチタイムであった。

ローカルベジタでヘルシーごはん…高崎 『高崎そだち』生産者探訪3

2015年12月07日 | ◆ローカルベジタでヘルシーごはん
高崎のブランド食材「高崎そだち」の生産者めぐり、続いては榛名地区のゆあさ農園にお邪魔した。榛名梅林は東日本屈指の梅の産地として知られ、この農園では有機栽培した梅、自然塩、天然水を使った、無添加の梅干しを生産している。

使う梅の品種は「白加賀」「梅郷」「紅養老」「織姫」「甲州」。梅の有機栽培をしているのは高崎ではここだけで、加工も一緒に有機認証をとっているところは、全国でも少ないという。使用する自然塩は、伊豆大島の「海の精」、石垣島の「石垣の塩」といった国内産のみならず、フランスのゲランドやヒマラヤ岩塩やウユニ塩湖の塩など、海外の名だたる塩まで幅広い。

パッケージにはそれぞれ、塩の銘柄が書かれたシールが貼られ、5種の梅と15種の塩の組み合わせで、各々異なる味わいに仕上がっている。食べ比べると塩分のとんがりや丸み、梅の甘さや濃さといった、食味の差が分かるような。ご主人いわく、材料は梅と塩のみの混じりけなしなので、梅の熟度と塩加減のみの勝負。文字通り、「塩梅」で決まるのだそう。酸味が強く塩分も高めだけれど、精製塩ではない本来の味なのだとも。

ここの製造工程は、通常の品だと6月に漬けて、11月に新ものが出回り始める。最近は「熟成梅」のニーズもあり、平成20〜22年に仕込んだ5年もの、さらに20年ものの梅干しなんてのも。「高崎・榛名の梅」とのラベルが巻かれた木箱に、恭しく5粒並んでおり、100g2000円のプレミア。高いから、売れ残ったら10年後に30年ものとして出すかな、と笑ってらっしゃるが、しっかり漬かりやや黒っぽい見た目は、なかなかの貫禄ものだ。

こうした多彩な商品展開の背景の一つに、東日本大震災での原発事故の影響もある。梅に関しては風評のレベルだったにもかかわらず、売り上げは半減。顧客もそれ以前と比べたら、かなり入れ替わってしまったという。しかしながら取組は一定の成果を得て、最近は毎年定期的に塩の銘柄指定で買ってくれるお客もいるとか。「梅干しは強い有名銘柄がある中で、うちは名前よりも安全と信用で売っていきたい」と話すご主人。なのでスーパーなどの大手流通には乗せず、直売を中心にお互い顔が見える流通を意識されている。

ちなみにご主人、家業を継いで就農される前は電機メーカーのエンジニアで、エコロジーへの意識も高い。農園の建屋にはソーラーパネルが設けられ、剪定した梅の枝を燃料にした「バイオモス(=梅を燃す)」と称するボイラーで給湯と暖房を賄う。強烈に酸っぱくしょっぱい、ここの梅干しの個性の強さは、自然と大地の恵みとご主人のこだわりが、がっちり込められているからかも知れない。

ローカルベジタでヘルシーごはん…高崎 『高崎そだち』生産者探訪2

2015年12月07日 | ◆ローカルベジタでヘルシーごはん
高崎のブランド食材「高崎そだち」の生産者めぐり、若手の就農者の話にも出てきた「くらぶち草の会」の主催者の方に、続いて話をうかがった。農薬や化学肥料に頼らない、無農薬有機栽培に取り組んでいる生産者団体で、新規就農者を積極的に受け入れ取引先も確保し、事業としての農業がこの土地で展開できる支えとなっている。

この組織が立ち上がったのは、2005年のこと。就農家の高齢化が進み後継もなく、地域農業存亡の危機が目に見えてきたことが、大きな理由である。以来、会の新規就農者は21世帯で、年に1〜2組のペースで増えている。もっともこれだと離農する数に追いつかず、既存の農家の耕作規模に比べると新規就農者のそれは小さいため、なかなか生産量が上がらない苦労もある。

そんな中での会の強みは、契約栽培で販路が確保されていること。基準さえクリアできていれば一定の価格で買い取ってくれ、生産物の6割は決まった売り先を斡旋される。農協依存の流通だと、トップレベルの技術による規格対応が要求されるところ、新規就農者にはありがたい仕組みである。そのため売上基準は農業委員会制定の数字をクリアしており、年収で家族が充分暮らせるのも、安心して当地に就農できる基盤だろう。

倉渕地区は中山間地域のため、傾斜を切り開いた小規模の畑が多い。一般的に新規就農者の耕作規模は、5年で1ヘクタールに及ぶのがやっとだそうで、初めはこの大きさがかえって適してるとも。新規就農者は農業技術が未熟な反面、大卒や社会人経験者が多く、流通や経営をはじめ異業種の知識があるのも、当地にとってのメリットになっているという。会の方いわく、農業経験者や後継者は辛さや厳しさを知ってしまっているので、未経験者のほうが先入観がなくかえって良いとも。

ひと通りお話を伺った後に、所有の畑を見せていただいた。ターツァイ、水菜、白菜が主な産物で、ターツァイは9月に植えて、いまが収穫期だそう。深い緑の瑞々しい葉物が、冠雪を抱く浅間山の麓に萌える様は、当地の農業の未来を表しているかのように眺められた。

ローカルベジタでヘルシーごはん…高崎 『高崎そだち』生産者探訪1

2015年12月07日 | ◆ローカルベジタでヘルシーごはん

高崎ブランド食材「高崎そだち」の生産者めぐり、最初の訪問先は倉渕地区へ。合併で編入された旧倉渕村で、長野県に接する県境に位置する。ちなみに高崎市、南は埼玉県境にも接しており、合併による市域の拡大が伺える。

倉渕地区は「オーガニック」、すなわち有機農業が根付いた地域である。各地から農業家の方や就農希望者が学びに来ることも多く、中にはそのまま就農する若い農家も多いそうである。この日お会いした方は、そもそも食の安全への意識が高く、奥さんの希望もあり6年前にこの地に就農したとのことだった。

倉渕地区には「くらぶち草の会」という、無農薬・有機の先駆け的な組織が根付いており、新規就農者を積極的な受け入れる環境があった。この方によると、草の会で研修を終えると即、就農でき、らでぃっしゅぼーやや東都生協、大地を守る会などとの取引があるためすぐに出荷ができるなど、恵まれた環境にあるとという。他所からの就農は何かとハードルが高い中、すぐに事業が展開できるというのは、なかなか優れている。

ご自宅でお話を伺った後は、クルマで5分ほどの所有の畑を見せていただいた。中山間の土地柄、小規模の畑を数箇所に渡り提供されており、案内いただいたところも程々の広さの印象。経営作物としては小松菜や白菜をメインにやっており、小松菜は5〜6月に植えて10〜11月に収穫のサイクルで栽培しているそうである。ほかニンジンやホウレンソウ、カブ、キャベツあたりが、主力の経営作物なのだとか。

その隣の畑では、直売用の西洋野菜が栽培されていた。流行りのロマネスコをはじめ、プチベール、ケール、ルッコラ、さらに黒キャベツ、冬キャベツなど。いずれも冬場に旨味が増すそうで、特にキャベツは霜のおかげで甘みが出るという。この大きな寒暖差は、600〜850メートルと標高が高い土地柄ならではのメリットかも知れない。

ご主人によると、標高が高いことはほか、虫が少ないことにも繋がり、無農薬をやりやすい環境なのだという。一方で畑が小さいため、大規模化が難しいというデメリットもある。家族経営が適正規模の広さは、新規就農者の身の丈ではあるのだが、事業拡大を目指すには足かせになるのが、痛し痒しでもあるようだ。

販路が確保されているのも、安定収入が保証される一方で、様々な制約もある。各流通先からのオーダーが草の会に集約され、個々の生産者に年間の生産ノルマが割り当てられるのだが、そのリクエストへの対応がなかなかピタリとはいかないらしい。見せていただいた畑の小松菜は、今年は暖かかったため大きくなりすぎ、規格外になってしまったとか。そんな想定外もあるため、常にオーダーより多めの生産量を確保する必要があるという。「自然が相手なので、経験が浅いとなかなか気候の変化を読みきれません。つくづく、古い営農者の勘の凄さを実感します」とは、若い就農者の本音だろう。

商品価値のある作物を展開したいです、とのご主人のところでは、食用ほおづきを推しているそう。新規参入の就農者から、利益を生む農業経営者へ。倉渕地区の有機農業は、日本の若い農業家にとって求める未来予想図が描ける環境なことを、彼らの言葉の端々から感じ取れた思いがする。

高崎そだち生産者探訪

2015年12月07日 | てくてくさんぽ・取材紀行
以前に高崎に行く際に、最寄りの大船駅から湘南新宿ラインで行ったことがある。思えば大船も高崎も、巨大な観音様つながりの縁がある。大船観音は肩から上だけだが、高崎は全身像。高台の慈眼院にそびえる、高さ41メートルの白衣の巨像だ。建立は宗教がらみではなく、井上工業という企業製で、地元への恩返しとして昭和11年に建てられたもの。この会社、若き頃の田中角栄も務めていたそうだ。

高崎と聞いて一般的に思い浮かびそうなのが、観音様のほかにはダルマでは。少林山だるま寺で知られ、もとは養蚕農家の冬場の稼ぎが所以である。これら2つと関東屈指の開運パワスポとされる榛名神社も合わせ、高崎は「縁起のいい街」で売り出していたとか。

で、このたびのミッション、高崎の生産者めぐりである。高崎はそもそもは商工業の街だが、倉渕と榛名と合併してからは農業を意識。東京に近いので、生産物は日用品的な位置づけだった中、このところは商品価値をあげるためブランド化に力を入れており、「高崎そだち」を名乗り展開している。

縁起のいい街での生産者めぐり、果たしてどんな出会いが待っているのだろうか?

※画像はホテルのフロントに鎮座していた、ミニチュア観音さま。