ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカルミートでスタミナごはん5…川俣しゃも/福島県郡山市 『四季膳眺望 春翠亭』

2009年12月08日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん

【川俣しゃも】
 ■種別…銘柄鶏
 ■系統・掛け合わせ…(レッドコーニッシュ×しゃも(純系・地鶏))×ロードアイランドレッド
 ■生産出荷元…川俣町農業振興公社

 その生涯をとりあげたテレビドラマの放映が決定して、このところ坂本龍馬が注目を浴びている。幕末の志士として、当時の日本を大きな変革へと導いた功績は偉大で、様々な問題を一向に解決へ導くことができない、現代の為政者の政治手腕と比べられることも多い。
 龍馬の最後といえば、慶応3年11月15日、京都の定宿・近江屋で暗殺されたというのが、定説となっている。盟友、中岡慎太郎との会談の際、風邪気味だった龍馬はしゃも鍋を食べたいと、配下に買出しに行かせた。警護が手薄な隙に、十津川郷士を名乗る刺客により斬られた龍馬は、当時33歳の若さで、偶然にもこの日が誕生日だったという。
 もし龍馬がこの日、しゃも鍋を食べたいと思わなかったら。買出しをしなくても、近江屋で鍋が用意できていたなら。そもそも龍馬が風邪気味でなく、ピンピンしていたら。災厄に遭遇せずに済んだ龍馬が、明治維新の後にも大活躍し、後世の日本にも好影響を及ぼしていたかも知れない。

 訪れる料理屋のホームページの、しゃもにまつわる解説に綴られていたこの話を思い出しながら、郡山方面へ向かう列車に揺られる自身も少々、風邪気味である。郡山駅のひとつ手前の、安積永盛という小駅に降り立つと、足元からきりきりと寒さが染みてくるように、底冷えがきつい。改札へ向かう跨線橋からは鉛色の雲が高旗山方面の山々に、重くかぶさっている様子が望め、時折風切音がビューッと鋭く鳴っている。
 目指す『春翠亭』へは、駅から歩くと20分少々かかる。店の案内によると、郡山市街を一望する眺望の良さが売り、とあり、道中は登り坂のようだ。加えてこの陽気とあれば、風邪気味の身には徒歩で行くには少々厳しい。とはいえタクシーを利用しようにも、無人駅のため駅前に客待ちの空車はいない。
 まあしゃも料理をいただけば、風邪も疲れも吹っ飛ぶだろう、と、駅前からゆるゆると登っていく道を歩き出した。

  

郡山駅手前の小さな無人駅、安積永盛駅。山のほうへ歩いて行くと、沿道に春翠亭の看板が

 やや急な登りに差し掛ったあたりで、高台の住宅街へと入ると、その一角の斜面の上にひっかかるかのような、春翠亭の店構えが目に入ってきた。「四季膳眺望」と店頭の看板にあるように、眺めの良さが売りなのは確かで、店内に入ると山々の方角や郡山市街方面が見下ろせるように、大きな窓が据えられていた。
 「晴れた日には安達太良山や、磐梯山も遠望できますよ」と、カウンター席に案内してくれた店のお兄さん。お目当ての川俣しゃもの産地である川俣町はどっちの方ですか、と尋ねてみたら、ここからはちょっと遠いですが、と北北東方向を指してくれた。
 優れた眺望もさることながら、この店の自慢は福島県でも有数の銘柄鳥である、川俣しゃもを使った料理の数々。ご主人の池場さんが川俣町の出身で、自らの故郷の特産であるこの鳥を使った料理を、各種提供している。その川俣町は阿武隈高地の丘陵地帯に位置する、福島市の南西に隣接した町。平安時代より養蚕が主産業で、江戸期には絹織物の「羽二重」の産地として隆盛を極めており、「絹の里」とも称された町である。

 

高台に立つ春翠亭。店内からは郡山市街方面を一望できる

 川俣のしゃもはその頃に、絹商人により持ち込まれたとされるが、当初は食用ではなく、絹で財を成した「絹長者」の旦那衆の娯楽、闘鶏用としてだった。町の各所で見られたこのしゃも、その頃から食用として様々な試みがされてきたが、本格的な研究が始まったのは昭和58年から。町の農業の活性化のために、当時の町長が注目して、食用のための開発が始まった。
 そして、この在来種だったしゃもに、肉の味や繁殖力を考慮して、外来種のロードアイランドレッド種とレッドコーニッシュ種を掛け合わせた結果、生まれたのが川俣しゃもなのである。高タンパク低カロリー低脂肪、締まりがあり歯ごたえと甘みが売りである肉質は、原種であるしゃもの、研ぎ澄まされた格闘ボディのおかげかも知れない。

 その素材本来の味を、シンプルに塩味の串焼きで味わって確かめたいところだが、品書きによると串焼きは夜のみのメニューとのこと。お昼のしゃも料理は、しゃもラーメンやしゃもだしうどんなどが並ぶ中、おすすめは、「しゃも親子丼」。人気メニューらしく、さらりと席が埋まった店内のほとんどのお客が、これをお目当てにやってきているようだ。
 さっきの兄さんにこれを頼むと、「醤油味ですか、塩味ですか?」。煮込むつゆが2種類から選べるそうで、定番の醤油味のほか、塩親子丼はこの店のオリジナルとのこと。こちらも素材本来の味を試してみるべく、塩味でいってみることにしよう。

 店は家族経営らしく、厨房を切り盛りする親父さんに接客に立ち回るおばちゃん、その息子さんらしき兄さんの4人で、繁忙なランチタイムをさばいている。親子鍋につゆを張り鶏肉を煮て、卵を溶きネギを刻んで、と、カウンターの向こうで手際よく調理をこなしている親父さんに、醤油味と塩味の違いを聞いてみた。
 すると「見た目は同じかな。塩のほうが、スープがちょっと白っぽいかも」。塩味のほうは、しゃもから出るダシと塩のみの味付けで、さっぱりした味わいが女性に人気なのだとか。カウンターの先客の中年夫婦も、ご主人は醤油味を、おばちゃんは塩味を選んでいる。

塩親子丼のセット。サラダや野菜の煮物などの小鉢がつく

 単品と値段があまり変わらなかったのでセットにしたところ、小鉢のモヤシのおひたし、ナス、カボチャの煮浸しなど、野菜のサイドディッシュが盛りだくさん。親子丼は浅広の椀に軽く盛ったご飯の上に、卵をまとった具材がゆるりとのっている。黄身はトロリと軽く締まり、白身は緩めの煮え加減。肉は普通の親子丼のひと口サイズよりも小振りで、軽くあぶり焦げ目がついている。ほかは青ネギのみと、シンプルだ。
 まずは鶏肉からひと切れつまむと、身は純白でつやつやしている。口に運ぶとクイッと適当なコシがあり、地鶏によくあるギシギシした固さではなく上品だ。味もくせがなく、銘柄鳥にしてはかなり淡い。それがかみしめると、クリアな旨みがほんのり漂ってくる。あぶることで肉の表面が締まり、煮込んでも肉汁や脂が染み出ないのかもしれない。あぶった皮の焦げ目がパリパリと香ばしく、肉の味がしっかりと濃いのが対照的で食欲をそそる。

 「あっさりしているがほんのりコクがあり、鶏本来の旨みが引き出されているでしょう」と親父さんが話すように、川俣しゃもの味の大きな特徴は、この淡白で程よいコクだ。それは川俣町の飼育農家による、自然に近い環境をと配慮した養鶏方法のおかげといえる。
 ブロイラーの養鶏では一般的に、運動量が増えて餌のコストがかかるのを防ぐため、光の入らない無窓鶏舎で、鶏を一羽一羽ケージ(籠)に収めて飼育する。一方で川俣しゃもの鶏舎は、窓があり日光や外気が入る開放鶏舎で、鶏をケージ(籠)に入れず、鶏舎の中を自由に動き回れる「平飼い」という方法を採用。阿武隈高原の自然光をしっかり浴び、しっかりと運動して育っている鶏なのだ。
 ほか、餌には抗生物質入りの飼料などは与えず、専用の配合飼料ほか野菜や青草もバランス良く与えるなど、ブロイラーの倍の4ヶ月をかけて手間隙を惜しまず飼育するおかげで、自然の鶏の味わいに近い、健康で安全な鶏肉となるのである。

 さらに、この素材の持ち味をしっかり引き出す、親子丼の調理方法にも注目したい。しゃもの脂の甘みや香ばしさをひき出し、卵のトロトロ感を出すために、具材に熱を加える時間や蒸らしのタイミングに、相当こだわっているという。店オリジナルである塩味の味付けも、香りの強い醤油味では分からない、川俣しゃもの繊細さが楽しめる特色といえる。
 丼をかっこむ息継ぎに、添えてあったスープをひとさじいくと、鮮烈に澄み切ったうまさ。しゃもから出たダシに塩のみで味付けをしており、しょっぱ目だがかえってコクが引き出されている。しゃもは脂肪がきめ細かいためスープにも向いており、ガラも澄んだ旨みが出るスープのダシとして評価が高い。淡い肉の味と、塩で引き出されたスープのコクを重ね合わせたら、川俣シャモの味の全体像が見えてきたようだ。

肉は淡白でかなりあっさしりた味わい。あぶった皮が香ばしい

 卵も、ねっとりした黄身、トロトロの白身はそれぞれが、鶏肉によくからむ。鶏肉の味の前には出ない程度の、濃厚過ぎず水っぽ過ぎずちょうどいいバランスだ。際立って主張しないところが、淡めの味わいの肉とよく似た印象だな、と思ったら、「卵はあいにく川俣シャモのではないんですよ」と親父さん。
 自然に近い環境で飼育するため、川俣しゃもの養鶏は手間暇がかかるため、食肉の生産だけで手一杯といった状況。そのため卵はあまり流通しておらず、地元の物産店でわずかながら扱っているが、比較的高価という。なのでこの店では川俣しゃもではないが、同じ川俣町の養鶏農家が生産した卵を、親子丼に使っているそうである。
 卵も川俣しゃものものを使えれば、究極の川俣しゃも親子丼になるんですけれど、と話す親父さん。いずれは卵も肉も、故郷自慢の銘柄地鶏でまとめた親子丼を、つくってみたいとのことだった。

 支払いを済ませながら、駅までの近道をおばちゃんに尋ねたら、あんな遠くから歩いてきたの、とびっくりした様子だ。ちなみにホームページにあった、龍馬が暗殺されたくだりとしゃもの関わりの話題を見た話をしたところ、「龍馬もしゃもを食べた後だったら、風邪が吹っ飛んで刺客を返り討ちにしていたかもね」。
 日本の今を変えていたかもしれない、未成となった近江屋のしゃも鍋に思いを寄せつつ、自分も川俣しゃもの親子丼をいただいたところで、帰りも駅まで歩くことにしよう。自然の生気がみなぎるしゃもから、活力を与えてもらったおかげと、帰り道はずっと下り坂なおかげで。(2009年3月20日食記)

【参考サイト】
川俣町農業振興公社 
http://www.kawamata-shamo.co.jp/shamo/index.html
川俣町 http://www.town.kawamata.fukushima.jp/gaiyou/tokusan/shamo.html



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