ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

味本・旅本ライブラリー8…『旬のうまい魚を知る本』 野村祐三著

2005年10月16日 | 味本・旅本ライブラリー
 10月も半ばを過ぎ、そろそろ北関東では紅葉到来の声が聞こえてきます。魚介や果物をはじめ各地では旬の食べ物が揃い、まさに食欲の秋、行楽の秋真っ盛り。でも仕事が多忙を極め、あるいは金欠でなかなか出かけるチャンスがない…。そんな事情によりもっぱら読書の秋派の人向けに、ここで味本・旅本3連発といきましょう。

 2002年のJAS法改正により、生鮮食品の名称や原産地の表示が厳しくなりました。中でも魚介では、海外でとれ輸入された魚介を正式名で表示することが義務付けられ、たとえばそれまで「銀ムツ」と表示されていた魚介が「メロ」、白スズキが「ナイルパーチ」など、日本近海産と誤解されるような表現が厳しく規制されることになりました。呼び名が変わったからといって味が変わる訳ではないのですが、それまでより食べる際にちょっと違和感を覚えるようになった方もいるのでは。このように、国産か海外産なのかをはじめ、天然物か養殖物か、さらに旬の季節やどういう漁法でとれたのかなど、情報によって食べるときの印象って、かなり変わるものだと思います。いわば頭から効く調味料といったところでしょうか。

 春夏秋冬の季節ごとにとれる日本近海の旬の魚を紹介したこの本は、魚好きにとってはまさに絶妙の「調味料」。水揚げ地や旬の時期、いいものの見分け方といった食べるときに役立つ情報に加え、名前の由来や面白い生態、珍しい漁法など興味深いこぼれ話も収録。「アナゴは大きいヤツより20センチぐらいの『メソッコ』てやつがうまいんだ」「ホタテはあの大きな貝殻で、海の中をパタパタ羽ばたいて泳ぐんだよ」など、寿司屋などで同席する人に自慢げにかませる? 薀蓄だって得られます。また漁船へ同乗したりお宅へおじゃましたりと、漁師へのルポは興味深い。この漁法ならば、漁獲した後このように扱っていれば、魚の味がいいだろう、と読んで納得できること間違いなし。魚介のカラーイラストや水揚げ港の地図など図版類も豊富で、内容は濃いが親しみやすい展開になっています。

 中でも魅力的なのが、水揚げ地で食べる本場漁師料理の紹介。マヨネーズとすりおろしにんにくで食べる鹿児島・枕崎のカツオ。潜ってとったばかりのを焚き火であぶり、味付けは海水にさっと浸した塩味だけという千葉・御宿のアワビ。はがした甲羅に酒と醤油を入れてから七輪にのせ、その中にちぎった足を放り込む鳥取・岩美のズワイガニ。いずれも文章を目で追うだけでよだれもので、すぐにでもそれらの漁港へとんでいきたくなる衝動に駆られること必至です。こういうのって、魚屋で買ってきて自分の家でやってみても、思ったより今ひとつだったりする。鮮度の違いもあるのでしょうが、やはりその土地の空気の中に身を置いて食べるのが、一番の味付けなのではないでしょうか。

 著者の野村祐三さんは食全般、特に漁業をフィールドに全国の浜を歩き精力的に取材を続けるフリーライター。中でも漁師料理に関しては、日本でも第一人者といえる方です。水産ジャーナリストの会の大先輩で、本書の内容のような魚談義を肴に、何度か楽しい酒席をご一緒させていただいたことがあります。10月下旬には日本全国の地魚料理500を紹介した『旬の地魚料理づくし』が刊行される予定で、こちらも注目。編集担当の石井一雄さんも、ガイドブックの仕事でご一緒したことがある旅行出版業界の大先輩です。

『続・旬のうまい魚を知る本』『島に行ってうまい魚を食う本』と続編・姉妹編も好評発売中、次第にカラーページや図版が増え、装丁や造本が豪華になっているようです。売れ行き好調だからでしょうが、ちょっとうらやましいかも?

◎『旬のうまい魚を知る本』 野村祐三著 東京書籍刊 本体1700円+税