ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

極楽!築地で朝ごはん8食目・大森…カレーと牛丼「合がけ」で、2倍おいしい、2倍ボリューム!

2005年10月11日 | 極楽!築地で朝ごはん

 先日さかえやで頂いた牛丼と並ぶ、市場で働く人向けのスタミナ・ファーストフードといえばカレーだ。実は築地の場内・場外には、この両方のメニューを出す店がいくつかあり、さかえやでもマイルドな味わいのポークカレーが、牛焼肉丼と双璧の人気メニューになっている。それどころか、牛カルビ焼肉とポークカレーを両方ご飯にのせた、「焼肉カレー」という超ボリュームメニューもあるぐらい。このように2種の具をご飯にのせることを、築地界隈では「合がけ」と呼んでおり、ピザの「ハーフ&ハーフ」といった感じ。どっちを食べたいか迷うときには、ちょっとうれしいシステムである。

 新大橋通り商店街の築地4丁目交差点寄りにある「大森」は、この「合がけ」発祥の店といわれ、以来40年来の根強い人気を誇っている。例によってこの通りの店ならではの、5~6人座れば満席のカウンターに腰掛けると、「今からあなたのスタミナを10時間守ります」との迫力ある貼り紙の文字が。とろろご飯とのセットメニューなど、ほかにも元気のでそうなメニューがいくつもある中、頼むのはやはり名物の合がけ。皿に盛たご飯の上に辛口のポークカレーと、焼き豆腐とタマネギ入りの牛丼がぴったり半分ずつのって出された。

 一瞬、どちらから食べようか迷ってしまうが、まずは築地初物のカレーからひと口。長時間じっくり煮込まれているらしく、タマネギなどの具があまり形を残しておらず、トロリと柔らかな食感だ。牛丼と一緒に食べやすいようにやや辛口に仕上げてあるため、ピリッとした刺激につい食が進む。一方、牛丼の方は厚めの肉とタマネギ、そして焼き豆腐がごろりとたっぷりのっていて、見るからにボリューム満点。肉は脂身が少ない和牛を使っているためあっさりと食べやすく、タマネギは歯ごたえがしゃっきりと、カレーと対照的に食べごたえがある。ご飯にもしっかりと染みた甘辛いつゆがまた、カレーの辛みと好対象。付け合わせも半分には福神漬け、もう半分には紅ショウガが用意されているのがおもしろい。

 しかしこの料理、考えてみればポークカレーの豚肉、牛丼の牛肉に加え、「畑の肉」大豆を使った豆腐まで入っている。この日はこれから結構忙しいけれど、貼り紙の文句通り今日1日ありがたくスタミナを守ってもらえそうである。(2004年6月2日食記)


町で見つけたオモシロごはん9…若かりし編集者のエネルギー源 新富町・煉瓦亭の洋食弁当

2005年10月10日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 私事であるが、旅とレジャーの出版関連の仕事に就いて間もない頃、旅行の情報誌の編集をに携わっていたことがある。イレギュラーな雑誌で残業が非常に多く、夕方に出てきた校正を夜なべして読み、翌朝までに戻すなんてことがしょっちゅう。先輩方に追われて右往左往していたが、駆け出しでろくに戦力になっていなかったことだろう。そんな中でひとつの楽しみだったのが、徹夜に備えてエネルギー補給のための夜食だ。下っ端の私が、近所の弁当屋へ買い出しに行くことが多かった中、仕事場が銀座界隈なだけに、たまに近所へ繰り出してちょっとばかり贅沢をしたことも。時には編集長にごちそうになったりと、当時のいい思い出である。

 銀座のはずれにある洋食の老舗「煉瓦亭」もその頃よく訪れた店で、フライを中心に豊富なセットメニューが揃っている。新富町で所用を済ませた帰りに久しぶりに前を通り掛かり、たまには寄ってみるかと店頭の品書きを見ると、どのメニューも千数百円から2000円以上するものばかり。あれから10余年、バブルの末期で羽振りがよかった? 当時に比べ、今では残業も減り家族持ちの身の上。昼飯にそう贅沢はできないが、懐かしさに背中を押されて思い切って入ってみることにする。昼時は周囲に勤めるサラリーマンの行列ができる有名店で、13時をやや過ぎた今は店内に数組の客が残っているのみ。昔のままの、高さがあるカウンターに座ってメニューを一覧すると、見覚えのある品が多く残っているのにうれしくなってしまう。まだ20代前半のガンガン働いてはどんどん食べていたあの頃、夜食によく頼んでいた「洋食弁当」を探してみたらあった! ハンバーグにカツ、海老フライ、カニコロッケの4種がつき、ちょっと量が多そうだが、空腹と懐かしさに押されて頼んでみることにする。

 カウンターからは厨房が丸見えで、頑固な洋食職人といった感じの親父がふたり、淡々と調理にかかっている。左の緑のタオルを頭に巻いた親父はフライパン、右の丸刈りの親父はフライヤーに付いていて、すぐ目の前のカウンターに付くやや若い人が盛り付け担当のよう。それぞれからできあがった揚げ物や焼き物を手際良く器に並べ、ソースをかけたりつけ合わせをのせたりと仕上げにかかっている。自分が注文した分らしい弁当箱が出てきたので、盛り付けの人の手順を見ていると、ご飯とつけ合わせのパスタを詰めるとすぐ、丸刈りおやじから海老フライとカツが揚がってきた。弁当箱に並べてさっとタルタルソースをかけると同時に、今度は緑タオルのおやじから焼き上がりのハンバーグが到着。パスタの上にのせてデミグラスソースがかけられると、「お待ちどう様」と差し出された。それぞれのタイミングばっちり、手際のいいこと。

 当時は軽く平らげていたこの弁当、改めて見ると揚げ物が箱からはみだすほど満載で相当なボリュームだ。中がとろりとクリーミーなカニコロッケ、海老がブツリと瑞々しく揚がっている海老フライ、肉の柔らかなカツと、どれも外はカラッと香ばしく、中身は素材の豊かな味がそのまま生きている。揚げ上がりが軽いので、さっくりしつこくなく食べられるのも昔のまま。ハンバーグはデミグラスソースの酸味がほど良く、さっぱりと味覚が変わってより食が進む。好みのものがちょっとずつ詰まっているので、まるで「おとな向けのお子さまランチ」である。

 空腹のせいか懐かしさのせいか、案ずることなく平らげると、いつの間にか店内は遅い昼ご飯のサラリーマンで満席になっている。「Aセット」「Bセット」「カニコロ」「メンコロ」とフロアと厨房の間に符丁の注文が飛び交うと、目の前の器にフライやソテーなどが盛り付けられ、ちょっと目移りがしてしまう。支払いをしていると「はいオイスター1枚」の声も。カキフライのシーズン到来のようで、改めてまたお昼に食べにくるか。好物のカキフライのためなら、数日の節約生活もなんのその、である(2005年10月7日食記)

旅で出会ったローカルごはん9…越前三国のおろしそばは、大根がないのになぜか辛い

2005年10月09日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 福井からえちぜん鉄道で45分。九頭竜川の河口に開けた三国は、明治中期まで北前船の寄港地として栄えた港町である。かつての回船問屋や遊郭など、格子が美しい町並みをぐるりと散歩したらちょうど昼時。三国の名物といえば三国港で水揚げされる越前ガニだが、それは今夜泊まる料亭旅館でのお楽しみ。お昼は軽く済ますことにして、もうひとつの名物、三国のそばの名店「新保屋」を訪れることにした。

 別添えのつゆに浸して頂く一般的なそばと違い、越前地方のそばは陶器の皿に盛って、上からつゆをかけるスタイルである。中でも評判が高いのが「おろしそば」。この店でも人気のようで、ほとんどの客が頼んでいる。大と小の2つの大きさがあり、地元の人は小を頼んでお代わりしているよう。こちらも土地のスタイルに合わせて、まずは小をひとつ注文してみることに。

 しばらくして小振りの皿に盛られたそばと、鉢に入ったつゆがそばと別に運ばれてきた。つゆを自分でそばにかけて食べる仕組みである。金津産と丸岡産の地元のそばに、青首大根に辛味大根を混ぜて使ったおろしそばがこの店の特徴で、薬味はネギとカツオ節で、肝心の大根おろしが見当たらないが、つゆをさっとかけてひとすすりすると、大根の青臭さと辛みがツンツンと強烈。三国のおろしそばは大根下ろしをのせるのではなく、つゆに入れて生醤油で味付けして使っているのである。

 さらにこの店では、つゆに入れるのは大根の汁のみで、繊維はとりのぞいてある。だから大根の香りがより鮮烈、醤油やダシの味はあまり感じないほどである。「汁だけ使うと、大根の量がたくさんいるから大変だよ」とご主人が苦笑する。削りたての荒削りのカツオ節の香ばしさが際立っていて、さっぱりとどんどん進んで小皿をさらにおかわり。辛味に慣れてつゆだけ飲んでみると、とがった辛さの中にほんのり甘みがある。

 結局、小皿を4つ平らげて、大根汁を加えたそば湯を頂いてひと息。以前福井で食べた、揚げたカツを卵でとじずにそのままのせたソースカツ丼は、信州の駒ヶ根と福井で共通するスタイルだったが、考えてみればそばも信州と越前それぞれの名物。内陸の山国と日本海に面した土地と気候風土は対照的だが、どこか食文化に共通するところがあるのかも知れない。(2005年3月8日食記)

旅で出会ったローカルごはん8…揚げたカツだけがゴロン・福井ヨーロッパ軒の本家ソースカツ丼

2005年10月07日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 以前、信州伊那地方の駒ヶ岳千畳敷をトレッキングする際に、山麓の駒ヶ根に宿泊したことがある。夕食に町の定食屋でカツ丼を頼んで、出された料理に思わず目を疑った。文字通り、丼飯の上には揚げたカツがそのままゴロン、とそのままのっているだけ。カツをタマネギなどと一緒に卵でとじる、普通のカツ丼とかなり違う。店のオリジナルかと思って店主に聞くと、伊那地方でカツ丼といえばこれ、とのこと。庶民的な定番丼料理なのに、ずいぶんオリジナリティーがあるものだ。

 調べてみると伊那地方のほか、信州の大町、群馬県の桐生など、揚げたカツをそのままのせるタイプのカツ丼を出す地域はいくつかある。曹洞宗の大本山・永平寺を訪れたときに宿泊した福井では、ソースカツ丼を看板メニューとする洋食屋「福井ヨーロッパ軒」が有名だ。ソースカツ丼の元祖を名乗る店はそれぞれの土地にあり、福井では大正3年創業のここが「元祖」。そういえば駒ヶ根で入った店も、たまたま元祖だった。

 店は福井駅から歩いて10分ちょっと、小ぢんまりした飲食店が集まる片町通りの一角にあった。外観は昔の洋食屋風で、ドアをくぐると数客並ぶテーブル席で、フライを肴にビールを傾けるサラリーマンがちらほら。奥には厨房がちらりと望め、半オープンキッチンといった感じである。メニューをもってきてくれたおばちゃんは愛想が良く、いかにも町の食堂風のアットホームなムードがいい。注文はカツ丼にするつもりだったが、ステーキや各種フライなど、洋食メニューも魅力的で目移りがしてしまう。うまいことに、ソースカツとカキフライの盛り合わせ丼があったので、これにサラダと味噌汁をつけてもらうことにする。

 揚げ物がいっぱいのった丼から、さっそくカツをひと切れ。筋の少ないロース肉を粒子が細かいパン粉にまぶし、ラードとヘットでカラッと揚げてあるから、肉は脂っぽくなく柔らか、衣のいい香りがする。ソースはウスターソースをベースに、様々な香辛料を混ぜてある店の秘伝で、甘味と酸味がまろやかな味わい。カツが熱々のうちにさっと漬けたため、香ばしい食感はそのままだ。駒ヶ根のに比べて肉が薄めなのが特徴で、昔肉屋で売っていた串カツを思い出す懐かしい味だ。カキフライは今が旬である能登産のカキを使用、粒が大きく中身はジューシー。揚げ物をのせる前にご飯にもタレをしっかりまぶしてあるから、カツを先に食べて後からご飯だけ食べても、なかなかいける。

 冬の北陸へ来たのだから、2軒目は日本海の幸で一杯が頭をよぎるが、ソースカツ丼はかなりのボリュームですっかりお腹はいっぱい。明日泊まる加賀温泉郷、山代温泉の名旅館で越前ガニや甘エビはたらふく頂けるだろうから、今夜は庶民的にカツ丼で晩飯を締め、晩酌は庶民的にビジネスホテルで缶ビールといくか?(2002年12月1日食記)

旅で出会ったローカルごはん7…須崎のもうひとつの「鍋焼き」 ラーメンに激似の鍋焼きプリン

2005年10月04日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 高知の西寄りにある土佐湾に面した町・須崎で名物の鍋焼きラーメンを頂いたおかげですっかり汗びっしょりになってしまった。鍋焼きラーメンを出す喫茶店「がろー」で食後に少し涼み、汗がひいたところで目指す四万十川方面へ向かおうと、須崎駅へと向かった。人通りの少ない商店街を引き返していると、沿道に洋菓子の店を発見。行きは空腹で鍋焼きラーメンしか眼中になかったせいか気づかなかったが、昔風の町並みにそぐわないしゃれた外観がなかなか目をひく。店内には喫茶コーナーもあり、梅雨の晴れ間の蒸し暑さでいったんひいた汗がふたたび出てきたこともあり、列車の時間待ちがてらちょっと涼むことにした。

 ショーケースを覗いて驚いた。なんと、ここにも鍋焼きラーメンがある! 中にはカップサイズの鍋焼きラーメンがずらりと並び、ケースの前には鍋焼きラーメン風の焼き菓子など、鍋焼きラーメンを模したユニークなお菓子が各種そろっているのである。店のお姉さんに、喫茶室で食べていきたいんだけど、とケースの中のカップをひとつ出してもらう。これが須崎名物のもうひとつの鍋焼き、その名も「鍋焼きプリン」である。

 今やすっかりご当地の名物料理となった鍋焼きラーメンにちなみ、この「一文字菓子店」の店主の谷脇由郎氏がつくり出した鍋焼きプリン、見た目のユニークさに目が奪われるが、無添加のプリンを土鍋をイメージした陶器に入れ、焼きプリンの要領で蒸したという、なかなか本格的なお菓子だ。一緒に頼んだアイスコーヒーを頂きながら、まずはスープをひとすすり… ではなくプリンをひとさじ。

 それにしても、薄茶のスープに黄色い麺、ちくわにネギに玉子がのって、小さいだけで見れば見るほどさっき食べた鍋焼きラーメンとそっくりである。スープの正体はカラメルゼリーで、その下のカスタードプリンは卵がたっぷりでまろやかな甘さ。上にはマロンペーストの麺がのり、少し苦みが効いたカラメルに、ブランデー風味のペーストがちょっと大人向けの味である。具にも箸、ではなくスプーンをのばして、素材当てをしながら楽しむ。卵は白身が生クリームで黄身が桃、ネギはハーブ、さらにちくわはシューの皮と、技の細かさは感心するやら、おもしろいやら。特にちくわはまさか本物のちくわでは?と思うほどそっくりだ。

 熱々の「本物」鍋焼きラーメンを食べたあとのデザートにさっぱりと、本日2杯目の鍋焼きを平らげ、支払いの時に目に入った「鍋焼きタルト」もみやげに購入。駅へ向かって歩きながら、ちくわはアーモンド、卵はドライフルーツ、ネギはいったい何だろう、と再び具の謎解きに挑戦である。(2005年6月16日食記)