ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

味本・旅本ライブラリー10…『日本全国ローカルフード紀行』

2005年10月20日 | 味本・旅本ライブラリー
 「名物にうまいものなし」という言葉がありますが、これは観光客向けの料理やみやげものを指しているようです。どこどこへ行ったらぜひ食べなきゃといった感じの、ガイドブックに載っているおススメ料理って、大体が「よそ者」を意識しているよう。名物ということで旅の印象には残るが、よく考えてみると味の方はイマイチだったってことも多い。値段の方も「観光客プライス」で高めと、名物といっても地元の人はそんなにしょっちゅう食べているのではないのでしょう。

 そんなよそ行きの料理に対して、地元の人が普段食べている、その土地に真に根付いた味覚が近頃注目されています。といってもブランド魚や銘柄肉、伝統の郷土料理といったご馳走とは違い、庶民的で安価ないわゆる「B級グルメ」が中心。よく、山間部の温泉の夕食に地元特産のキノコや川魚ではなく、マグロや鯛の刺身が出た、といった話がありますが、「都会から来る人に、自分たちが普段食べているようなものを出すのは恥ずかしいから、都会の人が喜びそうな『ごちそう』を出す」というのが地方の人の心理とか。そんな訳で今までは知る人ぞ知る程度だった庶民の味が、このところの「ローカルフード」ブームで一気に露出が増えてきました。
 
 かつては御当地グルメといえば思い浮かぶのはラーメン程度でしたが、最近では名古屋グルメや讃岐うどんのブレイクで注目。それに続けとばかり、富士宮や横手の焼そばで町起こし、米軍基地のある佐世保のアメリカンスタイルのハンバーガー、札幌ではラーメンにとって変わったスープカレーなど、地域も料理もバリエーションがかなり豊かになったようです。変わり種もお目見えし、埼玉・行田のフライ(小麦粉をといて鉄板で焼いてソースで頂く。揚げ物ではない)、長崎のトルコライス(洋食盛り合わせのようなもの。トルコ料理とは関係ない)は、名前を聞いただけでは中身が想像もつかない?

 本書ではそれぞれの料理の簡単な背景が載っていて、「なぜこの土地にこんな料理が?」という理由が分かって面白い。執筆陣も日本のおでん研究の第一人者である新井由己氏、「タコヤキスト」の熊谷真菜さん、さらにコラムニスト泉麻人氏、庶民文化の町田忍氏など、サブカルチャー本ならではの個性的ラインナップ。食べに行くならお勧めの店ガイドもいくらか載っていますが、役立つのは巻末のオフィシャルサイトと関連ガイド本の紹介ページ。観光課や商工会、元締めの組織などのホームページや食べ歩きマップは気合いが入ったつくりのものが多く、現地に食べに行く際にはとにかく役立ちます。

 味本旅本3連発を書いていたら、行きたいところ、食べたいものがあれこれ出てきてしまった。北海道最果て、日本最東端の根室名物「エスカロップ」とは一体何だろう? 新潟の「イタリアン」とはどんなもんだろう? 仕事もひと段落したことだし…。

◎『日本全国ローカルフード紀行』 六耀社刊 本体1500円+税

味本・旅本ライブラリー9…『美味しんぼ』 雁屋哲作・花咲アキラ画

2005年10月19日 | 味本・旅本ライブラリー
※前回の投稿分を一部内容変更して、1回にまとめました。重複部分はご了承ください。

 「主(あるじ)を呼べっ!」「まったりとこくがある味わい」「こんなものは本物のうどんじゃない!」などの大仰な台詞に、聞き覚えがある人も多いのでは。新聞記者の山岡士郎と美食芸術家・海原雄山父子の繰り広げるグルメ対決は続くこと20年あまり、今や92巻の大河グルメマンガとなっております。

 ストーリーは概ね知られているでしょうから、海原雄山のモデルについて少し触れます。大正~昭和初期に活躍した実在の人物で、書家・陶芸家である北大路魯山人。マンガでは登場しないものの、雄山の師匠・唐山陶人翁の師匠と設定されています。形式にとらわれない自由奔放な作風で、個性的な作品を数多く残しているが、天才の強烈な個性ゆえの大胆な言動に敵も多く、芸術界では評価が極端に分かれるよう。大変な美食家でもあり料亭も経営していたのですが、その名がそのものズバリの「美食倶楽部」。のちに「星岡茶寮」という料亭も経営するのですが、マンガに出てくる「岡星」の元ネタという説も。

 ちなみに魯山人に関しては、平野雅章氏が編集した書物がいくつか出ています。自伝や作品についてのほか食にまつわる本もあり、文春文庫「魯山人味道」(←だったかな?確認しておきます)ではこんなエピソードが。フランスの有名な鴨料理の店で、店の看板である鴨料理を魯山人一行が持参のワサビ醤油で食べ、伝統のソースをコケにして高笑い。これは初期の「美味しんぼ」に掲載されている話の元ネタで、今の泰然自若とした大芸術家たるたたずまいの雄山からは想像できない暴挙! ちょっと脱線しましたが、こんな個性あふれる魯山人の食生活など氏関連の本もおいおい紹介しましょう。

 個人的には、「食育」や食文化の伝導などやや説教っぽい内容が多い最近よりも、純粋に料理対決がメインだった初期の頃のほうが面白かったように思えます。出てくる料理もセンセーショナルだったし(フランス空輸のフォアグラを茨城沖でとれたてのアンキモが凌駕する、とか)、キャラも山岡はずっこけ3枚目でなく気障な無頼漢、雄山は人徳あふれる大人物ではなく傲慢無礼な敵役と、まさに「料理劇画」といった独特の世界観でした。そんな訳で古書店などで買って読むなら、1巻から20巻前後あたりがおすすめです。

 いわば料理マンガのパイオニアといえるこの作品、現在数多いグルメマンガの様々なパターンが含まれているのが興味深い。うまいもの対決の「料理勝負」をはじめ、駆け出し料理人の成長過程を追う「料理人修行」、料理屋や食に関する商売の現場を描いた「業界事情」、食の安全性や食育など学習的な「食文化蘊蓄」、そして人間ドラマを食がとりもつ「料理人情物語」など多種多彩で、他のグルメマンガに似たようなストーリーが見られることも? 今後このコーナーでとりあげる料理マンガは、これらのパターン分けを元に紹介していきます。あくまで「なるほど」と読みごたえのある内容のマンガに絞り、あまりに現実離れしたのは御勘弁。食べるとうまさのあまり宇宙にとびだしてしまうようなヤツとかはちょっと…。

◎『美味しんぼ』 雁屋哲作・花咲アキラ画 小学館 定価530円

味本・旅本ライブラリー8…『旬のうまい魚を知る本』 野村祐三著

2005年10月16日 | 味本・旅本ライブラリー
 10月も半ばを過ぎ、そろそろ北関東では紅葉到来の声が聞こえてきます。魚介や果物をはじめ各地では旬の食べ物が揃い、まさに食欲の秋、行楽の秋真っ盛り。でも仕事が多忙を極め、あるいは金欠でなかなか出かけるチャンスがない…。そんな事情によりもっぱら読書の秋派の人向けに、ここで味本・旅本3連発といきましょう。

 2002年のJAS法改正により、生鮮食品の名称や原産地の表示が厳しくなりました。中でも魚介では、海外でとれ輸入された魚介を正式名で表示することが義務付けられ、たとえばそれまで「銀ムツ」と表示されていた魚介が「メロ」、白スズキが「ナイルパーチ」など、日本近海産と誤解されるような表現が厳しく規制されることになりました。呼び名が変わったからといって味が変わる訳ではないのですが、それまでより食べる際にちょっと違和感を覚えるようになった方もいるのでは。このように、国産か海外産なのかをはじめ、天然物か養殖物か、さらに旬の季節やどういう漁法でとれたのかなど、情報によって食べるときの印象って、かなり変わるものだと思います。いわば頭から効く調味料といったところでしょうか。

 春夏秋冬の季節ごとにとれる日本近海の旬の魚を紹介したこの本は、魚好きにとってはまさに絶妙の「調味料」。水揚げ地や旬の時期、いいものの見分け方といった食べるときに役立つ情報に加え、名前の由来や面白い生態、珍しい漁法など興味深いこぼれ話も収録。「アナゴは大きいヤツより20センチぐらいの『メソッコ』てやつがうまいんだ」「ホタテはあの大きな貝殻で、海の中をパタパタ羽ばたいて泳ぐんだよ」など、寿司屋などで同席する人に自慢げにかませる? 薀蓄だって得られます。また漁船へ同乗したりお宅へおじゃましたりと、漁師へのルポは興味深い。この漁法ならば、漁獲した後このように扱っていれば、魚の味がいいだろう、と読んで納得できること間違いなし。魚介のカラーイラストや水揚げ港の地図など図版類も豊富で、内容は濃いが親しみやすい展開になっています。

 中でも魅力的なのが、水揚げ地で食べる本場漁師料理の紹介。マヨネーズとすりおろしにんにくで食べる鹿児島・枕崎のカツオ。潜ってとったばかりのを焚き火であぶり、味付けは海水にさっと浸した塩味だけという千葉・御宿のアワビ。はがした甲羅に酒と醤油を入れてから七輪にのせ、その中にちぎった足を放り込む鳥取・岩美のズワイガニ。いずれも文章を目で追うだけでよだれもので、すぐにでもそれらの漁港へとんでいきたくなる衝動に駆られること必至です。こういうのって、魚屋で買ってきて自分の家でやってみても、思ったより今ひとつだったりする。鮮度の違いもあるのでしょうが、やはりその土地の空気の中に身を置いて食べるのが、一番の味付けなのではないでしょうか。

 著者の野村祐三さんは食全般、特に漁業をフィールドに全国の浜を歩き精力的に取材を続けるフリーライター。中でも漁師料理に関しては、日本でも第一人者といえる方です。水産ジャーナリストの会の大先輩で、本書の内容のような魚談義を肴に、何度か楽しい酒席をご一緒させていただいたことがあります。10月下旬には日本全国の地魚料理500を紹介した『旬の地魚料理づくし』が刊行される予定で、こちらも注目。編集担当の石井一雄さんも、ガイドブックの仕事でご一緒したことがある旅行出版業界の大先輩です。

『続・旬のうまい魚を知る本』『島に行ってうまい魚を食う本』と続編・姉妹編も好評発売中、次第にカラーページや図版が増え、装丁や造本が豪華になっているようです。売れ行き好調だからでしょうが、ちょっとうらやましいかも?

◎『旬のうまい魚を知る本』 野村祐三著 東京書籍刊 本体1700円+税

極楽!築地で朝ごはん10食目・バカウマ亭つきじラーメン…通りを1本渡ると、築地流と違うラーメンが

2005年10月14日 | 極楽!築地で朝ごはん
 築地の場外は一般的に、晴海通りと新大橋通りから築地市場寄りのエリアを指している。築地市場から歩いて5分、目と鼻の先には賑わいを見せる銀座の街が。雑然とした雰囲気の場外市場と、銀座の延長といったハイカラなムードの街が、これらの通りを隔ててすぐ隣り合っているという訳である。

 その晴海通りと新大橋通りが交差する築地4丁目交差点の角に、築地共栄会ビルが立っている。地下から2階には鮮魚や水産加工品、乾物ほか食料品の店がびっしり軒を連ね、まるで通りを挟んですぐ向かいの築地場外がそのままビルになったようである。エスカレーターで地下へ下ると5軒程度の店が並ぶ飲食店街で、その中から選んだのは「バカウマ亭つきじラーメン」。何とも豪快な店名のラーメン屋で、先日に続いて朝からラーメンで朝食である。

 新大橋通りの店と違い、何人も座れそうな長いカウンターに座ってメニューを見ると、「みそラーメン」の文字が目に入る。醤油味のラーメンが主流の築地では珍しいので、これを注文することにした。運ばれてきた丼はモヤシやコーンなど具の種類が豊富で、スープは見るからに濃厚そうな色だ。まずはスープからひと口頂くと、すっきりしているがかなり複雑な味わい。鶏ガラからとっただしに炒めたひき肉やシイタケ、ネギを加えてあり、独特のこくが後をひく。そして味の決め手は新潟の栃尾産の味噌。築地で食べたラーメンはあっさり味ばかりだったので、これはインパクトがある。ほかにも食べごたえがある太めの麺、自家製の卵焼きやメンマなど具もなかなかのもの。特になるとがうまいのは、場外のかまぼこ専門店のものだろうか。

 冒頭の定義からするとここは築地場外の外側になるものの、手間暇かけた深みのあるラーメンは「早くでき、早く食べる」市場流ラーメンとはひと味違って新鮮だ。場外から通り1本隔てれば、街の雰囲気だけでなく味の流儀も異なるようである。(2004年6月7日食記)



極楽!築地で朝ごはん9食目・若葉…魚河岸流ラーメンのおいしい食べ方は、とにかく早食いすべし!

2005年10月13日 | 極楽!築地で朝ごはん
 全国の漁港の街を巡っていると、たまに「市場のラーメンはうまい」という少々伝説めいた評判を耳にすることがある。築地でも同様だが、一般的なラーメン屋と市場のラーメン屋では、客層も求められるものも異なるため、どっちがうまいかなどと一概には比べられない。というのも築地のラーメン、主なお得意様は忙しい河岸の労働者たちで、注文してから出されるまでの早さが、味と同レベルに要求されるのだ。場内や場外の狭い厨房で、こうした時間に追われる客を未明からどんどんさばかなければならず、労働食だけに食べやすく飽きのこない味であることも大切。醤油ベースなどあっさりしたスープが中心で、具もネギとチャーシュー程度と、築地のラーメンの多くがシンプルで軽い味わいが特徴なのは、観光客や買い物客向けではなく、毎日食べにくる築地で働く人に合わせた「日常食」だからである。

 新大橋通り商店街にある店は、どこもカウンターだけの小さい店であることは何度も紹介したが、この日訪れた「若葉」はその中でも最小かも知れない。何とカウンター3席だけ。たまたま座れたが、他の客と3人だけでラーメンをすするのも何だか妙な気分だ。ここの看板は中華そばで、頼むとすぐにカウンターへ丼がドン、出てくるまでさすがに早い。忙しい河岸の労働者に合わせ、早くゆであがり食べやすいという極細のちぢれ麺のおかげである。

 さっそく細めの麺をズルリとひとすすりすると、結構固めでバリバリした歯ごたえ。ちぢれているのでスープによくからみ、なかなかいける。スープはカツオに豚骨を加えてダシをとってあるためこくがあり、しっかり効いた醤油味のおかげであっさりと仕上がっている。スープだけ飲んでみると、香りがよくやや辛目。肉体労働者向けに、塩分を濃い目にしているのだろうか。3枚のったチャーシューはまろやかでやや甘めの味わい。薩摩麦豚をじっくり煮込んで炭火で焼いてあり、以前「井上」で食べたラーメンと同様、焼豚というよりはゆで豚肉に近い。これが築地のラーメン屋のチャーシューのスタイルなのだろうか。

 麺は大盛りでスープも熱々だから、がんばって食べ進めるものの意外に減っていかない。もたもたしているうちに、麺の最後の方は少々もったりした感じに。ゆであがるのが早い麺は、のびるのも早い。築地のラーメンを最後までおいしく頂くには、魚河岸流の早食いが必須条件のようである。(2004年6月3日食記)