ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

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ローカルミートでスタミナごはん4…白金豚/岩手県花巻市 『レストラン ポパイ』

2009年11月23日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん

【白金豚】
 ■系統・掛け合わせ…三元交雑種 (ランドレース×大ヨークシャー)×バークシャー
 ■肉質・等級など…自社規格による
 ■年間出荷頭数…4500頭
 ■生産出荷元…高源製麦株式会社

 宮沢賢治の代表作「風の又三郎」が表題作となっている作品集の中に、「フランドン農学校の豚」という短編が収録されている。農学校で飼われている、人間並みの知能を持ち会話ができる豚が、食肉に処理される際の人間との顛末を綴っており、命あるものを摂取して自らの命をつむぐ、人間の当然かつ業としての部分が、淡々ととらえられている。
 所詮、人間は食肉としか豚を認識していない中、作品の冒頭で学生が豚の役割を、「白金」に例えたのが印象的だ。「水や藁を食べ、それを上等な脂肪や肉とする。豚は生きた一つの触媒だ。白金と同じことなのだ」(一部略)。穀類や水を与え、質のいい脂や高たんぱくの赤身肉を生み出す。この学生のつぶやきは、豚肉の生産の本質的な部分を、暗喩的にとらえているように思える。

 賢治ゆかりの地である花巻では、このように当地の気候風土に育まれて生産された豚肉が、近頃評判だ。銘柄名も作品の一節が由来となった「白金豚」(はっきんとん)で、別名プラチナポークとも呼ばれている。花巻の飼料会社である高源製麦が、生産から出荷まで一貫して扱っており、柔らかな肉質と甘みのある脂が、一般の豚肉を凌ぐと評価が高い。物語をもって言うなれば、「花巻の大地の恵みが白金を介して食肉と成った豚肉」といった具合だろうか。
  この白金豚、一部のネット販売を除いて原則的に小売では扱っておらず、レストランでの取扱専用ミートという位置づけになっている。プロの料理人による調理で味わって欲しい、ということからで、評判の高いミートレストランの料理人からも、銘柄指定での取引が増加中。首都圏でも扱っている飲食店が、いくつかあるという。けれど、物語ゆかりの地でもあり、白金豚の生まれ育った地である花巻が、どのような土地なのかも興味深いところだ。

花巻駅の構内にある、白金豚の看板。まるで出迎えてくれているかのようだ

 高源製麦のホームページの、白金豚を味わえる店の紹介欄には、花巻で3軒ほどの食事処が挙がっていた。なので、新幹線と東北本線の普通列車を乗り継いで、目指すは一路、花巻。9時過ぎに花巻駅に降り立ったら、レンタサイクルを利用して、まずは賢治ゆかりの見どころを巡りながら、白金豚の故郷の風土を体感してみることにした。
 イギリスのドーバー海峡の崖に似ていることから名づけられた、北上川岸のイギリス海岸から、「銀河鉄道の夜」をモチーフとしたオブジェが点在する土手の上を走り、高台の小さな森の中にある賢治詩碑へ。入口に掲示された「下ノ畑ニ居リマス」と書かれた黒板に誘われ、碑のある園地から周囲を見下ろしてみる。
 下の畑ならぬ田んぼには稲穂が実り、北上川の土手まで黄金色のじゅうたん敷き詰められている。碧く抜けた秋の空の果てには、山々の稜線が左右に渡る様子が、はるか先まで遠望できた。何十年の間ほとんど変わっていないような、この賢治の作品の原風景のどこかに、あのフランドン農学校の物語の舞台があったのかも知れない。

  

左からイギリス海岸、賢治詩碑のところにある「下ノ畑ニ居リマス」の黒板。
賢治詩碑の園地からは、岩手の原風景らしい田園風景が

 2時間ほどペダルを漕いだところで、白金豚を味わうお待ちかねのランチタイム。「風の又三郎」の碑が立つ、ぎんどろ公園を出てすぐのところに、『レストランポパイ』の三角屋根の建物が見えてきた。店名にちなんでか、看板に描かれたほうれん草のイラストがかわいらしい。さらに店内にはポパイにオリーブ、ブルートたちのぬいぐるみにフィギュアにポスター、ほうれん草の缶のオブジェなどがあちこちに。賢治の世界からいきなり、アメコミワールドに誘い込まれたような気分だ。
 アーリーアメリカンテイストの店内だが、オープンは意外と古い。この店、実は白金豚の生産出荷元である高源精麦が、昭和53年から営業している直営店でもあるのだ。当時から、自社農場で生産された食肉を扱った料理を提供しており、現在では白金豚を使った料理をはじめ、米や野菜、調味料にいたるまで、岩手県産の食材にこだわっているという。

  

レストランポパイ。店内のあちこちにポパイゆかりの品があふれている

 宮沢賢治の作品でレストラン、とくれば、お客があれこれ注文を出された挙句に食べられそうになる「注文の多い料理店」を思い出すが、オーダーをとりにきたお姉さんは物静かな印象で、色々と注文を出すことはもちろんなく、そっとメニューを差し出してくれた。
 飲食店専用の銘柄豚肉ということで、少々値が張る凝った料理だろうか、と思っていたところ、品書きにはポークソテーにベーコンステーキ、ポークジンジャーなど、定番洋食がズラリ並んでいる。ライスやスープがついて1000円前後と、値段も手ごろだ。
 普段使いの気軽さに気をよくして、白金豚のベーコンステーキと、白金豚の石垣塩焼きの2品を頼んでみることにした。お姉さんに、白金豚のうまさはどんなところにあるのか聞いてみたら、「厚い脂が甘いのが、特徴です」。特にベーコンはバラ肉を使っているため、脂がしっかりと厚く、脂の味を楽しむならおすすめの品とのこと。

 ビールと一緒に運ばれてきた白金豚のベーコンは、5ミリぐらいと確かに分厚い。ステーキと称するだけのボリュームで、トーストにのせるカリカリのとは、迫力が違う。内側に向かって赤身→脂→赤身が、各1センチぐらいずつボーダー模様を描き、半透明に澄んでしっとり染み出す脂が、肉食好きにとって垂涎ものの誘いをかけている。
 さっそくナイフを入れ、赤身と脂をいっしょにひとかけら食べてみると、赤身がまず口の中でハラリとほぐれ、ザクザクかみしめれば燻製肉ならではの、パンチが効いた香味が立ち上がる。脂は厚みほどには、口の中で存在を強く感じないが、赤身の部分とまとわり、ひたひたと甘みとコクが、赤身をかみしめるほどに浮き上がってくる。
 突出した甘味やトロリとした食感といった、押しがさほど強くないが、かえってそこに脂の質の良さが感じられる。ベーコン全体の味の下地として、地道に存在を示している風で、赤身と脂を一緒に味わって、その絶妙なマリアージュを楽しむ豚肉なのかも知れない。
 脂のみの味わいも確認してみようと、厚みがあるところをひときれ、口に運ぶと、クニッとした食感から次第にゆるやかに溶け、純度の高い高貴な甘みがしみじみと広がっていく。

 

しっかり厚くたっぷりの脂がついた、白金豚のベーコンステーキ。ボリュームの割にはどんどん食べられる

 白金豚は、母方がランドレースと大ヨークシャーの掛け合わせ、父方がバークシャーという三元交雑種で、肉の柔らかさは母方の大ヨークシャー、脂のうまみは父方のバークシャーの特性が引き出されている。脂ののりがきつすぎず、弱すぎず適度なのは、肥育の期間によるところが大きい。
 通常、豚の肥育には5~6ヶ月ほどかけるのだが、白金豚の場合は200日と、一般的な期間よりも長くかけている。じっくりと、そしてていねいに肥育するおかげで、脂ののりが程よい按配に仕上がるのである。

 ベーコンステーキで白金豚の脂の真髄を堪能したところで、もう一品の石垣塩焼きの皿が運ばれてきた。たっぷりの野菜とともに、薄切りの肉が数枚並んでおり、見た目は豚のしょうが焼き定食風でもある。肉はナイフを入れると軽く切れ、口の中でもサクサクと、自然にかみ切れるほど柔らかい。
 肉自体の味は淡めだが相応のコクがあり、石垣の天然塩によって程良く旨みが引き出された感じ。素材本来の持ち味が素直に出ていて、シンプルだから飽きのこない味わいだ。焼いた肉のくぼみにたっぷりたまった脂もまた、絶品。ベーコンと同様、脂っこさも甘味もほどほどで、こちらも肉にからめていただくと、味のバランスがよりよくなる。

 

町の食堂のしょうが焼き定食風の、白金豚の石垣塩焼き

 白金豚のうまさは前述の遺伝や肥育期間のほか、肉の味を左右する水と飼料に対するこだわりも、大きく影響している。水は花巻の東方に連なる、奥羽山脈を水源とする湧水を用い、これを釜石鉱山の磁鉄鉱と石灰石でろ過。白金豚の柔らかな肉質は、この水に含有するミネラルのおかげでもある。
 そして飼料は、古くから自社で生産・販売を手がけていることもあり、自家で指定の配合飼料を使用。麦を中心としているため、肉の味わいがまろやかになるという。こうした優れた水と飼料が、同様に優れた「触媒」を介されて、白金に値する味の豚肉が生まれる、ということなのだろう。

 脂がたっぷりの豚肉料理を2品平らげても、お腹にはそれほどこたえることなく、満足して店の外へ。花巻駅へ向けてペダルをこぐ道中、「フランドン農学校の豚」の物語を頭の中で反芻していたら、豚が自身の重さを白金に換算するといくらになるか、懸命に計算している場面が思い出された。
 「白金が一匁三十円だから、自分のからだは二十貫で実に六十万円だ。六十万円といったならそのころのフランドンあたりでは、まあ第一流の紳士なのだ」(一部略)。当時の60万円を現在の貨幣価値に換算すると、なんと1億2000万円ほどで、水や穀物から優れた食肉を作り出す触媒の評価として、妥当なのかどうなのか。

 それを摂取する人間だって、触媒として世に何かをもたらし、自身も白金的な価値となるべきなんだろう。それが物語の根本にある人間の業を浄化できる、ひとつの方法かもしれない…。と、宮沢賢治の作品に傾倒した食べ歩きだったせいか、いつになく食の根本などに思いを巡らして考え込んでしまった、花巻のローカル豚肉紀行の締めくくりであった。(2009年9月9日食記)

【参照サイト】
高源製麦 
http://www.meat.co.jp/
レストランポパイ http://popeye.meat.co.jp/
フランドン農学校の豚(インターネット図書館青空文庫)http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/4601_11978.html


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2 コメント

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感謝 (ppy高橋)
2009-11-23 22:47:56
レストランポパイの者です。ブログにたどりつき、大変驚きました。優しく丁寧な内容に、暖かい気持になりました。他の記事もゆっくり読ませていただきます。これからの御活躍を祈念します。ありがとうございました。
ありがとうございます (kaz'ma)
2009-11-25 00:24:59
高橋様
ごていねいなコメント、ありがとうございます。つたない文章にての御店のご紹介、恐縮しきりです。

機会があれば、さまざまな場面でとりあげさせていただければと思っておりますので、その際にはどうぞよろしくお願いいたします。

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